一月の組香
今年のお正月は「千年の事始め」ですね。
お祝いムード1色の組香で喜びと希望を心に満たしましょう。
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慶賀の気持ちを込めて小記録の縁を朱色に染めています。
説明 |
香木は5種用意します。
要素名は、「鶴}」「亀」「松」「竹」と「蓬莱山(ほうらいさん)」です。
香名と木所は、景色のために書きましたので、季節や組香の趣旨に因んだものを自由に組んでください。
「鶴、亀、松、竹」は、それぞれ3包作り、そのうち1包ずつを試香として焚き出します。
残った「鶴、亀、松、竹」の各2包(計8包)を打ち交ぜて、任意に4包み引き去ります。
引き去った4包みは総包に戻します。
手元に残った4包みに「蓬莱山」1包を加え打ち交ぜます。
本香は、5炉焚き出します。
答えは、「鶴」「亀」「松」「竹」「蓬莱山」と要素名を出た順に5個書きます。(任意に引き去っているので全く出ない要素名もあります。)
下附は点数で表します。(「蓬莱山」の中は2点、皆の場合「慶賀」と下附する場合もあります。)
あけましておめでとうございます。
今月は、「祝香」というカテゴリーの中から最も晴れがましく、ミレニアムにふさわしい「慶賀香」をいたしましょう。
祝香には、萬歳香、鶴亀香、蓬莱香、松竹梅香、住吉香、翁香、老松等たくさんの組香が残されていますが、その共通したテーマは「長寿」ではないでしょうか?この組香もその例にもれず、
「鶴」は千年、「亀」は萬年、「松」「竹」は長い樹齢と常盤なる緑、「蓬莱山」は山東半島のはるか東方の海中にあり、不老不死の仙人が住むという中国の伝説上の霊山・・・といった、主に「長寿」に関する要素で彩られています。しかし、私は「慶賀香」全体の雰囲気が、単に「貴方の長寿を祝う」というよりは、むしろ「世界の永遠を願って、その区切りである今を祝う」といった意味に捉えられる思っています。組香の構造は、
鶴亀を動物系、松竹を植物系の具象的要素とし、既知のものであることから、「試香」を焚き出します。そして、そこから任意に4包み引き去ることによってランダムに慶賀の景色を形成していきます。蓬莱山は動植物どちらの生息地ともなることから、両方の性質を持つものとして扱われ、更に現世に存在しない抽象的要素なので「客香」として取り扱われています。また、蓬莱山には、松竹梅、鶴亀などを飾った祝儀や酒宴の飾りものという意味もあり、慶賀の景色全体を包み込むキャンバスという解釈も出来るでしょう。この組香の特徴は、証歌
です。香の出によって、「鶴」「亀」の動物系要素が多かった場合は、「君が代は・・・」の和歌を一首書き記します。「君が代は」は「古今集−巻題七−賀歌」の「わが君は千代に八千代にさざれ石のいはほとなりてこけのむすまで」という長寿祝福の歌が、後世もてはやされ、「隆達小歌集」「和漢朗詠集」や浄瑠璃などによって伝えられました。明治13年、宮内省雅楽課の林広守が現行曲「君が代」を作曲。同26年、文部省が祝日大祭日唱歌の一つとして制定し、歌われるようになり、平成11年、法律の施行によって「日本の国歌」とされました。一方、
「松」「竹」の植物系要素が多かった場合は、「嘉辰令月・・・」の漢詩を書き記します。この詩は「和漢朗詠集−巻下−祝」から引用された謝偃(しゃえん)の作とされ、「このおめでたい時節にあたり、私達の歓びは果てしない。千万年の永遠を祝い私達の楽しみは尽きない。」という意味と解されます。この漢詩も古くから祝宴で朗詠されていたらしく「大鏡」「増鏡」等の歴史書にも記述があります。更に、
動物系・植物系が同数(2:2)となった場合は、和歌・漢詩の両方を記載します。この証歌の「千代に八千代に」「万歳千秋」という永遠を願う気持ちが、「人の世」そのものにかかっていると解釈すれば、この組香は、単に長寿や栄華を祝香よりも汎用性や精神性が高いものとなると思います。下附は、原則点数
であらわしますが、蓬莱山(客香)の当たりを2点とカウントしたり、全部当たった場合に「慶賀」と書き記す場合もあります。このように、おめでたいもの尽くしの要素と証歌が紙面にちりばめられ、香記全体も祝賀ムード1色となるでしょう。慶賀香は、「弥栄」(いやさか)と心で言い交わすお祝いの気持ちが、1番のテーマだと思います。テーマが答えの当たりはずれを超越していますから、あまり点数にこだわることなく、厳粛かつ晴れがましい気持ちで、心を満たしてください。
「よろこび」とは、慶、歓、喜、悦・・・
それぞれデリケートな心の快感だと思います。
肉体から精神へ、個人から社会へ
この快感を昇華させて行きたいと願う年の初めです。
組香の解釈は、香席の景色を見渡すための一助に過ぎません。
最も尊重されるものは、皆さん自身が自由に思い浮かべる「心の風景」です。