九月の組香

トンボが飛んでいる

千年山の風景をテーマにした祝香です。

の出によって主役が変わるところが特徴です。

 

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説明

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  1. 香木は4種用意します。

  2. 要素名は、「松」「竹」「鶴」と「千年山(ちとせやま)」です。

  3. 香名と木所は、景色のために書きましたので、季節や組香の趣旨に因んだものを自由に組んでください。

(今回は、十年前に掲載した「重陽香」の香組を再現しています。)

  1. 「松」「竹」「鶴」と「千年山」 は各4包(計16包)作り、それぞれ1包を試香として焚き出します。(計4包)

  2. 「松」「竹」「鶴」「千年山」(各3包は、それぞれ要素ごとに4組に結び置きします。「(×4)」⇒(3包×4組)

  3. 4組を結びのまま打ち交ぜ、そのうち1組を引き去ります。「−×1)」⇒(3包×3組)(3包×1組)

  4. 残った3組の結びから各々1包ずつ引き去ります。「−(×3)」⇒(2包×3組)(1包×3組)

  5. さらに残った2包×3組」に、6.で引き去った3包×1組」を加えて結びを解き、打ち交ぜます。「+×1)」⇒(計9包)

  6. 7.で、引き去った「1包×3組」、焚き出しませんので、総包に挟み「捨香」(すてこう)とします。(計3包)

  7. 本香は、9炉焚き出します。

  8. 答えは、名乗紙を使用し、要素名を出た順に9つ書き記します。

  9. 執筆は香記に各自の答えをそのまま記載し、当たりに点を付します。

  10. 点数は、各要素とも1点と換算します。(9点満点)

  11. 下附は、点数で記載します。

  12. その他、要素名の出によって、歌を1首書き記します。(委細後述)

 

  秋色が深まり、夕景色が千変万化で見飽きないほどの美しさです。

 当サイトも皆様のご愛顧に支えられつつ、おかげさまで十周年を迎えました。<m(__)m>
 「香筵雅遊」の発案は、思えば十年前のお盆の頃でした。詳しく申し述べると差し障りもあるのですが、20年前に「和物もあるよ」と耳打ちして私を香道に誘ってくれた「ある御霊」に「先月当代が亡くなった。お前が後世になにものかを残せ。」と、またも吹き込まれたことが端緒になっています。

  それから2週間。一種「神がかり的な」スピードで日夜を問わず書きこんだコンテンツを正式公開したのが1997年9月1日のことでした。不幸なことに「インターネット上への香道の定着化」というこのムーブメントは、結局は「ある御霊」の親族の方から疎まれる結果となり、私は「香道人」としての終焉を迎えることとなります。香道界を去って1ヶ月ほどは、自分のアイデンティティの崩壊に襲われ、夜に魘され続けたこともありました。そのため、「香道への想い」を断ち切って別な人生を見つける期間を一年ほど置いてみましたが、結局、「お香」は捨てきれるものではありませんでした。

 そんな時に、道元禅師の「杓底一残水」の一言に出会い、私の蓄積した知識、経験も柄杓の漸滴ではあるけれども、そのまま枯らしてしまわず川の水に戻して、必要とされる方のために広く使っていただきたいと思うようになりました。それ以来、「香道は悟道。一人でも香の道を悟ることはできる。」「自分のために悟りの香を焚き、客のためにもてなしの香を焚くという『香的生活』を日常的に送っていれば、それは、列記とした『香人』である。」と気付くに至って、自分を「香人」と称して、ネット上での存在を維持していくこととしました。その後の私の香道人生は、ご存知のとおり大変自由で濃密なものであり、結果的に大きなプラスとなりましたし、当サイトも「香道界の必要悪」として一定の座を与えられ、密かながらも皆様に親しまれるに至りました。

