藤原定家詠花鳥十二ヶ月

 

正月 柳竹に鶯

 うちなびき春くるかぜの色なれや日を経てそむる青柳のいと
 春きてはきう夜も過ぎぬ朝といでに鶯なきゐる里の村田竹

二月 桜に雉

 かざしをる道行人のたもとまで桜に匂うきさらぎの空
 かり人のかすみにたどる春の日をつまどふ雉のこゑにたつらん

三月 藤に雲雀

 ゆく春のかたみとやさく藤の花そをだに後の色のゆかりに
雲雀 すみれさくひばりの床にやどかりて野をなつかしみくらす春かな

四月 卯花に郭公

卯花 白妙の衣ほすてふ夏のきてかきねもたわにさける卯花
郭公 郭公しのぶの里にさとなれよまだ卯の花のさ月待つ比

五月 橘に水鶏

 郭公なくやさ月のやどがほにかならず匂う軒のたちばな
水鶏 まきの戸をたたくくひなの朝ぼのに人やあやめの軒のうつりが

六月 撫子(常夏)に鵜飼

常夏 おほかたの日影にいとふみな月の空さえをしきとこなつの花
 みじか夜のう河にのぼるかがり火のはやくすぎ行くみな月の空

七月 女郎花に鵲

女郎花 秋ならでたれにあひみぬをみなえし契やおきし星合の空
 ながき夜にはねをならぶる契とて秋待ちたえる鵲のはし

八月 萩に雁

 秋たけぬいかなる色と吹く風にやがてうつろふもとあらの萩
 ながめやる秋の半もすぎの戸にまつほどしきる初かりの声

九月 尾花(薄)に鶉

 花すすき草のたもとの露けさをすてて暮行く秋のつれなさ
 人めさへいとどふかくさかれぬとや冬まつ霜にうずらなくらん

十月 残菊に鶴

残菊 神な月しも夜の菊のにほはずは秋のかたみになにをおかまし
 ゆふ日影むれたつたづはさしながら時雨の雲ぞ山めぐりする

十一月 枇杷に千鳥

枇杷 冬の日は木草のこさぬ霜の色をはがへぬ枝の色ぞまがふる
千鳥 千鳥なくかもの河せの夜はの月ひとつにみがく山あゐの袖

十二月 早梅に鴛鴦

早梅 色うづむかきねの雪の花ながら年のこなたに匂ふ梅がえ

鴛鴦 ながめする池の氷にふる雪のかさなる年ををしの毛ごろも