十一月の組香

『源氏物語』の最終章「宇治十帖」をテーマとした組香です。

宇治の山河を背景に薫と匂宮が織り成すドラマをイメージして聞きましょう。

 

 

※ このコラムではフォントがないため「」を「*柱」と表記しています。

説明

  1. 香木は3種用意します。

  2. 要素名は、「桜」「紅葉」と「匂(におう)」です。

  3. 香名と木所は、景色のために書きましたので、季節等に因んだものを自由に組んでください。

  4. 「桜」「紅葉」はそれぞれ4包(計8包)作り、そのうち1包ずつを試香として焚き出します。

  5. 残った「桜」「紅葉」の各3包の中から、2包ずつ取り出し「桜・桜」「紅葉・紅葉」と組み合わせて2組に結び置きします。

  6. 最終的に残った「桜」「紅葉」の各1包に「匂」の2包を加えて打ち交ぜ、2包ずつ2組に結び置きします。

  7. こうして出来上がった4組をさらに打ち交ぜます。

  8. 本香は「二*柱開(にちゅうびらき)」で8炉廻ります。

    ※ 「二*柱開」とは、「香炉が2炉廻る毎に1回答えを投票し、香記に記録する」やり方です。
  9. 香元は、2炉ごとに香を焚き出した時点で、手記録盆を廻します。

  10. 連衆は、2炉ごとに「聞の名目」(ききのみょうもく)と見合わせて、その名目が書かれた「香札(こうふだ)」で投票します。

 聞いた香の順番を入れ違えると答えが変わってしまいますので注意してください。

  1. 執筆は香札を開いて順番に仮に並べておき、執筆が答えを請う目礼をしたら、香元は香包を開いて正解を宣言します。

  2. 執筆は、連衆の答えを全て書き記し、当たった名目の右肩に点を付します。

  3. 前記8.〜11.の動きを4回繰り返しますので、答えは4つとなり、この答えの当否を競います。

  4. 点数は、聞の名目が当たったものは1点とします。

  5. 下附は、全問正解を含め全て「点数」で表します。


 

  遠山が唐錦から薄墨色に染まりはじめ、初雪の到来を待ち侘びているようです。

私には、昔「 O君」という親友がいました。O君とは、小学3年生の春に私が転校した先の学校で一緒のクラスになり、それから数日して家の近くで遊んでいた時に偶然見つけて家も近いことが分かり、お互い「鍵っ子」という事情も一致したので、それから、毎日一緒に遊ぶようになりました。昔の子供ですから、勿論ワンパクな遊びもしましたが、O君の家のピアノの上にあった「六法全書」を読んでは「社会の仕組みを知る」という、当時の小学生としては、一風変わった趣味の一致が、彼との心の絆を一層強くしたのだと思います。

その後、小学校卒業までは毎日に学校に一緒に通い、中学校になって、参加が義務付けられていたクラブ活動のアンケートに「法律研究部を作りたい。」と書いたところ、たまたま司法試験を「7浪」もしている先生が居て顧問に名乗りを上げ、試しに部員募集をしたところ、これが意外な人気で30余名が集まり、めでたく創部となりました。この年の文化祭では、当時「長沼ナイキ訴訟」が取り沙汰されていたこともあり、憲法9条問題を取り上げて発表し好評を博しました。この余勢を駆って中学校の2年生の伝統行事である「立志式」(りっししき:元服の儀に因んで各自、将来の夢を発表する式)では、彼は「無実の人に愛の手を!」と弁護士志望、私は「この世の悪を裁くのだぁ〜。」で裁判官志望であることを表明しました。この頃には、私たちは公認の親友となり「ワンセット」と呼ばれ、クラス替えにも配慮されるようになっていました。また、彼はバスケット部にも属しており、スポーツマンで人あたりの良い爽やかタイプでしたので、女子の人気は絶大でした。一方、私は吹奏楽部と落語研究会と3足の草鞋を履く文科系で、当時から偏屈なところはありましたので、「憧れ」に終始する根強いファンがそれなりにいたものの、万民受けするタイプではありませんでした。

