十一月の組香
易経をもとに作られた八卦の記号を用いる組香です。
下附となっている六十四卦を使って香占いもできます。
※ 上表は、『奥の橘』に記載された「六十四卦名目」の区分に従っており、
一般的な「六十四卦構成表」とは、序列が異なります。
※ このコラムではフォントがないため「」を「*柱」と表記しています。
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説明 |
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香木は、3種用意します。
要素名は、「一」「二」と「ウ」です。
香名と木所は、景色のために書きましたので、要素名に因んだものを自由に組んでください。
「一」「二」それぞれ5包、「ウ」は3包作ります。 (計13包)
この組香には試香はありません。
まず、13包を打ち交ぜて、その中から任意に1包引き去ります。
引き去った香包は、総包に戻します。
次に、残った12包を左右に6包ずつ分け置きます。
本香は、全部で12炉焚き出します。(2包×3=6包)×2回=12包
香元は、左の6包から1包ずつ取り出し、順に焚き出します。
この組香は「二*柱開」(にちゅうびらき)なので、連衆は2炉廻ったところで一旦答えを「香札」で投票します。
この組香では「一」「二」「ウ」の3種の香札を投じます。連衆の答えは、「十*柱香」と同じく、最初に聞いた香りを「一」として、次に出た異香(前のどれとも違う香り)を「二」、最後に出た異香を「ウ」と順番に香りの番号を打っていきます。同香(いずれかと同じ香り)だった場合は、その番号の札を打ちます。
執筆は、香の出(正解)の欄のみ後の検証のために正解の札番を2つ横に並べて記載します。連衆の回答欄は、札番が同香ならば「」(陽)、異香ならば「」(陰)というように「爻」(こう)と呼ばれる記号で記載します。
10〜13を三回行い(2包×3=6包)、「爻」が3本書かれるとおなじみの「八卦」の「卦」が一つ出来上がります。
さらに、右の6包も同様に繰返し、全部で「卦」を2つ作ります。
点数は、「爻」1本に付き1点、合計6点満点で勝負を競います。
下附は勝負に関係なく、連衆の答え(爻)から導き出された2つの「卦」を順番に並べて、それに対応する「六十四卦」の「卦名」を書き記します。
市街地でも街路樹の紅葉が始まり、仙台名物のケヤキ並木は、所々気の早いものから赤褐色に変わって来ました。ケヤキの紅葉は、一本ごとに微妙に色が違うので、ことさらに「愁色深し」という感じで赴き深いものです。この頃は、日によって「息白し・・・」と歌に詠みたくなるような冴えた朝にもなり、テレビと暖房のスイッチを入れてから1日が始まるようになりました。
朝のニュースワイド番組には「今日の占い」は付き物ですね。若い女性の中には、占いコーナーが肌に合う合わないで朝のチャンネルが決まっている方もいるようです。占いの結果を信じる信じないに関わらず、1日の始まりに際して、その日の「吉凶の度合いを知る」「幸運のヒントを得る」「過し方の指針を得る」等、誰しもどこかしらで意識してしまっていることは確かです。占いの内容と言えば、「どうにでも取れるコメント」に「馬の数」やら「ハートの数」、「ラッキーカラー ・アイテム・フーズets...」を付けて、実に他愛のないものなのですが、女性の方は、ご贔屓の局で「凶」と出れば、各局を渡り歩いたりもするようです。男性については、ラッキーアイテムが「花柄のハンカチ」、ラッキーカラーが「ピンク」な どという「お告げ」もありますから、所詮、お付き合いするのが無理な話で、やっぱり、最大の要素は「お天気お姉さん」だったりするわけです・・・。(^_^;)
人は迷い悩むとき明日への架け橋を見つけるために超自然の力を借りようとします。「自分や世の中がこれから先どうなっていくか?」「自分が今現在をどのように生き、明日への一歩を踏み出すべきか?」これら、人類普遍の関心事を解明するために数千年に及ぶ人々の試行錯誤が「占術」になっているのです 。
今月は、「当るも八卦、当らぬも八卦・・・」香占いの「周易香」(しゅうえきこう)をご紹介いたしましょう。
「周易香」は米川流香道『奥の橘』に掲載されている組香で、「断易香」とともに清水記林の作とされています。今回ご紹介する「周易香」の「周易」とは、中国、周代に行われたとされる占術で、これによって宇宙万物の生成・発展・消長を説明しようとする宇宙生成論のようなものです。「周易」の「周」は周の時代ということで、「易」の字は、蜥蜴
