香道具

香を聞くために最低限必要なものは、香木とそれを暖める道具です。

乱箱道具の写真(921所持)

極端な場合、香木をコーヒーのウォーマートレイに直接載せて鼻を近づけても、スプーンに載せて下からライターで炙っても、暖め加減さえ良ければ、ほぼ完璧に香気は味わうことができます。(実際、私もそうすることがあります。)

香人と呼ばれる人が自宅で香を楽しむときは、香炉、菱灰、香炭団、銀葉、七つ道具をまず買い揃えますが、一般の人も、これだけあれば相当良いコンディションで聞くことができます。

ただし、香道は芸道ですから、香席を催す際に必要な道具があります。昔は、豪奢を極めた香道具が公家、大名の嫁入り道具として造られていましたが、今では、ほとんどが香舗の手配する数少ない職人達によって受注生産されているのが現状です。

ここでは、一般的な香席で使う道具を簡単に紹介します。

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必須アイテム

稽古をはじめ、略式、正式を問わず必要となる道具です。

−図をクリックすると実写画像も見られます。−

乱箱(みだればこ)

乱箱の図

点前に必要な香道具を納めて香席に据え付けておき、そこから地敷に香道具を並べるための蓋のない箱です。昔は、高蒔絵の豪華なものが使われ、意匠を凝らしたものも多数あります。

組付乱箱(春)乱箱(秋

流派によっては、桑の木地物が使われています。

 

桑の乱れ箱

打敷(うちじき)

錦や友禅等、絵柄の入った絹布を額縁仕立てにしたもので、畳の上に直接敷くカーペットのようなものです。

これを「地敷(ぢしき)」、上に敷く金銀の堅紙を「打敷(うちじき)」という会派もあります。

打敷の図

地敷(ぢしき)

地敷の図

打敷の上に敷く紙で、古式には「敷紙(しきがみ)」「地敷紙(ぢしきがみ)」とも言われます。本来は37×60センチの大高檀紙を用い、一席ごとの使い捨てでしたが、現在は、金銀の箔押しの紙を永く使うようになりました。公家流では、春夏は金、秋冬は銀とか昼は金、夜は銀という 陰陽の決まりがあります。

流派によっては、表金地に「蓬莱山」、裏銀地に塩竃・炭窯の「煙くらべ」柄があり、表は吉事(平時)、裏は「弔事」との決まりがあります。

名乗紙(なのりがみ)

香札を使用しない席の場合に使用する回答用紙で 古式には゜名乗紙」といいくした。奉書紙を八つ切りにし、これを縦に四つに折り、先端を90度曲げて造ります。現在では「手記録紙 (てぎろくし)」と呼ばれます。

名乗紙の図(クリックで写真へ)

流派によっては、「記紙(きがみ)」とも言います。 こちらは奉書紙を十六に切、これを縦に四つに折り、先端を完全に折り返して造ります。古式には、この形を「八つ切り」で大きくしたものが用いられています。

記紙(きがみ)の図

本香が焚き始められたときに、表紙の下半分に名前を書き入れ、本香が焚き終わったら、紙を開いて、左から2番目のところに答えを縦に書き込みます。

手記録盆(てぎろくぼん)

手記録盆の図(クリックで写真へ)

名乗紙を載せておく小さな盆で、名乗紙を連衆に配布したり、回収したりするときに使います。乱箱と一緒に造るので、蒔絵を施した豪華なものもありますが、現在では、真塗り(黒漆)に金縁を施した程度の簡素なものもあります。

記紙差(きがみざし)

武家流では、記紙を「記紙差(きがみさし)」に入れて配布し、硯箱の蓋等で回収する場合があります。

本香盤(こうばん)

本香を焚くための「銀葉 (ぎんよう)」を載せたり、焚き終わった本香を銀葉ごと置いておくための足つきの盤です。真塗りの盤に螺鈿貝や黒蝶貝、銀製等むの「菊座(きくざ)」が2列に10個程度並んで付いています。古式には「香葉盤(こうようばん)とも呼ばれていました。」菊座の拡大写真

本香盤の図(クリックで写真へ)

