八月の組香
『源氏物語』の「篝火」の帖をテーマにした組香です。
光源氏と玉鬘の語らいの景色をイメージして聞きましょう。
※ このコラムではフォントがないため「」を「*柱」と表記しています。
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説明 |
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香木は、3種用意します。
要素名は、「一」「二」と「ウ(篝火)」です。
香名と木所は、景色のために書きましたので、季節や組香の趣旨に因んだものを自由に組んでください。
「一」「二」各3包、「ウ」は4包作ります。(計10包)
「一」「二」のうち各1包を試香として焚き出します。(計2包)
残った 「一」「二」各2包と「ウ」4包を打ち交ぜ、これを任意に2包ずつ4組に結び合わせます。(2×4=8包)
本香は、「二*柱開」(にちゅうびらき)で8炉廻ります。
※ 「二*柱開」とは、「香炉が2炉廻る毎に1回答えを投票し、香記に記録する」聞き方です。
連衆は、2炉ごとに試香に聞き合わせて、名乗紙に「聞の名目(ききのみょうもく)」を1つ書き記します。
※ 以下、11番までを4回繰り返します。
執筆は、名乗紙を開いて、香記に各自の答えを書き写します。
香元は、2つの香包を開き、香の出の順に正解を宣言します。
執筆は、正解と香記を確認し、当たりに所定の点を付します。(委細後述)
点数は、「ウ」の当たりについて加点要素があり、その他は1点と換算します。(委細後述)
下附は、香記に記載された点の数を漢数字で記載します。
勝負は、最高得点者のうち、上席の方が勝ちとなります。
秋口を向かえ、街にもリクルートスーツが目立ち初めて来ました。
貴方は、就職試験の最終面接で、社長に「今までの自分はついていたと思いますか?ついていなかったと思いますか?」と質問されたら、どのように答えるでしょうか?私ならば「一言でいうと努力以上に報われないタイプなので、どちらかというとついていない方だと思います。しかし、運の無さによる悪影響を最小限に止められる英知と手腕を得たことは幸いだったと思っています。」と前向きぶって答えるでしょう。しかし、質問した社長が松下幸之助さんならば、これでは「不合格」となり、「自分はついていた」と公言できる人が「合格」なのだそうです。
その理由は、自分を「ついている」と思っている人は、「周囲への感謝」がその思いの基礎にあり、「自分は何もしていないのだけれど、おかげさまで・・・」という気持ちで人生を送っているため、「意図的に頑張るタイプ」より組織人としても職能の上でも勝っているということのようです。これは「目から鱗」でした。
私も面接官なら、少なくとも親兄弟に感謝していない若者は採用の対象としないでしょう。それでも私は、「20代は行動力、30代は企画力、40代は政治力、50代は人徳」と、それぞれの年代で能力を完成させ、職能を積み上げていくということを人生の規範にしていましたから、その時々の幸運には感謝こそすれ、「私は何もしなかった。」と総括することは、おそらく自分には一生出来ないことだと思いました。そして、人一倍、多難な人生を歩んできた筈の松下幸之助さんが「自分は何もしていないのだけれど、おかげさまで・・・」と言えることに、単なる「成功者の余裕」ではない「人生の核心」を掴んだ気がしました。
