四月の組香

四季折々の景色が一度に楽しめる組香です。

「本座の名目」を使用した珍しい回答法が特徴です。

※ このコラムではフォントがないため「」を「柱」と表記しています。

説明

  1. 香木は、4種用意します。

  2. 要素名は、「一」「二」「三」と「ウ」です。

  3. 香名と木所は、景色のために書きましたので、季節や組香の趣旨に因んだものを自由に組んでください。

  4. 「一」「二」「三」各3包と「ウ」を1包作ります。(計10包)

  5. そのうち「一」「二」「三」をそれぞれ1包をあらかじめ引き去ります。(計3包)

  6. 残った「一」「二」「三」それぞれ2包ずつと「ウ」を1包を打ち交ぜて焚き出します。(計7包)

  7. 本香A段は、7炉廻ります。

  8. 連衆は、この7炉を「無試十柱香」のように聞いて、書き止めておきます。

    @最初に出たお香は、必ず「一」とします。

    A2炉目に出たお香が@と同香ならば「一」、異香ならば「二」とします。

    B3炉目に出たお香が「一」か「二」と同香ならばその番号を、異香ならば「三」とします。

    C4炉目に出たお香が「一」か「二」か「三」と同香ならばその番号を、異香ならば「ウ」とします。

    D以下、同香、異香を確かめて全体が「2+2+2+1=7」となるように付番します。

  9. ここで、A段に焚かれた7炉を香の出に関わらず、順番に「春、夏、秋、冬、雪、月、花」と7つの仮名を付けます。これを「本座の名目(ほんざのみょうもく)」と言います。

    例:1炉目は、「春」、2炉目は「夏」・・・・7炉目は「花」

  10. 続いて、先ほど引き去っておいた「一」「二」「三」の各1包を打ち交ぜ、その中から任意に1包引き去ります。(残った2包は、総包に戻します。)

  11. 本香B段は、1炉焚き出します。

  12. 連衆はこの香を聞き、A段で焚かれた何番目と何番目の香と同香か(必ず2つ)判断し、「本座の名目」を2つ選びます。

    例:A段「一、二、三、二、三、ウ、一」でB段が「一」と同香と思えば、「春、夏、秋、冬、雪、月、花」と対応させて、「春」「花」となります。

  13. 更に、「本座の名目」2つを「聞の名目」に当てはめます。

    例:「春」・「花」=「三芳野」

  14. 答えは、「A段の香の出」と「聞の名目」を書き記します。

    例:「一、二、三、二、三、ウ、一」 「三芳野」

  15. 下附は、B段の答えの要素となった2炉と「ウ」のみを採点対象とし、「B段の要素の両方」と「ウ」の計3炉当たったものには「花」、「B段の要素の両方」か、「ウ」と「B段の要素の片方」と計2炉当たったものには「月」、「B段の要素の片方」か「ウ」のみ1炉だけ当たったものには「雪」、全く当らなかったものには「眠 」と書き記します。

 

 4月は緑生の月ですね。先月までは小さく南側の斜面で咲いていた花々が一面に咲き乱れ、木々の緑も翡翠色からビリジアンへと色を深めます。「春もたけなわ」と言えば、柳緑花紅のように景色の主役、脇役が自ずと決まってしまうようですが、小さな陽だまりの景色にも大きな世界観や自然感が発見できる季節です。昔は、「春と秋のどちらが好き?」と聞かれると迷わず「アンニュイで落ち着きのある秋」と答えていましたが、年齢のせいか、この頃は「寂寥感」ばかりが目に付いて、「万物に生気が満ちた春」の方が心安らぐようになりました。年度も改まり、新入生の姿などを見ますと、こちらの気持ちも引き締まり、なんとなく新生できそうな気がします。四季は巡るものでありながら4月は「四季の正月」、季節の移り変わりが始まる月のような気がします。