「花月香」など本香を12包焚く場合に備えて、菊座が2列に12個並んでいるものもあります。

菊座十二枚の本香盤の図

試香盤(こころみこうばん)

試香盤の図(クリックで写真へ)

試香がある場合、試香の銀葉や焚き終わった香木「焚空 (たきがら)」を置いておく台です。

菊座六枚の試香盤の図

本香盤同様の造りですが、菊座が1列ないし2列に並んでいます。

重香合(じゅうこうごう)

3段重ねの小さな重箱に蓋の付いた香合で、1段目に新しい銀葉を入れ、3段目には金属の内張りがなされ、香盤から回収した銀葉・焚空を入れます。重香合も乱箱同様、持ち主の趣味が強く出る塗り物の道具です。

重香合の図(クリックで写真へ)

流派によっては、「銀葉箱(ぎんようばこ)」に銀葉を納めて使用することもあります。古式には「銀葉入箱(ぎんよういればこ)」と呼ばれていました。

銀葉箱(ぎんようばこ)の図

流派によっては、「焚空入(たきがらいれ)」という金属の棗のようなものを別に使う場合もあります。 古式には「火末入(ひずえいれ)」とも呼ばれていました。「銀葉箱」を使用する手前では、「焚空入」が添えられます。

焚空入(たきがらいれ)の図

銀葉(ぎんよう)

銀葉の図

薄い雲母の板に銀線で縁取りしたもので、以前は銀の薄板を用いたこともあります。香炉の灰の上に置き、「隔火」とも呼ばれており、香木を間接的に暖める役目をします。昔は、駄香を焚くときは銀葉を用いないのが決まりで、銀葉に載せて焚くものは皆銘香だったそうです。

使い終わって樹脂の付いた銀葉は、お茶で煮ると汚れも匂いも良くとれると言われます。

香筋*建(きょうじたて)(* 筋の字は、竹かんむりに「助」です。)

火道具(七つ道具)を立てておく、一見小さな鉛筆立てのようなものです。材質は純銀が多く、真鍮や銅があしらわれたものもあります。全体には、透かし彫りや打ち出し模様が付いています。 古式には「火筋*立(こじたて)」と呼ばれていました。

香筋建の図(クリックで写真へ)

流派によっては、耳付きの小さな壺の形をしており、「火道具建(ひどうぐたて)」と呼ばれています。これを省略して通常は「建(たて)」と呼んだりします。

火道具建(ひどうぐたて)の図

火道具(七つ道具)

水屋で香炉を造ったり、香席でお手前をする際に香木の扱いや火加減の調節に使う道具です。

七つ道具の図(クリックで写真へ)

7 / 6 / 5 / 4 / 3/ 2 / 1

1 銀葉挟(ぎんようばさみ)

銀葉を香炉に載せたり、取ったりする道具です。材質は、銀と銅の合金(赤銅)などで長さ9センチ程の丸いピンセット型です。

2 香筋*(きょうじ)* 筋の字は、竹かんむりに「助」です。)

試香の香木を試香包みから挟んで、銀葉に載せるためのお箸です。材質は象牙や唐木などで、16センチ程の長さがあり先端の非常に細い四角形の箸です。流派によっては「木香箸(きこうばし)」と呼ばれます。

箸の持ち方が正しくできないと、香筋で厚さ1ミリの香木を挟むのは至難の技です。

3 香匙(こうさじ)

本香の香木を本香包みから掬い出して、匙の部分は銀製、柄の部分は、象牙や唐木できていて、16センチ程の長さがあります。古式には、「香掬(こうすくい)」とも呼ばれていました。

4 鶯(うぐいす)

長さ10センチ程の銀製の畳針。両端が細く尖っていて、一方を畳の目に前傾させて差し、もう一方に使用済みの本香包みを水平に刺して、本香から記録までの間、本稿包みを保管しておくのに使います。

このような景色が、見た目にも枝に留まる鶯のように見えますが、「続後拾遺集」に 「あかなくに 折れるばかりぞ 梅の花 香をたづねてぞ 鶯の鳴く」とあるのに因んで香をとめる針を鶯と名付けたそうです。古式には「火串(ひぐし)」とも呼ばれていました。