さて、私の友人にも傍から見て「ついているタイプ」はおり、彼はしばしば「天然」と評されたりします。しかし、彼は、単なる「癒し系」ではなく、自分のしたいことがあれば1人でも成し遂げ、競合すれば先を争って獲得に努めます。一方、ちょっと腰が引ける時は、「匂い」で察知して、結果的に他人が前に出てしまうような譲り方を「非常に上品かつ極自然に」出来てしまうので、家族も組織も彼にとってはフォローの風にしかなり得ないのです。正に「他人あっての自分」であって、己の欲するところに従って、社会の中を水が流れるように渡って行き、周りの人のお陰で一度も不遇に見舞われたことがない人生を送っているのです。先日の海外旅行の際にも、彼だけは「自分で想定した全て のことをやり遂げた。」と公言していました。私は、多くを望まなくともその時々の自分に「パーフェクト」の評価を与えることが出来るということはすばらしいことだと思いました。
一方、私は、餓鬼道の申し子・・・「出来たこと」よりも「出来なかったこと」が記憶に残るタイプですから、アグレッシブに動いた割には、段取りや周囲への配慮に自分の心の弱さも手伝って、想定の半分もことを成し得た感じがしませんでした。皆が「やりたい」と察すれば身を引き、皆が「やりたくない」と察すれば進んで先頭に立つことが、これまた「非常に上品かつ極自然に」できてしまう私は、「他人のための自分」なので、生きる苦難が違うのは当たり前です。
しかし、これを「苦難は修行」「神は超えなれない試練は与えない」などというカタルシスを用いずに、まず「自分のしたこと」を忘れ、その苦難の中に内包されていた筈の「天の恵」や「人の恵」といった幸運に目を向けて、結果的に事無きを得たり、アクシデントが迅速・円滑に処理されたことを「ついていた」と一笑に付せることが本当の強さなのかもしれません。
自然と人間では「格」が違いますから「人間は自然に生かされている」と言っても、誰からも反論は出ません。しかし、「今の自分は社会に生かされている」として、家族や地域、会社、そして社会に感謝する人は意外に少ないと思います。それは、社会の最小単位である「人と人の付き合い」が同格なので、どこかに「自我」や「我執」を捨て去れないからだと思います。全てが受身で「無為自然」では、物事が進みませんが「周りあっての自分」という意識を常に持って、「私が・・・したい。」「私が・・・して欲しい。」という「業(ごう)」を「 魂の銀行」に負債として積み重ねないことが大切なのかもしれませんね。
平安の姫君は、自分の知性と教養を磨き、より高い位の殿方の庇護を勝ち得ることで、より高質で安寧な生活を約束されていました。玉鬘は、夕顔の死後、筑紫に下っていましたので、源氏に探し出されたことが幸福の始まりだったといえるでしょう。しかし、その後は髭黒大将の略奪愛を受け、誰にも祝福されない結婚をして三男二女を設け、夫亡き後は、冷泉帝に長女を出仕させて家の復興を図りますが、これまた周囲の妬みによって思い通りに行かずに後悔の日々を送ることとなります。運命 とは正に「周囲の力学によって、糾われた縄の如きもの」ということでしょうか?
今月は、源氏と玉鬘のモヤモヤした微妙な関係が聞きどころの「篝火香」(かがりびこう)をご紹介いたしましょう。
「篝火香」は、『香道蘭之園(第八巻)』に掲載のある「源氏千種香」に属する組香です。同名の組香は、『御家流組香集(信)』や三條西公正著『組香の鑑賞』に小林瀧子氏作の新組が掲載されています。これらは、『源氏物語』の「篝火」の帖を主題として作られた点では共通していますが、その景色や構造は、それぞれ異なる同名異組となっています。
例えば、『御家流組香集(信)』の「篝火香」は、「源氏」「玉鬘」「夕暮」「恋煙」「琴枕」「篝火」が要素名として扱われ、「源氏・玉鬘」「琴枕・恋煙」等とあらかじめ結び合わせて物語の景色をストレートに表現する作風となっています。また、『組香の鑑賞』に掲載のある昭和の組香は、物語の中で「源氏」と「玉鬘」が詠み交わした2つの和歌を5句ずつに分割して要素名とし、本香10包を「香元二人手前」で焚き出して、連衆は「源氏方」と「玉鬘方」別れて聞き比べをする「対戦型」の組香です。