それから、高校も同じ男子校に進んで「女っ気の無い」3年間を過ごし、結果的には大学も同じということになるのですが、私は法学部(女っ気無し)、彼は浪人して商学部(女っ気有り)でしたので、この辺から進む道が分かれてきたような気がします。先に大学を出た私は、とうに法律家になる夢など忘れており、結局「芸術家の血を一銭の金に換えることもなく」公務の仕事に落ち延びました。一方、彼は、弁護士事務所から議員秘書などに転職して「バッヂの付く仕事」へ の志望を捨てていなかったようです。結局、お父さんが亡くなったのを契機に地元の企業に勤め、今では同窓会の幹事を率先してやってくれていますが、その幹事ぶりや挨拶からすると、まだまだ小さな町の議員さんぐらいは狙っているのかもしれません。

今では、5年に一度の同窓会で会う程度の付き合いですが、「まだ・・・」がある彼と、「もう・・・」しかない私が、集まったオバチャンの人気を二分していることだけは、当時とさして変わっていません。(^_^)v人生、ソウルメイトのようなライバルがいるというのは、張りがあっていいですね。

今月は、薫と匂君が宇治の山河を舞台に繰り広げる物語「宇治源氏香」(うじげんじこう)をご紹介いたしましょう。

 「宇治源氏香」は、「聞香秘録」の『拾遺聞香撰(中)』に掲載のある組香です。この組香は他の香書には類例を見ない珍しいものですが、同じ「聞香秘録」の『香道萩のしほり(下)』に「源氏宇治山香」という組香があります。これらの組香は、組香名に多少の 差異があるものの要素名や聞の名目によって表わそうとしている景色は非常に似通っていますので、どちらかが派生した組香であると考えられます。ここで、「源氏宇治山香」について、若干ご紹介いたしましょう。

1. 要素名は「桜」と「紅葉」を各6包用意し、そのうち各1包を試香として焚き出します。
2. 本香は、残った「桜」と「紅葉」の各5包を打ち交ぜ、「二*柱開」で5組を焚き出します。(計10炉)
3. 聞の名目は、2炉の組み合わせによって「桜」「紅葉」「霞」「霧」が用意され4種の札を打って答えます。

 因みに、こちらの組香では、各自の席中での仮名を示す香札の表に、「橋姫」から「(夢のない)浮橋」まで「宇治十帖」の巻名が記載されており、これが、唯一「源氏物語」に因む組香であることを示しています。連衆も小記録を見た時点では、なぜ「源氏」なのかわからない組香ですが、香札が廻されて「おやっ。」と気づき、香記が記載されて、初めて宇治の景色と源氏物語が結びつくようになっています。
 この組香も、景色としてはなかなか乙なのですが、登場人物が不在というところに物足りなさも感じます。やはり、「宇治十帖」には、主役である薫や匂宮は不可欠とも思われますので、今回は、薫や匂宮の登場する『拾遺聞香撰(中)』を出典として書き進めたいと思います。

 まず、この組香に証歌はありません。この組香は、題号に「宇治源氏」と銘打って、初めから「宇治十帖」に因んだものであることを示しています。典拠となる「宇治十帖」には、それぞれの物語があり、その場面で折に触れて歌が詠まれています(「手習」と「夢浮橋」以外には帖名を詠み込んだ歌もあります。)ので、これらを象徴する和歌一首を選定することは非常に難しいと思います。かえって、証歌を付さず「宇治十帖」の物語全体を網羅するような抽象的な背景を醸し出し、その中で連衆が、思い思いに物語の場面を連想する方が、組香の世界が広がるでしょう。

