白い煙と雪を山海の景色に映す組香です。
聞の名目の結び方に変則的な特徴があります。
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説明 |
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香木は3種用意します。
要素名は、「烟(けむり)」「雪(ゆき)」と「客(きゃく)」です。
香名と木所は、景色のために書きましたので、季節等に因んだものを自由に組んでください。
「烟」と「雪」は6包、「客」は3包作ります。(計15包)
まず、「烟」「雪」「客」の各1包を試香として焚き出します。(計3包)
次に 、手元に残った 「烟」「雪」の各5包を打ち交ぜて、その中から任意に2包引き去ります。(5×2−2=8包)
これに、手元に残った「客」の2包を加えて打ち交ぜて焚き出します。(8+2= 10包)
本香は、2炉ごとに答えを1つ提出する「二*柱聞(にちゅうぎき)」として、10炉廻ります。(2×5=10包)
香元は2炉の区切りを意識して香炉を焚き出します。
また、2炉ごとに札筒 (ふだづつ)か折居(おりすえ)を添えて廻します。
連衆は、2炉ごとに試香と聞きあわせて、2つの要素から結ばれた「聞の名目(ききのみょうもく)」の書かれた香札を1枚打ちます。
香筒に打たれた札は一旦、折居に移して「一」から「十」まで並べて置きます。
本香が焚き終わりましたら、執筆は折居の札を開き、執筆は香記の回答欄に全員の回答を書き写します。
香元が、正解を宣言したら、執筆は要素名から正解の名目を定め、当った名目の右肩に 長点を掛けます。
点数は、名目の当たりにつき 2点とします。
下附は、全問正解の場合は「全」、その他は点数を漢数字で書き記します。
勝負は、正解者のうち、上席の方の勝ちとなります。
常盤の湖に白い水鳥の姿が美しく
映えています。
木枯らしの便りを聞きますともう冬支度、熊本の冬は内陸性の底冷えと東から吹く「阿蘇颪」で寒いのだそうです。春には「火の国」に引っ越すというので、石油ストーブとウールのロングコードを捨てて来たのですが、こちらに来て最初に聞かされた話は「熊本は暑いし寒いよ。ここに住めれば日本中あとは何処でも大丈夫!」でした。これは名古屋 に赴任した際にも同じことを言われたことがあるものですから、少し余裕で「じゃー、名古屋と比べっこだね!」と内心思って過ごして来ました。
結果、夏の猛暑は「名古屋の勝ち」という感じでした。毎日が快晴でコンクリートが熱を蓄えるだけ蓄え、昼も夜も内も外も「逃げ場のない暑さ」となる名古屋に比べて、熊本は雲の翳りと毎日きちんと降ってくれる夕立に助けられて「蒸し暑くても酷暑ではない」感覚で過ごせました。これから体験するであろう「厳冬」は、期間は短いものの朝の気温はマイナスになり、湿気のある土地柄のため5センチもある「霜柱」が立つそうです。霜柱は、名古屋市内ではお目に掛かれなかったので、そういう話を耳にすると、あの朝日に煌めく白い結晶の美しさやサクサクと踏みしめて歩く際の音や靴底の感触が脳裏に蘇ってワクワクして来ました。
「霜柱」の話をしていて急に食べたくなったのが、今では冬季限定の仙台銘菓となっている九重本舗玉澤の「霜ばしら」です。これは、光沢のある絹糸を束ねたような真珠色の飴で、蜂の巣のような穴の通ったとても軽くてデリケートなお菓子です。そのため口どけが良く、舌に載せて含んだだけでやさしい甘さが広がり、あっという間に溶けてなくなってしまいます。もちろんすべて手作りで、出来上がった飴を缶に整列させて詰めるのも箸で1個1個詰めているのですから驚きです。また、缶の中には防湿と破損防止の目的で餅米を原料とした白い「落雁粉」が入っており、私は、飴を食べ 切った後に、これを黒蜜や蜂蜜で練って手製の「落雁」を作って2度美味しい思いをしていました。そういった薀蓄も含めて、私は茶人の口切りや炉開きの頃に「みちのくから冬の息吹を持ってまいりました」とこれをお土産として差し上げるのが好きでした。
今では「仙台銘菓」となって、ネットでも品薄状態となるこの商品は、実は我が故郷にある「市場屋」が元禄時代に創作した「晒よし飴」が元祖なのです。私は茶筒のような長い丸缶に入った飴を地元のお菓子として親しんで来たものです。もともと、あの多孔質構造は「河原の葦(よし)」を束ねた形をイメージしたもので「上等 な葦飴」という意味で「晒よし飴」と名付け、夫子相伝で製法を代々受け継いでいたということです。そして、市場屋から町内に暖簾分けした「大盛堂」が時代に合わせて、より薄く、小さく、ピュアな味に作り替えたものが「霜ばしら」でした。現在、町内の2つの店は、玉澤の購買力を頼みに 「提携」して、これら2つの商品をOEM生産しているので、販売元の社名が変わるだけで中身はもとより缶の絵柄等も全く同じで販売されています。そのため、いかに品薄でも町内の店では、普通に購入することができるものうれしいところです。「晒よし飴」と「霜ばしら」は確かに「葦」と「霜」の語感が表す程度の長さ、白さ、薄さ、味わい等に微妙な違いがありますので、 皆様も是非食べ比べて見て下さい。