 今月は、1年の四季の景色をちりばめた「四季三景香」 (しきさんけいこう)をご紹介いたしましょう。

 「四季三景香」は、『奥の橘』(米川流の組香百五十組を納めた組香書)をはじめ、『拾遺聞香撰』(巻の1)、『組香の鑑賞』(三條西公正著)等に掲載のある組香です。作者については、『奥の橘』に「この組は享保の始めに義村氏巧編る香なり。」とあります。証歌等はありませんが、ふんだんに用意された「聞の名目」によって四季の景色を結ぶことができる趣向となっており、季節を問わずに催すことのできる組香です。名前の由来は、おそらく「本座の名目」に使用されている要素が「春、夏、秋、冬」で四季、「雪、月、花」で三景ということだろうと思います。また、香記の景色も「聞の名目」が「四季」折々の風物を表し、「下附」で雪、月、花の「三景」を織り交ぜることとなりますので、「四季三景」が現われることとなります。

 聞き方については、『組香の鑑賞』の底本とみられる『拾遺聞香撰』の記述にしたがって説明の段にかなり詳しく記述いたしましたが、なお、若干の補足を加えたいと思います。

 まず、この組香の香種・香数は、「4種10包」となっており、そのうち「ウ香」を除いた3種3包を引き去り、A段においては4種7包焚かれるのですが、これは、いわば「無試七柱香」という感じで、前述のとおり無試十柱香と同様に聞いて記録し回答することとなっています。古い組香は、十柱香の変化と捉えられるものが多いのですが、この組香についても香数等から、まずはそのような印象を受けます。

 次に、この組香の特徴は、A段の本香の出に対してあらかじめ一定の名前をつける「本座の名目」という非常に珍しい構造を持っているところです。この組香における本座の名目は、A段の香がどのような出方をしても一炉目から順に「春、夏、秋、冬、雪、月、花」と名前をつけ、後に説明する「聞の名目」の選定に使用します。他の組香であらかじめ付される「要素名」が焚かれた後につけられると思えば、理解が早いと思います。例えば、1炉目と7炉目は(同じ香りでも)自動的に「春」と「花」という別な名目(要素)に位置付け、聞の名目の「三芳野」を導き出すこととなります。

 聞の名目は、多くの組香で古くから用いられており、基本的には「別な香りのする別な要素を組み合わせて、新しい概念や景色を結ぶ」という手法です。しかし、この組香の場合は、敢えて「本座の名目」を使用することにより、「同じ香りを別の要素として取り扱い(4種のお香を7つの要素に分け)、聞の名目という最終的な景色に至る」という複雑な手法を用いているのです。

 香道は、香気によって心に景色を結ぶのが基本ですから、「香気が同じなのに違う景色を結ぶこと」は非常に無理があると思います。これを捕まえて「本座の名目」を「まやかしの技法」という方もいらっしゃいますが、私はこれを1つの「イメージ増幅器」だと思っています。確かに「清々しい」同じお香を聞いて、それを「夏と秋の両方にイメージしろ」と言われても困ります。 しかし、A段の答えは「無試七柱香」方式で書くのですから、最初から「春、夏、秋、冬、雪、月、花」と意識せずに「一、二、三、ウ」の匿名化された要素のまま、一旦そこで簡潔させてしまえば良いと思います。そして、B段の香が焚かれて初めて、その香りと合致する2つの要素を「春、夏、秋、冬、雪、月、花」から選んでイメージし、さらにその2つイメージの統合体を「聞の名目」から選んで、更に新しく濃密になったイメージを結ぶようにします。すると、B段1つの香は、「本座の名目」という「一次増幅器(7種)」を通過して2つの要素に倍増し、さらに、「聞の名目」という「2次増幅器(21種)」を通過して重合し、結局1つに収束されますが、内包されるイメージの広がりは数倍にもなるものと思われます。このように「本座の名目」は、1つの香りが1つの濃密なイメージに収束されるまでの形成過程を楽しむための「一次増幅器」として使用されているのではないかと思います。

 私は、この組香の香組を上記のように四季の植物の栄枯盛衰をテーマに組んでみました。これとて、「緑生」という香が4炉目と5炉目に出てしまえば「冬」「雪」で「白妙」となってしまいます。「青々とした若々しい香り」なのに「白妙」と言うイメージに結び付けるのは至難ですが、「青々とした若々しい香り」を「常葉の緑」や「雪間の萌」と敢えてイメージし直して、「白妙」の雪景色を心に結ぶという趣向も面白いと思います。「出香に風景があるのではなく、香席に風景がある。」という考え方で楽しむ方法もあると思います。