 一方、この十年間、実人生にはそれなりの波風もありましたし、サイトの維持についてもモチベーションの浮き沈みは確かにありました。にもかかわらず、毎月欠かさずこのコラムを続けて来られた理由は、今思えば、折々に出会った人、ネット上から受けた質問やいただいた情報といったものが、タイミングよく自分のモチベーションを奮い立たせてくれていたような気がします。また、敢えて 申せば「毎月、無言で上がる2000のカウント」という不動の地下水脈のようなエネルギーにも誘導されていたのかもしれません。いずれ、皆様の香道に対する思念が、総体として私を媒介に成させていたもののような気がします。今後とも、媒介者である「香人921」は、「皆様の思念の賜物」として、当サイトを維持継続していく所存でございますので、よろしくご愛顧のほどお願い申し上げます。

 今月は、開設十周年を祝う「独り酒」として、「ノ」を取れば「十年香」にも見える?祝香、「千年香」(ちとせこう)をご紹介いたしましょう。

 「千年香」は、杉本文太郎著の『香道』に掲載のある組香です。この組香は、有賀要延著の『香と仏教』にもほぼ同様の掲載がありますが、両書は典拠を異にしているためか、組香の構造以外の部分で若干の相違があります。その他、『御家流組香集(智)』にも「千年香」の掲載はありますが、これは4種4試である部分が若干似通っているものの、組香の表す景色は「相生」「若緑」「子日」「下紅葉」「十返」となっており、全く別の組香となっています。
 今回は、『香道』を出典、『香と仏教』を別書として、書き進めたいと思います。

 まず、この組香の要素名は、「松」「竹」「鶴」「千年山」となっています。「松」「竹」「鶴」については、「慶賀香」等、多くの祝香のに多く見られる要素で、「松、竹、鶴、亀」と揃えば千秋万歳の世を寿ぐ「蓬莱山」の風景となります。
 最後の要素である「千年山」については、「千年山=蓬莱山」とイメージすることも可能かも知れませんが、古歌や旧記に掲載されている「千年山」とは、丹波一宮の「出雲大神宮」(別名:千年宮)の御神体山として奉られている「御影山」(京都府亀岡市千歳町出雲、別名:千年山)のことであろうと推測します。この山には、神が降臨したとされており、和同2年(709)に初めて社殿が造営される以前から自然物信仰の対象として人々に敬われてきました。
 この組香で最も重用されるべき要素は「千年山」という舞台であり、「松」「竹」「鶴」をキャストとして「千年」と言うテーマに各々の要素を結びつけていす。因みに千年山の麓には「真名井の水」や「神池」があり、近くに「保津川(別名:千年川)」が流れていますので、「亀」も棲めると思うのですが、「万年系のために除外されたのかな?」と思います。

 次に、この組香は、要素に因んだ歌が各々用意されているところが第一の特徴となっています。
 この4種については、出典と別書で微妙に異なる部分があり、おそらく出典は伝書をそのまま記し、別書は後世に出典・読み人等を調べ直して掲載したものだと思います。ここでは、角川書店『新編国歌大観』による表記で掲載した上で、出典と別書の異同を併記したいと思います。

松の歌
 「うつし植うる松のみどりも君が世もけふこそ千代の始めなりけれ」(題林愚抄9082 権中納言兼光)
 意味は「植え替えたこの松の緑も(新しく在位された)君の世も今日から千年(永遠)の初めですね。」ということでしょう。「うつし植え」とは即ち「移植」のことです。私は、小松引きで遊んだ後の根付きの松は捨てられてしまうものかと思っていましたが、他の歌に「子日の小松うつし植え」という句がよく出てくるため、「長寿祈願」として土に埋め戻されていたことがわかりました。
 また、松は「十返りの花(とかえりのはな)」と言って百年に一遍、花が咲き、十回で千年の齢を持つとされています。
 出典「うつし植る松のみどりも君が代もけふかとぞ千世のはじめなりけれ
 別書「うつし植ゆる松のみどりも君が代もけふこそ千代のはじめなりけり

