十一月の組香

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奈良と平安の三関を対峙させた組香です。

本香包を2段に分けて3組を結び置きするよう修正しています。

※ このコラムではフォントがないため「  火篇に主と書く字」を「*柱」と表記しています。

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説明

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  1. 香木は4種用意します。

  2. 要素名は、「関(せき)」「山(やま)」「昔(むかし)」と「後(のち)」です。

  3. 香名と木所は、景色のために書きましたので、季節等に因んだものを自由に組んでください。

  4. 「関」は3包、「山」と「昔」は2包、「後」は1包作ります。(計8包)

  5. まず、「関」1包を試香として焚き出します。

  6. 次に 「関」と「山」の各2包を1包ずつ入れ替えて「関・山」と「山・関」の2包ずつ2組に結び置きします。(∫1=2×=4包)

  7. 続いて「昔」2包と「関」1包を打ち交ぜて、その中から任意に1包引き去り、残った2包を1組として結び置きします。(2×= 2包)

  8. これまでに結び置きした3組を打ち交ぜます。

  9. 本香は、組ごとに2包ずつ3組焚き出されます。(計6包)

  10. 香元は最初の組の結びを解き、2つの香包の順番を間違えないようにそのまま焚き出します。

  11. また、2炉ごとに札筒 (ふだづつ)か折居(おりすえ)を添えて廻します。

  12. 連衆は、「関」の香りを頼りに「山」を見つけ、「関」の現れない組ではそれが同香か異香かを判断して、聞の名目の書かれた香札を1枚打ちます。

  13. 盤者は打たれた札を回収し、札盤の上に伏せて仮置きしておきます。

  14. 本香が焚き終わりましたら、盤者は札を開き、執筆は香記の回答欄に全員の回答を書き写します。

  15. 香元が、正解を宣言したら、執筆は要素名から正解の名目を定め、当った名目の右肩に 長点を掛けます。

  16. 点数は、名目の当たりにつき1点とします。

  17. 下附は、全問正解の場合は「皆」、その他は点数を漢数字で書き記します。

  18. 勝負は、正解者のうち、上席の方の勝ちとなります。


 冬支度を迎える鳥が穏やかに鳴き渡って行きます。

最近、無料クーポンをもらい「電子書籍」の購読を始めました。 迷わず最初にダウンロードしたのは、与謝野晶子訳の『源氏物語(完全版)』で、なんとこれが全巻でたったの168円でした。『源氏物語』は、今まで大島本のように原書に近いものから瀬戸内寂聴本、橋本治本のようなポップなものまでいろいろと読みましたが、「全巻」となると、その置き場所や資金力の問題もあって、結局は図書館のお世話にならざるを得ませんでした。それが今、厚さ7ミリ、重さ500グラムの薄っぺらいタブレットに格納され「いつでも見開ける参考書」となっているから驚きです。「短小軽薄」と言われて久しく時代が過ぎましたが、石盤から紙へ、紙から電子ペーパーへの流れは、物理的容量と情報量の関係を大きく逆転し、地球にも老体にも優しいものとなって、私の「生涯学習」を支えてくれることとなりました。

電子書籍を使ってみると、なにより「文字拡大機能」が秀逸です。老眼も進み、新聞の文字もかすむようになってから、書物は参考程度にしか読まなくなっていた私ですが、タブレットでは文字の大きさが自由に設定できますので、全く目の疲れを感ずることなく長編小説でも読み進むことができ ます。置き場所も足組み座りからゴロ寝まで、どんな姿勢でも読むことができ、小指でページを抑えておく必要もありません。また、栞や書き込み、検索機能もあるので「あれはどこに書いてあったかなぁ」という際にも便利です。タブレットを閉じれば次回は同じところから読むことができるので、寸暇を惜しむが如く小刻みに読み進むこともできます。その上、本文は一度ダウンロードすれば、Wi-Fi(無線LAN)環境のない場所でも読めますので、ローカル線やバスの乗り換えで時間をつぶすのにも困らなくなりました。このようなことから、すっかり読書離れを起こしていた私が文字媒体に復活することができました。

