七月の組香

夏の宵を涼やかにする夕立の景色をテーマにした組香です。

雨降りの前後が段組みで表現されているところが特徴です。

 

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説明

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  1. 香木は、4種用意します。

  2. 要素名は、「日(ひ)」「雲(くも)」「雨(あめ)」と「雷(かみなり)」です。

  3. 香名と木所は、景色のために書きましたので、季節や組香の趣旨に因んだものを自由に組んでください。

  4.  「日」「雲」「雨」「雷」ともに各3包作ります。(計12包)

  5.  「日」「雲」「雨」のうち各1包を試香として焚き出します。(計3包)

  6. まず、「日」「雲」の各2包を打ち交ぜて、順に焚き出します。(計4包)

  7. 本香A段は、4炉焚き出します。

  8. 続いて、残った「雨」2包と「雷」3包を打ち交ぜて、そのうち2包を任意に引き去ります。(5−2=3包)

  9. 本香B段は、3炉焚き出します。

  10. 答えは、「聞の名目」と見比べて、A段は2炉ごとに2つ、B段は3炉ごとに1つを名乗紙に書き記します。(委細後述)

  11. 点数は、「聞の名目」の当たり1つにつき1点とし、答えの右肩に「長点」を打ちます。

  12. 下附は、当否のパターンによって3種の和歌を書き記します。

  13. 勝負は、最高得点者のうち上席の方の勝ちとなります。

 

打ち水とスイカの縁側が恋しい季節になりました。

 今年の夏は、「スーパークールビズ」が流行語となっています。官公庁では、「省エネルック」時代から続いてきた「ノーネクタイ運動」を平成17年度から「冷房時の室温28℃でも快適に過ごすことのできるライフスタイル」として推進しています。従来は、6月1日から9月30日までを実施期間として「軽易な服装の励行」(クールビズ)のお達し を出ていましたが、電力不足の今年は、5月から「クールビズ」、6月から「スーパークールビズ」の2段階実施となり、さらに終期も10月31日までに延長されています。みちのくでは、初日の6月1日が例年になく冷え込んだ「スーパークールデー」だったので、衣替えどころか「コート着用」で出勤する姿が夕刻のニュースに流れ、かえって奇異に映ったものです。従来の「クールビズ」のドレスコードでは、「ノージャケット&ノーネクタイ」が関の山だったものが、今年の「スーパー・・・」は「穴の開かないジーンズ」や「無地のTシャツ」「サンダル」まで「TPOに応じて・・・OK」となりました。また、テレビ会議などで「やっぱり沖縄は違うなぁ〜」とうらやましく思っていた「かりゆし」や「チノパン」が従来から全国的に許されていたことは、新たな発見でした。

私は、生来「心理的防衛本能」が強いのと「寒がり」のため、背広なしでは「丸腰」のような気がして、長年クールビズには縁がありませんでした。特に、ジャケットの裏地がベチャベチャと腕に引っ付くのも気持ちが悪いので、「背広を着る以上、半袖はナシ」と一蹴していましたが、流石に昨年の猛暑でサマーウールの半袖を買い「ノージャケット&ノーネクタイ」のデビューを果たしました。通常の冷房では、すぐに身体を冷やしてしまう「半袖」も体温調節に気をつければ、それなりに楽で、夏の間は慢性的な肩凝りが無くなったのですから、効果は絶大だったといえましょう。そのような経験から、今年も「カジュアルデー」のつもりで「夏の長袖」を2,3点求めましたが、結局スタンドカラーのシャツばかり・・・いつかは「かりゆし、アロハ」にカンカン帽の「くだけたオヤジ」になりたいとは思いつつ、それには程遠いファッションチョイス となりました。

家計費において「お父さんの服飾費」に対する消費性向が最も劣位に置かれていることは、経済学の常識であり、「お父さんが背広を新調すれば、個人消費は本格的な景気回復」とも言われているところです。今年は、不幸にして震災・原発による電力不足が引き金となり、経済 活動に盤石なストーリーを期待することはできませんが、とりあえず「何着ていこうかな?」とお父さんが紳士服売り場に戻って来て、ワンシーズン分のお金を落として行くだけでも景気の下支えになるのではないかと思います。

