二月の組香

梅花の景色が満載の春らしい組香です。

切り紙を使用して答えを投票するというところが特徴です。

説明

  1. 香木は4種用意します。

  2. 要素名は、「一」「二」「三」と「ウ」です。

  3. 香名と木所は、景色のために書きましたので、季節や組香の趣旨に因んだものを自由に組んでください。

  4. 「一」「二」「三」は各4包、「ウ」は1包作ります。(計13包)

  5. 「一」「二」「三」のうち1包ずつ試香として焚き出します。(計3包)

  6. 残った「一」「二」「三」の各3包と「ウ」1包(計10包)を打ち交ぜて焚き出します。

  7. 本香は、「二*柱開(にちゅうびらき)」で10炉廻ります。

※ 「二*柱開」とは、香札等を使用して「香炉が2炉廻る毎に1回答えを投票し、香記に記録する」やり方です。
  1. 答えは、「名乗(なのり)」が書かれた「切り紙」に2炉ごとに聞き合わせて、聞の名目を1つ書き記し、「折居(おりすえ)」に投票します。

  2. 香元は、2炉ごとに正解を宣言します。(委細後述)

  3. 執筆は、各自の答えのうち当ったもののみを記載します。

  4. 点数は、名目1つの当たりにつき1点を基本とし、その他の加点要素はありません。(5点満点)

  5. 下附は、全問正解に「完」、その他は点数で書き記します。  

 

今年は、暖冬で積雪の思い出がないまま立春を迎えそうです。

昨年の「立冬」から今年の「大寒」までの仙台のお天気を見ますと「雪マーク」は12月9日と29日の2日だけ・・・それも積雪量はともに「0センチ」でしたので、雪は降ったものの直ぐに消える程度だったことが分かります。

先月のコラムで宣言しておりました大崎八幡宮の「どんと祭」の「裸参り」には、参加101団体、2,550人中の一員として無事デビューを果たしました。当日の14日は、最高気温4度、最低気温−1度(結果的に1月の月間最低気温でした。)、朝に少し雪が降ったので「これは過酷なデビュー戦かな?」と思いましたが、午後には風が治まって、雪もチラつく程度となり「上品な寒波」となりました。自宅の松飾りを神社に納めてから、17時に近くの集会所に集まって着替えをしました。初めての「胴巻き」を先達さんに力いっぱい巻いていただくと、キリっと胸は逆三角形▽に持上げられ気も引き締まりました。気が引き締まったお陰か、腰に注連縄を締めて、草鞋を履いて玄関を出ても「ブルッ」っと震えることも無く済んだのは意外でした。口には「含み紙」を銜えて、右手に鐘、左手には提灯を持って無言で隊列を組みました。集会所は大崎八幡宮から目と鼻の先で、直行すれば50m程で着いてしまうこともあり、最初は人気(ひとけ)の無い市道を神社とは反対方向に進んでから、提灯で飾られた大通りに入り直して神社を目指すという全長2kmほどの町内周回コースとなっていました。

歩いてみて、「寒かったか?」と聞かれれば、まぁ寒いことは寒かったのですけれど、歩いている間は静謐な時間でした。歩調を合わせると自然に「カラーン・・・カラーン」と鐘の音も合って、それ以外は何も聞こえませんでした。寒さは「滝に打たれた時の全身のピリピリ感」と一緒で、全身の毛穴に心地よい「シーン」とした刺激があって気持ちよかったです。熱い風呂に我慢して入った時の「ジーン」とした快感のマイナス版だと思えば、当たらずともいえども遠からずかと思います。道々感じたのは、風を遮る塀や垣根の有り難さ、人の体温や照明の光線の暖かさ、そして、あの「忌々しい」車の排気ガスまでもが暖気を漂わせて「いとおしい」と擦り寄って行きたくなる感覚です。山伏修行もそうでしたが、こういう極限の体験から、人は「衣一枚の贅沢」を再認識し、「恵まれている自分」を自覚するのでしょうね。