(とかげ)、カメレオン、日と月組合せ、月の満ち欠けの象形等、諸説あります。
易にはまず「太極」があります。太極は、気の原初の形で「万物の源となる本体」であり、それ自体は形も動きもなく、表裏一体で単独では存在し得ない「カオス」のようなものとされています。そこから、陰陽の二元が生じ、「両義」となります。易の最小構成単位は、「爻(こう)」と呼ばれ、「陽」は一本のつながった線であらわされ、「陰」は切れた線であらわされます。
次に、爻2つで構成される「老(太)陽」「少陽」「少陰」「老(太)陰」の4種類の組み合わせを「四象」、さらにもう一段「爻」を加え、3段で組み合わせたものを「八卦」(小成卦:しょうじょうか)と言います。
そして、この八卦を2つ組み合わせることによってできるのが「六十四卦」(大成卦:だいじょうか)といわれるものです。周易は、太極という根源的一気の展開から生成される64通りの卦に対する「象」という啓示をいろいろと斟酌して、現実に引き付けながら読み解く占法です。
周易は、四書五経の一つにも数えられる儒教思想の必読の書である「易経」を基に易学として発展してきしまた。それには、「太古の聖人伏羲(ふつき)が八卦を作り、周の文王が各卦に説明をつけ(卦辞)、周公が解釈し(爻辞(こうじ))、孔子がその原理を明らかにした(十翼)」という風に各時代の賢人たちが検証し、寄与してきたとの伝説がありますが、これには根拠が無く、実際には、戦国末から漢代中期にかけて集大成されたものだそうです。
まず、この組香には要素名はありません。基本的には、同香、異香を聞き当てて「陽」と「陰」の爻を結ぶだけですから、匿名のお香が2種類あれば足りる筈です。しかし、ここでは、「一」「二」「ウ」の3種類が用いられており、すべて試香のない状態で焚き出されます。このことについては、組香の通例として「三種」としたのか、香気のバリエーションを考えてのことか判断はつきませんでした。敢えて周易に発想を求めようとすれば、「易簡」「不易」「変易」の三義になぞらえたという解釈もあるかと思います。また、「陽」と「陰」と「中庸」かもしれません。そうだとすれば、「ウ」香は中性子のようなものと考えられ、次段の香数の説明にも好都合となります。
次に、この組香の香数は、5+5+3=13−1=12となっています。本来、易を行う際には50本の筮竹(ぜいちく)を用いますが、この組香で6つの爻を結ぶためには、最低12包のお香があれば事足りますので、本香の総数は12包とするのが合理的ですし、香盤の菊座の数の最大値(12)も考慮されているのかもしれません。また、易の初めには、筮竹を一本抜いて立て、49本で占いはじめる所作があります。これは、抜いた一本を「太極」 と見立てて、「ここから始まり、ここに収束する。」という宇宙観を意味しており、この組香の最初の打ち交ぜから任意に1包み引き去る所作は、このことに通じていると思われます。
さて、引き去られた12包のお香は、左右6包ずつに分けられ、「二*柱開」の方式で3組ずつ2回、順に焚き出します。連衆は、「十*柱香」に習い、札打ちで回答しますが、この組香では「一」「二」「ウ」の3種の香札を投じます。記録の正解欄は、常の 「二*柱開」のように、札番をそのまま2つ並べて記載します。連衆の回答欄について、『奥の橘』には、「二*柱同香と思わば陽爻に書き、異香と聞かば陰爻に書く」と記載があり、これによって爻を三段作り、卦を形成するという趣向になっています。この組香では、答えに香札を用いることとなっていますが、札が無ければ、名乗紙に数字や爻を記載しても構いませんし、算木が人数分あればそれを代用すると一層味わい深くなると思います。
ここで注意すべきことは、易の場合、「爻は植物の成長を模して、下から上に書く」というところです。『奥の橘』でも「八卦香の如く下より書く」とあり、易と同様の手順で卦を求めていくこととしています。卦の出方が上下逆ということは、それにより占いの結果も変わってくるということですので、正しく下から爻を書いて「香占い」の天啓を求めていただければと思います。
左右から焚き出されたお香が、2つの卦を形成したところで、八卦の意義について下表に示しますので、各卦の性質をご確認ください。
卦 |
名前 |
正象 |
五行 |
卦徳 |
卦意 |
人象 |
方位 |
季節 |
時間 |
人体 |
味 |
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乾(けん) |
