八月の組香

秋草が日に日に華やかさを増す景色をモチーフにした組香です。

有試・無試を取り混ぜた聞き方に特徴があります。

※ このコラムではフォントがないため「説明: 説明: 説明: 説明: 説明: 説明: 説明: 説明: 説明: 説明: C:\Users\和裕\Documents\01_香筵雅遊\koengayu\monthly\monthly8\chuu.gif」を「*柱」と表記しています。

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説明

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  1.  香木は、3種用意します。

  2.  要素名は、「一」「二」と「ウ」です。

  3.  香名と木所は、景色のために書きましたので、季節や組香の趣旨に因んだものを自由に組んでください。

  4.  「一」は4包、「二」は3包、「ウ」は1包作ります。(計8包)

  5.  「一」は、1包を試香として焚き出します。

  6. 残った「一」「二」の各3包と「ウ」の1包を加えて打ち交ぜ、順に焚き出します。(計7包)

  7. 本香は、7炉焚き出します。

  8. 答えは、試香と聞き合わせて同香はどこに出ても「一」と答え、異香は出た順に「二」「ウ」と答えます。(委細後述)

  9. 点数は、要素名の当たり1つにつき1点とし、答えの右肩に「点」を打ちます。

  10. 下附は、当否のパターンによって証歌の全部または一部を書き記します。

  11. 加えて、各自の得点を全問正解は「全」、その他は漢数字で書き記します。

  12. 勝負は、最高得点者のうち上席の方の勝ちとなります。

 

厳しい残暑の中でも路傍に咲いている秋草が心に涼を添える季節となりました。

 先月1日から尾張の国、名古屋に転居しました。転居先の宿舎は、「名古屋城の隣辺り」から二転三転しましたが、最終的には「千種区(ちくさく)」に住まうこととなりました。周りは文教地区と集合住宅街の合体したような地域で、私の住まいはちょうどその境界線にあり、北も南も学校の校庭に面しているため、生徒たちの部活の掛け声が絶えない元気のある街です。お陰様で緑も多く、近くの千種公園では色とりどり紫陽花やユリの花が私を迎えてくれました。また、毎日「徳川美術館前」を通るというもの香人にとってはうれしい立地でした。

名古屋は「酷暑」で有名で、以前から主要都市の最高気温では一番高いところという認識はありました。そのため、私も「エアコンなしで夏を乗り切った単身赴任者は過去2人」「エアコンなしでは死ぬぞ!」と脅されましたが、北国の人間のためか「エアコンとの付き合い方がわからない」といった不安もあり、とりあえずエアコン無しで尾張の夏に挑戦しています。両隣は、夜通しエアコンをかけているのですが、室外機の音を聞いていると冷房病ばかりが気に掛かり「そっちのほうが身体に悪いんじゃないのぅ?」と思ってしまいます。確かに毎日「暑くてムシムシ」しますが、勤務中は冷房がありますので、「最高気温」を経験するのは週末だけで済みます。もともと暑さに強い体質の私にとって32度ぐらいの室温は「アジアの夏だぁ〜!」といった感じで、網戸のない窓を開け放っては、風に吹かれています。打ち水と氷枕で眠れなくなるようだったら、その時はエアコン導入を考えたいと思いますが、名古屋では、風の吹く土地のありがたさが身に染みることは確かです。

先月に「白雨香」を掲載して名古屋に向かったせいか、転居早々「夕立」や「宵雨」に見舞われることが多かったのも驚きでした。歓迎会が終わり、いざ帰る段になって「豪雨」ということが週に何度もあり、「名古屋は傘が手放せないなぁ。」と痛感しました。金沢ほどではないらしいですが、やはり先輩の皆さんも常に折り畳み傘を鞄に入れているそうです。私は、小さな鞄しか持っていないため、別に持って出た折り畳み傘を初日に置き忘れるという失態を演じてしまいました。反面、遠くの入道雲に赤い夕日が当たる雄大な景色は、後刻、夕立に見舞われるであろう不安を払拭する美しさでした。

有名な「名古屋メシ」も週末に近所の名店から、「味噌カツ」「味噌おでん」「カレーうどん」「モーニング」「あんかけスパ」「ひつまぶし」と順次デビューを果たしていますが、さすが尾張の「味噌文化」は濃い味が多く、味噌かつや味噌おでんなどは「素材の味が・・・?(+o+)」と思うことも多いです。一方、水はとても美味しくて、ご飯がとても美味しく炊けます。そのため、自炊生活は充実していて、粗食ながらも仕上がりにまったく不満はありません。「飽きて来れば弁当で、作るのはツマミだけになるよ。」と先輩に言われながらも、「食べたい時に食べたいものを食べられる」喜びに浸っており、現在のところ面倒臭さは感じていません。これから、少しずつ生活の基盤を固めて行き、行動半径を広げ東海4県を歩き回りたいと思っています。