結局、「寒い!」という感覚が戻ったのは、大鳥居から人並みを掻き分けて参道を抜け、拝殿の籬の中に入った頃からでした。籬の中を3往復ほど蛇行して拝殿でお祓いとお神酒をいただくのですが、ここで若干の待機時間があったため、すっかり素に戻って気が緩んでしまったようです。お祓いの後、メインの御神火を3周するのですが、「やっと身体を温められる」と思いきや、実はこれが一番「痛かった」のです。冷え切った身体に浴びる炎の「熱線」は、1周目で右半身を生焼け状態にし、2週目は耳の中まで刺すようになり、3周目はほとんど「根性っ!」でした。途中で止めたくなるほど辛かったのは、かえって「熱い」方だったのは皮肉なものです。(~_~;)

結果的には、裸参りをしていた時間の気温は2.9度だったらしいですが、「雨や雪の年は、草鞋が濡れて数倍寒い。」とも聞きますから、今となってみればお天気に恵まれた「寒中詣」だったような気がします。

今は、既に厳寒期を過ぎ、街では「冬物」を早々に諦めて、素材は冬物でも色彩は春を思わせる「梅春物(うめはるもの)」が店頭を飾っています。流通業界も「暦の春」をうまく利用して、なかなか粋な季節感を演出するものだと関心しました。

今月は、梅の花の栄枯盛衰を長い視点で味わう「梅花香」(ばいかこう)をご紹介いたしましょう。

「梅花香」といえば、昨年の2月にも同名を組香をご紹介しておりますので、「はて?」と思われた方は、記憶力がよろしいです。昨年は、『御家流組香集(義)』に掲載されている組香をご紹介いたしましたが、今回は、聞香秘録の『香道春曙抄』に掲載のある組香をご紹介いたします。その他、同じ聞香秘録の『香道後撰集(下)』や三條西公正著『香筵雅友』にも同名の組香があることは、昨年お伝えしたとおりです。『御家流組香集』の「梅花香」は、「月と梅」との白の対比を景色として、シンブルな構造ながら「香をたずねてぞ・・・」文学性に富み、さらに「焚き殻を使う」という特異性を兼ね備えた組香でしたが、今回ご紹介する『香道春曙抄』の「梅花香は、ストレートに「梅尽くし」という景色感に満ちており、素人目にも解りやすい組香だと思います。

まず、この組香の要素名は「一」「二」「三」と「ウ」です。このように要素名に景色を付さず匿名化することは、他の「梅花香」にも共通して言えることですが、この組香については、花を題材にした組香らしく「4T×3+1=10」と「 三枝三葉一花」のイメージで組まれています。そのため、匿名化の理由については、単に「有試十*柱香から派生した構造だから」とも捉えられますし、「聞の名目を用いているところから、これを導くための素材として要素名に敢えて景色をつけない」という配慮とも捉えられるでしょう。いずれにしろ、「ウ」については試香が無い「客香」となっていることから、小記録上では梅の「花」を表すイメージとして扱うべきものだと思います。

次に、この組香の構造は、前述のとおり「有試十*柱香」と同じ香4種、全体香数13香、本香数10香で作られており、試香から本香の聞き合わせ方までは「有試十*柱香」と同様のイメージを持っていただいて構わないと思います。すなわち、試香で聞いた「一」「二」「三」は本香の何処に出ても、そのまま「一」「二」「三」と符合させて判別し、本香の中で初めて聞く香は、試香の無い「ウ」だと判別しておきます。ただし、下段のとおり、答えは「一」「二」「三」「ウ」という要素名で記載するわけではありませんので、香の出は一旦メモしておくことをお奨めします。

