三月の組香
仏教の「三戒」をテーマにした身の引き締まる組香です。
下附が2つ用意されているところが特徴です。
※ このコラムではフォントがないため「」を「*柱」と表記しています。
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説明 |
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香木は、4種用意します。
要素名は、「酒(しゅ)」 「色(しょく)」「財(ざい)」と「心(しん)」です。
香名と木所は、景色のために書きましたので、季節や組香の趣旨に因んだものを自由に組んでください。
「酒」「色」「財」は各4包、「心」は3包作ります。(計 15包)
まず、「酒」「色」「財」の各4包から、各々1包 を試香として焚き出します。(計3包)
残った「酒」「色」「財」の各3包に「心」の3包を加えて打ち交ぜます。(計12包)
本香は、 「一*柱開(いっちゅうびらき)」で12炉焚き出します。
※ 8番と12番を12回繰り返します。
香元は、香炉に札筒(ふだづつ)か折居(おりすえ)を添えて廻します。
連衆は、試香と聞き合わせて 、答えとなる要素名の書かれた香札(こうふだ)を1枚投票します。
執筆は札を開き、香記に各自の回答を書き写します。
香元は、香包を開き正解を宣言します。
執筆は、「心」の当たり に2点、その他は1点を答えの右肩に掛けます。
この組香には、下附が2種類あります。
まず、解答欄の下(中段)に「聞き誤り方」によって配置された名目を書き記します。(委細後述)
次に、名目の下(下段)に全問正解には「全」、全問不正解については「破戒」、その他は点数を漢数字で書き記します。
中段の名目が無い場合は、中段のスペースを空けて、下段に点数や「破戒」のみ書き記します。
勝負は、最高得点者のうち上席の方の勝ちとなります。
一輪の桃の花に雛飾りをする幼い娘たちの姿を思い浮かべる弥生の日々です。
今年もまた巣立ちの季節が参りました。3年前「巣立香」の序文に父親の思いの丈を涙ながらに吐露してから、あっという間でした。前回は、娘2人の卒業の年でしたが、今年は下の娘が高校を卒業して大学に進学します。「下の子」というのは、どこもそうでしょうが「要領よしの世渡り上手」ですので、進学に関しても何ら高望みすること無く、ごく自然に志望校に推薦入学を決めました。この「志望校」というのが私の母校で学部も同じ、かなり「さっぱりした志望理由」まで同じらしいのですから、まぁ 〜DNAというものは恐ろしいものです。
先日から、ホームビデオをデジタル化しようとして、撮り溜めていた家族の記録をプレイバックしていますが、時間を縮めて見ると、実時間では気づかなかった「流れ」がいろいろとわかって来るものです。例えば、長女が生まれてからの我が家は、おっとりして物静かな長女が家の中心でしたので、「のほほーん」というか「ぽぽぽやーん」という「春の長閑さ」に包まれたようなソフトなムードで暮らしていたような気がします。 この「羊小屋」に3年後、「子犬」のような下の娘が生まれて、我が家は明らかに「元気」と「明るさ」を授かったようです。たとえて言えば、「春から夏」に季節が変わった感じでしょうか?会話の音圧やトーンが一段と上がり、歌や踊り、アップテンポの曲も日常のものとなりました。時折、彼女が作り出す「妙な歌」は家族の歌となり、「妙な言葉」も我が家の公用語となりました。以来、下の娘は我が家のムードメーカーとなり、「キャンキャン」と飛びつくようにじゃれついては、家族1人1人を支えてくれていましたが、実はいろいろと周囲の動勢に気を配ってくれいたこともプレイバックの画面から察することができました。
