三月の組香

 

桜と柳で彩る春景色を味わう組香です。

答えを2炉ごとにまとめて書くところが特徴です。

 

 

説明

  1. 香木は3種用意します。

  2. 要素名は、「桜」「柳」と「ウ」です。

  3. 香名と木所は、景色のために書きましたので、季節や組香の趣旨に因んだものを自由に組んでください。

  4. 「桜、柳」はそれぞれ3包(計6包)作り、そのうち1包ずつ(計2包)を試香として焚き出します。

  5. 残る「桜、柳」各2包に「ウ」2包を加えて打ち交ぜます。(計6包)

  6. 本香は、6炉廻ります。

  7. 答えは、2炉廻るごとにひとまとめにして聞きの名目と対応させて1つ書き記します。

  8. 本香は、6炉廻りますから、香の出の順番どおりに、3つの答えを手記録紙に書きます。

  9. この組香の下附は点数で表します。

 

陽光がしだいに力強く感じられ、めっきり春めいて、野辺の草木も「いまを春辺と咲くやこの花〜」といった様相を呈して参りました。

さて、春の代表的な花を数え挙げると、「梅、桃、桜」と言ったところが一般的でしょう。しかし、田舎育ちの私は、雪間に「オオイヌノフグリ」や「ふきのとう」と言った草花を発見することに、より強烈な春のおとずれを感じてしまいます。

春も盛りとなりますと、やはり主役の「桜」に目を奪われますが、私自身は、「芽吹き柳」の浅緑色が好きで、桜よりも先に心奪われてしまいます。春爛漫の時期には「柳」という脇役が控えていることを忘れてはなりませんね。皆が、花見に出かけて、「桜」を愛でる時、実は、知らず知らずのうちに「柳」が視野に入っており、その明るい緑との対比で「桜」の色が一層際立って見えていることもあるのではないでしょうか?証歌である「見渡せば・・・」の歌は、京の都の遠景(嵐山あたり)を見渡して、春の錦(二色)に「桜」と「柳」を据えていますから、「柳」の持つ意味は、花見のそれよりも一層重く用いられていると言っていいでしょう。

この組香は、「桜」と「柳」の色の対比に「ウ」という「霞か雲か♪・・・なんだかわからないもの」を加えています。私自身は、桜に陽、柳に陰の香を割り当てていますが、香の分量の点から言えば、全て同数となっており、要素の扱いに主客は無いようです。その全てを「こきまぜて」都の春景色を表現するという趣向です。構造式自体は至って簡単であり、「桜」と「柳」にそれぞれ試み香もありますから、聞香自体もそう難しくないでしょう。

この組香の特徴は、2炉ごとにまとまった聞きの名目があるので、2炉廻るごとにひとまとめにして答えを1つ書くところです。「雪見香」で解説した「二柱開き」に似ていますが、その都度答えを提出することはないので、聞き終わってからの訂正や数合わせも可能です。また、要素名を出た順に6個書き留めておき、後で順番を変えずにに2個ずつ分割して、3つの答えを出しても結構です。

EX:桜、ウ、柳、桜、ウ、柳→(桜、ウ)=晴間、(柳、桜)=都の錦、(ウ、柳)=朝露

聞きの名目を見てみると、「桜」と「柳」で「嵐山」、「柳」と「桜」で「都の錦」など「ウ」の入らないものは「見渡せば・・・」の歌に詠まれた背景や情景がそのまま表現されていると思います。では、「ウ」とはいったい何でしょうか?「ウ」と「ウ」で「客」というのは捨象して見ると(ウとは、もともと客の略字です。)、「ウ」を使った名目は、「晴間」、「簾外」、「夕日」、「朝露」で、これらの名目を「桜とウは、赤い光」、「柳とウは青い光」と仮定すると辻褄が合うような気もします。この点から推察すると「ウ」の要素は、「(春の)光」ではないか?という解釈も成り立ちますね。また、「(吹き渡る)風」「時(の経過)」ではないか?という解釈も同様の景色から導き出せると思います。

ですが、私は、この様に要素の客体を限定しないで、「ウは万物に通じ、万象を変化させる要素として使われた。」という哲学的な結論でもいいと思っています。香記に記された答えの景色をより深く楽しむためには、色や光や風や時の経過や・・・いろいろの解釈が成り立つ抽象性あった方が、よろしいのではと思います。

 

皆さんも、お花見の折には、柳の存在を思いやり、ちょっと意識して見まわしてください。

柳の緑色は、季節に応じて本当に美しく、心奪われますよ。

 

組香の解釈は、香席の景色を見渡すための一助に過ぎません。

最も尊重されるものは、皆さん自身が自由に思い浮かべる「心の風景」です。