5 羽箒(はぼうき)

香炉の縁などに付いた灰を払う長さ15センチ程の羽箒。柄の部分は、柄の部分は象牙や唐木などで、羽の部分は、古くは朱鷺の羽を使っていたと言われています。

6 火筋*(こじ)* 筋の字は、竹かんむりに「助」です。)

香炉の灰に香炭団を埋め込んだり、灰押しで灰を整えた後、「箸目」をつけたりする火箸です。穂の部分が赤銅などできていて、柄は象牙や唐木などです。流派によっては、そのまま「火箸(ひばし)」とも呼ばれます。

真の箸目の図(御家流)

行の箸目の図(御家流)

草の箸目の図(御家流)

略の箸目の図(御家流)

真の箸目

行の箸目

草の箸目

略の箸目

7 灰押(はいおし)(はいおさえ)

香炭団を埋めた灰を富士山型に整える道具です。細い扇形の金属板に柄の付いたものが一般的で、板の先は香炉の内径と合うように丸くなっています。

箆型や花型等、趣味によっていろいろな形があります。 公家流では箆型が主流であり、武家流では扇型が主流となっています。

灰押の図(箆型)

香包(こうづつみ)

古式では「小包(こづつみ)」と呼んでいた、香木を包む小さな畳紙です。およそ11×7.5センチの和紙を縦に内三つ折りにし、それを更に上下に内三つ折りにして、上の紙が表になるように差し込み、5×2.5センチの包みを造ります。本香包は、左袖の先端に要素名を記載しておく部分の「隠し」が付いています 。

試香包の図(御家流)

本香包の図(御家流)

本香包の折り方の図(御家流)

試香包

本香包

折形

流派によっては、およそ12×8センチの和紙を縦に四つ折りにし、それを更に上下に内三つ折りにして、短めにした上の紙が表になるように差し込み、5.5×2センチの細長い包みを造ります。こちらは、図の右肩の三角形の部分が「隠し」となります。

試香包の図

本香包の図

本香包の折り方の図

香包の中でも「試香」を包むものは、多少厚手の綺麗な柄の付いた和紙を使います。「本香」を包むものは、答えの洞察を避けるため模様のない薄い和紙で造ります。

総包(そうづつみ)

総包の図(クリックで写真へ)

組香に使う香包を全部まとめて入れておく包みです。材質は、堅い紙に絵柄を施したものや、布を張ったものもあり、内側は金張りとなっています。香包の要領で折込みますが、仕上がりの大きさは、10.5×7.5センチで、右袖が表に2.5センチ程表に被さるように造ります。昔は、右袖の方が長いものや、左袖が前に被さるもの等、意匠によって様々でした。

志野折(しのおり)の図

流派によっては、「志野折(しのおり)」という金彩の畳折紙を使用します。また、盆略点前の際に「志野袋(しのぶくろ)」という、季節の花結びを施した袋を使用する場合もあります。古式には「香袋(こうぶくろ)」と呼ばれていました。志野袋(しのぶくろ)の図

香炉(こうろ)

正確には「聞香炉」と言い、通常一対で用いられます。床の間の香炉とは異なり、青磁、染付等の少し大きめの蕎麦猪口のようなもので、高さは6〜8センチ、直径は6〜7センチ程度、底には3つの高台が付いています。香炉の中には、菱の実・葉・茎等を焼いて造った「菱灰」を入れ、香炭団を埋め込みます。

香炉の図(クリックで写真へ)

記録紙(きろくし)

「香記」という香席の記録を書くための奉書紙です。

流派よっては、「料紙(りょうし)」と呼びます。

 

朧夜香之記の図

 

香記は、組香名、要素名、香木名と木所、香の出、連中の名、連中の答え、当否、点数、証歌、日付、場所、香木を出した人、点前をした人、記録を書いた人等、香席のすべてを反映しており、ゲームの勝者(一番高得点であり、かつ席順が上の客)に贈られることになっています。

 

次のページでは、特殊な香組で使用する香道具を説明します。

さらに豪華絢爛な道具の数々をご鑑賞下さい。

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