家を買い、個室ができ、家族が「夏から秋」に向かおうとしたとき、彼女も思春期を迎えていたので、どこかで彼女の気遣いの糸も途切れたのでしょう。それからはムードメーカーの座を辞して、むしろ距離を置くことで自分を守っていたようです。私と下の娘は、お互いに「3度のメシより部屋が好き」ということもあって、あまり面と向かって話すことはなくなりましたが、それでも、メールで質問すれば答えは返ってくる律儀さに 私は救われていました。
そうこうして、私にとっては「空白の高校3年間」が終わろうとしていた頃のこと、彼女から初めて我が母校の生活や勉学のことについてメールで質問を受けました。どうもそれは、面接準備らしかったので、私は 思いつく限りのレポートと「参考書」を送りました。これが、どのように役に立ったのかはわかりませんが、結果的に「合格」となって彼女は4月に晴れて女子大生となるようです。
正直、幼稚園から中学までは「自由犬」だった彼女が大学に行くなどとは露ほども思わず、高校に入った段階で「ヾ(・_・;)オイオイ、進学かよ。」と漠然と学資の準備を始めたというのが本音です。合格を伝えてきた妻君のメールにも「あの子が大学進学するなんてねぇ。」と書かれており、私も嬉しさよりも感慨が先立って、携帯を片手に大きく頷いたものです。小さい頃から彼女を「後々大化けする逸材」と目して疑わず、「もっと自由に !」「もっと大きく!」「やりたいことをやれ!」と追い風を送りつつ野放しにしてきた親父としては、内心「してやったり!」という喜びに今、満たされています。
私自身、小さい頃から玄関にランドセルを置いたまま夕方まで野原を駆け回って、夏休みの宿題を1ヶ月分溜めて、高校受検の前の日まで麻雀をやって、入学後の半年間は追試に追われ、高校1年の冬に「急に落ち着いた」と思ったら偏差値を30も上げて大学進学を決め、紆余曲折を経て、結果・・・役人にな った人間です。もっと視野を狭くして邁進するタイプであれば、もう少し人生に上値も望めたのでしょうが、「山登りは高みに登るよりも道草が本分」という考え方を娘も受け継いだようです。 大学など、まだまだ「伸るか反るか」の人生の「ふりだし」に立ったっただけなのかも知れませんが、生後18年間の寄り道で培った十分なヒットポイントとマジックポイントを背負って 歩み出す我が娘に最大級の賛辞を贈りたいと思います。そして、結びはいつも同じなのですが「これからも信じて見守っている」と・・・。
今月は、人が生きる上で慎むべき根源的な欲望を諫める「三戒香」(さんかいこう)をご紹介いたしましょう。
「三戒香」は、早稲田本の『外組八十七組(第八)』に掲載のある組香で、分類としては「雑組」に属するものと思われます。 所謂、「三」のつく名数香は、このコラムでも「三曙香」「三躰香」「三径香」「三雪香」とたくさんご紹介してまいりましたが、その中では「最も厳しい景色の組香」と言えるかもしれません。この組香では、仏教の戒律から「酒」「色」「財」を「忌むべきもの」として取扱い、小記録の「名目」からも見て取れるように通知表で言えば 「マイナス評価」の言葉だけで組香の景色が成り立っています。普通に聞くことのできた及第点の人は、全問正解でもなければ何も景色がつかず、むしろ落第の仕方に景色があるというのが、この組香の特徴です。思うに、この組香の対局にある名数香は大枝流芳組の「三愛香」かもしれません。こちらは要素名が「酒」「花」「香」となっており、人間誰しも好む事物をそのまま「良きもの」として取り扱っています。今回は、他書に類例も無いため『外組八十七組』を出典として書き進めたいと思います。