しばし横道に逸れますが、昭和40年6月に発行された『組香の鑑賞』の「第二章 現代の新組香」には、「篝火香 (小林瀧子)」をはじめ、「關屋香 (大倉直介)」、「初音香 (山本霞月)」、「野分香 (三條西尭山)」等、帖名をそのまま冠した組香のほか、「二葉香 (鈴木睛子)」、「槿香 (木村壽尾)」、「喜香 (大倉久美子)」、「縁香 (三條西尭山)」、「呉竹香 (二宮久美子)」等、『源氏物語』をテーマとした組香がたくさん掲載されており、昭和29年5月に発行された『源氏物語新組(上)』の「未刊の下巻」は、時間を経るに従って、これに替わっていたのではなかったのかと推察しています。
そのようなこともあり、玄人的には、「篝火香 (小林瀧子)」にも興味が惹かれたのですが、今回は「源氏物語千年紀」に因 んで実際の香席でも気軽に催すことのできる組香として、『香道蘭之園(第八巻)』を出典として書き進めたいと思います。
まず、この組香の証歌は「かゞりびに立ちそふ恋の煙こそ世にはたへせぬほのをなりけれ」(出典のまま記載)という歌です。これは、『源氏物語』第27帖「篝火」の中で、琴を枕に玉鬘と添い寝する源氏が、なかなか帰りづらい思いで、お供の者に「始終誰かがいて、篝火を焚いていなさい。夏の月の無い頃は、庭に光がないと、何か気味が悪く、心許なく感じるから・・・」と申し付けた際に「篝火とともに立ち上る恋の煙は永遠に消えることのないわたしの思いなのです。(いつまで待てと仰るのですか?)」と詠って、玉鬘に問いかけたものです。
ここで、組香の説明に入る前に、この組香の舞台となる「篝火」のあらすじをご紹介しておきましょう。
『源氏物語』第27帖は、光源氏36歳の初秋の太政大臣時代の物語です。
[第一段 近江君に関する世間の噂とそれぞれの思い]
光源氏は、「内大臣(頭中将)が、自分で探し出してわざわざ引き取った近江の君を気に入らなかったために、弘徽殿の女房にしてしまった。」という世間の人の噂を聞いて、「納得できない。もっと波風立たないやりようがあるのに・・・」と気の毒に思っていました。一方、玉鬘は、このような噂を聞くにつけ「実父の内大臣でなく、よく源氏の君に引き取られたものだわ。」と身の幸いを思うのでした。ただ、養父の源氏から受ける恋愛感情は困りものでしたが、そうかといって無理強いはせずに益々深い愛情を注がれるので、玉鬘の方もだんだんと打ち解けて来ました。
[第二段 初秋の夜、篝火を見ながら歌を交わす]
秋の初風が涼しく吹き出すと、光源氏は、もの寂しくなって、しきりに玉鬘の所へ渡っては一日中一緒に過ごし、琴などを教えていました。五、六日の夕月夜は早くに沈み、琴を枕にして、一緒に横に添い寝していましたが、全く先に進まない仲に溜息まじりに夜更かしするのも女房の手前もあるので、部屋に戻ろうとして御前の篝火が少し消えかかっているのを見つけ、お供の右近の大夫を召して、篝火の火を絶やさぬように命じました。髪を撫でれば、(玉鬘とは黒髪の美称でもありますので)その手触りはとても冷やかで気品があり、身を固くして恥ずかしがっている様子も愛らしく思われます。
この時、源氏は、篝火に立ち添う煙を自分の恋心に見立てて「篝火に・・・」の歌を贈ります。これについて、玉鬘は、いぶかしげに「行方なき空に消ちてよ篝火のたよりに類ふ煙とならば」(篝火とともに立ち上る煙とおっしゃるならば、行方のない空に消して下さいませ。→このような関係は、他人が変だと思うことでございますわ)と返します。
