一月の組香

新世紀の正月にふさわしいおめでたい組香です。

香の異同からグループを推量して答えるところが特徴です。

 

慶賀の気持ちを込めて小記録の縁を朱色に染めています。

説明

  1. 香木は5種用意します。

  2. 要素名は、「一、二、三、四、五」です。

  3. 香名と木所は、景色のために書きましたので、季節や組香の趣旨に因んだものを自由に組んでください。

  4. (今回は、「松」に因んだ歌枕をそれぞれ香名に当てはめてみました。)

  5. 「一、二、三、四、五」はそれぞれ3包作ります。(計15包)

  6. あらかじめ、15包を3包ずつ「一、二、三」「一、二、二」「三、三、四」「四、一、四」「五、五、五」の5グループに分けて香包を結び、総包に仕込んで置きます。

  7. 総包を開き、各グループを3包結んだまま打ち交ぜます。(クループ内の香包は順番を変えません。)

  8. この組香では試香はありません。

  9. 本香は、グループ毎に3炉ずつ5回焚き出します。(計15炉)

  10. 答えは、3炉を区切りとして香の異同を聞き分け「聞の名目」で書き記します。

  11. 全部当たりの場合は「常盤」(ときわ)と下附し、その他は点数で表します。

 

新世紀あけましておめでとうございます。

昨年はミレニアムに湧き、「千年」「四百年」「世紀末」という時の区切りが入り混じった一年でしたが、本年は、とうとう真打の「新世紀」が到来しました。私の子供時代の感覚からすると「21世紀」は「未来」そのものでした。思えば百年前はSFだったロケット、パソコン、ロボット・・・本当に信じられないスピードで未来はやって来ました。「1999年で地球滅亡!」と刷込まれて来た昭和30年代の世代には「余禄の半生」となりますが、これからの百年もこのように加速度的に進化するのであれば、宇宙移民や不老不死をはじめタイムマシンやテレポーテーションまでもあながち「夢」ではないのかもしれませんね。

さて、今回は正月らしい祝香の中から「常盤香」をとりあげたいと思います。祝香は「千秋万歳」をテーマに長寿や永遠を願うものが多いようですが、この常盤香も「松」という隠れたキャラクターを使って、おめでたい組香にに仕上がっています。「松」は正月にかかせない植物です。平安朝の貴族たちは、「小松引き」と言って、正月の子の日に野山に出向いて、小松を引きぬいてその長さを競って遊びました。「根引きの松」の根の長さは、即ち「延命」「長寿」、松の常緑は「永遠」を意味しており、これを願った行事であったと言われます。

この組香の特徴は、15包を3包ずつ「一、二、三」「一、二、二」「三、三、四」「四、一、四」「五、五、五」の5グループに分けて香包を結び、あらかじめ仕込んでおいた香包の順番は変えずに、グループのみをシャッフルして焚き出すということでしょう。この組香には試香もありませんので、連衆は5種15包の香木を全く予見のないまま3包ずつのグループに分けて「全部異香」だったら「一、二、三」、「全部同香」だったら「五、五、五」が出たと推測して答えを書き記します。香包同志の順番を間違えてしまうと、「同香2香+異香1香」の組み合わせである「一、二、二」「三、三、四」「四、一、四」の区別が付かなくなりますので、香元は注意しなければなりません。また、3包で1つの答えを出すこととなるので、グループの区切りについては、お互い意識しておかなくてはなりません。

ところで、先ほど「隠れたキャラクター」と称した「松は常盤香の何処にでくるのか?」という問題は、素人目には分かりにくいことかと思います。まず、一つの端緒は名称です。通常、「常盤木」(ときわぎ)というと松・杉等の常緑樹の総称ですが、「常盤草」というと松の別名となります。次に、この組香の「聞の名目」を掘り下げますと、すべての名目が何らかの形で「松」にかかることが分かります。

聞  き

グループ

名  目

全部別香

「一、二、三」

「千年」(ちとせ)

初めが別香で後の2つが同香

「一、二、二」

「若緑」(わかみどり)

初めの2つが同香で最後が別香

「三、三、四」

「下紅葉」(したもみじ)

初めと最後の2つが同香で中が別香

「四、一、四」

「相生」(あいおい)

全部同香

「五、五、五」

「十返」(とかえり)

このように証歌も要素名も客香もない組香の場合は、なかなかテーマとする情景がはっきり理解し難いので、聞の名目を掘り下げて見るのも組香解釈の一つのアプローチとなります。

下附は、全部当たった場合「常盤」と附しますが、その他の点数の記載方法がいつもと違います。普通、聞の名目を使用した場合は、聞の名目の当たり外れがそのまま点数になりますので、この組香の場合は、1〜4点で満点は「常盤」となる筈です。

しかし、この組香は、「聞の名目」をまた「香の出」に分解して一つ一つ当たり外れをカウントするのです。つまり、「若緑(一、二、二)」を「千年(一、二、三)」と答えた場合は、一、二の部分は当たりとして2点がカウントされます。同様に「下紅葉(三、三、)」を「相生(四、一、)」と間違えた場合でもの1点が加わります。

これは、「点数のバリエーションを拡大して優劣を決めやすくするため」というのが最も推測しやすい理由なのですが、真意のほどはよくわかりません。連衆は、香の異同を判別してグループを推測し、聞の名目で書き記すという作業が必要ですし、記録者側も聞の名目をグループに対応させ、その中の香の出を判別して当たり外れを決めていくという相当な負担を覚悟しなくてはなりません。また、香の出を分解して点数を付けると「1〜14」(満点は15=常盤)の数字のうち「0〜9,11,13点」は出現の可能性がありますが、「10,12,14点」は5グループの組み合わせによってあり得ないことなります。私としては、常盤香の「要素」は、「行」か「葉の松」から来ていると考えており、点数も聞の名目ごとに付け、満点は「五葉」の「常盤」でいいような気がします。

この組香に敢えて証歌を附すという試みが許されるならば、「常盤なる松のみどりも春くれば今一しほの色まさりけり(寛平御時后宮歌合:春歌)」などどうでしょうか?簡潔ですが時のうねりも感じさせ、且つおおらかで精気に満ちているような気がします。

本年もよろしくお願い申しあげます。

 

世紀を越えて威風堂々とそそり立つ樹木を見ると

人の心は思わず謙虚になってしまいます。

木霊というものがあるのならば

それは最も静謐な精霊なのではないか思います。

組香の解釈は、香席の景色を見渡すための一助に過ぎません。

最も尊重されるものは、皆さん自身が自由に思い浮かべる「心の風景」です。

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