咲き誇る花を持ち寄って優劣を競う「花合せ」をテーマにした組香です。
香の出の「同香」を鳥の名前の「同音」と符合させているところが特徴です。
※ このコラムではフォントがないため「」を「*柱」と表記しています。
|
説明 |
|
香木は5種用意します。
要素名は、「一、二、三、四、五」です。
香名と木所は、景色のために書きましたので、季節や組香の趣旨に因んだものを自由に組んでください。
この組香に試香はありません。
「一、二、三、四、五」はそれぞれ2包ずつ(計10包)作ります。
これを、各1包ずつ(A組「一、ニ、三、四、五」、B組「一、ニ、三、四、五」)の2組に分けます。
A組とB組を組ごとに、それぞれ打ち交ぜます。(各組「一、ニ、三、四、五」の順序を変えるためです。)
AとBの各組のうちそれぞれ1包ずつを交換します。(A組の1包をB組へ、B組の1包をA組へ)
本香は、任意のどちらか1組(計5包)のみ焚き出し、残った1組は総包に戻します。
本香は、5炉回ります。
答えは、香の出の順に要素を当てはめ、花に因んだ「聞の名目」で書き 記します。
この組香には下附はなく、当たりは合点で示します。
勝負は、正解者のうち上席の方の勝ちとします。
弥生は、自然の営みに活気が満ちて歌詠みには格好の季節です。
弥生三月、私にとっては57回目の春、サイトにとっては18回目の春、東日本大震災からは5回目の春…今月から「香筵雅遊」は「sakura.ne.jp」のドメインに居を移して、新たな旅立ちを始めます。ことの発端は、先月の5日、契約状況の確認のためにプロバイダである「OCN」のサイトを偶然見ていたところ、「Page Onサービスの終了について」というバナーが貼ってあるのに気づきました。当初、「香筵雅遊」は「Dreamnet」というプロバイダのドメインで立ち上がり、この会社がOCNに統合されたため1回目の引っ越しを余儀なくされました。それ以降「OCNなら未来永劫大丈夫だろう!」と 高を括っていたものですから、「えっ!まさか!」と思いつつ内容を詳しく見てみたところ、これがどうも現実で「2月の末日でホームページデータは抹消します。」ということになっていました。この重要なお知らせは昨年の8月頃にメールあったらしく、こちらがジャンクメールとともに削除してしまったらしいのでプロバイダに手落ちはないのですが、移行期間を含めると本当にギリギリのところで、このことに気付いたのもお香の神様の思し召しだと思います。
移行先については、プロバイダ側から無料・有料含めて数社が提案されていましたが、私は「SAKURA」の文字の入ったURLが「和もの」のページ に似合うだろうと思いました。また、今までは「10MB」の無料領域に5MBのオプションを付けて月300円程の追加料金が発生していたのですが、「SAKURA」は最も軽い「10GB」で月192円と破格でした。ホームページ掲載の頃は、インターネットも遅く「1ページを10秒以内に表示する」ために画像を小さくしたり、粗くしたりして工夫していたものですが、新しい環境では解像度も上げられますし、PDFやOfficeファイルもそのまま掲載できるでしょう。本当にブロードバンドの世界は私たちに大きな利益をもたらしてくれたと思います。このような感慨に耽りつつ、サービス終了の告知を見てから、わずか2時間で現在の会社と契約し、コンテンツの移行も終えたというスピード解決となりました。
現在でも「香筵雅遊」は、「香道のことがちょっと知りたい時にそれが書いてあるページ」として、月1000件ほどのユニークアクセスをいただいていますが、読者のほとんどがリピータの皆様と察することができます。サイトを掲載した頃は、珍しい分野の専門サイトであったこともあり、雨後の竹の子のように出現するジャンクなサイトに埋もれることなく、何とか生き延びて参りました。その後、インターネット・メディアの主流が「ブログ」に変わり、現在は、「Twitter」「Facebook」「LINE」などのソーシャルネットワークサービスが全盛となっています。世の中は「より早く、軽く」コミュニケーションすることのみが問われ、真の意味で「コラボレーション(共同研究)」し、お互いの「ナレッジ」を交換・共有する場がネットの中にも次第に無くなって来ました。現在は、そういうナレッジもYahooやGoogleといった検索サイトから直接引き出され、「香筵雅遊」もすでにお香のポータルサイトではなく、ネットという巨大な電子辞書の1ページとして一見さんに親しまれているようです。おそらくOCNも「タダだからと言って、作りっぱなしで放置されているジャンクサイトの維持管理をする必要性」をもはや感じなくなり、自らホームページサービスの使命とポータルサイト運営のビジネスモデルに終焉を宣言したのだと思います。