源氏が諦めて「さあて・・・」と退出しようとすると、東の対の方から柏木の吹く美しい笛の音とともに、夕霧たちの合奏が聞こえて来たので、また立ち止まりました。
[第三段 玉鬘の前で和琴を演奏する柏木の思い]
源氏が、手紙を使わしたので、三人の公達(夕霧、柏木、弁少将)が連れだって西の対に参上しました。源氏は琴を取り出して弾き、夕霧は、「盤渉調(ばんしきちょう:ロ短調)」で美しく笛を吹き、柏木は弁少将の拍子に急かされながら、鈴虫かと思う声で2曲歌いました。その後、源氏は柏木に琴を譲りましたが、柏木の弾く琴は、本当に父(内大臣)の音色に少しも劣らず、派手で素晴らしいものでした。
玉鬘は、柏木のことを常々心に留めており、御簾の奥でしみじみと聞いていましたが、彼らは切っても切れない血縁関係(姉弟)だったのでした。柏木もそのことは知らず、一心に玉鬘を思っていましたので、抑えきれない気持ちと裏腹に、見苦しくないように振る舞って、少しも気を許して琴を弾き続けることができなかったのでした。
次に、この組香の要素名は、「一」「二」「ウ」と匿名化されています。ただし、客香(試香の無い香)の「ウ」については出典に「ウ 篝火」と記載されており、「篝火」を示していることが明白となっています。一方、地の香(試香の有る香)となる「一」「二」については、後に「聞の名目」を導き出す素材という扱いですから詮索は不要かもしれませんが、「源氏千種香」の中には、「蛍香」における「匂(匂宮)」「玉(玉鬘)」「蛍(蛍兵部卿)」や「常夏香」の「白(源氏)」「赤(玉鬘)」「紫(夕顔)」ように、登場人物が要素として隠されている作風のものが多いので、「一」は「源氏」、「二」は「玉鬘」のことであろうと連想すれば、西の対で篝火を見ながら添い寝している二人の景色も表れて落ち着きもよろしいかと思います。
さて、この組香の香種は3種となっており、物語の主景である「篝火」を中心に2つの要素(おそらく登場人物)を用い、「蛍香」や「常夏香」のように「聞の名目」を配して要素同士の関わりを新たな景色に置き換えるという趣向となっています。また、この組香の香数は、全体10包のうち試香を2包焚き出し、本香は8包となっています。本香の「8」は、名数ではなく、単に地の香2種2包(計4包)に客香(4包)をそれぞれ対応させて出来た数かと思います。敢えて、本香数に意味を求めるために、物語の「秋になりぬ。」「五、六日の夕月夜は疾く入りて・・・」が「8月」ではないかと調べましたが、26帖「常夏」は「盛夏」、28帖「野分」は「8月」であることが本文中から明白なので、中に挟まれる27帖の「篝火」は「初秋」「7月」ということで間違いないようでした。苦しいですが、新暦にすれば今月ですので「8月」と意味づけることも可能です。
続いて、この組香の構造は「結び置き」が特徴となっています。始めに「一」「二」を3包ずつ(計6包)と「篝火」を4包作ります。次に「一」「二」を1包ずつ試香として焚き出し、残る「一(2包)」と「二(2包)」に「篝火(4包)」を加えて打ち交ぜ、この8包を任意に「2包ずつ4組」に結び合わせます。本香は、1組ごとに「二*柱開」として、2×4=8炉を聞きます。因みに、別書である『御家流組香集(信)』の「結び置き」があらかじめペアとなる要素を「規定」しているのに対して、こちらの「結び置き」は要素の組合せが「任意」であるところが異なっています。
そして連衆は、2炉ごとに試香と聞き合わせ、下記のとおり「聞の名目」と見合わせて名乗紙に答えを1つ書き記します。出典では、回答方法について特に記載がありませんので、「二*柱開」であっても香札(こうふだ)を用いた投票はしないようです。回答は、名乗紙を4枚用いて1組ずつ正解を開いて行くのが正当ですが、略儀として名乗紙1枚に4組の聞の名目を順に書き記す「後開き」とすることも、連衆の熟練度で判断すればよろしいかと思います。勿論、名乗紙を4枚で「二*柱開」とする方が、後の修正が効かないため玄人向けで緊張感があります。