震災後、約1ヶ月は誰しも「作業服着用」が当たり前で、ジーンズとジャンパーでの出勤でしたから、役所のドレスコードは一旦消滅しました。するとオヤジさんたちは、日を追うごとに髭を伸ばし、「ライダー」「ロッカー」「芸術家」と、どんどんワイルドな姿になっていきました。おそらくそれが、もともと「自分のなりたかった形」、「なるべき形」への回帰だったのでしょう。その姿や雰囲気がとても自然に思えたものです。そのような中でいち早く、「ネクタイ背広」に戻ってしまった私は、「いったい何になりたかったのかなぁ?」といまだに心の中を探っています。今回の「スーパークールビズ」は、単なる「役所のお達し」が契機なのですが、従来女性には当たり前にあった「職場服選び」が可能となった好機となりました。「あの時」に変われなかったオヤジさんたちも、是非、奥様のお仕着せではなく、洋服屋を徘徊しながら、自分で服を選んで「自分のなりたかった姿」になって欲しいと思います。日本のファッション業界は、自粛ムードから華やかで突飛なランウェイショーの開催が少なくなっていますが、何よりも職場や街が「カラフルになること」が、今はとても大切だと思っています。

今月は、火照った街に降り注ぐ天然の消炎シャワー「白雨香」(ゆうだちこう)をご紹介いたしましょう。

夕立香は、杉本文太郎の『香道』や水原翠香の『茶道と香道』に掲載のある組香です。両書ともその記述内容は、ほぼ同様となっており、目次も「雨乞香」「白雨香」「納涼香」というように「夏の組香」の流れで掲載されておりますので、盛夏に涼を求めるこの季節にふさわしい組香といえましょう。今月は、両書ともかなりシンプルな記述内容のため、その中でも比較的詳しい『香道』を出典、『茶道と香道』を別書として、足りないところは解釈を補いながら書き進めたいと思います。

「白雨」(ゆうだち)とは、雲がうすれて明るい空から降る雨のことを意味し、「はくう」「しらさめ」とも読まれます。また、白い雨ということから雹(ひょう)のことを表す場合もあります。私たちが馴染みつつある都市部の「ゲリラ豪雨」は、風のない日に多く、太陽とビルの放熱等によって熱せられた気団が局地的な上昇気流を作り、雲となって雨を降らせるものです。一方、自然の白雨は、平地から山に向かって吹く「風」が誘因となっています。里で十分に水蒸気を含んだ風が、山に当たって駆け上がると、上昇につれて気圧が低くなるので、体積が膨張して気温が下がり、水蒸気が凝結して雲を作ります。雲ができるとその気団は凝結熱によって周りの空気より暖かくなるので、さらに上昇して晴天にポッカリ突き抜けた積乱雲になります。積乱雲の中では、水滴や氷粒が互いにぶつかり、融合し、大きくなって重さに耐えられなくなったものが雨や雹となって落ちてきます。

因みに雷は、雲の中に溜まった静電気が地表に向けて放出される現象で、軌跡がギザギザになるのは、導電率のよい所を通ろうとして、空気の薄い「気団の隙間」を縫うように走るからです。夏の気象は荒々しいですが、自然が「中庸」に帰すために起こる「かき混ぜ現象」だと思うとエネルギッシュで頼もしくも感じられます。

まず、この組香の要素名は「日」「雲」「雨」と「雷」となっています。皆様も見通しも聞かないほどの「白雨」の景色を思えば、このような 要素名で必要十分と思われることでしょう。また、要素の流れは、時系列的に見て「日」が翳り→「雲」が現れ→「雨」が降り→「雷」が落ちるという風に、夕刻の雷雨に至る天気の流れとなっています。この組香に証歌はありませんが、「白雨香」というストレートな題号とシンプルな要素名から、自ずと組香のテーマが連想できるものとなっています。その上で、後述する「下附」の和歌等が最終的に白雨の景色を補強してくれるようになっています。