今月は、 我が「新庵」の住所にちなんで、秋に色とりどりの花が咲く感動をあらわした「千草香」(ちぐさこう)をご紹介いたしましょう。 

「千種香」は、杉本文太郎著の『香道』に掲載のある秋の組香です。同名の組香は「聞香秘録」の『香道菊之園』三条西尭山著の『組香の鑑賞』にも掲載があります。『香道菊之園』の千種香は、香10種、本香10香を雌雄に分け、これを「交配」して「新しい草」を生む組香で、たくさんの聞の名目が配置されているのが特徴 の同名異組です。一方、『組香の鑑賞』の千種香は、香3種、本香7香の組香で、証歌も『香道』のものと同じですが、「一(2包有試)」、「二・三(各3包無試)」と要素ごとの香数が異なっています。そのため構造式も変わるわけですが、表す景色は 、ほぼ同じであり、こちらは派生組であると考えられます。おそらく、『香道』の千草香は志野流系、『組香の鑑賞』の千草香は御家流系でそれぞれ現在も継承されているものと思われますが、今回は、志野流の本拠地である名古屋に敬意を表すとともに、香記の記載に特徴があり、内容の記述にも詳しい『香道』を出典、『組香の鑑賞』を別書として書き進めたいと思います。 

まず、この組香の証歌について、出典では「みどりなる独り草にて春は見し秋はいろいろの花にぞ有ける」とあります。一方、別書では「緑なる一つ草とぞ春は見し秋は色々の花にぞありける」とありました。そこで、この和歌の原典を調べましたところ「古今和歌集245「題しらず」「よみ人知らず」として「みどりなるひとりくさとぞ春は見し秋はいろいろの花にぞありける」と掲載されていました。意味は「春は一様に緑の若葉だと見ていたが、秋は色とりどりの花になるものだなぁ」というところでしょうか。この歌は、定家八代抄にも掲載されている古今集の秀歌であり、その後、『拾玉集』をはじめ『新撰朗詠集』まで、たくさんの和歌集に掲載されています。出典と別書の証歌の違いについては、私の調べた全ての和歌集で「ひとつくさとぞ」の表記が使われているため、別書の証歌を正当として出典の小記録を書き換えています。

次に、この組香の要素名は「一」「二」「ウ」となっています。要素名が匿名化されていることについては、聞き方が「十*柱香」形式の札打ちであるためという理由のほかに、香によって想像する秋草の景色を要素名でむやみに限定しないという配慮が秘められていると思います。この組香では「二」と「ウ」が客香となっていますが、「ウ」は1包の要素のため、要素名を付するのに敢て3種目の香の「三」を用いず、主役を連想させる「ウ」と銘打った意識が感じられます。

要素名の意味するところを解釈してみますと、試香のある「一」は、証歌の上の句にもある「春の草」のことではないかと思います。連衆に「春の緑」を思い出させておくことは、心情的にも視覚的にも大切な舞台づくりかと思います。そして「二」は、証歌の下の句に登場する「いろいろの秋の草」を意味するものだと思います。本香に登場する未知の香を連衆それぞれが「桔梗」と聞いたり「萩」と聞いたりして、秋草の咲いていく姿を心象に結んでいく趣旨かと思います。最後に「ウ」は、秋草の咲きそろった総体的な景色「千草」を意味するのではないかと思います。この解釈は、後述する下附とも符合しますが、それぞれの要素が「野辺の景色」の時系列的な変化を表すものと考えてよろしいかと思います。

因みに、別書の要素名は「一」「二」「三」と配置されており、「二」と「三」の各3包が「同数の客香」となっているため、景色が若干変わってきます。『組香の鑑賞』には、短い解説が掲載されていますので、全文引用しておきましょう。

 「證歌は古今集です。實感そのもので、春は誰でもこの歌のように若菜を眺めたでしょうし、それが秋になると、色とりどりの花を咲かせますから、驚嘆するほかありません。時には人倫に適用されても、何か意味がありそうです。だからきっと組香作者も公式的表現法を用いたのでしょう。假に一を春草、二を秋、三を花と解したら、どんなことになるでしょうか。一だけに試香を附しているのは、それが一般性を意味しているためではないでしょうか。二と三は不可分の関係にあるので、等量の香が配されているように思われます。あるいは證歌によって次のように考えることもできます。一に試香をおいて「春は見し」の意を現わしているのです。何故なれば一は試香で既に知っているのですから、本香の場合、それは過去を表現していると考えることができます。二三は今日あるいは明日の有様を表現していて、予期せぬ花が開いて行くのに驚嘆している趣を取り扱ったので、試香をつけないのです。」

ここでも、一「春草」、二「秋」、三「花」要素名に景色をつけてみるという試みが紹介されていますが、この他にも一「初花」、二「白菊」、三「尾花」というように、初秋、仲秋、晩秋に因んだ花の景色をつけて催行する場合もあるようです。