 ここで、組香の説明に入る前に、この組香の舞台となる「宇治十帖」のあらすじをご紹介し、「薫」と「匂宮」の関係についてイメージすることといたしましょう。

[宇治十帖について]
 まず、『源氏物語』は、第一部「1.桐壺〜33.藤裏葉」、第二部「34.若菜〜41.幻」、第三部「42.匂兵部卿〜54.夢浮橋」の三部構成となっているという説が有力であり、光源氏が主人公となっている第一部、第二部を「正編」、光源氏の息子である薫が主人公となっている第三部を「続編」と呼んでいます。そのうち、第三部は全13帖から成っており、最初の3帖「匂宮・紅梅・竹河」(一名『匂宮三帖』)を除く、後の10帖、「橋姫、椎本、総角、早蕨、宿木、東屋、浮舟、蜻蛉、手習、夢浮橋」が『宇治十帖』と呼ばれています。
  『宇治十帖』は、光源氏の没後の話であり、今上帝と中宮(明石姫君)の間に生まれた皇子三宮である「匂宮」と、光源氏(実は柏木)と女三宮の間に生まれた「薫」がメインキャストです。「薫」は、幼いときに聞いた自分の出生の噂がトラウマとなり、社会的地位が約束されているにもかかわらず出世にも恋愛にも関心なく暮らしていました。特に美しい容貌というわけではないのですが、「不思議なまでに素晴らしい香り」を放っていたとのことです。一方、「匂宮」は容貌の面で優れており、少々浮気者で積極的な性格でした。競争心も強く、香りに関しては薫に負けまいと、特に優れた香を焚き染めていたようです。二人は、「光源氏」と「頭中将」のように良きライバルとして、お互いに好意を持っており、この対照的な性格がそれぞれに絡み合って、物語を織り成しています。

