二月の組香
チームワークで得点を競うゲーム性の高い組香です。
たまには個人の心象から離れて和気藹々と聞いてみましょう。
説明 |
連衆を適当に「花方」「月方」の2組に分けます。
香木は6種
要素名は、
香名と木所は、景色のために書きましたので、季節や組香の趣旨に因んだものを自由に組んでください。
「花一、花二、花三、月一、月二、月三」は
各3包のうち1包を「花一、花二、花三、月一、月二、月三」の順に試香
本香は
答えは、要素名で
当たりは、点数で表します。
味方の香の当たりは1点
敵方の香の当たりは2点
味方の香の間違いは1点減点
双方で各自の点数を合計し、点数が多い方が勝ちとなります。
今年は、例年にない大雪にみまわれておりますが、皆様いかがお過ごしでしょうか?
正月も過ぎまして、お茶をなさっている友人から
「先月はお初釜で『花月(かげつ)』をやりました。」というお話をいただきました。茶の湯の世界では、七事式の一つで主客五人が花月を表わした札を用いて、「花」に当たれば茶を点て、「月」に当たれば薄茶を飲むという席を「花月」と言うのだそうです。本来の「花月」の意味は、「美しい花が咲き、月が美しく照ること」から転じて、風流な遊びのことを表します。今月は「花月香」について御紹介したいと思います。花月香は、
組香の中で最も基本的な十組のひとつに数えられており、特別の道具を用いずに聞香のゲーム性を味わえる組香です。この組香の第一の特徴は、
連衆を「花方」「月方」の二組に分け、各自の聞き当てた得点(誤れば減点)を合計して勝敗を競うところにあります。この方式は「競馬香(けいばこう)」や「舞楽香(ぶがくこう)」等、ゲーム盤と人形や飾りを用いた「盤物(ばんもの)」と呼ばれる組香に多く見られます。連衆の分け方については、舞楽香のような決まり(男性は源氏方、女性は朧月方)は無いようですが、「花を陽」、「月を陰」とする含みもあるようですから、正客を花方筆頭として、あとはキャリア等を勘案してバランス良く協議するか、抽選ということでいいのではないでしょうか。香の焚き出し方は、一般的には普通の組香と変わりません。しかし、「花月香二人香元の式」と言って
花方、月方からそれぞれ一人ずつの香元(お香を焚く手前をする人)を出し、花方の香元の焚くお香は花方筆頭が先に聞き、連衆を廻って最後に月方筆頭が聞く(月方の香元の場合はその逆廻り)という式法もあります。この方法ですと香元は味方に有利になるように香を焚くことが出来る点で、「対戦ゲーム」といった感が更に高まることになります。第二の特徴は
答え方です。これは「一開(いっちゅうびらき)」と言って、本香全部が焚き終わるのを待って答えを出すのではなく、1炉聞き終わるごとに答えを提出して記録する方法です。通常、香札と札筒、折据等を使って答えを投票しますが、この方法だと聞き終わった後の数合わせや相談、訂正が出来ない点で、真剣かつ公平な勝負となります。第三の特徴は、
点数のつけ方です。「花方」は要素名に「花」のついた香を聞き当てると得点は1点(基本点)となります。しかし、「花」を聞き誤れば「罰」として●が付き1点減点になります。また、「月」のついた香を聞き当てれば「特功」として○が付き基本点(1点)に加えて1点が加算されます。(月方はこの逆です。)双方ごとに連衆の基本点を数えてから○の数を加算し、●の数を減点して合計点を出し勝負を決します。個人の聞の巧拙が連帯責任となるにことよって、かえって和気の増すところがこの種の組香の醍醐味です。個人の心象風景の形成がそれほど重要されないので、楽しく聞き比べましょう。点数について香書には、
「記録を書く人は、甚だ煩わしいので、良く注意して間違わないようにしなさい。」と書いてありますので、確認のため以下に例を示します。点数のつけ方の例
(両者同じ回答をした場合の違い)
香の出(正解) |
花方 |
月方 |
花一 |
月一 ● |
月一 |
花二 |
花一 ● |
花一 |
月二 |
月二 ○ |
月二 |
花三 |
花三 |
花三 ○ |
月三 |
花二 |
花二 ● |
月一 |
月三 |
月三 ● |
花二 |
花二 |
花二 ○ |
月三 |
月三 ○ |
月三 |
月一 |
月一 ○ |
月一 |
花一 |
花一 |
花一 ○ |
月二 |
月二 ○ |
月二 |
花三 |
花三 |
花三 ○ |
計 |
10点 |
10点 |
※ 下線部は基本点、○は1点加点、●は1点減点
さて、花や月を素材にした組香には、
「雪月花香」という四季を問わずに楽しめるものもあります。雪月花は、古来、最も美しいとされた三景物で、和漢の詩歌をはじめ日本文化の美意識にはかかせないものとなっています。「花月香」も同じく四季を問わずに楽しめる組香なのですが、私がどうしても「花月香」を二月(冬)のお香としてご紹介しておきたかったのには理由があります。それば、大正時代に書かれた香書に
「花月香は、雪月花の『雪』を暗示している。」という説を見つけたからです。この記述をわかりやすく意訳しますと「そもそも、花月香が花3種、月3種(計6種)で組まれているというのは、雪月花の三景を折り込んでいるからである。しかし、花と月があって雪がないのはなぜか?それは、雪のことを『六花(りっか)』というので香の数に雪を隠しているのである。それ故、試み香6種を含み本香も「花の雪」「月の雪」というつもりで、雪をイメージしながら聞くというのが組香者の作意である。その証拠に、この組香には「雪」の存在が隠されているので「ウ香」は設けられていない。この組香に敢えて「ウ香」を用いる人があれば、それはこのことを知らないからである。」というようなことが書かれています。花月香が単なる
「花」(陰)と「月」(陽)を対決させる遊びとする解釈もありますが、そこに「雪」を介在させて日本の伝統的な美意識を思い起こさせ、「暗示の先に冬の季節感がある。」というのも面白い趣向かと思いました。私自身は「雪の結晶の先っちょに、それぞれ6つの花や月が咲いている姿」をイメージしてこのコラムを書いているのですが、皆さんはどのようなイメージをもたれるでしょうか。
木守も無くなった柿の木に群れ集う椋鳥や雪間に餌を啄ばむ雀
手で追っても逃げないのは、それほど必死に寒さに耐えているからなのでしょうね。
厳しい季節にこそ命へのいとおしさを感じてしまいます。
組香の解釈は、香席の景色を見渡すための一助に過ぎません。
最も尊重されるものは、皆さん自身が自由に思い浮かべる「心の風景」です。
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