この組香の出典には「本香十*柱交ぜ合わせ、次第に*柱き出す。尤も二*柱づつにて折居を添えて出すべし。」とあり、本香は、2炉ずつ5回廻るイメージとなります。出典には「二*柱開なり。」との明言はありませんが、他の「二*柱開」の組香と回答や記録の記載方法が同様の形式となっているため、今回は「二*柱開」の組香として取り扱わせていただきました。本来「二*柱開」の場合は、@2炉ごとに答えを投票し、A香元が正解を宣言し、B執筆が当たりのみを記載するという流れが繰り返されますが、出典では「香元が正解を宣言する」ことについては触れていません。私は「二*柱開」の本則に基づいて「説明」の欄に「9.香元は、2炉ごとに正解を宣言します。」と記載しましたが、実際は、本香の途中で回答を宣言すると「あとは何香と何香が残っているんだな」と要らぬ連想が働くものです。「折居」を使用する組香では、「香筒」と違って使いまわしをせず、1枚(1炉)ずつ使い切りですので、いちいち回答を取り出す必要がありません。廻り終えた折居を地敷紙の左上へ並べて留め置く方式の場合は、「本香焚き終わりました」の後で、正解を宣言し記録する方法でもよろしいかと思います。

答え方について、出典では「小切紙へ書付け、折居に入れ廻すべし。」となっており、「香札」ではなく「小切紙(こきりがみ)」を使用することとなっています。おそらく「小切紙」とは、茶道の原点(=香道の原点)である「茶歌舞伎(ちゃかぶき)」等にも使用する「名乗紙」のようなものだと思います。これは、半紙4分の1程度の大きさの紙を切って細い短冊にしたもので、それぞれが離れてしまわないように紙の上部を若干切り残して作る「暖簾」のようなものが一般的です。その他にも、短冊に穴を開けて紙縒り(こより)でまとめたもの、七夕の短冊のように切って右肩の細い部分を紙縒りにしてまとめたもの等もみられます。この組香では、答えを5回記載して提出する必要があるため、あらかじめ短冊は5枚に切ってあり、それぞれ下半分には「名乗(なのり)」(席中で連衆が使用する仮名)が書かれています。これを「香札」と同様に「試香焚き始めます」の前に廻わし、連衆が取り上げた順に「名乗」が決まります。

名乗について、出典では「小切紙書付」として「暗部山(くらぶやま)」「高津の宮(たかつのみや)」「難波津(なにわづ)」「玉嶋川(たましまがわ)」「筑紫(ちくし)」「山科(やましな)」「初瀬(はつせ)」「伏見里(ふしみのさと)」「みかきが原(御垣原:みかきがはら)」「末松山(すえのまつやま)」と全国の梅にまつわる歌枕が列挙されています。連衆は自分の名乗の入った小切紙の上半分に回答を書き記し、香記にも名乗で成績が記載されることとなります。「小切紙」も本来「名乗」の書かれた紙ですので、広義には「名乗紙」と同じことなのですが、香札の代わりとして答えの数の分だけ用意され、聞の名目を1つ書いては1枚ちぎって、廻された折居に入れて投票するところに違いがあります。小切紙の作成が面倒であれば、一般的な「名乗紙」を回答数分用意して(各自5枚とか)取り分けて使ってもよろしいのですが、嵩張るので折居には入れることはできず「差し挟む」程度になるかと思います。(手記録盆をいちいち廻すのは時間がかかりますのでお勧めしません。)

この組香の答えは、あらかじめ用意された「聞の名目」で回答します。4種の要素名から順序を固定して2つを抽出する組合わせは4×4=16通りありますが、ここでは「ウ」が1包しか出ませんので「ウ・ウ」の組合せを除いた15通りが用意されています。

聞の名目

香の出 後一 後二 後三 後ウ
初一 一・一  早梅 一・二  白梅 一・三  蝋梅 一・ウ  寒梅
初二 二・一  匂梅 二・二  老梅 二・三  観梅 二・ウ  残梅
初三 三・一  雪梅 三・二  黄梅 三・三  夕梅 三・ウ  飛梅
初ウ ウ・一  紅梅 ウ・二  散梅 ウ・三  青梅    