[各帖のあらすじ]
  宇治十帖は、自分の出生に疑問を抱く「薫」が、光源氏の異母弟である「八の宮」に会うべく宇治山の山荘を訪れるところから始まります。ある日、薫は2人の美しい姫君(大君と中君)が琵琶と琴を合奏しているのを垣間見、「匂宮」にその話をして興味を抱かせます。再び宇治を訪れた薫は、八の宮に仕える老侍女から、自分が柏木と女三宮(おんなさんのみや)との間に生まれた不義の子であることを知らされます。(橋姫)
 匂宮は、話に聞いた宇治の姫君達が気になったので、薫と連れ立って八の宮の山荘を訪れ、中君(妹)と文を交わすようになります。それからしばらくして、薫が山荘を訪れると八の宮は「姫君達の後見人になってほしい」と言い残し、娘には「皇族の誇りを失わず、軽々しく男性になびかず、この宇治を決して離れることのないように」と言い残して亡くなります。薫は、山荘を訪れる度に大君(姉)への想いを強くしていきます。(椎本)
 薫は大君に想いを訴えますが、父の遺言通りに一人身を通すつもりでいた大君は、中君との結婚を勧めます。一方、薫は「匂宮と中君が結ばれれば、大君の気持ちも傾く」と考え、2人を密かに会わせます。契りを交わしたのは良いものの、皇子である匂宮は、おいそれと宇治に出向くこともままならず、匂宮を待ち偲ぶ中君の姿に心を痛めた大君は病に伏し、これに匂宮と「六の君」(ろくのきみ)との婚約の噂が止めを刺します。薫は献身的に看護し、最後には大君の心を得たのも束の間、ほどなくして大君は息を引き取ります。(総角)
 父に続いて姉も失ってしまった中君は、宇治で寂しい日々を送ります。春になると父の仏道の師だった阿闍梨から例年通り、蕨や土筆が届けられ涙を流します。やがて、中君は匂宮から二条院に迎えられることになり、幸せな暮らしを送ります。匂宮に大事にされている中君を見て、薫は喜ぶのですが、2人の仲を匂宮が疑うので、中君も心苦しく思うのでした。(早蕨)
 匂宮は一時中止となっていた六の君と結婚し、次第に華やかで美しい六の君に心を惹かれて中君のもとを離れるようになります。そんな中君を同情するうちに、薫は心を寄せて言い寄りますが、既に、匂宮の子を宿していた中君は薫の気持ちをそらすために、亡き大君に似た異母妹の「浮舟」がいることを伝えます。翌年、中君は世継ぎの男の子を出産し、二条院での立場が安定します。(宿木)
 浮舟の母は、昔「八の宮」の女房でしたが身分が低いために浮舟を娘だと認めてもらえず、常陸介という受領の後添えになっていました。薫は浮舟を迎えたいと申し出ますが、母は浮舟に言い寄る男も多く、身分のことも気掛りでためらっています。ある日、中君を頼って行った二条院で、匂宮が浮舟を見初めてすかさずに言い寄ったことを知ると、母は浮舟を三条の小家に移してしまいます。消息を聞いた薫は、浮舟を探し出して宇治に移しますが、その道すがら、彼女の中に亡き大君の面影を見ていたのでした。(東屋)
 浮舟のことが忘れられずにいた匂宮は、中君のもとに届いた文を見て居所を知ります。忍び姿で宇治を訪れた匂宮は、薫を装い浮舟と強引に契りを結びます。浮舟は重大な過ちに嘆きますが、匂宮の一途な想いに惹かれ、小舟で宇治川へ漕ぎ出し小島で歌を詠み交わし、至福の時を得ます。  
 その後、薫と匂宮がほぼ同時に浮舟を都に迎える意思を示したことで、浮舟の心は苦しみにあえぐばかりでした。ある日、とうとう薫と匂宮の文使いが鉢合わせになり、浮舟の秘密は知られてしまいます。こうして2人の板挟みになってしまった浮舟は人知れず宇治の山荘を去ります。(浮舟)
 翌日、宇治の山荘では、浮舟の姿が見えないので大騒ぎになっていました。真相を知った母は、嘆き悲しみましたが、噂が広がる前にと、その夜のうちに形ばかりの葬儀を済ませてしまいます。薫と匂宮は、それぞれ浮舟の侍女から 「自殺した」と聞き、悔やみ悲しみました。薫は宇治山の阿闍梨に命じて、浮舟の四十九日の法要を盛大に執り行わせたのでした。(蜻蛉)
 その頃、宇治の川で自殺を図ろうとした浮舟は、横川の僧都に助けられ、妹尼から実の娘のように手厚い看護を受けていました。しかし、浮舟は死にきれなかったことを悔やみ、僧都に懇願して出家してしまいます。翌春、浮舟のことは宮中に上がった僧都から中宮に語られ、やがて法要を準備していた薫の耳にも入りました。(手習)
 横川の僧都に会って、詳しい経緯を聞いた薫は、浮舟が生きているだけで夢のような心地でした。その様子を見て、僧都は早まって浮舟を出家させたことを後悔します。薫は浮舟へ復縁を求め、僧都は還俗を勧める文を浮舟の弟の小君に託し、小野に遣わしました。弟の姿を見た浮舟は、「人違いだ」と告げるよう尼君に懇願して取り合わず、最後には「昔のことは何も心に浮かばず、ただ夢のようで、確かな記憶もありません。」と返しました。薫は 、期待が外れて「かえって遣らないほうがましだった」と思う一方、自分がかつてしたように浮舟を「誰かが隠し置いているのだろうか?」と思ったのでした。(夢浮橋)

