八月の組香

説明: C:\Users\和裕\Documents\01_香筵雅遊\monthry97-10\10monthly8\koto.gif説明: C:\Users\和裕\Documents\01_香筵雅遊\monthry97-10\10monthly8\hana.gif説明: C:\Users\和裕\Documents\01_香筵雅遊\monthry97-10\10monthly8\tokonatukozu.gif

『源氏物語』の「常夏」の帖をモチーフにした組香です。

本香の最後に「名残の一*柱」のあるところが特徴です。

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※ このコラムではフォントがないため「説明: C:\Users\和裕\Documents\01_香筵雅遊\monthry97-10\10monthly8\chuu.gif」を「*柱」と表記しています。

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説明

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  1. 香木は、3種用意します。

  2. 要素名は、「白」「赤」と「紫」です。

  3. 香名と木所は、景色のために書きましたので、季節や組香の趣旨に因んだものを自由に組んでください。

  4. まず、「白」と「赤」のうち、各1包試香として焚き出します。(計2包)

  5.  「白」「赤」各3包に「紫」 3包を加えて打ち交ぜ、2包ずつ4組に「結び置き」し、1包は最後に添えます。2×4+1=9包)

  6. 本香は、結びを順次解きながら9炉廻ります。

  7. 連衆は「初炉から8炉目」までは、2炉ごとに「聞の名目(ききのみょうもく)」に見合わせて、答えを4つメモしておきます。

  8. 最後の1*柱(9炉目)は、「名残(なごり)」として聞きます。

  9. 連衆は、これについてのみ要素名で答えます。

  10. 答えは、4つの名目と1つの要素名の計5つを名乗紙に書き記して提出します。

  11. 執筆は、香記の回答欄に各自の記した4つの名目を書き写します。

  12. 香元は、正解を宣言します。

  13. この組香には、「客香」「名残」「独聞」のそれぞれについて加点要素があり、さらに間違いについても「減点要素」があります。(以下、委細後述)

  14. 執筆は、正解の名目に所定の「点」と「露」を付します。

  15. さらに「名残」の正解者には「紅梅大臣(こうばいのおとど)」と書き記して所定の点を付し、不正解者は要素名をそのまま書き記して露を付します。

  16. 点数は、各自の得点と失点を差し引いて決定します。

  17. 下附は、全問正解を「皆」と書き記し、その他は点数で書き記します。

  18. 勝負は、得点数の多い方のうち、上席の方が勝ちとなります。

 

  黄昏時の空は千変万化で見飽きることがありません。

最近、「オヤノコト」という5文字のカタカナに対する関心が、産業界の間でにわかに高まっているようです。同居できない(したがらない)親のために家事代行サービスを定期的に派遣したり、介護者付きの旅行をプレゼントしたり、引いてはスープの冷めない距離に自宅引っ越したりというものもあるようです。今までは、親から子・孫へ財の流れる「シニア市場」が主役でしたが、これからは30代半ばから50代の子供が高齢となった親のために消費行動を起こす「親孝行市場」が日本経済を牽引していくかもしれません。

この中で先鞭をつけたのが親が死ぬまでにやっておきたい55のこと親孝行実行委員会 泰文堂)という本で、テレビ放映後、爆発的に売れています。そこで、私は、本に掲載された55の項目にしたがって、自分の「親孝行度」を成績表にして見ました。アンケートの基礎になっている世代が若いためか、「ディズニーランドに連れて行ってあげる」とか、既に 双方にとって「ご容赦願いたい」というような項目もありましたが、55項目中「実行済み」だったものが、「45項目」とまぁまぁ良い成績でした。「×」のついたものには「親の初恋を聞く」「親の結婚記念日をお祝いする」等がありました。特殊な事情はあったにせよ「親の結婚記念日を知らない」という事実には今更ながら驚きましたが、まだまだ会話の時間は残されているので「親に聞いておきたいこと」は全て「○」にしたいと思っています。

一方、盆と正月に孫も連れないで顔を見せるだけ数年前の私でしたから情けない結果になったことだろうと思います。 母が大病で入院することは今までにも数回ありましたが、恐ろしいほどの回復力で退院すればまた元通りに戻るのが当たり前でした。これに転機が訪れたのは3年前の大動脈瘤の手術だったと思います。80歳を超えての大手術ということで、ある意味「死」の可能性を意識した彼女は、身辺整理をし、思い出の場所に行き、先祖のことなどを口傳するようになりました。私は、「お互い心残りのないように」と実家に帰っては、家の手伝いやら小旅行やら、母と二人の思い出づくりに励みました。そして、今思えば、点滴をぶら下げて手術室の扉の前で飛び 跳ねて孫たちにおどけて見せた彼女の姿がバイタルレベルのピークだったのかも知れないと思っています。