『源氏物語』をダウンロードした後、私は「いつも通り」どこから読むべきか迷いましたが、結局「宇治十帖」の少し手前の「匂宮」から、柏木と女三宮の不義の子「薫」と、源氏の孫「匂宮」が、宇治八の宮の三姉妹(大君、中君、浮舟)をめぐって繰り広げる恋の綾織を反芻しながら「夢の浮橋」へと読み進むことにしました。なにせ、目が疲れないものですから数時間続けて読む事もでき、書物では分かりづらかった「幾重にも煮え切らない薫と中君を思うあまりの大君の葛藤と死」や「浮橋にも同様であった匂宮の所業と慈愛だけでは遂げられない薫の想いの機微」が、はっきり 「経緯」として理解できるようになりました。また、与謝野本は、各帖の冒頭に付された和歌もさながら、情景描写の言葉ひとつひとつに、昭和の刊行本にはない「美しさ」と「たおやかさ」を持っているところが魅力でした。

『源氏物語』は、これからまた「桐壷」に戻って光源氏と出逢い、「雲隠れ」まで彼の生涯を見届けるつもりですが、最初にダウンロードした「蔵書」が『新平家物語(完全版)』や『眠れないほど面白い古事記』等たくさん残っており、当分は雑学に浸る日々が予定されています。できれば、『新潮日本古典集成』のようなシリーズが電子化されると「いつでも見開ける参考書」が身近となるため、国文学の研究や普及にも激的な変化をもたらすかもしれません。「人の口には戸は立てられない」と同様、情報はネットワークを通じて世界中に光の速さで飛んでいきますので「守る」立場の方は大変でしょうが、自由に流布された情報が新しい地平線をその母体に見せてくれるかもしれません。世は「オープンデータ」の時代…旧態に閉塞感があるのならば、情報の関所を開いて新たな風を入れるべきかと思います。

今月は、都の防備として置かれた三つの要衝「古三関香」(こさんげんこう)をご紹介いたしましょう。

「古三関香」は、『軒のしのぶ(八)』に掲載のある「雑組」に属する組香です。この書には「三関香」の掲載もあり、こちらは「山路」「浦路」「野路」「関」と「奥(3種別香)」を要素とした7種6*柱の組香で多数の関 所の中から3つを選び出す組香です。この組香も各要素を組み合わせて「三関」の名前を結ぶという趣旨は同じですが、4種6*柱の「古三関香」の方がシンプル で日本の「三関」に直結する構成となっています。とはいえ、組香の構造に曖昧なところが多々あり、伝書の内容そのものを再現しようとすると組香自体に破綻が起きてしまうことから、創作者の作意に基づいた形で且つ辻褄が合うように修正してご紹介することと致しました。そのような訳で、今回は『軒のしのぶ』を出典としつつ、本文の不備に私見に基づく修正を加えてご紹介して参りたいと思います。

以下の解説につきましては、あらかじめ「組香の構造」に手を加えておりますので、皆様方には古三関香」のつもりでお受け止めいただけれ ばと思います。

まず、この組香に証歌はありませんが、その題号から「三関」に関する組香であることは容易に察しがつくと思います。「三関」とは、畿内周辺に設けられた関所のうち、都を守る軍事上の要衝として特に重視され、軍備を整え国司常駐させた三つの関の総称です。三関が設置されたのは奈良時代以前で、天武元年(672年)の「壬申の乱」の後とされ、当初は、「不破関」(ふわのせき:美濃国、現在の岐阜県不破郡関ケ原町)、「鈴鹿関」(すずかのせき:伊勢国、現在の三重県亀山市)、「愛発関」(あらちのせき:越前国、現在の福井県敦賀市内)の三つを指していましたが、平安京遷都に先立つ延暦8年(789年)に桓武天皇によって一時停廃されました。その後、延暦25年(806年)の桓武天皇の崩御 の際に「固関(こげん:緊急事態に備えて関を閉じて守りを固めること)」が行われ、それ以降の記録には愛発関に代わって「逢坂関」(おうさかのせき:近江国、現在の滋賀県大津市付近)が名を連ねるようになりました。

三関について、出典には本文の奥にこのような記述があります。

奈良都の三関

伊勢 鈴鹿関、美濃 不破関、越前 愛発関

山城都の三関

鈴鹿関、近江 逢坂関、不破関

はじめは、説明もなく列挙してあるこの関所の名前が何を示すものかわかりませんでしたが、組香の解釈を進めていく段階で、これは「奈良時代の三関」と「平安時代の三関」を対峙させているものであり、これこそが「古三関香」創作の趣旨であることがわかりました。