 次に、この組香の要素名は、「桜」「紅葉」と「匂」の3種となっています。「桜」「紅葉」は、都から少し離れた自然豊かな地域と一年の時の経過(春秋)を連想させる要素です。また、要素名の「匂」は、この時点では、単に「香り」という意味にも用いられており、この3つの要素で「桜の匂い」や「紅葉の匂い」という香的な景色を醸し出すものとして最初から「匂宮」を端的に示すものではないことを理解しておきましょう。このような景色の解釈でしたら、舞台は「嵯峨野」でも「嵐山」でも良いのですが、客香である「匂」が「匂宮」を暗示しますので、これよって見識ある香人のイメージを組香の舞台である「宇治」に引き寄せているというわけです。
 ここで、疑問に思うことは、『宇治十帖』の主役である「薫」がどうして要素名にないのか?ということでしょう。これは、おそらく「薫」の厭世的で控えめな性格からして、最初から顔を見せずに、後から奥ゆかしく登場するのが相応しいからではないかと思います。一方、「匂宮」は積極的で目立ちたがり屋の皇子ですから、最初から頭だけ出して「ワシはココにいる」と自己主張してしかるべきでしょう。要素名の配置も2人の性格を良く理解した上でなされていることに感心します。

 続いて、この組香の構造は、「桜」と「紅葉」を各4包作り、そのうち各1包を試香として焚き出し、組香の背景を形成します。「宇治の山河」を連衆がイメージできたところで、残った地の香である「桜(3包)」と「紅葉(3包)」に客香である「匂(2包)」を加えて本香が焚き出されます。
 ここで、この組香の特徴は、「二段階の結び置き」があるところです。出典では「本香八包の内、桜・桜と結合、紅葉・紅葉と結あわせ、残る桜壱包、紅葉壱包、匂二包、此の四包交合、弐包づつ結合、以上四結に成し置く」とあります。つまり、普通の「結び置き」では、あらかじめ全部の要素を打ち混ぜて「ランダムな組」を作るか、全部の要素の組合せを指定して「固定の組」を作るという手法のどちらかを用いますが、この組香では、まず、「桜・桜」「紅葉・紅葉」が必ず出るように4香を「指定して」2組に結び置き、次に、残った4香を「打ち混ぜて」ランダムな2組を結び置きにするという折衷法を用いています。こうしてできた4組をもう一度打ち交ぜて、本香は「2*柱開き」で2包×4組=8包を焚き出します。

 さて、この組香では、回答に「香札」(こうふだ)を使用することが指定されています。札表(ふだおもて:名乗面)は、出典に「山吹の野、ウカヒ舟(鵜飼舟)、アシロ木(網代木)、水車、柴舟、小嶋の磯、テツクリ(?)、橋姫、サワラヒ(早蕨)、手習」の十種が列挙されています。これらの言葉について典拠を調べましたが、「宇治十帖」の巻名の引用以外は、どれも「それらしい」言葉にもかかわらず物語には登場していませんでした。(たとえば、「小嶋」は「浮舟」の帖で、匂宮と中君が逢い引きする「橘の小嶋」が登場しますが、宇治川の島なので「磯」ではありません。)連衆は、席中の名乗として、これらの1つを割り振られますが、どちらかと言えば「源氏宇治山香」の名乗(「宇治十帖」の巻名)を用いる方が、しっくりするような気がします。
 また、札裏(ふだうら:回答面)には、「桜(1枚)」、「紅葉(1枚)」、「霞(1枚)」、「霧(1枚)」、「匂(1枚)」と「薫(2枚)」が記されており、1人前7枚が1セットが配られることになっています。

 本香が廻りはじめましたら、連衆は2炉ごとに聞の名目に見合わせて香札を1枚打って回答します。香の出と札裏に書かれた聞の名目の関係は次のとおりです。
香の出 聞の名目(札裏)
 桜・桜
 紅葉・紅葉 紅葉
 桜・紅葉
 紅葉・桜
 匂・匂  匂宮
 匂と桜または紅葉の組合せ(順不同)

