練香の調合

 

個を主張する香りの合成はいかがですか?

最近は、アロマテラピーが流行し、線香、アロマキャンドル、アロマポット等の製品が生活の中に取り入れられるようになりました。香人は、こういった部屋焚きの香を「空焚き物」(そらだきもの)と言って「聞香」と区別しています。

私は、平安の時代に貴族のアイデンティティとしてもてはやされた「和物」の「空焚き物」である「練香」が、いつか「個」の時代を反映する「遊び」として受け入れられるのではないか???と思っています。

「自分の香りを自分で作る」ことは、香水(調香)の世界では歴史が深いのですが、「何ml」、「何mg」という非常に微妙なレシピと感性が求められるため、今では一部専門家の仕事となってしまいました。

しかし、練香は沈香のほか、自然の生薬、台所の香辛料等を粉にして、耳掻き一杯ずつ合わせ、香りを(ある程度)確認しながら調合できるという点で(カレー粉作りと同じ)お手軽な趣味だと思います。調合してから、熟成し、結果が出るまで、若干の時間がかかりますが、その辺の「神頼み」がまた楽しみなものです。

香舗には、香料のセットも売っているので、乳鉢と乳棒を買い揃えて、是非、手を真っ黒にして「自分の香り作り」に挑戦してみてください。

ここでは、調合の端緒として、六種の薫物のレシピを紹介します。

薫集類抄における六種の薫物の調合例

上段の黒い数字は、原典の単位である「両」を十進法(分=両*0.25、朱=両*0.0417)に改めたものです。これにより、そのまま「g」を付すと、合計と同じグラム数のサンプルを作ることが出来ます。

下段の赤い数字は、含有率を百分率に換算したものです。これにより、出来あがり分量をあらかじめ定めた場合にも割合を知ることが出来ます。(合計が100%にならない場合は「沈香」の分量で端数調整しています。)