次に、この組香の構造は、「日」「雲」「雨」「雷」をすべて4包ずつ作り、「日」「雲」「雨」は1包ずつ試香として焚き出します。この組香では、「雷」が景色の主役であるため、「客香」として試香を出さないこととなっています。出典には「『日』『雲』二包みづつ、即ち四包を打ち交ぜで焚きだし」とあり、最初に「日(2包)」と「雲(2包)」の4包だけを打ち交ぜて、本香A段は4包焚き出します。これは、夏の晴天から白雨に至る「序章」の様子を表すものと思われます。ここでは、「日」と「雲」は同数配置されており、連衆は要素の出によって、「一天にわかにかき曇り・・・」などと雷雨の前の雲行きを味わいながら聞くこととなります。続いて、出典では「残り五包を交ぜ、其の中から手に任せて二包を除いて焚く。」とあり、手元に残った「雨(2包)」と「雷(3包)」の5包を打ち交ぜて、その中から任意に2包引き去り、本香B段は3包焚き出します。こちらは、白雨の「最中」の景色で、引き去りの具合によって雨が強くなったり、雷鳴が多くなったりします。

このように、この組香では、本香がA段で4炉、B段で3炉焚き出されるという「段組形式」を用いており、白雨に至る天気の変化を2つに区切り、「日と雲」、「雨と雷」のように時系列的にそれぞれ味わう趣向となっています。この段組形式がこの組香の第一の特徴と言えましょう。

さて、香が焚き出されますと、連衆は2炉ごとに試香と聞き比べ、あらかじめ配置された「聞の名目」で答えを記載します。

【A段】

日と日・・・「炎天(えんてん) 」 

燃えるように暑い盛夏の空。また、その天気。夏の暑い日ざかりのことです。

雲と日・・・「虹(にじ)」 

雲が晴れて日が差しはじめる雨上がりの風景を表しています。

雲と雲・・・「雲峯(うんぽう)」

夏の空に雲が立ちこめて、峰々のように見える様子を意味しています。

日と雲・・・「曇(くもり)」

日が陰って雲が濃くなっていく風景を表しています。

【B段】

  雷が三つ出れば・・・「霹靂(へきれき)」

 「青天の霹靂」でお馴染みの「かみなり」や「いかずち」のことです。

  雨が二つ出れば・・・「瀑雨(ばくう)」

一般的な国語辞典にはありませんが、「瀑」は「滝」を意味することから、滝のように激しく降り注ぐ雨のことを意味するものだと思います。

  雨が一つでれば・・・「涼風生(りょうふううまる)」

漢文読みで「涼風生る」と読み、白雨の後に涼しい風が吹く清々しい景色を表しています。

このように「聞の名目」は、各要素の分量によって表される景色(天候)が配置されています。

答えについて、本香A段は、「日」「雲」とも試香で聞いたことのある香ですので、2炉ごとに香の出た順番に「聞の名目」と見合わせて、2つの名目を記載します。また、出典には「二*柱開(にちゅうびらき)」や「二*柱聞(にちゅうぎき)」等の明言はされていませんが、ここは「聞の名目」を使用する組香の通例として「二*柱聞」の「後開き」で行うのが順当かと思います。

一方、本香B段は、客香である「雷」が入りますので、「雨」の聞き味を思い出し、「雷」を推定しながら答えることとなります。引き去りの結果によっては「雨」が1炉も出ず、すべてが聞いたことのない「雷」である場合も想定されますので注意しましょう。連衆は試香との異同を確かめて3炉を聞き、香の出の順番に関わらず、要素名の組み合わせのみを考慮した「三*柱聞」で、「聞の名目」を1つ書き記します。つまりは、「雷・雷・」も「雷・・雷」も「・雷・雷」もすべて「涼風生」となります。