その年の冬からは、何かと息子の出番が多くなり、実家を訪れる回数も増えましたが、無理して気丈に振舞っていたのはわかりました。気丈な彼女が息子の前で初めて弱みを見せたのは、昨年の年末、そして程なく正月に脳梗塞で倒れてからは所謂「斑」状態となり、お決まりの転院を繰り返し5月には介護福祉施設に入居して一段落ついたというわけです。同居していたわりに母とは疎遠だった姉も今では介護の主力となり、昔どおりの家族3人で、日に日に右肩下がりになっていく母の意識レベルを甘受しつつ、穏やかな付き合いをしています。

このようなことがあってから、私は「人間やるべきことはやらなければ成仏できない。」ということを痛感しました。子供が親への恩返しなければ、天は「するように」仕向けますし、親が子供や周囲への感謝が足りなければ、これも「するように」仕向けるのではないか思えるのです。一般的に言えば「その場 でやり残したことがあれば、なかなかその場から離れられない」というのも天意かもしれません。人生が膠着した時、「何かやり残していることはないか?」考えてみることをお薦めします。

現代の家庭は、大昔に言われた「断絶の時代」がシステムとして定着してしまったような感がありますので、親子関係の「やり残し」はたくさん堆積するのだろうと思います。その発露が「介護」という形態をとらざるを得ないとすれば、双方にとって辛く悲しいことですので、せめて「何もなくても電話する」や「何もなくても顔を見せる」から初めてみてはいかがでしょうか。私は、親が死ぬまでにやっておきたい55のこと』の成績表に自分なりのコメントをつけた手紙を母に見せてみようと思います。さて、昔のように褒めてくれるでしょうか?

 今月は、実父と養父との狭間で翻弄されなからも女として幸せな人生を送る玉蔓の物語「常夏香」(とこなつこう)をご紹介いたしましょう。

 「常夏香」は、『香道蘭之園(八巻)』の中で『源氏物語』に由来する「光源氏千種香の上」に掲載のある組香です。私の知る限り同名異組は見当たらず、『香道蘭之園』が編纂された際に創作されたオリジナルと見ていいかと思いますが、その記述内容には、未整備や矛盾が多く、読み解くのには大変苦労させられました。そこで、今回は、『香道蘭之園』を出典としつつ、多くの私見を盛り込みながら書き進めたいと思います。

 ここで「常夏」とは、秋の七草の「撫子(ナデシコ)」のことです。ナデシコは、草丈約50cmの多年草で山野に自生し、花が夏から秋にかけて咲き続けるため「常夏」と呼ばれるようになりました。中国では古くから園芸品種としてセキチク(唐撫子)が栽培されており、これが、平安時代の日本に渡来して以来、在来種であるヤマトナデシコと自然交雑したため現在では多数の品種が自生しています。 文学では、「撫でし子」と語意が通じることから、しばしば子供や女性にたとえられ「やまとなでしこ」は日本女性の代名詞となっています。中古から和歌などに多く読めこまれていますが、『源氏物語』でも「盛夏」に六條院(西の対)の前栽に色とりどりの「撫子」植えらていた様子と「玉鬘」の清楚で可憐なイメージをあわせて「常夏」の帖が綴られています。

 まず、この組香の証歌ですが、出典に「撫子のとこになつかしき色を見もとの垣根を人や尋ね山賤の垣ほに生ひし撫子のもとの根ざしを誰れか尋ね」の2首が掲げられています。これらの歌は、『源氏物語』第26帖「常夏」の中で、実父である内大臣に内緒で六条院西の対に預かっていた「玉鬘」を夕涼みがてらに訪問した際の語らいで、光源氏が撫子の花の色のようにいつ見ても美しいあなたを見ると母親(夕顔)の行く方を人(内大臣)は尋ねられることだろうなと詠じたところ、玉鬘は泣きながら「筑紫の田舎の賤しい垣根に生えた撫子のようなですもの母親のことなど誰が尋ねたりしましょうかと奥ゆかしく歌を返し、光源氏は一層愛おしさを募らせるという場面に登場します。このように、この組香は「常夏」の帖を舞台に養父の養女に対する微妙な恋」の芽生えを物語る代表的なシーンを主景としています。なお、出典では玉鬘の返歌について「山がつの根は・・・」と記述があり、このため「聞の名目」も「山がつの垣根」との記述がありますが、『源氏物語』の本文から誤読と判断して「山賤の垣ほに・・・」の表記に書き改めています。