梅花

沈香

薫陸

占唐

白檀

丁子

甘松

甲香

麝香

合計

閑院左大臣

8.50

0.25

0.38

0.63

2.50

0.25

3.25

0.50

16.26

52.30

1.54

2.31

3.85

15.38

1.54

20.00

3.08

100%

賀陽宮

8.50

0.25

0.38

0.63

2.50

0.25

3.50

0.25

16.26

52.30

1.54

2.31

3.85

15.38

1.54

21.54

1.54

100%

滋宰相

8.50

-

0.38

0.63

2.50

0.25

3.25

0.50

16.01

53.14

-

2.34

3.91

15.62

1.56

20.31

3.12

100%

四条大納言

8.50

0.25

-

0.63

2.50

0.25

3.50

0.25

15.88

53.55

1.57

-

3.94

15.75

1.57

22.05

1.57

100%

八条宮

8.50

0.25

0.38

0.63

2.75

0.25

3.50

0.50

16.76

50.75

1.49

2.24

3.73

16.42

1.49

20.90

2.99

100%

小野宮

8.50

0.25

1.75

0.63

2.75

0.25

3.25

0.50

17.88

47.55

1.40

9.79

3.50

15.38

1.40

18.18

2.80

100%

染殿宮

8.50

0.25

0.38

0.63

2.50

0.25

3.50

0.50

16.51

51.51

1.52

2.27

3.79

15.15

1.52

21.21

3.03

100%

八條大将

4.50

1.00

-

0.75

3.00

-

3.00

0.67

12.92

34.83

7.74

-

5.81

23.23

-

23.23

5.16

100%

★占糖は当て字。正しくは「・糖」。

荷葉

沈香

安息

白檀

丁子

甘松

霍香

甲香

熟鬱金

合計

公忠朝臣

7.50

0.25

0.08

2.50

0.25

1.00

2.50

0.50

14.58

51.44

1.71

0.57

17.14

1.71

6.86

17.14

3.43

100%

  又

3.50

-

0.04

-

0.13

0.08

1.25

0.25

5.25

66.67

-

0.79

-

2.38

1.59

23.81

4.76

100%

或説

7.50

2.25

0.38

-

0.25

0.42

-

0.50

11.30

66.42

19.93

3.32

-

2.21

3.69

-

4.43

100%

  又

4.50

0.67

3.00

3.00

-

0.75

-

-

11.92

37.77

5.60

25.17

25.17

-

6.29

-

-

100%

★ 「霍香(かっこう)」のカクは「霍」にくさかんむりを付けた字。

侍従

沈香

薫陸

占唐

丁子

甘松

甲香

麝香

熟鬱金

合計

閑院左大臣

4.00

-

-

2.00

1.00

1.00

-

1.00

9.00

44.45

-

-

22.22

11.11

11.11

-

11.11

100%

賀陽宮

4.00

-

-

2.00

0.25

1.00

-

0.25

7.50

53.34

-

-

26.67

3.33

13.33

-

3.33

100%

小野宮

4.50

-

-

2.50

1.00

1.50

-

1.00

10.50

42.86

-

-

23.81

9.52

14.29

-

9.52

100%

公忠朝臣

6.00

-

0.13

3.00

0.50

1.50

-

0.50

11.63

51.61

-

1.08

25.81

4.30

12.90

-

4.30

100%

藤原致忠

4.50

-

-

2.50

1.00

2.00

0.25

-

10.25

43.90

-

-

24.39

9.76

19.51

2.44

-

100%

  又

4.50

0.25

-

2.00

-

1.50

0.50

-

8.75

51.43

2.86

-

22.86

-

17.14

5.71

-

100%

菊花

沈香

薫陸

白檀

丁子

甘松

甲香

麝香

合計

調合者不明

4.00

-

-

2.00

0.25

1.50

0.50

8.25

48.49

-

-

24.24

3.03

18.18

6.06

100%

  又

4.00

0.25

0.25

2.00

-

1.50

0.50

8.50

47.06

2.94

2.94

23.53

-

17.65

5.88

100%

落葉

沈香

薫陸

白檀

丁子

甲香

麝香

香附子

その他

合計

調合者不明

4.00

0.25

-

2.00

1.50

0.50

-

甘松

0.25

8.50

47.06

2.94

-

23.53

17.65

5.88

-

2.94

100%

  又

9.00

0.25

0.38

4.00

1.50

0.50

0.75

蘇合香

1.00

17.38

51.79

1.44

2.16

23.02

8.63

2.88

4.32

5.76

100%

朱雀院

4.00

-

-

2.00

1.00

-

-

鬱金

2.00

9.00

44.45

-

-

22.22

11.11

-

-

22.22

100%

八條大将

4.50

0.25

1.25

2.00

1.00

0.42

-

-

-

9.42

47.79

2.65

13.27

21.24

10.62

4.43

-

-

100%

黒方

沈香

薫陸

白檀

丁子

甲香

麝香

合計

閑院左大臣

4.00

0.25

0.25

2.00

1.50

0.50

8.50

47.06

2.94

2.94

23.53

17.65

5.88

100%

賀陽宮

4.50

0.50

0.25

2.00

1.00

0.50

8.75

51.43

5.71

2.86

22.86

11.43

5.71

100%

四條大納言

4.00

0.25

0.25

2.00

1.50

0.25

8.25

48.49

3.03

3.03

24.24

18.18

3.03

100%

公忠朝臣

4.00

0.25

0.25

2.00

0.50

0.50

7.50

53.33

3.33

3.33

26.67

6.67

6.67

100%

※ この表以外にも「秘法」とされる材料が含まれている可能性があります。

練香のつくりかた(古法)

  1. 調合の時期は、春は梅の花盛りの頃、秋は蘭菊の香ばしい頃など、空気の乾湿度を考慮します。(加賀陽宮は「正月十日これを作る。」とあります。)