竹の歌
 「千代ふべきやどのまがきにうゑつれば竹もや君を友と見るらむ」(拾玉集884 慈円)          
 この歌は「窓前裁竹」と詞書がついており、意味は「いつまでも生きているようにと宿の籬に植えたので、この竹も君のことを永い間友と見るでしょう。」ということでしょう。別書には読み人が記されていませんが、『拾玉集』は、慈円の集大成といわれる歌集なので、慈円の作ということで良いと思います。「千代ふべき」は祝儀の歌に用いられる慣用句ですが、語源は「千代生べき」のことらしく、「いつまでも生きてきる→長寿」ということを表しています。
 因みに竹の開花周期も長く、種類によって60年から120年と言われていますが、竹の開花は子孫を残すための最後の手段であり、半年がかりで花を咲かせると、その花の集団はすべて枯れてしまうため、どちらかというと「不吉」の兆しとされているようです。
 出典「千世ふべき岩の垣根植ゑざれば竹もや君をともと見るらむ」
 別書「千代ふへき宿のまがきうゑつれば竹もや君を友と見るらん」

鶴の歌
 「君が代のためとむれゐるたづなれば千年をかねてあそぶなりけり」(堀河百首1353 源師時)
 この歌は、「鶴」の歌題で歌われたもので、意味は「君の代のために群れている田鶴なので、千年先まで予定して遊んでいるのですよ。」ということでしょう。ここでは、「たづ」を「田鶴(鶴)」、「かねて」を「兼ねて(将来のことまで予定する)」と解釈するところがポイントです。出典、別書とも「千とせをかけて」と記載されていますが、「千年をかねて」も他歌に多く見られる所謂慣用句なので、「千年かけて遊ぶ」のではなく「千年先まで予定して遊ぶ」とした方が、永遠を寿ぐ感じが出ると思います。「鶴は千年」ですので、千年先のことまで遊ぶ計画もしているのでしょうか。
 出典「君が代のためとむれいるなれば千とせをかけてあそぶなりけり」
 別書「君が代のためかむれゐる田鶴なれば
千と世をかけて遊ぶなりけり」

千年山の歌
 「真砂よりいはねになれる千とせ山こや君が代のためしなるらむ」(続後拾遺集603 読み人しらず)             
 この歌は、「祐子内親王家歌合に千年山をよめる」という詞書がついており、意味は「砂から大きな岩になった千年山よ。これが君の代の永遠不滅の手本になるだろう」ということでしょう。ここでは、「いはね」を「岩根(大きな岩石)」、「ためし」を「例(手本となること)」と解釈するところかポイントです。
 出典、別書とも「いはね」が「いわほ(巌)」となっているのは、「君が代」以降の意訳でしょうが、瑞々しく成長力に富み、生い先豊かな「小松」と永遠不滅の「岩根」は、瑞祥を表す縁語となっていますので、「いはね」が正当でしょう。
 出典「真砂よりいはほとなれる千年やまこや君が代のためしなりけむ
 別書「真砂より
いはほになれる千年山こや君が代のためしなるらん

 さて、この組香の構造は、いささか複雑ですので構造式を図解しました。まず、@「松」「竹」「鶴」「千年山」の4種4香を用意し、Aそれぞれ1包を試香として焚き出します。祝香の仲間では「慶賀香」ならば「蓬莱」が、「萬歳香」ならば、「巌」が客香と指定されていますが、この組香では全ての要素に試香があり、「客香」が無いというのが第二の特徴です。
 何故「客香」がないのかについては、本香出香後の結果で主役を決めるまで、各要素は同等に扱いましょうということだと思います。
 次に、B「松(3包)」「竹(3包)」「鶴(3包)」「千年山(3包)」を各々結び、Cこの4組を結びのまま打ち交ぜます。Dその中から1組を任意に引き去り、脇に置いておき、E手元に残った3組から1包ずつ引き去ります。この時点で、手元には3要素が2包ずつ残ることになります。これに、先ほど引き去っておいた1組を加えるので、手元は「2+2+2+3=9包」となり、Fこれを打ち交ぜてG本香9包とします。
 このように、最後に加えた1組のみ3包出ることとなり、記録法では「3包出た香の歌を書き記す」ことになっています。この組香には、証歌は規定されていませんので、最後に加えた1組の要素が結果的に「千年香」主役の座に据えられるというのが、この組香の趣旨となっています。