来月に「今月の組香」の200組目掲載を控えて、このような事態が起きるのも「胸突き八丁が一番苦しい」という私の処世観に見事に合致し、1つの節目が到来するということを予感さ せる出来事でした。「とりあえず200組!」「できれば224組!?」と毎年書いてきたゴールが近づくにつれ、ここに来て与えられた10GBの広大なフィールドを使って、「どのように日本文化のナレッジデータとして確立し、残していくか?」思案のしどころとなりそうな誕生月ではあります。
今月は、四季の花競べ「花合香」(はなあわせこう)をご紹介いたしましょう。
「花合香」は、米川流香道『奥の橘(月)』に掲載のある四季の組香です。米川流香道の組香は最初の「十*柱香」から七十組までを「表組」と言い、七十一組から百組に外十組と習十組の50組を加えたものを「裏組」と言い、この「百二十組」に追加十組、追加二十組、追加三十組の30組を加えた「百五十組」で形成されています。今回、ご紹介する「花合香」は「追加三十組」の7番目に掲載のある組香ですから、当時の組香の中では新参者だったということができます。そのことは組香の構造からも分かることで、「5種の香木を2包ずつ作り、各組から1包ずつ交換して焚き出す」というやり方は、御家流の方 でしたら「交換」するときに使う珍しい構造式「∫(いんてぐらる)」を使うことで印象深い組香かと思います。このコラムでも「小鳥香」(平成12年4月掲載)、「小倉香」(平成15年1月掲載)をご紹介済みであり、志野流の「草木香」も同様の構造が見られます。これらの組香は、本香の出から結ぶ「聞の名目」がそれぞれの組香の趣旨に因んだ 景色となっています。米川流の『奥の橘』では初十組に「小鳥香」、六十組に「草木香」となっており、御家流でも古十組が「小鳥香」、中古十組が「草木香」ですので、この序列は変わりません。「小倉香」は『香道千代乃秋』で三上双巒(らん) が創作した新組香であることがわかっていますので、おそらく「小鳥香」がオリジナルで、その他は派生組なのではないかと思 います。今月は、「インテグラル・シリーズ第3弾」を『奥の橘』を出典としての書き進めたいと思います。
まず、この組香には証歌はありませんので、組香の景色は題号と聞の名目から察することになろうかと思います。題号の「花合」とは、平安時代の貴族の間で流行した遊芸のことで、左右に分かれて各自が持ち寄った花の優劣を競い合うものです。平安の遊芸で一世を風靡した「物合 (ものあわせ)」は、もともと梅、桜、菊などの季節の花を持寄って競う「花合」に端を発したとされ、後に根合、貝合、絵合、香合、歌合というように「持ち物から教養の発露へ」と昇華し、この勝負に勝つために、貴族たちは命掛けで教養を磨くこととなりました。「物合」にもそれぞれふさわしい季節がありますが、「花合」は四季それぞれに愛でることができる花をテーマに日常的に行われていたようです。そういう意味で梅、桃、桜と花が咲き乱れる今は、まさに「花合」の好適季と言えましょう。
次に、この組香の要素名は「一」「二」「三」「四」「五」という数字で匿名化されています。これは、本香の出で結ばれる「聞の名目」の構成要素として使われる素材であるため、特段の景色は付されず、「聞の名目」となって初めて景色に昇華されるものです。
さて、この組香の構造は、全体香数10包、本香数5包で、前述のとおり「交換」という構造の特徴を持っています。このことについて出典では「小鳥香に同じ。鳥の名を花に聞くばかりの違いなり。」と短く書いてあり、小鳥香の構造を全て引き継いでいることがわかります。まず、香包は「一」「二」「三」「四」「五」と2包ずつ作り、これを1種5包の2組に結び置きします。次に、この組香には試香はないので、香元は手前座で1組の結びを解き、これを打ち交ぜてから、香炉の手前に横一列に並べます。もう一方の組も同じようにし、最初の香包の下に並べます。こうして上下2行 に並べてから各々1包を交換し、できた下の1組を総包に戻し(捨て香とし)、上の1組を改めて打ち交ぜて本香とします。(流派によっては、地敷紙の両端に左右に並べて交換する方式もあります。)