  2. 甘蔓(あまずら:アマチャヅルにあたるといわれる蔓草からとった甘味料で増粘剤として用いられました。)は、銀の器に入れ、炭を灰に埋めたような微火でゆっくり煎じます。

  3. 甲香(貝香:保香剤)は、酒あるいは酢に一晩漬けて良く洗い、火で炙って粉末にします。

  4. 粉末にしたものを篩(ふるい)にかけ、細かい粉末のみを計量します。

  5. 粉末にした香を配合ます。(この際「沈香⇒丁子⇒甲香⇒白檀⇒麝香」等と配合の順番を示すものもあります。)

  6. 配合した香料に煤、蜜、あまづらを混ぜ、臼でついて練り上げ、丸薬のようにします。(香の種類によって、およそ1500〜3000回つくそうです。)

  7. 壺に入れて密封し、夏は3日、春秋は5日、冬は7日程度地中(約60cm)に埋めて熟成させます。(乾燥を嫌うので、湿度のある冷暗所に保存します。)

現代の製法も大きくは変わりません。(御家庭版)

  1. 乳鉢と乳棒で、香料セットの材料をすりつぶし、篩にかけて、粉になったものを自分の好みで交ぜ合わせます。

  2. 甘蔓が採れなくなったので、つなぎは、純粋な蜂蜜を使います。(香舗も同じです。)

  3. 煤(煤が採れない場合は、木炭の粉でも構いません。)を混ぜ、丹念に突き固めながら練り、できた丸薬状の練香は、壺に入れて密封します。

  4. 壺(小さな壺は、茶壷、調味料入等を代用します。)は、北に面した軒下等の気温が低く湿った所に貯蔵し、熟成を待ちます。

  5. 1週間程したら、一度開封して香りの変化を確認して見てください。(調合時のイメージとは若干違う筈です。気に入らなければ、材料を足して練り直すこともできます。)

  6. 出来あがったら冷暗所で保存します。時々の熟成の度合いに応じてご使用ください。

臭くなったら、大失敗。(;_;)

おいしくなったら、大成功!!\( ^o^)/

練香の焚き方

練香は間接的に暖めるもので、直接燃やすものではありません。

  1. 香炉の場合は、良く火のついた炭団(香炭団)に灰をかけ、その熱灰の上にそのまま載せます。また、指で適当に押しつぶし、銀葉の上に載せて焚くのも上品です。この場合、「練香(空焚き)用」と「聞香用」の香炉は、なるべく区別してお使いになることをお勧めします。(灰への移り香は、聞香の大敵です。)

  2. 茶道の炉に使う場合は、その作法に則り熱灰等に載せて薫じてください。(粒のままの場合、2・3粒を練り直して円錐状にする場合等、流派によって異なるようです。)

  3. 火鉢等で香気を早く、強く出したい場合は、炭火の上に「梅皿」という陶器の小さな皿を置いて、その上に載せてください。

  4. ストーブ等で焚く場合は、熱気の噴出口に吊るして置きます。香舗には専用の道具もありますが、針金を練香に突き刺して、吊るしても香気に変わりはありません。

練香が乾燥してしまったら

練香は湿った状態で使用するものです。基本的には、湿り気をとりもどすことが肝心です。

  1. 急ぐ場合は、皿の上にぬるま湯を注ぎ、コロコロと転がして水分を含ませます。(練香を製造する際には、水は使われていません。水気が含まれた場合は、長期保存するとカビが発生することがあります。)

  2. 使用するまでに時間的余裕のある場合、または、長期保存をする場合は、乳鉢と乳棒を使って、蜂蜜で練り返し、手で丸め直します。(蜂蜜で練り返したものをすぐ使う場合は、蜜の香りが香気に混じります。)

 

私は自分で調合したものを、名刺入れに挟んだり、箪笥に入れたりして楽しんでいます。

車の中でも、シガーライターを加熱して少し冷まし、その上に載せて焚きます。

練香は、天然原料だけで作られます。

生活の中に練香の香気も取り入れてみてください。

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