 一般的な解釈をすれば、香気の持つ景色に捕われず、要素を取り扱うやり方は、香道の爛熟期、文学的支柱の必然性がまだ認識されておらず、ゲーム性の強い組香が流行った頃の特徴なのかもしれません。とはいえ、7種の「本座の名目」によって導かれる「聞の名目」の方は、文学的な景色に彩られています。聞の名目は、7種から2つを選ぶ組み合わせですので、全部で21種となります。これらの名目については、現代の我々にとっても季節の風物としてイメージし易いものばかりなのですが、少々文学的にな説明も加えて「本座の名目」から「聞の名目」を導き出す関連性を詩歌の用例等から探ることに挑戦してみましょう。

 下記に引用している詩歌については、「新編 国歌大観」(角川書店)をもとに、それぞれの要素や名目がなるべく数多く折り込まれている歌を掲載しました。複数見つかった場合の選定は、個人的な好みで行いましたので、単なる「歌遊び」と考えていただければ幸いです。

 なお、聞の名目は、『組香の鑑賞』と『拾遺聞香撰』の記述によっています。『奥の橘』の記述で他の2書と異なるものは、《〇〇》で付記しました。

春・夏 蓬生(よもぎう)⇒ 蓬などの生い茂っている所の意で春の季語ともなっています。夏草のイメージもあることから、春から夏にかけての景色ともいえるでしょう。

歌:「蓬生の庭の夏ぐさおり立ちてはらひしまでぞ人もとひけむ(桂園一枝)」

春・秋 雁金(かりがね)⇒がん(雁)の異名で、基本的には秋の季語とされていますが、秋に来て春に帰ることから、2つの季節の景色を結ぶことが出来ます。

歌:「秋風にあひみむ事は命ともちぎらでかへる春の雁金(続拾遺集 藤原隆祐朝臣)」

春・冬 難波津(なにわづ)⇒上代、難波江にあった港のことで、「這花香」の証歌となっている 「難波津に・・・」の歌にあるとおり、冬篭りから春にかけての景色を表したといえましょう。

歌:「難波津にさくやこの花冬ごもり今ははるべとさくやこの花(古今集仮名序 王仁)」

春・雪 東風(こち)⇒春先に東の方から吹いて来る風のことで、雪を伴って風花等も運ぶ景色といえましょう。

歌:「東風吹かば匂おこせよ梅の花あるじなしとて春な忘れそ(平家物語 菅原道真)」

春・月 朧月(おぼろづき)⇒春の夜の、ほのかにかすんだ月のことで春の季語となっています。源氏物語の「花宴」も思い出され、春の月といえば、文句なくこの景色といっていいでしょう。《朧夜》

歌:「春のよの朧月夜にちる花は明けてぞ庭の雪と見えける(亮々遺稿 木下幸文)」

春・花 三芳野(みよしの)⇒春の花は桜ということで、古くから離宮等もあった奈良県吉野郡の「吉野」に美称に用いる接頭語「み」を用いた語で、桜の名所を表しているものと思われます。

歌:「おしなべてこのめも春とみえしより花になり行く三芳野の山(新千載集 後醍醐天皇御製)」

夏・秋 蝉声(せんせい)⇒蝉は夏のものとされていますが、特に夏から秋にかけての物悲しさを表現するのにも使われます。意外に秋の詩歌の用例が多いものです。

詩:「風色秋来香稲上 蝉声日暮緑槐西(和漢兼作集 中納言平親宗)」《風の色に秋来る香稲の上、蝉の声日暮れぬ緑槐の西)》

夏・冬 氷室(ひむろ)⇒真冬にとった氷を夏まで貯えておく室のことで、夏の季語となっています。夏と冬の両方をイメージする風物は、氷室が最も適当と思われます。

歌:「夏の日のあつさもしらず松が崎氷室の山は冬籠りして(新明題和歌集 基共)」

夏・雪 白根(しらね)⇒白根(白峰)は、雪を頂く山という意味で使われ「白根山」という山もいつくか存在します。この場合は、夏にも万年雪が残るような高い山を表した景色だと思います。《高峯》