さて、この組香の構造は、「七*柱聞きの十*柱香」とご理解いただけるとわかりやすいかと思います。まず、「一」を4包、「二」を3包、「ウ」を1包作ります。そのうち「一」の1包を試香として焚き出します。すると残る本香は「一(3包)」「二(3包)」「ウ(1包)」の計7包となりますので、これを打ち交ぜて順に焚き出します。聞き方は、「札打ち」形式となりますので、香元は本香を正客に廻しましたら、続いて「折居(おりすえ)」か「札筒(ふだづつ)」を廻し、連衆は「十*柱香」の要領で1炉ごとに香札を打っていきます。投票する札については、専用のものではなく「十種香札」の「一」「二」「ウ」を3枚ずつ使用します。ここで、出典には「二は無試ゆゑ、始めに出でしには二の札を打つ」と注書きがあります。詳しく解説しますと、この組香では「一」に試香がありますので、「一」だけは有試*柱香の原則が適用され、本香のどこに出ても「一」の札を打ちます。もし初炉に「一」が出た場合は「十*柱香」と同様に「一」を打ちますが、試香と聞き合わせて初炉に異香が出た場合は「二」、その次に出た異香は「ウ」と札を打ちます。つまり試香のない客香については、無試*柱香の原則が適用されています。これにより、香の出によっては「二」が1回、「ウ」が3回出現する場合もありますので、くれぐれも要素名の「二」「ウ」と混同しないことが肝心です。(例えば「一」が3炉目、「二」が2炉目、「ウ」が1炉目に出でると「二、ウ、一、ウ、一、ウ、一」という答えもあり得ます。)

因みに、別書では「二」と「三」が同数の客香となっていますので、試香だけでは判別不能です。そのため、こちらも要素名にとらわれず十*柱香の要領で初めに出た客香を「二」、次に出た客香を「三」と定めて投票することになります。なお、この組香は、現代の十*柱香と同様に、本香が焚き終わってから名乗紙に答えを全て書き記して回答する「後開き」方式でも催行は可能です。

 この組香は、十*柱香と同様に「どこに同香が出たのか?」が全ての香を聞き終わってからでないと判別がつかないため「一*柱開」によることはありません。そのため、執筆は各自の打った札を札盤等に仮に留めておき、本香が焚き終わってから香札を開きます。時間の関係があれば、炉ごとに札を開いて各自の答えのみ香記に書き写して置くことも可能ですが、聞香中に他人様の答えが見えてしまうので、連衆の集中力が削がれることもあろうかと思います。

続いて、執筆が香札を開き、各自の答えを書き写しましたら、香元は香包を開いて正解を宣言します。正解が宣言されましたら、執筆は正解した要素名の右肩に合点を「ヽ」と掛けますが、この時も札打ちの際の注意事項を意識しなければなりません。まず、「一」はどこに出でも「一」でしたので、各自の答えと香の出とを突き合わせまずは「一」の正解に合点を掛けます。次に、「二」か「ウ」のうち「1つだけ出た要素」が香の出と符合しているものに点を掛けます。そして最後に「二」か「ウ」のうちで3炉出た要素について、十*柱香と同様に「同香」を聞き当てたものに 点を掛けます。3炉すべてが当たっている場合と2炉を同香として聞いている場合は、それぞれ得点としますが、1炉のみ香の出と符合していても正解とはしません。なお、点数は、*柱香と同様、要素名の当たりにつき1点と換算し、客香や独聞等の加点要素はありません。

下附について、出典には「全の人には左の歌一首を聞の下、若しくは左側に、()三包共聞けば、歌の上の句許り、()の三包皆聞けば、下の句許り書し、『ウ』の當りは『千草』と記す。其の他は點數のみ掛る。」とあり、それぞれ証歌の全部または一部を各自の回答と点数の間に書き付すこととなっています。このように各自の解答欄と得点の間に証歌を記すというところが、この組香の特徴となっています。

つまり、全問正解には「みどりなるひとつ草とぞ春は見し秋はいろいろの花にぞありける」1首を書き記します。その他は「一」が3つ当たると「みどりなるひとつ草とぞ春は見し」「二」が3つ当たると「秋はいろいろの花にぞありける」「ウ」が当たると「千草」と書き示します。この下附は、点数に関わらず付されますので、例えば「一」が3つのみ当たって3点でも、「一」が3つと他の要素が当たって5点の場合でも同じ「みどりなるひとつ草とぞ春は見し」となります。

そして、香記の最下段には各自の答えに付された合点を数えて、得点を漢数字で書き記します。その際、全問正解(7点)のみ「全」と書き記します。

最後に勝負は、最高得点者のうち上席の方の勝ちとなります。勝者には、下附に歌がたくさん書かれた豪華な記録が授与されることとなります。 

暦の上では秋とはいえ、まだまだ暑い日が続きます。近所の「千種公園」も秋にはどんな様相を呈してくれるのでしょうか?皆様も「千種香」で一足早い秋草の景色を楽しんでみとはいかがでしょうか?

 

住んでいる土地の安全安心度を推し量るときに意外に「古名」が役に立ちます。

「名古屋」の由来は諸説あるようですが・・・

気候、風土が「なごやかな」土地という説は一番安心します。

波が高くしばしば海岸を越える「浪越」の土地というのは怖いです。

宮城野の天の戸渡る梶の葉に綴る祈りや秋の初風(921詠)

組香の解釈は、香席の景色を見渡すための一助に過ぎません。

最も尊重されるものは、皆さん自身が自由に思い浮かべる「心の風景」です。

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