八月の組香
雨乞伝説をテーマにした組香です。
初心者にも優しく必ず1つは当たるところが特徴です。
説明 |
香木は、
要素名は、
香名と木所は、景色のために書きましたので、季節や組香の趣旨に因んだものを自由に組んでください。
「小町」、「能因」は各2包
次に、残った「小町」、「能因」各1包に
本香は5炉
答えは、要素名を出た順序に5つ
下附は、全部当った場合は上記の
今年の夏は
「納涼香」では効かないほど厳しい暑さとなっていますね。皆様いかがお過ごしでしょうか?この時期は、夕方に一雨あるとホッとしますが、なかなか土地を潤すためのものとしては、微々たる降水量のようです。灌漑設備の整った現代においても冬場の雪不足による春先の水不足や空梅雨による夏場の干ばつは農業にとって大きな問題になります。また、都市部においても、急速な水需要の増加や集中によって、少し日照りが続くと「給水制限」となり、不自由な思いをすることがしばしば起こるようになりました。
一方、灌漑用水などなかった昔の農村では、雨不足は
「村が滅びるかどうか」の死活問題であり、そのために村の存亡をかけて「雨乞い」や「水争い」が行われてきました。「雨乞い」とは、簡単に言えば「雨が降るように祈る行為や儀式」のことですが、当時の巫女や祈祷師は文字通り「命を賭けて」天に祈願していた訳です。今月はそこまで「真剣に・・・」とは言いませんが、雨降らしのおまじない
「雨乞香」をいたしましょう。さて、この組香は、証歌と位置付ける歌は記載されていません。しかし、下附に採用されている歌や句から、下記の現存する
3つの雨乞伝説をテーマとして作られていることがわかります。≪《雨乞伝説》≫
小野小町
能因法師
江戸時代の俳人の宝井其角(たからい きかく)は、元禄6年(1693)6月27日東京都墨田区向島の
このように、雨降り祈願の歌や句を景色にちりばめられ、要素名となっている人物も歌人ですので、この上に証歌を設けることは特段必要のないことと思われます。下附の出方によって香記に景色が現われば「江戸に雨が降りましたね」などと言う会話も生まれるでしょう。できれば、物語の舞台となった土地全部に適度な雨が降れば良いですね。
次に、この組香の特徴は
「絶対に全部は外れない」初心者にも優しい(易しい)組香であるというところです。3種5包の香から作り出される答えのパターンはたくさん(20通り)ありますが、「雨」が3包あるために「小町(1包)」と「能因(1包)」の両方を間違えても残る「雨(3包)」のうちどれかは必ず正解となり「全不中」はあり得ません。そのため点数は、どんなにうまく間違えても各要素の数(1+1+3=5)さえ間違えなければ、最低1点は取れることになります。これは、「少しにても降る」という雨乞い本来の祈願を成就させることを表し、最悪の場合でも「小雨」が降るように景色を作っているのです。更に、下附に使われている
「歌や句が答えの点数とどう符合するのか?」について私見を加えたいと思います。これには、各伝説に現われる登場人物の身分や舞台の広さ等「伝説の規模」を比較する必要があるでしょう。@小野小町は、
A能因法師は、
国司に頼まれて伊予の国中に雨を降らせました。⇒三点以上B其角は、
農民に頼まれて三囲の集落に雨を降らせました。⇒二点以上のように、点数の多さと伝説の規模(話の大きさ)には、なんとなく関係があるように思えるのですがいかがでしょうか?
確かに雅の美学として「華」のある登場人物に重きを置くということだけでも、
「小野小町>能因法師>其角」といった図式は符合すると思いますが、小野小町を「皆」として、能因を「三以上」、其角を「二」と作者が当てはめていった過程には、各自の「歌と句の力」・・・即ち伝説における「霊験」の違いといった観点もあったのではないかと思います。最後に雨乞いは、やはり雨を支配するとされる
「竜王」に祈ることが一般的です。難陀(なんだ)・跋難陀(ばつなんだ)・娑伽羅(しゃがら)・和修吉(わしゅきつ)・徳叉迦(とくしゃか)・阿那婆達多(あなばだった)・摩那斯(はなし)・優鉢羅(うはつら)といった「八大竜王」の中でも、「娑伽羅竜王」が、海や雨を司るとされることから航海の守護神や雨乞いの本尊とされているそうです。西日本では台風も恐いですが、「どうしても一雨が欲しい」というときには「雨乞香」で竜王に祈願をかけてみてはいかがでしょうか?
暑い夏には景気回復の期待もかけられています。
夏の日照もありがたいですが秋の実りのためには適度なお湿りも期待したいものですね。
組香の解釈は、香席の景色を見渡すための一助に過ぎません。
最も尊重されるものは、皆さん自身が自由に思い浮かべる「心の風景」です。
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