この1包の交換によって、およその場合は5包の中に同じ要素が2つ出現することになります。また、偶然に2組のうち同じ要素同士を交換した場合は全部異香となる場合もあります。
香元は、こうしてできた本香5包を順に焚き出します。各要素には試香もありませんので、連衆は、どの要素がどんな香りなのかについては、全く解らないまま本香を聞き、香の異同のみを判別していきます。連衆は、出された本香のイメージを出た順に「一、二、三、四、五」や「○、×、△、◎、▲」のような記号等でメモしておき、同香の有無や順番を確認して「聞の名目」に当てはめていきます。回答は、あらかじめ割り当てられた「聞の名目」を名乗紙に1つ記載して提出します。
例:香の出「○、×、△、○、◎」⇒「1炉と4炉が同香」⇒答え「室之梅(むろのむめ)」
香の出 | 聞の名目 | 記録の表記(濁点抜き) |
一炉と二炉が同香 | 山茶花 | ささんくは |
一炉と三炉が同香 | 野辺之萩 | のへのはき |
一炉と四炉が同香 | 室之梅 | むろのむめ |
一炉と五炉が同香 | 梨之花 | なしのはな |
二炉と三炉が同香 | 夏椿 | なつつはき |
二炉と四炉が同香 | 枇杷之花 | ひはのはな |
二炉と五炉が同香 | 咲野菊 | さくのきく |
三炉と四炉が同香 | 岩躑躅 | いはつつし |
三炉と五炉が同香 | 唐瞿麥 | からくはく |
四炉と五炉が同香 | 枝垂桃 | したれもも |
同香なし | 初桜 | はつさくら |
このように、それぞれ四季の花に修飾語が付いて、うまい具合に5文字の中に同音を散りばめています。組香の創作の際には、聞の名目を選ぶことに少なからず腐心するものですが、規格の厳しさでは、この種の組香が一番でしょう。そのためにかえって香人のチャレンジ精神を刺激し、派生組がたくさん生まれたのかもしれません。 因みに、「唐瞿麥」は、ナデシコやセキチクの異名です。
続いて、本香が焚き終わり名乗紙が返ってまいりましたら、執筆はこれを開いて香記に各自答えを書き写します。出典では聞の名目が漢字で書き表されているため、連衆は答えを漢字で書いて提出します。一方、「花合香之記」の記載例では、各自の答えの欄が他の組香同様「濁点抜きのひ らがな」で記載されていますので、執筆が香記に書き写す際は仮名で書き記します。答えが書き終わりましたら、執筆は香元に正解を請い、香元は香包を開いて正解を宣言します。執筆はこれを聞き、香の出の欄に要素名を出た順に1列に書き記します。ここで出典には「香の出の下へも花の名をかくなり」とありますので、執筆は香の出の下に「ひ らがな」で正解の花の名を続けて書き記します。
この組香の点数は、同香の聞き当たりのみを斟酌する一発勝負のため、あまり重要ではなく、出典にも「中り長点、下へは何も書かず小鳥香に同じ」とあり、当たった聞の名目の右に複数の香を聞き当てたことを表す「長点」を付して成績を表します。また、片当たり等のルールもないため下附もありません。
このようにして、香記は四季の花に彩られた景色となります。そういう意味で、この組香の「花合」とは、その季節の花を各自が持ち寄って優劣を決める形式のものではなく、季節の花が「咲き競う」という景色になろうかと思います。
最後に、勝負は正解者のうち上席の方の勝ちとなります。偶然、この季節にふさわしい「枝垂桃」あたりが正解となれば、座が盛り上がるだろうと思います。全員が「枝垂桃」を持参したことになった場合は、自動的に上席の方の枝垂桃が咲き姿として勝っていることになってしまいますね。
「花合香」は、木所等がわからない素人の方でも、同香・異香を聞き分けるだけで、参加できる簡単な香遊びです。是非、桃の節句の姫遊びに取り入れてみてはいかがでしょうか?
20年前、映・音・文ともにデジタル化したデータは永遠だと思っていましたが・・・
技術革新やサービスの盛衰に伴って漂う「砂上の楼閣」の上にあることがわかりました。
400年後にナレッジを繋ぐのは、やはり「紙と墨」なんでしょうかねぇ?
千賀の浦花もかすみて父の身のけぶりに浮かぶ在りし日の影(921詠)
組香の解釈は、香席の景色を見渡すための一助に過ぎません。
最も尊重されるものは、皆さん自身が自由に思い浮かべる「心の風景」です。
Copyright, kazz921 All Right Reserved
無断模写・転写を禁じます。