十一月の組香
中
国の哲理に基づく五つの元素を聞き当てるという組香です。香の出が「相生」となるか「相剋」となるかで吉凶も占えます。
説明 |
香木は、5種用意します。
要素名は、「木」「火」「土」「金」「水」です。
香名と木所は、景色のために書きましたので、要素名に因んだものを自由に組んでください。
「木」「火」「土」「金」「水」はそれぞれ2包(計10包)作り、そのうち1包ずつ2組(5包×2)に分けます。
この組香では、試み香はありません。
本香前段の最初の5包(一の組)は、「木」「火」「土」「金」「水」の順に焚き出します。
残る5包(二の組)を打ち混ぜて、その中から3包を任意に引き去ります。
本香後段は、2炉焚き出します。
答えは、前段の香に当てはめて同香と思われる要素名を出た順番に2つ書き記します。
答えが当った場合は、当たった要素にあらかじめ割り当てられた証歌を下附します。
1つ当たりは証歌1首、2つとも当たりの場合は証歌2首が下附されます。
紅葉が散り始め、残菊の侘しく咲く様を見るにつけ、次第に厳しくなる寒さを思って身震いしてしまいますね。草花も少なくなりましたし、こういう時期は、テーマを精神的なものに変えて楽しむのに良いようです。今月は、季節を問わずに楽しめる「五行香」を紹介しましょう。
皆さんも
「陰陽五行説」はご存知でしょう。陰陽五行説は、天文や暦、易へと多用な発展を示した古代中国の思想哲学です。日本は、古くから中国の影響を受けていたため、6世紀頃から陰陽五行説を取り入れた事物が多くみられるようになります。「陰陽」
とは、「この世は、すべて『陰』『陽』のバランスで成り立っている。」という考えです。宇宙は初めただひとつの気からなり、太陽と月、天と地、男と女と言ったものは元来1つの物だったので、相反する性質を持ちながらも単独では存在し得ず、お互いの存在があってこそ存在し得るという考えです。「五行」
とは、その陰と陽が混ざり合って派生した5つの要素とされます。それが、この組香の要素である『木』『火』『土』『金』『水』の五気で、その五気がこの世に現す作用が「五行」だということです。このようにいろいろな事物が五気と関連づけられています。
五行 |
陰陽 |
十干 |
十二支 |
五色 |
五方 |
五時 |
五惑星 |
木 |
陽 |
甲、乙 |
寅、卯 |
青 |
東 |
春 |
木星 |
火 |
陽 |
丙、丁 |
巳、午 |
赤 |
南 |
夏 |
火星 |
土 |
中 |
戊、己 |
辰、未 戌、丑 |
黄 |
中央 |
土用 |
土星 |
金 |
陰 |
庚、辛 |
申、酉 |
白 |
西 |
秋 |
金星 |
水 |
陰 |
壬、癸 |
亥、子 |
黒 |
北 |
冬 |
水星 |
この組香の香木を組むに際しては、まず、各要素と「香木の陰陽」を合わせる必要があるかと思います。香木には古来、陰陽が関連付けられていますので、
「陽の香と陽の要素」「陰の香と陰の要素」を合わせる方が組香のテーマに沿ったものとなるでしょう。少なくとも、「香気の陰陽(印象)と要素の陰陽」を合わせる努力はすべきでしょう。その場合、「土」については「陰陽の中間」とされているのですが、私は今回「香気が五味に通ずる」という意味で真那賀(陰香)を用いました。また、今回の香名については、五行に関連した「四神」を当てはめており、「土」は「人」とみたてて「君子」としています。そのほかにも、上表に掲載した要素に因んで、香名の取り合わせができるものと思います。本香前段では、まずこの五気に見たてた要素を
「木→火→土→金→水」の順に聞きます。これは、「試香の代わり」という意味の他、後段でその要素に当てはめて答えを出す「本座の名目」という回答形式とも解釈できます。本香後段では、5包から3包を任意に取り除いて2炉焚き出します。すると答えは、「木・水」「金・土」等、20通りの気の組み合わせで現わされます。(香の出の前後を無視すれば10通りとなります・・・)さて、
五気には「相生」(そうじょう=プラスの循環)と「相剋」(そうこく=マイナスの循環)という二つの関係則があります。「相生」とは、前者が後者を生むという関係で、例えば、「木」は「火」を燃やす。「火」は「土」となる灰を作る。「土」は「金」を含有する。「金」は「水」滴を結ぶ。「水」は「木」を育てる。等、和合して幸福が来るということ。「相剋」とは、前者は後者に勝つという関係で、例えば「木」は「土」に蔓延る。「土」は「水」を塞き止める。「水」は「火」を消す、「火」は「金」を溶かす、「金」は「木」を切り倒す。等、不和で災難が来るということです。ここで気がついたのですが、「相生」と「相剋」を香の出に当てはめると、なんと
この組香は、吉凶も占えてしまうことになるのです。遊びの席に「凶」が出るのは歓迎できないので、伝書等に記述はありませんが、こういう鑑賞のしかたで、組香が一層深みを増すということもあると思います。また、八卦も陰陽から派生・発展したものですから「吉凶占いのために五行香をする」といった呪術的な香席も面白いかもしれません。下附は、当たった要素に対して、証歌を1首丸ごと書き付けます。2つとも当たった場合は2首書きますから、執筆(記録係)は、バランス感覚のある達筆で、しかも速筆であることが必要とされます。
証歌は歌の中にそれぞれ「木、火、土、金、水」の文字を含んでいます。「金」の証歌では、期せずして「秋」とその季節も符合していますが、その他の歌については、季節感が直接的には感じ取れないかズレを生じています。この辺は、もうひと工夫欲しかったところです。さて、茶の湯の世界では、道具の配置から茶室の作り方まで陰陽五行説が意識されています。「五行」というと「五行棚」が思い浮かびますが、裏千家では、棚の地板に小ぶりの土風炉を据えて用いる際、
棚を「木」、風炉を「火」、土風炉を「土」、釜を「金」、釜のお湯を「水」と見たててるそうです。あいにく香道では、香木の陰陽以外に、道具を五行と結びつけたという記述は見つかりません。あえて言えば、
香木が「木」、香炭団が「火」、香炉が「土」、銀葉が「金」ですが、「水」が見当たりません。火を押さえるので、「灰」なのかもしれませんが、香道では「湿し灰」もしませんし、そのものズバリでないところが苦しいところです。こんなことも考えながら、香炉の中に宇宙観を見出すことも必要かもしれません。そのうち、何処かの宗匠が伝授として持ち出すかもしれませんね。(著作権宣言しときます!(~_~;)!)
陰陽五行説は私たちの生活に深く根ざしています。
故事来歴にこだわれば必ず出くわす古代人のサインとも言えましょう。
組香の解釈は、香席の景色を見渡すための一助に過ぎません。
最も尊重されるものは、皆さん自身が自由に思い浮かべる「心の風景」です。
Thanks to Mrs.Yoneda