次に、この組香の要素名は、「関」「山」「昔」と「後」となっています。「関」と「山」については左右に山がせめぎ合ったようなところに関 を置いたわけですから三関の景色として異論のないところでしょう。一方、「昔」と「後」は「ものの前後」であろうことは察しがつくものの、なぜ「初・後」や「前・後」ではないのかと悩みました。そうしますうちに、「三関香」の聞の名目に関する記載に「『奥・奥』は、むかしの関、又、有哉無哉の関ともいふ」との記載があり、その香記にも「むかしの関」と記載されていることや列挙された聞の名目の中に「愛発関」がないことに気付きました。このことから、「昔」という要素名は平安遷都の前の関である「愛発関」を構成するものであるという推測が成り立ちました。そうする と「後」は平安以降の関である「逢坂関」を構成する要素ではないかとの推測も難くありませんでした。このようにして、私は、この組香が要素名の組合せによって新旧の「三関」の景色を結び 、対峙させる趣向で創作されたものとして解釈を進めることが順当であろうとの確信を得ました。

さて、この組香の構造は、香4種、全体香数7包、本香数6包となっています。まず、「関」を3包、「山」と「昔」は各2包、「後」は1包作り、そのうち「関」の1包を試香として焚き出します。次に、「出典の記述どおりに行おうとするとどうなるか ?」をまず書いておきたいと思います。出典での構造に関する記述は非常に少ないので全文を掲載します。

「試香一包、本香七包の内、六包焚て一包残す。初後を付て二*柱づつ一結として三結びなり。関山は鈴鹿関、山関は不破関、無試同香は愛発関、試香無別香は逢坂関」

この記述によれば、「関」の試香を終えた後に手元に残った「関(2包)」「山(2包)」「昔(2包)」「後(1包)」を打ち交ぜて任意に1包引き去って、残る6包を2包ずつ3組に結び置きして焚き出すということになります。そうして、本香を焚き始め 、連衆は2ごとに名目と見合わせて答えを導き出す訳ですが、想定される組合せと聞の名目は下記の通りです。

香の出と聞の名目(出典まま)

要素名

初炉

山(無試) 昔(無試) 後(無試)

後炉

名目なし 不破関 名目なし 名目なし
山(無試) 鈴鹿関 愛発関 逢坂関 逢坂関
昔(無試) 名目なし 逢坂関 愛発関 逢坂関
後(無試) 名目なし 逢坂関 逢坂関 愛発関

このように、まず試香のある「関」と無試である「昔」「後」 の組合せに関して当てはまる聞の名目がありません。また無試同香は「愛発関」、無試別香は「逢坂関」とするとこのように「不破関」「鈴鹿関」に比べて「愛発関」「逢坂関」の発現確率が著しく高くなり、要素との符合などどうでもいいような乱暴な香記となります。一方、出典の「古三関香記」の記載例では、連衆の答えが綺麗に「不破関」「鈴鹿関」「愛発関」「逢坂関」のうちの三関 を1つずつ選んだように並んでおり、各自の答えも「愛発関」か「逢坂関」の発現により、必ず「奈良都の三関」か「山城都(平安)の三関」になるように記載されています。このことから、おそらく出典の記述は、構造上の矛盾をはらんでいるのではないかと思い、冒頭の小記録にあるように構造を修正してご紹介することとしました。

私見を踏まえて修正した構造は、香拵えから試香の焚き出しまでは同じです が、まず、手元に残った「関(2包)」と「山(2包)」を1包ずつ交換し、聞の名目にある「関・山」「山・関」の2組を作ってしまいます。次に「昔(2包)」と「後(1包)」は打ち交ぜて任意に1包を引き去り、これは捨て香として、残った2包で1組作ります。すると、この組には「昔・昔」 「昔・後」「後・昔」の3通りが発現する可能性があり、これを「無試同香(昔・昔)」は「愛発関」、「無試別香 (昔・後、後・昔)」は炉の順番にかかわらず「逢坂関」とすればさしたる齟齬はありません。そうして、2段に分けて作った2包ずつの3組を結び置きします。このように出現する香の出を限定したほうが、 あらかじめ配置された聞の名目のみで組香が行えるほか、現れる景色やストーリーも創作者の作意を再現できるように思います。