まず、題号にある「三戒」とは、読んで字のごとく「三つの戒め」のことです。これを辞書で引きますと、まず『論語』の三戒である「青年の色」「壮年の闘」「老年の得」が目につきました。これは「青年期は血気が定まらないときで、情が激しく、なかでも男女の色情には十分戒めなくてはならない。壮年期は、血気が盛んで自我も強い半面、自分を主張しすぎがちだから、他と争い闘うことを戒めねばならない。老年期になると、血気はもう衰え、安逸を貪るようになって、欲得が強くなるから、貪欲について警戒しなくてはならない。」というもので 、人間には「血気」と「士気」があり、士気を養い、加齢によって揺れ動く血気に左右されない心を持つことを「君子の条件」として示しているものです。また、『仏教』の三戒には「在家戒」「出家戒」「道俗戒」というものもあり、これらはそれぞれの立場で守らなければならない 「戒律群」を三分類したもので膨大な戒めが内包されています。また、近代には、大日本帝国陸軍の三戒である「焼くな」「殺すな」「犯すな」という訓令 もありました。
今回、この組香で取り扱う「三戒」は、おそらく「酒色財気(しゅしょくざいき)」から来ているものと思われます。酒色財気とは、「飲酒」「色情」「財産」「短気」でそれぞれ人間の根源的な欲望であり、古来「気をつけな さい」と戒め続けられて来ました。これは、もともと人の生き方の指標として現れた「倫理」「道徳」の観念でしたが、後に宗教や哲学に取り込まれ、体系づけられた「戒め」のようです。春のうららかな季節に「戒律」のお仕着せや「自戒」を求める厳しい景色の組香をご紹介するのもどうかと思われましたが、多くの方が新たな「門出」を迎えるこの時期に 、今一度「根源的な戒め」を反芻しておくのも身が引き締まってよろしいかと思いました。
次に、この組香の香種は4種、要素名は「酒」「色」「財」「心」となっており、「気」が「心」と打ち替わった時点で、宗教戒律に基づいた組香となっていることは容易に察しがつく筈です。前述のとおり「酒」「色」「財」は則ち「飲酒」「色情」「財産」ですので、人間にとってのマイナス要因(魂の位を落とす誘因)として取り扱われています。そして「心」 とは「人心」を示し、この時点ではニュートラルな存在となっています。この組香は、「酒」「色」「財」が交々に現れ、「心」を惑わすよう組み立てられており、最後まで「心」を見失わないように聞き当てることが趣旨となっています。また、聞き誤りを「心の迷い」と考え、これに様々な「自戒」の景色が配されているところも楽しみとなっています。
続いて、この組香の構造は、まず「酒」「色」「財」を各4包、「心」を3包作ります。次に「酒」「色」「財」の各1包を試香として焚き出し「欲の味」を連衆に知らしめます。一方、様々な欲から守るべき「心」は試香の無い「客香」であり、「酒」「色」「財」によって揺れ動く未知数の要素となります。本香は、手元に残った「酒」「色」「財」の各3包に「心」の3包を加えて、合計12包を打ち交ぜて焚き出します。
ここで、出典では「試に合せ、札打つべし」とあり、回答は「香札」を使用する「札打ち」形式で行われるべきことが記載されています。 しかし、現代では、専用の香札を作成することは難しいので、「十種香札」の「一」「二」「三」「ウ」の4種をそれぞれ「酒」「色」「財」「心」と読み替えて流用すると良いでしょう。
本香の香炉を廻す際に、香元は香札を投票するための「札筒」や「折居」を添えます。連衆は、試香と聞きあわせて、これと思う答えの書かれた香札を1枚投票します。普通「札打ち」と言いますと、1炉ごとに正解を宣言して回答を書き記す「一*柱開」が常道ですが、出典にはそのことが明示されていません。しかし、よくよく考えてみると「札筒」は1つしかないため、これを使用する場合はいちいち中から香札を取り出して使いまわす こととなり「一*柱開」にせざるを得ません 。(折居を一炉おきに交えた場合でも札筒の使い廻しは必要です。)また、「折居」の場合は10枚一揃えですが、この組香の香数は12香もあるため、やはり使い廻しは避けられず、結局「一*柱開」で催すことが必定となるようです。また、後述する下附の複雑さからして、炉ごとに答えの当否までは確定し、香記に記載しておいた方が、執筆の労力が本香の後に集中せず、間違いも避けられ易いと思います。