 ここで、この組香の舞台となる「常夏」のあらすじをご紹介しておきましょう。

 『源氏物語』第26帖は、光光源氏の36歳盛夏、太政大臣時代の物語です。

 [第一章 養父と養女の許されぬ恋物語]

 たいそう暑い日、六条院の東の釣殿で光光源氏は、息子の中将(夕霧)や親しい殿上人らと涼んでいました。退屈で眠かったところに内大臣(元:頭中将)の子息たちが訪ねて来ましたので、ひとしきり酒宴で盛り上がりましたが、また退屈になって皆かしこまってしまいました。

光源氏は「このごろ内大臣が他所でお生まれになったお嬢さんを引き取って大事に育てておいでになるということを聞きましたが本当ですか?」と弁少将(べんのしょうしょう)に問いかけ、「近江の君」の評判を聞きました。出来の悪い娘を迎えて失望している内大臣の話を聞いて、光源氏は自分が隠して預かっている彼の娘「玉鬘」を突然見せたら、彼の喜びは計り知れないのだろうなと思うのでした。

 夕暮れになって、光源氏は、玉鬘の住まう西の対に訪れ、見送りに付いて来た公達の姿を玉鬘に見せようとして外に誘いました。前庭には美しい色をした唐撫子や大和撫子など殊に優秀な撫子はかりを選んで、植えてあるのが夕映えに光って見えました。夜となり、月も無いので篝火を焚かせ、光源氏は和琴を爪弾きながら「やまと琴」について語ります。玉鬘は光源氏の琴の音に耳を傾け、少しでも良く聞こうと膝行寄って行きます。光源氏は、琴を置き「なでしこの・・・」と詠い、玉鬘は涙を流して「山賎の・・・」と返しました。光源氏は、ますます心惹かれ、苦しいほどに恋しくなりました。

 その後、光源氏の西の対への訪問は続き、恋しさも募って「今のまま自分の手元へ置いて誰かと結婚させた上で自分の恋人にもしておこう」なとど不埒な思いつきも芽生え始めました。

 一方、内大臣は、「光源氏の所には非の打ち所の無い娘が居る」と弁少将から評判を聞き、「噂にもならない外腹にそのような才媛が生まれることはない。きっと実子ではないのでは」と自分の娘とは知らずに玉鬘のことを貶していました。

 そのような噂を聞くにつれ、内大臣は夕霧との間を引き裂いてしまった不遇の娘「雲井の雁」を思い出して彼女を訪ね、厳格な父親らしくなだめたり、諭したりしました。雲井の雁は、夕霧との騒ぎのあった時ですら平気で父に対していたあさはかな自分を思い出すだけで胸がふさがるのでした。

 [第二章 近江の君の物語]

 大臣は北の対に住まわせてある近江の君をどうすればよいか悩んでいましたので、懇意の女御に、「近江の君を仕込んで欲しい」と頼みます。内大臣はこのことを近江の君に伝え彼女も即座に快諾します。女御の所へ行こうと思い立った近江の君は、あらかじめ女御あてに手紙を書き撫子の花につけて童女を遣わしましたが、女御たちは、あまりの体裁の悪さに「新しい手紙の書き方ですね。」と苦笑し、中納言が替わって「常陸なる駿河の海の須磨の浦に波立ち出でよ筥崎の松」と返事を書きました。それを見た近江の君は「松(待つ)とあるのだから・・・」と早速支度をはじめ、甘い香りの薫香を何度も着物に焚き込みました。紅も赤々とつけて、髪をきれいになでつけた姿にはにぎやかな愛嬌がありました。・・・が、これでは女御との対面が思いやられます。

 このように帖の後半では、入内計画の失敗で不遇に見舞われた「雲井の雁」と、引き取られたものの結果的に「玉鬘」の引き立て役になってしまう「近江の君」について記述し、内大臣の3人の娘たちを対比させていますが、こちらは、組香の景色に影響を及ぼすものではないと考えています。

