四月の組香

 

山野や水辺で群れ遊ぶ小鳥のさえずりを味わう組香です。

香の出の「同香」を鳥の名前の「同音」と符合させているところが特徴です。

 

 

説明

  1. 香木は5種用意します。

  2. 要素名は、「一、二、三、四、五」です。

  3. 香名と木所は、景色のために書きましたので、季節や組香の趣旨に因んだものを自由に組んでください。

  4. この組香に試香はありません。

  5. 「一、二、三、四、五」はそれぞれ2包ずつ(計10包)作ります。

  6. これを、各1包ずつ(A組「一、ニ、三、四、五」、B組「一、ニ、三、四、五」)の2組に分けます。

  7. A組とB組を組ごとに、それぞれ打ち交ぜます。(各組「一、ニ、三、四、五」の順序を変えるためです。)

  8. AとBの各組のうちそれぞれ1包ずつを交換します。(A組の1包をB組へ、B組の1包をA組へ)

  9. 本香は、任意のどちらか1組(計5包)のみ焚き出し、残った1組は総包に戻します。

  10. 本香は、5炉回ります。

  11. 答えは、香の出の順に要素を当てはめ、「聞の名目」にしたがって小鳥の名前を書き 記します。(香の出の同香と小鳥の名前の同音が符合していることに注意してください。)

  12. 当たりは、赤点で記します。

 

 「春は花見!」とウッカリしていると、季節を彩る名脇役「小鳥たちの初音」を聞き逃してしまいますよ〜。

初春の「鶯の初音」は「誰よりも先に・・・」と命がけで聞いても、その後は安心して、初夏のホトトギスの夜鳴きを聞くまで「鳥なんか鳴いてたの?」と言う方もいらっしゃるのではないでしょうか。そんな時は山野に出て、日がな一日、身近な鳥をバードウォッチングするもいいものです。

今月は、そんな場所と時間がないという方のために、香がさえずる「小鳥香」をいたしましょう。

「小鳥香」は、いわゆる「四季の組香」のように季節感の定まった組香ではありません。しかし、江戸時代の香道伝書にもメインで掲載されるほど、大変古くから伝わっているもので、独特の構造と聞の名目のおもしろさから、季節を問わずに楽しまれています。同じような構造の組香には「草木香」があり、やはり、香の出によって「さざんくわ、いとすすき、あく・・・」などの聞の名目が記されています。

この組香は、5種の香を鳥の羽色にみたてて2包ずつ作り、それを雌雄にみたててA、Bの2組に分割していると言われています。そして、その雌雄の組から、1包ずつを交換(交配)することによって、5文字の名前の中に「同音を2つ持つ鳥10種」と「同音のない鳥1種」合計11種類の小鳥が生まれてきます。「小鳥香」は小鳥のさえずりを景色として楽しむという組香であり、聞の名目に名を連ねる小鳥の多くは、その美声で知られています。

さて、景色として楽しむ鳥については、古来の和名が当てられていることから、これを紐解きイメージを知ることが鑑賞の前提でしょう。以下に説明を加えておきます。

聞の名目と説明

 聞の名目

説  明  等

(1)

ももちどり

【百千鳥】

たくさんの鳥、いろいろの鳥。古今伝授、三鳥の一。一説に鶯の異名とも・・・。

(2)

れい

【黄鶺鴒】

セキレイ科の鳥。全長約20cm。背面は灰褐色で、腹面は鮮黄色。雄は繁殖期になると、のどの部分が黒くなる。尾は長く、上下に振るので目立つ。水辺で昆虫などを捕食し、石垣や人家の屋根などに巣をつくる。さえずりが豆を転がすような鳥なので、「わし」という和名もある。「いしたたき」と同属の鳥。《季・秋》

(3)

ろつ

【黒鶫】

ヒタキ科ツグミ亜科の鳥。全長22cmぐらいで、ツグミよりやや小さい。雄は腹面に白地に三角形の黒斑があり、その他はすべて黒色。雌は上面がオリーブ褐色で、下面は赤褐色の地に黒斑がある。雌雄ともくちばしとあしは黄色。鳴き声がよい。《季・夏》

(4)