回答に使用する「聞の名目」は、順序を定めて4つから2つを取り出す組合せですので、9通り用意されています。
香の出 |
聞の名目 |
一・一 | 夕やみ(ゆうやみ) |
一・二 | 夏の遅月(おそづき) |
一・ウ | 玉かづら(たまかずら) |
二・一 | たそがれ |
二・二 | 琴を枕(ことをまくら) |
二・ウ | 秋の初風(はつかぜ) |
ウ・一 | 源氏(げんじ) |
ウ・二 | 恋の煙(けぶり) |
ウ・ウ | かゞりび(かがりび) |
以上のように、「篝火」の帖のうち第二段の景色に因んだ名目が配されていますが、本文にそのまま登場する語句と「夕やみ」「夏の遅月」「たそがれ」「秋の初風」のように、本文の景色から派生した感性表現的な語句が含まれています。『御家流組香集(信)』の「篝火香」では、本文に記載のある「源氏」「玉鬘」「夕暮」「恋煙」「琴枕」「篝火」という言葉のみで要素名を構成していますが、それに比べて、景色がやや「はんなり」するのはこのためでしょう。
特に「夏の遅月」という名目は、物語の季節感とは直接関係の無い情景であり、おそらく本文に言う「五、六日の夕月夜は早くに沈み」と「秋の初風」に対峙して配された造語である可能性があります。陰暦5、6日頃の都の月は、月齢が小さいため夜8時頃には沈んでしまい、宵の口は薄明かりがあるものの、夜は暗闇に包まれますので、源氏は「篝火を焚いておけ」といったわけです。そのため、この帖に「遅月」の出現する必然性はありません。また、「遅月」自体が辞書には載っていない言葉で、和歌や俳句では「月の出の遅いこと」を示す季語として、しばしば使われますが、その季節は「秋」を示しています。敢えて解釈すれば、季節の到来を示す「秋の初風」に象徴される玉鬘の若さや冷たい髪の心地よさに対して、盛りも過ぎて次第に細く欠けて行く月でありながら熱い思いの源氏を過ぎし季節の象徴として「夏の遅月」に見立てたのかもしれません。
ただし、要素名と聞の名目の対応については、なかなか統一した解釈が出来ませんでした。おそらく、作者は聞の名目を「源氏」と「玉かづら」、「夕やみ」と「たそがれ」、「夏の遅月」と「秋の初風」、「琴を枕」と「恋の煙」をそれぞれ対峙して配置したと思われるのですが、要素名の組合せに統一した法則性が見受けられません。ここで私見を加えることが許されれば、私は与えられた要素名と名目をこのように配置するでしょう。
香の出 | 聞の名目 | 源氏と玉鬘のイメージ |
一・一 | 恋の煙 | 「苦しき下燃えなりけり」と強い恋心を示す源氏 |
二・二 | 琴を枕 | 「うちとけぬさまにものをつつまし思したるけしき」の弱い慕心の玉鬘 |
一・二 | 夕やみ | 「かかる類ひあらむやと、うち嘆きがちにて夜更かしたまふ」源氏 |
二・一 | たそがれ | 「人のあやしと思ひはべらむこと、とわびたまふ」玉鬘 |
一・ウ | 夏の遅月 | 「盛り過ぎたる人」と自虐する老いた源氏 |
二・ウ | 秋の初風 | 「いと冷やかにあてはかなる心地」の若い玉鬘 |
ウ・一 | 源氏 | 源氏 |
ウ・二 | 玉かづら | 玉鬘 |
ウ・ウ | かゞりび | 篝火 |
このように配置すれば、「一」は源氏、「二」は玉鬘、「篝火」は光明というイメージを中心に、二人の「恋・慕」「老・若」「浩嘆・困惑」の対峙が際立ち、景色が解釈しやすいかと思います。