 次に、この組香の要素名は、「白」「赤」と「紫」となっています。これは、即ち「撫子の花の色」を表すものと考えていいでしょう。香記には聞の名目が記載されまずか、そこから連想される3色の撫子を「西の対」の庭のごとく散りばめる趣向なのではないかと思います。 一方、『源氏物語』を題材にした多くの組香と同様、「要素名がその帖の登場人物を暗示している」という解釈を避けて通るわけには行きません。そこで以下のとおり考えをめぐらしてみました。

 要素名の「色」が表す登場人物を確定するに当たっては、要素名の組合せが導き出す「聞の名目」の景色との符合も不可欠です。実はこの解釈に苦慮したため、2年前の「源氏物語千年紀」の夏には掲載を断念した経緯があります。当初の私は、要素名と登場人物の暗示に気を取られすぎて、「白」「赤」「紫」が撫子の花の色だということすら気づきませんでした。そんな私がまた盛夏を向かえ、ふと「花の色」に気づいたため、「常夏」の情景からして既に月遅れとは承知しつつも、ご紹介に至ったというわけです。

 私が登場人物の割付けなど考えなければ、「白」「赤」「紫」は、香記の上に「撫子の花」として咲き揃い、聞の名目の景色も「色の組合せ」と「証歌の句」「順番」に割り振って、「常夏」の帖の物語を彷彿とさせるように演出しただけというのが、「真の作意」なのかも知れません。私は今回「解釈が物事を複雑にする。」「そのために本質が見えづらくなる。」という戒めを実感しつつ、このコラムを書き綴っているわけですので、「正当」のご判断は読者の方に委ねます。

 続いて、この組香の香種は3種となっています。香組の際には、要素名と香気のイメージが直結している方が聞き手にとっては分かりやすくなりますので、まずは「色」のイメージに従って香気を選ぶべきかと思います。源氏物語に因む組香の場合、登場人物を香気で表すという楽しみも捨てがたいため、「どうしても玄人好みにしたい。」という好事家は、自分の受けた暗示に基づいて登場人物の人物像を表す香気で組むのもよろしいかと思います。 「常夏」の帖に登場を連想させる人物は、ざっと数えても10名は超えますが、歌詠みを交わすシーンに限定すれば、現実に存在するのは「光源氏」と「玉蔓」、2人の思いの中にいるのは「内大臣」と「夕顔」ですから4名です。さらに、証歌の景色のみに限定すれば「光源氏」は登場しませんので3名となり、香種と符合することとなります。

 さて、この組香の構造は、「白(4包)」「赤(4包)」と「紫(3包)」を用意し、試香として「白」と「赤」の各1包を焚き出します。 我が仮説を用いれば、試香は、光源氏の目前に2色の撫子を咲かせることによって、傍に居るがまだ自分の色に染まっていない「玉鬘」と若かりし頃に逢瀬を重ねた亡き「夕顔」を思い出させているのではないかと思います。試香が終わると本香数は3種×3香=9包となり、「紫」が「内大臣」であるとすれば、親子3人のトライアングル・バランスが取れていることになります。

 本香について、出典には「此の九包打合、二包づつ結び、二*柱聞きなり」とあり、は打ち交ぜた後、2包ずつ4組に「結び置き」することを規定しています。本香数が奇数なので、当然1包の余りが生じますが、これは最後に添えておきます。香包の用意ができたら、香元は挨拶し、最初の「組」の結びを解いて「2包」を焚き始め、その後も「組」ごとに焚き進めます。この組香は、「二*とされているので、連衆は「最初の8炉は、2炉ごとに1つの答えを導き出す」こととなります。最初の「組」が焚き出されたら、連衆は香を「2炉ごと」に聞の名目と見合わせて、答えを1つメモしておき、以降、第4組までは同じように聞きます。

 因みに、「二*(にちゅうぎき)」の記述は、即ち「二*(にちゅうびらき)」と捉えることのできる組香もあるのですが、出典には「二*」に必要な香札の使用や所作について一切記載されていませんので、ここでは、香札を使わず2炉毎に正解を宣言しない「後開き」方式をご紹介しています。

 この組香に用意された「聞の名目」は以下の通りです。

香の出と聞の名目

香の出

聞の名目

人物との対応(私見)