歌:「さゆる夜のこしの白根をながむれば雪こそ月の光なりけり(正治初度百首)」

夏・月 平砂霜(ひらずなしも?)⇒国語大辞典にも大漢和辞典(以下『辞典』とします。)にも用例はありませんが、夏の砂浜が夜の月明りに照らされて、霜が降りたように見える風景だろうということは検討がつきます。

歌:「月清き真砂を夏の霜夜とや響き冴えたる暁の鐘(新明題和歌集 基熙)」

夏・花 深見草(ふかみぐさ)⇒「牡丹」の異名で、夏の季語となっています。原産国の中国では最も重用される夏の花です。《滝波》

歌:「思へども猶あかざりし花をさえ忘るばかりの深見草かな(新明題和歌集 後水尾院)」

秋・冬 蟋蟀(こおろぎ・きりぎりす)⇒古来、秋鳴く虫の総称として扱われ、秋の季語となっています。蝉声と同じ流れかと思いますが、秋から冬にかけて歌に詠まれる風物です。

歌:「秋風の寒く吹くなへに吾がやどの浅茅がもとに蟋蟀(きりぎりす)なく(桐火桶 作者不詳)」

秋・雪 胡山(こざん)⇒辞典に用例はなく、日本でも人名や知名、書店、文具店の名前などに使われていますが、オリジナルの意味は判明しませんでした。基本的に「胡」は中国の北方辺境の異民族を意味しますので、「胡山」とは、遠く北方の山のことで、秋には冠雪している山の景色を表すものと推量しています。端的な詩はみつかりませんでしたが、参考まで・・・

詩:月光無択処「出自胡山浮越水 照従華洛及楡営(別本和漢兼作集 式部大輔在良朝臣)」《故山より出でて越水に浮かぶ、照らすこと華洛より楡営に及ぶ》

詩:春色満遐邇「胡山霞暁柳営夢 燕寝花時花帳情(和漢兼作集 皇后宮権太夫源師俊)」《胡山の霞暁柳営の夢、燕寝の花の時花帳の情》

※ 万葉集1533に「伊香山(いかごやま)野辺に咲きたる萩見れば君が家なる尾花し思ほゆ(笠朝臣金村)」という歌があります。伊香山は、「伊香胡山」と表記することもあり、秋の歌なので若干気になるところですが、今回は触れずにおきましょう。

秋・月 十五夜(じゅうごや)⇒陰暦八月一五日の夜のことで月見の佳節とし、月下に宴を張って詩歌を詠む行事が行われていました。秋の月の代表的な風物と思いきや、詞書に使用されことが多く、意外に歌に詠みこまれる例は少ないようです。《更科》

歌:「十五夜の山の端いづる月みればただおほきなるもちいなりけり(野守鏡 古き狂歌)」

秋・花 翠草(すいそう・みどりぐさ)⇒「翠」は、かわせみ(雄)のことで、その羽の黄緑色のこと。元来は、「新芽」の意もあり夏の季語となってしまいます。秋草の揺れる緑を言い表すには「緑」を使用した方が正しいのですが、どちらの本も「翠」を使っています。唯一の用例が大漢和辞典にあった下記の詩で、これでは冬の風景が歌われています。《野辺錦》

詩:思友人詩「厳霜彫翠草、寒風振繊枯(曹*)」(*は、手へんに慮)

冬・雪 白妙(しろたえ)⇒ 元来、梶の木などの皮の繊維で織った白い布のことで、主に雪・霞・雲などの白い物を表す語にかかります。ここでは、冬の雪の白を表現するのに用いられています。

歌:「白妙の光ぞまさる冬の夜の月のかつらに雪つもるらし(新拾遺集 後嵯峨院御製)」

冬・月 池鏡(いけかがみ)⇒辞書に用例はありませんが、池の氷が凍って鏡のようになり、そこに月が写っているという風景は、「冬月香」と同じ美意識だと思います。

歌:「山の井のむすびし水や結ぶらんこほれる月の影もにごらず」(土御門院百首)