さて、本香が焚き終わり、執筆が最後の炉の当否を定めて点を付したところで、次は下附(したづけ)の段となります。この組香では、各自の解答欄が「名乗」「答え」「下附(中段の名目)」「下附(下段の点数)」と4段に分かれているところが最大の特徴です。また、2種類の下附のうち、「中段の名目」が非常に複雑ですので執筆は注意が必要です。これについて出典では「名目 、左のごとし」に続いて、6ページにわたって「香の聞き」と「名目」が逐一紹介されています。 下表は、それをなるべく端的に示すために「三*柱とも聞き間違える」ことを「全聞違」と略し、要素名も解釈を加えて記載していますので、出典の記述をそのまま( )書きで併記して、皆様の検証に託したいと思います。
香の聞き |
名目 |
心を酒と全聞違 (客香心と酒と三*柱とも聞違えたるは…) |
乱(らん) |
心を色と全聞 (同香を色と聞違ふれば…) |
溺(でき) |
心を財と全聞違 (同香を財と聞違ふれば…) |
貪(どん) |
心を酒と全聞違 且つ 酒を心と全聞違 (同香を酒と三*柱とも聞違え、酒を心と三*柱とも聞違ふれば…) |
飲酒戒(おんじゅかい) |
心を色と全聞違 且つ 色を心と全聞違 (同香を色と三*柱とも聞違え、色を心と三*柱とも聞違ふれば…) |
邪淫戒(じゃいんかい) |
心を財と全聞違 且つ 財を心と全聞違 (同香を財と三*柱とも聞違え、財を心と三*柱とも聞違ふれば…) |
慳貪戒(けんどんかい) |
心を酒と全聞違 且つ 色を心と全聞違 (同香を酒の三種と聞違え、色を心の三種と聞違ふれば…) |
狂迷(きょうめい) |
心を酒と全聞違 且つ 財を心と全聞違 (同香を酒の三種と聞違え、財を心の三種と聞違ふれば…) |
狂欲(きょうよく) |
心を色と全聞違 且つ 財を心と全聞違 (同香を色の三種と聞違え、財を心の三種と聞違ふれば…) |
迷欲(めいよく) |
心を色と全聞違 且つ 酒を心と全聞違 (同香を色の三種と聞違え、酒を心の三種と聞違ふれば…) |
迷狂(めいきょう) |
心を財と全聞違 且つ 色を心と全聞違 (同香を財の三種と聞違え、色を心の三種と聞違ふれば…) |
欲迷(よくめい) |
心を財と全聞違 且つ 酒を心と全聞違 (同香を財の三種と聞違え、酒を心の三種と聞違ふれば…) |
欲狂(よくきょう) |
心を酒色財の三種と聞違え (心を酒色財の三種の聞違えは…) |
禁舩(きんせん) |
心を酒色財の六種まで聞違え (同断にて六種まで聞違えは…) |
焼舩(しょうせん) |
心の全中 (心の三種聞当れば…) |
楊公(ようこう) |
全不中 (一種も不当りは…) |
三惑(さんわく) |
香の聞き |
点数 |
全中 (一種も聞きはずしなければ…) |
全(ぜん) |
全不中 (一種も不当りは…) |
破戒(はかい) |
その他
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点数 |
このように、「中段の名目」では「香の聞き外し方」を中心に16通りの名目が配置されています。 また、「下段の点数」には、通常の下附と同じように成績を示す言葉や当った要素分の点数が付されます。以下、大まかなグループに分けて下附の仕方を例示していきます。