 この組香の回答には名乗紙を使用し、普段どおりに要素名を出た順序に記載して提出します。記録も普段どおり、各自の回答を全て名乗の下に書き記します。名乗について『御家流組香集(智)』の「千年香」では、「春暁、春朝、春霞、春雪、春水、春風、春日、春雨、春山、春暮」が札紋として列記されていますが、「春色満載」のため、今回にはふさわしくありません。もし、正月の組香として催す場合は、参考としてください。

 正解が宣言されましたら、執筆は、正解欄に香の出を書き記しますが、ここで留意点があります。
 出典では、「何れにても三炷出たれば歌一種出の下、又記録の奥に記す」とあります。このことは別書にくわしく「松竹鶴の香何れにて三炷出たる時は、その歌の一首、出香の下に書く。さて、千年山の香三炷出たるは奥に一首書くなり。」とあります。
 そのため、正解に「松・竹・鶴」のどちらかが3包出たとわかった時は、正解欄の下に余白を設け歌一首が書き込めるようにしておいてください。「千年山」が3包出たとわかった時は、普段どおり記録の奥に記載しますので、余白は要りません。主役となった要素に因んだ歌一首は、どの歌が書かれることになっても「千年」をテーマとして詠まれているので「千年香」の趣旨は表現できます。
 先ほど、「千年香の要素は、本香が焚かれるまでは全て同等」と記載しましたが、「千年山」の要素のみ「証歌」の欄に記載するというところが、作者の配慮だと思われます。やはり、「千年香」の「千年山」ですし、「御神体山」「不動の要素」という点で尊重に値するでしょう。

 ここで、別書には「千年山」の歌に続いて「而して記の奥には書するは次の歌とする」とあり、もう1つの歌「今年より千歳の山はこゑたえず君が御代をぞいのるべらなる」が掲載されています。この歌は、『拾遺集』609に「天禄元年大嘗会風俗、千世能山」との詞書のある大中臣能宣(おおなかとみのよしのぶ)が読んだものです。(別書では「読み人しらず」となっています。)
 つまり別書では「千年山」の香が3包出た場合は、「真砂より・・・」ではなく、「今年より・・・」の歌に変えて奥書きせよと指定されているのですが、慶賀の意味が特段深いわけでもなく、4要素の含む意味合いを総括したというわけでもなく、さらに「真砂より・・・」という要素の歌を有名無実化することにもなるので、私としては「虚飾」として参考に留めて置くのが適当かと考えています。

 最後に 当否は、各自の回答を全て書き記して正解に 合点を掛けます。正解1つに付き1点と換算し、下附は漢数字で記載します。勝負も普段どおり、最高得点者のうち上座の方の勝ちとなります。

 以上、「結び置き」と「引き去り」に若干の手間が必要ですが、その他は普段どおりに行うことのできる「祝香」ですので、新春にとらわれず「千秋萬歳」を願ってお楽しみください。

「千年山」を検索すると「海千山千」がたくさんヒットしました。

「海に千年、山に千年」ということのようですが・・・

未だ十年では「龍」にもなれませんか。^_^;

01の符号に託す言祝ぎよ千年ぞかほれ香の筵に(921詠)

組香の解釈は、香席の景色を見渡すための一助に過ぎません。

最も尊重されるものは、皆さん自身が自由に思い浮かべる「心の風景」です。

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