天 |
金 |
剛健 |
円満 |
聖人 |
西北 |
立冬 |
19〜23時 |
頭 首 |
辛 |
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兌(だ) |
沢 |
金 |
愉悦 |
誘惑、色情 |
少女 |
西 |
秋分 |
17〜19時 |
口 |
辛 |
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離(り) |
火 |
火 |
明智 |
美麗 |
美人 |
南 |
夏至 |
11〜13時 |
目 |
苦 |
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震(しん) |
雷 |
木 |
奮動 |
奮起 |
長男 |
東 |
春分 |
5〜7時 |
足 |
酸 |
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巽(そん) |
風 |
木 |
伏入 |
進退 |
長女 |
東南 |
立夏 |
7〜11時 |
股 |
酸 |
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坎(かん) |
水 |
水 |
陥険 |
伏蔵 |
法律 |
北 |
冬至 |
23〜1時 |
耳 |
鹹 |
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艮(ごん) |
山 |
土 |
静止 |
頑固 |
賢人 |
東北 |
立春 |
1〜5時 |
手 |
甘 |
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坤(こん) |
地 |
土 |
従順 |
堅実 |
母 |
西南 |
立秋 |
13〜17時 |
腹 |
甘 |
EX: |
⇒天・地⇒天地否 (てんちひ) |
⇒山・風⇒山風蠱 (さんぷうこ) |
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この下附は、当たり外れに関わらず個々人の答えに基づいて附されますので、ある意味、「各自への天啓」とも考えられ、香の当たり外れに関わらず、香占いは成立するわけです。六十四卦の読みと暗示については、数が多いため、別記としました。ご自分が組香で得た卦名が何を意味するのか確かめて見るのも面白いと思います。
「六十四卦」の卦名序列としては、縦軸、横軸にそれぞれ乾、兌、離、震、巽、坎、艮、坤を配した「六十四卦構成表」という総当り表の方が分かりやすいのですが、今回は敢えて「組香の下附の名目」と解釈して、現時点で根拠が判然としない伝書の記載に準拠しました。
最後に、勝負は「二*柱開」の「爻」1本に付き1点の6点満点で点数の多い方の勝ちとなります。
このように、「周易香」は、最初に引き去った捨香が「太極」を意味し、二*柱のお香が「両義」の爻となり、四*柱で「四象」を生じ、六*柱で「八卦」となり、さらに十二*8柱で「六十四卦」となるという構造を以って、連衆に宇宙の生成過程を目の当たりにさせる趣向となっています。易経は、六本の棒で示される「奇妙な記号」とそれに掛けられた「危うい言葉」から成っています。言葉が謎めいているだけに受け手の想像力も 知的好奇心もかき立てられ、哲学的思索も可能でしょう。例えば、四象の「老」とは、極みではありながら、反転の可能性を常に秘めたもので、「少」は流転の過程でありながら一方向への安定を示しています。すべての卦は円相を描いて循環している宇宙のほんの一瞬を表すシンボルに過ぎません。この組香は、「当るも八卦、当らぬも八卦」で対症療法的な運勢を求めるだけでなく、宇宙や世界や人間同士の関わり合いについても思索を巡らせながらお楽しみください。
大昔、亀の甲羅のひび割れで国家の大事すら決めてしまった時代がありました。
その「啓示」が国を動かすほど神の存在が大きかったのだと思います。
そして、人の心も偉大な神を受け入れられるほど大きかったのでしょうね。
果たして国政選挙は国を動かしてくれますかね。
組香の解釈は、香席の景色を見渡すための一助に過ぎません。
最も尊重されるものは、皆さん自身が自由に思い浮かべる「心の風景」です。
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