冬・花 水仙 (すいせん)⇒代表的な冬の花で冬の季語にもなっていますが、国歌大観の中に用例は見つかりませんでした。《紅鱗》

雪・月 峯光(ほうこう・みねのひかり)⇒辞書に用例はありませんが、冬夜に山を見渡したとき、遠山の峰が白く光っているという風景ではないかと思います。《香久山》

歌:「雪ふれば峰のまさかきうづもれて月にみがけるあまのかぐ山(新古今集 皇太后宮太夫俊成)」

雪・花 木々盛(きぎもり)⇒辞書に用例はありませんが、木々に降り積もった雪が白い花のように見えるという景色ではないかと思います。

歌:「雪ふれば木木のこずゑにさきそむるえだよりほかの花もちりけり(千載集 俊恵法師)」

月・花 梅枝(ばいし・うめがえ)⇒連語ですが、「梅」自体は春の季語となっています。季節感を梅から辿ると初春の白い風景の中から、紛れ易い白梅の枝を探すという「冬梅香」の景色が思い出されます。《桂枝》

歌:「しらしらししらけたる夜の月影に雪かきわけて梅の枝折る(撰集抄 公任の中将)」

 さて、この組香は、記録の方法にも特徴があります。答えは、前述のとおりA段は「無試七柱香」、B段は「聞の名目」を書き記して提出しますが、加点要素となるものは、ウ香と聞の名目の要素となった2柱のみ(最高3点)となっています。この組香は「最初は、10包の香を用意し、そこから3包引き去り、B段ではそのうち1包を焚きますが、最終的に2包は焚かず「捨香(すてこう)」としているばかりか、8柱焚いた本香のうち5柱は採点に関係しない「聞き捨て」となっています。このように大変贅沢な構造とした理由は、下附である「雪、月、花」の三景にこだわり、「3段階の階層を設けること」に傾注したからと言えましょう。

 下附は、『拾遺聞香撰』によれば、B段の構成要素となったA段の香の当り数によって「B段とウ(三中)は花」「B段のみ(二中)は月」「B段の片方(一中)は雪」「不中は眠」となっていますが、この採点方法を取ると折角の「ウ香」を加点要素とできるのは「花」だけになります。これは記載例に「ウのみ当りが雪」という例示がないことにもよる誤解かもしれませんが、「B段は外れたが、ウ香は聞き当てた人」への救済がないという欠点が生じます。また、『組香の鑑賞』では、「ウとBの中の時は、花」「B共に三柱中の時は、月」「B共に二柱中の時は、雪」「全不中の時は眠」という記載がありました。これは「ウ香が当らなければ下附は付けない」という意味であろうと解釈しますが、この方式ですと、Bの要素は二柱なので「花」も三柱の当り、「月」も三柱の当りで結局同じことなってしまいます。詳しい採点方法が記載されていないので、なんとも言えませんが数の矛盾を孕んでいると思われます。

 一方、『奥の橘』では、最も厳格で「B段とウ(三中)は花」「B段のみ(二中)は月」「ウのみ当り(一中)は雪」「全不中の時は眠」となっています。これですと、中間的な当りのパターンは無く下附の数は寂しくなりますが、最も簡潔で誤解の余地がありません。また、基本的には、3つの同香を当てる組香なので、「B段の片方のみ当り」を含むパターンについては、無視するのが正当と考えます。ただし、今回ご紹介した下附は、『拾遺聞香撰』の記述を基本としているため、これら下附法の最大公約数ということで、全ての当りパターンに「雪、月、花」が附されるように記載しています。

 最後に、全く当らなかったものを「眠」としているのは秀逸だと思います。「眠」そのものは、「眠っていてわからなかった」というところが直接的な意味でしょうが、「春眠」「冬眠」「夏眠」等、四季に通ずる言葉を採用しています。唯一、秋だけは「秋眠」という言葉が無く、どうしても「秋の夜長⇒眠れない」とのイメージが強いですが、「秋の夜長の一人寝」とでも解釈すれば、虫の音をBGMにぐっすりと眠ることもできるでしょう。また、「眠」を頂いた方も「邯鄲(かんたん)夢の枕」で人生の栄耀栄華を一瞬にして極めることはできますので、皆さん幸せというわけです。

 

四季を愛で、景色を愛でる心が地球の隅々に届きますよう。

世界平和と民生の安定を心からお祈りします。

 

組香の解釈は、香席の景色を見渡すための一助に過ぎません。

最も尊重されるものは、皆さん自身が自由に思い浮かべる「心の風景」です。

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