まず、他はどのような答え方をしていても「心」を「酒色財のいずれか」(以下、「三戒」と称します。)と完全に入れ違えた場合は、心が酒に「乱れ」、色に「溺れ」、財を「貪る」という醜態をさらす ことになります。
例:正解 酒、色、財、心、酒、色、財、心、酒、色、財、心
回答 財、色、心、酒、色、心、財、酒、色、心、財、酒 乱 三
次に、「心」と「特定の三戒」を相互に入れ違えると、仏教の戒律に触れる所業となります。
例:正解 酒、色、財、心、酒、色、財、心、酒、色、財、心
回答 心、色、色、酒、心、色、財、酒、心、財、財、酒 飲酒戒 四
「飲酒戒」「邪淫戒」「慳貪戒」は、人間の行為について戒めた仏教の戒律です。
「飲酒戒」は、あらゆる酒類を飲むことを戒めたもので、在家 信者は「戒め」、出家信者には「禁止事項」となります。飲酒によって惹き起こされる「情欲に溺れる」「健康を害する」「財産を失う」などといった諸々の「為にならないこと」のきっかけを自ら作るのは愚かなことであるという理由で定められています。
「邪淫戒」は、よこしまな男女関係を持つこと戒めたものです。ただ肉体的快楽を満たすためだけの男女関係を持つことは、男女関係のこじれから殺人・傷害などの重犯罪を惹き起こし、欺瞞や誹謗中傷などの悪行のきっかけになるという理由で定められています。
「慳貪戒」は、「物惜しみ(慳)」と「むさぼる(貪)」からなり、「物惜しみしてはならない。飽くことを知らずに物をほしがってはならない」という戒めになります。「足ること」を知らなければ、手に入れるまで渇望する苦しみは大きく、たとえ手に入れたとしても失う時の苦しみも大きくなります。いずれにしろ「苦痛が伴う」ならば、今あるものに満足すべきという意味で、人間の尽きることのない不毛な欲望を戒めています。
続いて、「心」とすべきところを全て「特定の三戒」と入れ違え、かつ、「別の三戒」とすべきところを全て「心」と入れ違う三角関係になると、「酒」 の間違いは「狂」、「色」の間違いは「迷」、「財」の間違いは「欲」の字をあて、心以外の2字を組み合わせて名目としています。
例:正解 酒、色、財、心、酒、色、財、心、酒、色、財、心
回答 色、心、色、酒、財、心、財、酒、色、心、財、酒 狂迷 二
さらに、「心」を「酒」、「色」、「財」とそれぞれ1種類ずつ入れ違うと「禁舩」、2種類ずつ入れ違うと「焼舩」となります。
例:正解 酒、色、財、心、酒、色、財、心、酒、色、財、心
回答 色、酒、心、酒、心、財、心、色、酒、色、財、財 禁舩 三
例:正解 酒、色、財、心、酒、色、財、心、酒、色、財、心
回答 酒、色、心、酒、心、色、財、色、財、心、酒、財 焼舩 四
この「禁舩」「焼舩」は、国語辞典には無い言葉で、「いけない」という感覚は判りますが正しい意味や用いられた背景 については判りませんでした。おそらく仏教の経典や後述する「楊公」に関わるなんらかの逸話があって用例だとは思いますが、これについては、皆様のご高察を仰ぎたいと思います。
そして、「心」を全て「心」と聞いた場合は「楊公」となります。この名目だけが「聞き当て」に対するものとなっています。
「楊公」については、古来「公」の爵位が諸侯の最高位の称号であり、「楊氏」の優れた血筋のうち、傑出した人は皆「楊公」と呼ばれていました。そのため、「楊公」と呼ばれる人 物は、 中国史上に少なからず存在し、この組香がどの人を指して「楊公」と呼んだのかは確証が掴めませんでした。おそらく、「心」を全て当てるという意味からして、この人は学問や哲学(多くは仏教や道教)に従って高潔な生き方をした人に違いありません。 「楊公」と呼ばれる人のうち、最も古いものは、後漢時代のの楊賜(よう し)かと思います。彼は、祖父の楊震(よう しん)、父の楊秉(ようじょう)、子の楊彪(よう ひょうと)同じく、司徒、司空、太尉といった国の政治のトップスリーにあたる「三公」に至って「太尉楊公」「文烈楊公」と言われました。4代続けて三公となることを「四世三公」と呼び、名家の誉れとされており、彼ら「弘農楊氏(こうのようし)」は 現在でも皆「楊公」と呼ばれています。いずれ、これについても推測の域を脱しませんので、皆様のご高察を仰ぎたいと思います。