白・赤

とこなつかしき

玉鬘・夕顔

白・紫

元の垣根

玉鬘・内大臣

赤・白

人や尋ねん

夕顔・玉鬘

赤・紫

山賤の垣

夕顔・内大臣

紫・白

もとの根ざし

内大臣・玉鬘

紫・赤

誰か尋ね

内大臣・夕顔

同香(白・白、赤・赤、紫・紫)

なでしこ

玉鬘、夕顔、内大臣

 このように、「聞の名目」は証歌とされた2つ歌の句を配置しています。「なでしこ」は、どちらの歌にも含まれる要素のため同香を当てはめることとし、その他の句は上から順番に配置されているようにも見えます。しかし、物語を主題とした組香では、2つの要素名を組み合わせて1つの答えとすること自体が「登場人物の人間関係」を連想させるところもありますので、やはり「聞の名目」は、「二人の関係」を暗示する景色と考えたいところです。 そこで、付記したのが、こ「人物との対応(私見)」ですが、なんとなく納得できる景色となっているのではないでしょうか?(強いて言えば、夕顔と内大臣は洛中での内縁関係でしたから「山賤」(筑紫)とは2人とも無関係というところが苦しいかもしれません。

 本香を初炉から8炉まで焚き終えると「聞の名目」は4つ導き出され、最後に1包が余ります。出典では「残る一包を紅梅の大臣と名付、名残に一*柱聞く也。」とあります。「名残の一*柱」は、他の組香にも例があり、およそ景色を総括するものとして本香の締めくくりに焚き出されます。最初の8炉(2×4)と最後の1炉(+1)は、構造上は「段組」のようなもので、舞台背景を大きく転換させる意味を持つものと思っていいでしょう。

 ここで、この組香の「最大の疑問」が噴出してきます。

 本香が焚き終わりますと、連衆は名乗紙に聞の名目4つと名残の要素名1つを書き記して提出します。執筆は名乗紙を開き、各自の答えから聞の名目の4つのみを書き写し、最後の1*柱は当否が定まるまで書き写さずにおきます。執筆が正解を請う仕草をしたら香元は香包を開いて本香の出を要素名で宣言します。執筆は、香の出の欄に要素名を9つ書き写します。そこで執筆は、香の出を2炉ごとにまとめて、正解となる聞の名目を定め、各自の答えを見比べて、当たりには名目の右横に後述する点法に従って「点」「露」を付します。次に、執筆は各自の名乗紙を確認し、「名残」の要素名が当たっているものには「紅梅大臣」と香記の回答欄に記載して「点」を掛け、外れた要素名はそのまま回答欄に書き写して「露」を打ちます。

 この組香の点法は、「加点要素」のみならず、「減点要素」もあることが特徴となっています。出典には、「紅梅の大臣をきけば点三、ちがえたるは露三、むらさきをききたるは点二、ちがえたる露一。一人ぎき点二、ちがえたる露一」と記載されており、「ちょっと盛り込みすぎではないか?」と思われるほど複雑です。この記述自体、いざやろうとすると理解に苦しむものなのですが、頼みの綱である出典の「常夏香之記」の記述には「露」の記載がなく、「紫」を含む名目もそうでないものも同じ「2点」が打ってあり、「紅梅大臣」にも加点が見られない等、たくさんの矛盾がありました。そこで、私は出典本文に記載された点法の記述を踏襲するために最も公平な「単純積算法」で解釈することとしました。

 まず、客香である「紫」の当たりは2点の得点となり、外れた場合は1点の減点となります。このように「聞の名目」ではなく「紫」という要素名を得点に反映するということは、要素ごとに出た順番まで考慮して当否を定める「片当り」方式をとることを意味しています。つまり、「白」「赤」の当りは1点、「紫」の当りは2点、「白」と「赤」同士の外れは0点のままとして、「紫」を外した場合のみ「1点減点」するということです。例えば香の出が「白・紫」の場合は、正解は「もとの垣根()」となり、「(1点)」+「(2点)」で計3点となります。また、「山賤の垣(赤・)」ならば、後香の「紫」が当っているので「赤(0点)」+「(2点)」で計2点となります。「なでしこ(紫・)」と答えた場合は、初香の「紫」を外して、後香の「紫」を当てているので「紫(−1点)」+「(2点)」で差し引き1点となります。「とこなつかしき(・赤)」ならば、後香の「紫」を外しているので「(1点)」+「赤(−1点)」で差し引き0点となりますし、「誰か尋ねん(赤・白)」とした人は、何も当っていない上に「紫」を外しているので−1点となります。