そのようにしますと、この組香の答えとなる「聞の名目」は、A段、B段合わせて3つとなりますので、これを名乗紙に書き記して提出します。

ここで、B段の聞の名目について、出典では「雨三でれば 瀑雨」とあり、別書でも「雨三 瀑雨」と記載があります。このことは則ち、B段の3包がすべて雨ならば「雨ザーザー///の景色」で瀑雨を表すということなのでしょうが、構造式をみますと「雨」は3包作り、そのうち1包は試香に出しますので残りは2包しかありません。B段は「雨」2包と「雷」3包を合わせて5包なのですから、「雨」が3包出るわけがありません。この矛盾の解決のためには@「雨」を3包から4包に増加する。A「雨」は試香を出さない。B聞の名目のルールを変えて「雨」2包で「瀑雨」とする。の方法があるわけですが、@は全体香数や本香数に関わる問題なので、大きく組香の景色を変えてしまうこと。Aは客香2種が同数出てしまえば、どちらが「雷」か「雨」かわからなくなってしまうこと。などから、最も影響の少ないBの方法を取ることとしました。こうすることで、「瀑雨」の景色には時折雷鳴も鳴り響くことになりますが、構造に手を加えずに辻褄を合わせることができます。また、出典には「雷雨出れば…涼風生」、別書には「雷雨等分は…涼風生」と記載があります。これは、どちらも「雷と雨が交った時はすべて…涼風生」という意味なのでしょうが、もともと3包のB段に「等分」はあり得ませんので、こちらは、「瀑雨」との兼ね合いから「雨よりもが雷多い場合」と解釈することとしました。すると景色は「激しい雷鳴とともに通り過ぎたにわか雨」のイメージになり、「瀑雨」の湿度よりも雨後の清々しさの方が勝ることとなります。

続いて、本香が焚き終わり、連衆から名乗紙が返って参りましたら、執筆はこれを開き、香記に各自の答えをすべて書き写します。出典には「記録は、夏月香と同様である。」とありますので、これに従って解説します。香元に正解を請い、香元が香包を開いて正解を宣言しましたら、執筆は香の出の欄に要素名をそのまま書き記し、聞の名目を導き出した2つまたは3つの要素を線で結び、正解となる「聞の名目」を3つ定めます。その後、執筆は正解となった「聞の名目」と同じ答えを探し、その右横に合点を掛けます。A段の聞の名目は「要素の出た順」を考慮していますが、B段は「要素の組成数」で配置されていますので、香の出の順を気に留めることはありません。そのため「聞の名目」に含まれる要素ごとに当否を評価する「片当たり」はありませんので、「点」は要素の当たり数分だけ「ヽヽ」などと付すのではなく、「聞の名目」の右横に複数の要素を含んで当たっていることを示す「長点」を引く方式が順当かと思います。

さらに、この組香の下附は、当否の様子によって下記の和歌や俳句(?)が書き記されることとなります。このように下附のみで各自の成績を表し、点数制を採用していないところが、この組香の第二の特徴と言えます。

全當(全問正解)

  日数へし五月雨よりも夕立のただ時の間にまさる川みず

交當(当否交々)

  人みなの暑にまけていふ立のたまさかふるぞ命なりける

皆無(全問不正解)

  けふもまたふらぬか雲の峯ばかり

このように、当たり数が多いほど、歌の景色の水量が増し、得られる「涼」も多くなる趣向となっています。

これらの歌の出典について、全問正解の「日数へし…」は、大膳太夫頼康家にて白雨を」との詞書に続いて、「日かずふる五月雨よりも夕立のただ時の間にまさる川みず(続草庵集167 頓阿)」と掲載されていました。詠み人の頓阿(とんあ )は、正応二年〜応安五年までの人で、俗名を二階堂貞宗と言います。二階堂家は代々鎌倉幕府の執事を務めた家系でしたが、貞宗はに二条為世から「古今伝授」を授けられたとも言われ、慶運・浄弁・兼好と共に為世門下の「和歌四天王」と称せられたということです。出典の『草庵集』は、延文三年頃までの歌を収める彼の自撰家集です。

ただし、交當の「人みなの・・・」と皆無の「けふもまた・・・」については、出典に尋ね当たりませんでした。これについては、読者の皆さんからの情報を求めたいと思います。

最後に、勝負は長点(合点)の多い方のうち、上席の方の勝ちとなります。「全當」ならば、文句なしなのですが、「交當 (こもこ゜もあたり)」の場合は、1当と2当が混在しますので、同じ歌で下附されても、実質的には2当の方を優位にすべきかと思います。

私も尾張に居を移し、本格的な酷暑を味わうこととなりました。皆様も「白雨香」で暑い夏日に「お香のシャワー」を降らせて、涼をとって見てはいかがでしょうか?

 

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白雨は、過ぎたあとの涼しさと街の清浄感が好きです。

「少々荒れたけど、これでもう落ち着いたよ」

・・・とお空が微笑んでいるようです。

いかづちの行方も見せぬ濃き雨や待つも濡れるも風の吹くまで(921詠)

組香の解釈は、香席の景色を見渡すための一助に過ぎません。

最も尊重されるものは、皆さん自身が自由に思い浮かべる「心の風景」です。

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