聞の名目の配列に規則性があるかどうかを確かめるため、以上のように表にして見ましたが、基本的には「梅尽くし」以外に規則性は見当たらないように思えます。敢えて言うならば、横に並んだ名目を見ていただくと「後の香」が一〜ウに変移するに伴って「時間の経過」が見えるということくらいでしょうか?いずれ、作者が狙ったのは、これらの名目1つ1つが連衆の心の中に像を結び、総体として「梅尽くしの風景」となることだったのだろうと思います。ここで、出典の「聞の名目の列挙」には三・一と聞くは梅雪」と記載されており、後の「梅花香之記」には「雪梅」と記載されているという矛盾がありました。「梅雪」も「雪梅」も一般語ではないので、どちらということもできないのですが、「梅雪」では人名のようでもあり、日本語の慣用からして「雪」が主役になり「梅のような雪」となってしまうような気がします。そこで、今回は他の名目と景色(字面)を合わせる意味でも「雪梅」を採用しています。

記録は、出典には「当たりばかりを記す。不当たりは白闕(はっけつ)に残す。」とあり、各自の回答(聞の名目)のうち正解したもののみを香記に記載することとなっています。このことは「二*柱開」の組香に多い形式ではありますが、この組香については、香記の上にも様々な「梅の景色」が「はらはら・・・」と散っている空気感を醸し出すことになり、秀逸な趣向ともなっています。具体的には香元が2炉ごとに正解を宣言し記録する」方式の場合は、香元が「一炉、二。二炉、一。」などと宣言すれば、執筆は香の出の欄に「二、一」と記載してから正解の「白梅」を導き出して、「白梅」と答えた人の名乗の下に「白梅」と書き記すという形(の5回繰り返し)になります。

一方、「本香が焚き終った後で一括して正解を発表する」方式を取る場合は、香元が香包に書かれた要素名を本香後にまとめて読み上げるので、執筆は「二、一、三、ウ、一、三、二、二、三、一」のように香の出の欄に一旦書き写してしまいます。それから、2炉ごとに「二、一」「三、ウ」「一、三」「二、二」「三、一」と組み分けして、それぞれの組に符合する聞の名目を探します。正解は「白梅」「飛梅」「蝋梅」「老梅」「雪梅」となりますので、これで当否を判定し、名乗の下に各自の当たりの名目のみ記載することになります。執筆にしてみれば、前者は2炉ごとに手記録を開いて同じ名目を横に書き進めるだけなので、当否の判別や香記への記載が楽だと言えます。後者は、執筆が5種の名目を判別してから、各自の手記録を開きつつ書き進めるため、不当たりの「白闕」の位置を間違えたりすることがありますので注意しましょう。

最後に点数は、「当たりばかりを書く」ので 合点等は付さず、聞の名目の当たり1つにつき1点と換算します。独聞(ひとりぎき)、客香の正解等にも加点はありません。また、下附については出典の「梅花香之記」を見ますと、全問正解には「完」の文字が付されており、大変珍しく感じました。普通、下附を点数で書く組香の全問正解は、「皆」「全」「叶」と表記する ことが多く、珍しいものでは「可」というものも見たことはありますが、「完」は初めてでした。「完了」「完成」「完結」の「完」だとすれば「何を全うしたのか?」ということを考えなければなりませんので、「完全」の「完」⇒「まったい(=欠けた点がない。)」という意味で「全」と同義と解釈したいと思います。

 梅は百花の魁」と言われ、寒中に咲いては、その年の花ごよみの始まりを告げます。四季香の始まりに「梅花香」を堪能されてはいかがでしょうか?

「花」と言えば「梅」だった万葉集には「雪と梅」を詠んだ歌が目立ちます。

昔は、平城京も東北並みの気候だったのでしょうね。

「残りたる雪に交れる梅の花早くな散りそ雪は消ぬとも(大伴旅人)」

 

組香の解釈は、香席の景色を見渡すための一助に過ぎません。

最も尊重されるものは、皆さん自身が自由に思い浮かべる「心の風景」です。

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