 次に、「名残」が当たって「紅梅大臣」となったものは3点の得点となり、外れたものは3点の減点となります。「名残」の要素は1つですので、9炉目に「白」か「赤」で出た場合、当てた人は「+3点」、外した人は「−3点」となります。一方、9炉目に「紫」が出た場合は、「紫」と答えた人は、「紫(2点)」+「名残(3点)」で5点となりますが、例えば「白」と書いて「紫」を外した人は「白(−1点)」+「名残(−3点)」となり、−4点となります。このように、本香の締め括りとなる「名残」は、その当否により成績が大きく左右されるという点で作者が最も重きを置いた構造上のキーポイントであろうと推察されます。

 さらに、この組香では、「独聞」(連衆のうち、唯一その要素を聞き当てた場合)に1点の加点が与えられます。出典の記述は「二人より(平点)を1点として、独聞は1点を加えて都合2点」という意味ですので、例えば香の出が「白・紫」の場合は、「もとの垣根()」の「(1点)」+「(2点)」のどちらかが独聞だった場合は、3点にさらに1点を加えて計4点となり、「白」と「紫」のどちらも独聞だった場合は2点を加えて計5点となります。「山賤の垣(赤・)」の「紫」が独聞ならば「赤(0点)」+「紫(3点)」で3点、「となつかしき(・赤)」も「白」が独聞ならば「白(2点)」+「紫(−1点)」で1点となります。独聞の加点は、5つの答えの「点」「露」を定めた後に、再度「香の出」と見合わせて、独聞となっている要素に「点」を加えていくという作業が単純でよろしいかと思います。

 この組香の記録については、常の如しですが、先ほどの点法の記述にあった「点」「露」についてのみ補足します。「点」と呼ばれる得点は、各自の答えの右側に得点の数だけ「ヽ」のように掛けます。一方、涼しげに「露」と呼ばれる減点は、一般に言われる「星」のことで、各自の答えの左側に「・」を減点の数だけ書き付して示します。その際、 執筆は、一つ一つの答えの「点」「露」を正しく記載することに傾注すべきかと思います。これが正しければ最後の合計は、右側の「点」と左の「露」を縦に合計して差し引きするだけで済むからです。

 最後に、下附は、全問正解は「皆」とします。因みに上記の「単純積算法」で想定される最高得点は、「名残」に「紫」が出た香の出の各要素を全問正解し、その全部が「独聞」だった場合の24点です。その他は各自の「点」と「露」を差し引きして、残った点数を漢数字で「○」と下附します。一般的に減点要素のある組香では「点○」「露○」と2列に並記する場合もありますが、この組香では得失点差で示します。そのため、記載例には示されていませんが、得失点差がマイナスの場合は「露○」と書いて示すこととなると思います。そして、勝負は、最高得点者のうち上席の方の勝ちとなります。

 美しく聡明で向学心のある素直な娘「玉鬘」が、実母の元彼である光源氏にひきとられて六条院で繰り広げる「恋愛未満」の男女のかけひきは、紫式部の真骨頂といったところですね。意に染まぬ略奪婚であっても、本妻との軋轢も無く「髭黒」の家に納まって子を設け、平凡な妻として「安寧の日々」を送ることとなった彼女にとって光源氏と暮らした1年足らずの恋の綱渡りは、波乱万丈ながらも「黄金の日々」として懐かしく思いだされたことでしょう。皆様も「常夏香」で「撫子のようだった自分」を思い出してみませんか?

 

 

本の中には「親の好きなところを10個書き出す」という項目があり、私はこう書きました。

@強いところ、A世話好きなところ、B即断即決なところ

C社交的なところ、Dいつも快活なところ、E自尊心を失わないところ

➆潔癖なところ、G物を大切にするところ、H自然が好きなところ

➉思いのほか長生 きだったところ

皆さんも文字に書き綴ってみると親の実像が見えてくるかもしれませんよ。

田にわたる風が凉しと母唄い車手押しつ来し方想う(921詠)

組香の解釈は、香席の景色を見渡すための一助に過ぎません。

最も尊重されるものは、皆さん自身が自由に思い浮かべる「心の風景」です。

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