しらだ

【頭高】

ホオジロ科の小鳥。ホオジロに似ているが腹面は白色。頭に短い冠毛があり、よくそれを逆立てるのでこの名がある。関東以南の明るい林や草原に群をなしてすむ。《季・秋》

(5)

ととぎす

【時鳥】等

ホトトギス科の鳥。全長約28cm。背面は灰褐色で、腹は白地に横斑がある。尾羽が長く、白斑が混じる。古来、春のウグイス、秋のカリとともに、夏の鳥として親しまれ、文学にも登場し、種々の伝説や口碑も多い。当てられる文字も、多数にのぼる。《季・夏》

(6)

【人目鳥】

オウム科に属する鳥のうち、比較的大形の鳥の総称。体色は白、黒などが主色で、頭上に羽冠があり尾羽が短い点でインコと異なる。日本では、通例、大形の白色種をオウムと呼び、西域の霊鳥とされた。上下の瞼がヒトの目のようだとして、この名がある。

(7)

らひ

【河原鶸】

アトリ科の鳥。全長13〜16cm。全体に緑褐色で、翼に美しい黄色斑があり飛ぶ時に目立つ。嘴は肉色で、太く短い。水辺や村落付近にすみ、穀類や草の実などを食べる。ほとんど留鳥で冬季に群棲する。《季・春》

(8)

いしたた

【石敲】

「せきれい(鶺鴒)」の異名。尾を上下に振る習性のあるところから、この名がある。また、水辺に棲むところから「かわらすずめ」とも呼ばれる。

(9)

あさ

【求食鳥】

「あさる」とは、即ち求食(くじき)を表し、小鳥が実を啄ばむ様子のことである。特にどの鳥を指すということはなく、「雀」ではないかとされている。

(10)

あおしとど

【青鵐】

アトリ科の鳥。全長約16cm。上面は暗緑色、腹面は淡黄色に暗黒色の小斑点がある。鳴き声はホオジロに似る。本州中部の高原から北海道の低地にかけて繁殖。冬は本州中部以南の低地に渡る。

(11)

よぶこどり

【呼子鳥】

鳴き声が人を呼ぶように聞こえるところから郭公(かっこう)の異称とも言われる。古今伝授、三鳥の一。

※ 参考「小学館国語大辞典1998」

この小鳥たちの中には、秘伝とされる「古今伝授」の鳥も含まれており、三鳥のうち稲負鳥(いなおおせどり)だけが、そのものとして出て来ないのは「字余り」のせいでしょうか?(一説には、セキレイであるとも言われていますので、実際は名前を変えて「三鳥揃い踏み」しているのかもしれませんね。)

「聞の名目」の小鳥については、基本的に自由に選んでいいと思います。香3種で行う場合は、「すずめ」「」「しとど」「ひばり」の4種を聞の名目とする組香も知られていますし、「四字にても同じことなり。考えたらばいくらもあるべし」と記された香書もあります。ですから、現代風に変えて、季節感を出したり、身近にイメージできるものとするのも面白いでしょう。(例えば、春の小鳥香は、「れい(秋)」を「らす(春)」に替えるというふうにです。)

しかし、「わし」が「れい」になったように、雅名(風雅な呼び方)でないために変名させられたケースもあるようです。「5文字の小鳥の名前」かつ「2文字の同音を含む」かつ「季節感」とカテゴリーを絞ると、小鳥選びも相当困難で、組香者の識見の試されるところとなるでしょう。「草木香」が「あく」等、接頭語を駆使して聞の名目を形成しているのも無理からぬところかもしれません。

現在、小鳥香の主人公たちは、マルチメディア図鑑に頼らなくては、姿も知れず、声も聞けないものもありますが、昔は身近に接することができた小さな鳥たちでした。これらの小鳥が山野や水辺で楽しくさえずる姿と声を香気によって景色の中に表現できれば、とても「心が安らぐ」と思います。

 

小さなものをいとおしむ心は、何よりも温かいのではないでしょうか?

証歌(文学的背景)のある組香の心象風景とは、また違った満足感を覚えます。

 

組香の解釈は、香席の景色を見渡すための一助に過ぎません。

最も尊重されるものは、皆さん自身が自由に思い浮かべる「心の風景」です。