 以上のように、各要素の組合せによって配置されていますが、「桜」と「紅葉」は前述の指定結び置きによって「必ず出現する名目」です。これについては、要素名そのものが答えとなり、「桜」は春や「紅葉」は秋を表わす景色となります。
 残る「桜(1包)」「紅葉(1包)」「匂(2包)」の3種4香はランダムに組み合わせですので「桜・紅葉」、「紅葉・桜」、「匂・匂」、「桜・匂」、「紅葉・匂」、「桜・匂」、「紅葉・匂」の8パターンの出目があります。
 そのうち「桜・紅葉」は、桜が上なので春が優勢となり、「霞」という名目で春の宇治の景色を彩ります。同じく、「紅葉・桜」では秋が優勢となり「霧」という秋景色になります。
 また、客香同士の組合せである「匂・匂」は、2つ重なることによって、単なる「香的風景」や「暗示」から、晴れて「匂宮」という登場人物に昇華することとなります。
 一方、「桜・匂」、「紅葉・匂」、「桜・匂」、「紅葉・匂」といった匂を1つ含む全ての組合せは、全て「薫」と答えることになっているところが、この組香の特筆すべき趣向となっています。宇治十帖の主役である「薫」は、自分自身が得も言われぬ香気を放っていますから、宇治のどの季節の風景と「匂」が交わっても「薫」となるということでしょう。
 ここで、「薫」と「匂宮」の関係を、香の出を確率で計算すれば、「薫」の出る確率は1/2、「匂宮」は1/8となり、香記に出現する確率は「薫」 の方が高くなります。ここでも物語の主役である「薫」が本番の舞台で現れやすい工夫がされています。また、「薫」が出る時は、必ず「紅葉」と「桜」の要素を1つずつ使ってしまうので「霞」や「霧」が出ることはなく、その際に「匂」も2つ使ってしまうので「匂宮」は出られず、「薫」が2つ出現します。
 例:「紅葉」「桜」「薫」「薫」

 一方、「匂宮」が出れば、それだけで「匂」を2つ使ってしまうので、他は「霞」か「霧」となり、「薫」は出られません。
 例1:「紅葉」「桜」「霧」「匂宮」、例2:「紅葉」「桜」「霞」「匂宮」

 このように「両者が絶対に併存しない」という香の出の工夫が、「薫」と「匂宮」のライバル関係、引いては「浮舟」との恋の鞘当てを物語っているように思えるところが、この組香の秀逸なところです。この組香では、客香である「匂」が、実は香が焚かれるまでの傀儡であり、真の主役は香記に記されて初めてわかるように作られています。これを『源氏物語』に重ね合わせると、高い身分のため宇治通いも思うに任せない「匂宮」が、桜・紅葉の舞い散る宇治を舞台に「薫」と主役を競って、主役争いを挑んでいるようにも思えます。

 この組香の記録は、出典に特段の記載はありませんが、「宇治源氏香之記」の記載例でその概要を知ることができます。おそらく「二*柱開」の記録法に則れば、2炉ごとに連衆の打った札の名目を全て香記に書き記し、香元が正解を宣言した後に、香の出の欄に「紅葉 紅葉」などと並記し、それに見合った回答の右肩に 合点を掛けるという形かと思います。(これを4回繰り返します。)また、今回の組香は「宇治源氏香」と名前が長いのですが、「題号は奇数文字とする」というのが習いなので、「宇治源氏香之記」と7文字で記すことも心掛けておきましょう。

 点数は、名目1つの当たりについて1点と換算し、香の出の順番が当たっていれば要素ごとに当たりを認める「片当り」のルールはありませんので、4点満点となります。下附も特に無く、漢数字で点数を記載するのみで、全問正解の場合も「四」と記載、「皆」や「全」等を用いません。
 最後に、勝負は常の如く、最高得点の上席の方の勝ちとなります。

 皆さんも「源氏物語千年紀」の名残に、宇治の山河に現れる主人公が「薫」となるか「匂宮」となるか、「宇治源氏香」を催してみてはいかがでしょうか?

あれから40年以上・・・

「親友の母同士」として付き合い始めた実家の母たちが、

お互いを「ちゃん」付けで呼び合うような親友になっているもの「人の縁」だなぁと感じます。

 

組香の解釈は、香席の景色を見渡すための一助に過ぎません。

最も尊重されるものは、皆さん自身が自由に思い浮かべる「心の風景」です。

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