続いて、香元は、本香焚き出しの段で本香包を組ごとに打ち交ぜ、結びを解いて「順番を間違えない」ように初炉を焚き出します。後炉を焚き出す際には香札を投票する札筒か折居を添えて廻します。ここで、回答に使用する香札について、出典では「札紋 春、夏、秋、冬、花、鳥、月、雪、風、雨」とだけ記載があり、このことから香札を使用する組香であることに加え、四季に催行が可能 な組香であることがわかります。出典には、「札は名目ごとに何枚必要だ」とも書いてありません。これが複数でしたら今回の修正案は瓦解するのですが、「基本的に1枚ずつだから省略した 」と考えることもできます。いずれ、出典には「二*柱開」の指定もありませんので、現代ならば名乗紙を使用して、本香が焚き終わってから聞の名目を3つ書き記して提出する「後開き」方式で催行すればよろしいかと思います。

そして、連衆は初炉・後炉の2つを聞いたところで、それと思う聞の名目の記載された香札を1枚投票します。これを3組繰り返して、香札は都合3枚打つことりなります。要素の組合せ と聞の名目は下記の通りとなります。

香の出と聞の名目(修正案)

要素名

初炉

山(無試) 昔(無試) 後(無試)

後炉

−−− 不破関 −−− −−−
山(無試) 鈴鹿関 −−− −−− −−−
昔(無試) −−− −−− 愛発関 逢坂関
後(無試) −−− −−− 逢坂関 −−−

このように、「鈴鹿関」「不破関」となるべき要素はあらかじめ結び置きしてあり、浮動要素は「昔」と「後」の組合せで「愛発関」か「逢坂関」が決まります。修正案によれば「昔・昔」は「愛発関」で1通り、「後」を含む組合せは「逢坂関」で2通りあり、「昔関」より「後関」の出現確率は多くなりますが、「後関は平安から江戸時代後期まで長い歴史を持つからだ」と解釈するとこれも景色として符合するようになります。

さて、香炉と札筒等が返って参りましたら、盤者(いない場合は執筆)が香札を取り出して札盤の上に伏せて仮置きします。札が 返った時点でその都度、香記を書いてしまう方法もあるのですが、答えは3つですので後半の答えが連衆に推察されることを避けるため にも「後開き」とした方がよろしいかと思います。

本香が焚き終わりましたら、盤者は札を開き、執筆は香記に各自の答えを書き写します。この時、私の修正案に則れば、各自の答えは、奈良都の三関(鈴鹿関、不破関、愛発関)か山城都の三関(鈴鹿関、不破関、逢坂関)がランダムに並んだものとなっている筈です。執筆が答えを写し終えましたら、香元に正解を請い、香元は正解を宣言し、執筆は香の出の欄に要素名を千鳥(右左と段違いに書く)に3段に書き記します。それから、執筆は正解の名目を定めて当たった答えに点を掛けます。出典の「古三関香記」では、名目の右肩全体に「長点」が掛けられており、複数の要素の聞き当たりであることを示しています。

この組香の点法については、出典に「当たり一点ずつ、片あたり点なし」とあり、点数は名目の当たりにつき1点と換算し、名目を構成する一部の要素が聞き当っている「片当たり」は得点にはならないことが記載されています。例えば「愛発関()」を「逢坂関(後・)(・後)」と書いても全く趣旨が反映されないわけですから点にはならないのは当然だと思います。また、この組香の下附について出典には「記録の下に皆、数をしるす」とあり、全問正解の場合は「皆」、その他は点数を漢数字で書き付します。

因みに、 せっかく香の出によって組香全体に「奈良都の三関」か「山城都の三関」の景色が現れてくるのですから、記録の奥に「愛発関」や「逢坂関」に因んだ証歌をそれぞれ万葉集や八代集から配置すれば、さらに素晴らしい 組香となると思いますが、「逢坂関」はたくさんあるものの、悲しいかな「愛発関」の詠み込まれた和歌が見つかりませんでした。

最後に、勝負は最高得点者のうち上席の方の勝ちとなります。

昔は、関の重要度に応じて刑罰にランクがあり、「三関」を無断で超えた際に科せられる「懲役一年」が最も重かったそうです。現在は、車で行けば「通行自由」ですが、関はもともと国堺に設けられ、そうそう容易に行ける土地柄でもありませんので、皆様は「古三関香」で古関の四季の風情を感じてみてはいかがでしょうか?

 

「関ヶ原古戦場」に行きますと壬申の乱の古跡もたくさん見つかります。

天下分け目の戦いが同じ場所で繰り広げられたのは単に地形上の偶然でしょうか?

路を上り四年の時雨宿春は越ゆらめ関の藤川(921詠)

組香の解釈は、香席の景色を見渡すための一助に過ぎません。

最も尊重されるものは、皆さん自身が自由に思い浮かべる「心の風景」です。

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