この組香は、「二*柱開」ですので、執筆は、本香が一組(2炉)ごとに帰ってくる名乗紙を開き、連衆の答えを全て書き写します。香元は、頃合いを見て正解を宣言し、執筆は、それを確認して各自の当たりに点を付します。
点法について、出典では「これは第一にウを聞く也。ウウの当り点四、一ウ、二ウの両当りはウの方両点也。又、一ウ、二ウの一二あたらず、ウばかりあたりたるは一点也。」とあり、客香である「ウ」の当たりについて加点要素があります。(この点、出典の「篝火香之記」では捨象されているため、当たり数と点数に矛盾があります。)また、出典では「一」「二」のような「地の香」について、点数を明記していませんが、通常「平点」として1要素の当たりにつき1点と換算するのが順当でしょう。
まず、客香の「ウ」を含む要素が2つとも当たった場合は「ウ」1つにつき2点と換算します。つまり、「かがりび(ウ・ウ)」の当たりは2+2=4点、要素に「ウ」を含むペアの「玉かづら(一・ウ)」「秋の初風(二・ウ)」「源氏(ウ・一)」「恋の煙(ウ・二)」が聞の名目どおりに当たった場合も「ウ」1つにつき2点とし、「地の香」の当たり1点と合わせて2+1=3点となります。
次に、この組香では、「聞の名目」自体が当たっていなくとも、名目を構成する要素が1つでも順番どおり当たっていれば得点となる「片当たり」方式を採用しています。
そのため、例えば「夏の遅月(一・二)」を「夕やみ(一・一)」と答えても、初香の「一」が当たっているので1点と換算されます。また、「秋の初風(二・ウ)」を玉かづら(一・ウ)」のように答え、要素の片方しか当たらない場合は客香の「ウ」が当たっても「地の香」同様1点と換算します。
すると、全問正解の得点は、「かがりび(ウ・ウ)」「玉かづら(一・ウ)」「源氏(ウ・一)」「琴を枕(二・二)」などと「1つの組にウのペアが出た場合」(4+3+3+2=12点)と「玉かづら(一・ウ)」「秋の初風(二・ウ)」「源氏(ウ・一)」「恋の煙(ウ・二)」のように「ウが全ての組に含まれた場合」(3+3+3+3=12点)の2パターンとなり、どちらも得点は変わりません。その他の場合でも片当たり方式ですと、全ての要素の順番を入れ違えない限り、3種の香で「無点(0点)」を出すのは、かえって難しく、多くは当たり外れが交々となろうかと思います。執筆は、「聞の名目」ばかりでなく、「要素名の対応」を間違えずに判定することが肝心となります。
下附は、出典の「篝火香之記」に各自の得点が漢数字で書かれておりますので、これに則って各自の回答の下に「六」や「五」と書き記せばよろしいかと思います。なお、全問正解の下附については、他の「源氏千種香」の多くが「皆」を使用しているため、これを用いることも可能でしょう。
最後に、勝負は常のごとく、最高得点者のうち上席の方の勝ちとなります。
夏の宴がおわり、涼風が吹く頃になりましたら、「自分が対立関係にある内大臣の娘を秘密裏に養女にし、その養女と添い寝をしながらも思いを遂げられない源氏」の一方で「養父の愛情に困惑していながらも、居心地が良くて激しく拒むことの出来ない玉鬘」の「もやもやした気持ち」が、聞の名目に配された「ぼんやりした景色」の中で移ろう様子を「篝火香」で是非ご堪能ください。
「竹河」の帖には晩年の玉鬘が描かれていますが・・・
やはり、無駄に悩み、無駄に動き過ぎたことが後悔に繋がっているような気がします。
彼女も「千の有為を無為に帰すること」で、感謝の人生を送れたのかもしれませんね。
組香の解釈は、香席の景色を見渡すための一助に過ぎません。
最も尊重されるものは、皆さん自身が自由に思い浮かべる「心の風景」です。
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