例:正解 酒、色、財、心、酒、色、財、心、酒、色、財、心
回答 酒、色、酒、心、色、財、色、心、財、財、酒、心 楊公 二
全問正解の場合は、当然「心」を全て聞き当てていますので「楊公」の 名目とともに、下段に「全」の文字を付します。
例:正解 酒、色、財、心、酒、色、財、心、酒、色、財、心
回答 酒、色、財、心、酒、色、財、心、酒、色、財、心 楊公 全
一方、全問不正解の場合は、「三惑」の名目とともに、下段に「破戒」の文字を付します。
例:正解 酒、色、財、心、酒、色、財、心、酒、色、財、心
回答 色、財、心、酒、心、財、色、色、財、酒、心、酒 三惑 破戒
「三惑」とは、修行の妨げとなる三つの誘惑のことで仏教では「見思惑(けんじわく)」「塵沙惑(じんじゃわく)」「無明惑(むみょうわく)」という 説もありますが、教義を説くと難しくなりますので、戒めを破る「破戒」と相まって「三戒の全てを犯し、心が無間地獄の入口で彷徨っている状態」と解して良いでしょう。
これらの複雑な「香の聞き」と「名目」の組合せについて、即座に理解される方は珍しいでしょう。 私もコラムを書くにあたって「はたして本当に名目の当てはめに重複や矛盾等は無いだろうか?」といろいろなケースを当てはめてシミュレーションしてみました。注意点は出典に「右の外、酒色財とも一、二種の違い中段の名目なし。下の点数ばかりなり。」とあり、中段の名目は「全部(同香三*柱)」の聞き当て、聞き誤りのみ、選んで書き記すということです。そのため、列挙された名目にあたる答え が出るのは意外にレアケースであり、下附の多くは点数のみとなることが多いので安心してください。
続いて、この組香の点数は、客香である「心」のみ2点を要素名の右肩に「﹅﹅」と書き記し、その他の要素は1点を「﹅」と掛けます。本香の最中は当たりの要素に合点だけ 掛けておいて、本香が焚き終わりましたら、じっくり名目一覧を見て「心」の行方(当否)にまとまった傾向がないか確かめるとよいでしょう。そして、中段の名目に該当しないものは、スペースを開けて下段に点数を漢数字で書き記します。
最後に勝負は、中段の名目に関わらず、下段の点数の最も高い方のうち上席の方の勝ちとなります。
「三戒香」の本意は、おそらく仏教戒律に基づく格調高い戒めの香なのでしょう。そのため、 思いつめる方は「アナタは迷狂!」などという成績を見ると春爛漫の季節でも鬱屈してしまうかもしれません。しかし、香席は雰囲気と設え次第です。花見の宴席気分で、「私は飲酒戒よ(#^.^#)」「あら、私なんか、三惑破戒になっちゃったわよ)^o^(」と互いに「自虐比べ」をして笑い飛ばすような楽しい香席になれば、「笑う席には福来たる」だと思います。組香としては、相当にユニークなものですし、季節を問わずに催すことができますので、是非、お楽しみいただければと思います。
「色」は士気ほどになく「財」は惜しむほどにない老体としては
「三戒」も虚しい教えですが・・・
嗜む程度の「酒」が元で骨折したのですから、「自戒」しなければなりませんね。
曲水に御酒の筏やこつこつと石に身を寄す千鳥足かな(921詠)
組香の解釈は、香席の景色を見渡すための一助に過ぎません。
最も尊重されるものは、皆さん自身が自由に思い浮かべる「心の風景」です。
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