今月は、海山に舞い上がる雪煙「烟雪香」(えんせつこう)をご紹介いたしましょう。
烟雪香は、『外組八十七組(第四)』に掲載のある冬の組香です。同名の組香は聞香秘録の『香道秋乃最中(全)』にも掲載があり、題号が「煙雪香」と記されている以外は、記述内容もほとんど同じとなっています。 「烟」と「煙」は字配りの違いで同義であり、『外組八十七組』でも香記の記載例には「煙雪香之記」と「煙」を当てていますので、頓着しなくていい問題かと思います。他に派生組や同名異組などは見つかりませんでしたので、オリジナルに近い組香ではないかと思われます。このようなことから、 今回は読みやすく、香札についての記述に詳しい『外組八十七組』を出典として書き進めたいと思います。
まず、この組香に証歌はありませんので、この組香をご紹介する際、「そもそも烟雪というのは何を意味するのか?」ということを調べて見ました。辞書的には「雪煙(ゆきけむり)」と同義で、「風で舞いあがって煙のように見える雪」のことを言うらしいのですが、「烟雪」は、日本語の用例に尋ね当たりませんでした。一方、漢詩の世界では「烟雪」というものを美景として織り込んだ用例がたくさんあり、作者は、『全唐詩』などを読みながら、このような景色を連想したのではないかと推測しています。
また、組香の世界には敢えて「白い物と白い物」を掛け合わせて、「白菊香」のように「おきまどわせて」聞き当てにくくしたり、お互いの白さを競わせたりする趣向も多いものです。この組香も「煙のように見える雪」というよう単一の対象物として捉えるのではなく、「煙」と「雪」 という事物の対峙から、様々な場所で「煙か?雪か?」と見紛う「白い景色」を結ぶ組香だと考えた方がよろしいかと思います。 そうしてみると、私には「雪の塩釜」の景色が思い浮かびました。
次に、この組香の要素名は「烟」「雪」と「客」となっています。「烟」と「雪」は題号を分解して要素としたもので、どちらも白い物ですから似通った 香りの香木で組むと面白いでしょう。この組香は「客」にも試香がありますので、所謂「客香」ではなく、単なる「匿名の要素」(3番目の香)として加わっていることが分かります。これらは後に聞の名目を結ぶ素材となり、その組み合わせで「山海の 烟雪」の姿を結ぶのがこの組香の趣向となっています。
さて、この組香の香種は3種、全体香数は15香で本香数は10炉となっています。まず、「烟」「雪」を各6包作り、「客」は3包作ります。次に、このうち「烟」「雪」「客」の各1包を試香として焚き出します。すると手元には「烟」「雪」が各5包、「客」が2包残ります。ここで出典では「烟雪十包打ち交ぜ、内二包抜き、客香2包入れ交ぜ合わせ十包聞くなり。」とあり、「烟」「雪」の各5包を打ち混ぜて、この中から任意に2包引き去り(これは総包に戻して捨て香と する)、残った8包に「客」2包を加えて打ち交ぜ、都合10包を本香として焚き出すことが記されています。そしてさらに 出典には「尤も、二*柱づつにて札打つべし」とあり、本香は10包を2包ずつ5組に分けて焚き出し、連衆は2炉ごとに答えの札を投票する「二*柱聞」とすることが記されています。
これにしたがって、香元は2炉の区切りをイメージしながら焚き出し、2炉ごとに「札筒」や「折居」を回します。連衆はこれを聞き、試香と聞き合わせ、2炉ごとにあらかじめ用意された「聞の名目」と見合わせて、答えの書かれた香札を1枚投票して回答します。
答えとなる聞の名目は、次の通り列挙されています。
香の出 | 聞の名目 | 香札の数 |
烟・烟 | 烟 | 二 |
雪・雪 | 雪 | 二 |
客・客 | 客 | 一 |
烟・雪 | 浦雪(うらのゆき) | 四 |
雪・烟 | 峯雪(みねのゆき) | 四 |
烟・客(客・烟) | 塩竃(しおがま) | 一 ⇒2 |
雪・客(客・雪) | 炭竃(すみがま) | 一 ⇒2 |
※ 塩竃・炭竃について出典には「前後にても…」と記載があり、要素の前後を問わず「烟」と「客」の組合せは「塩竃」、「雪」と「客」の組合せは「炭竃」となります。
このように、同じ要素の組合せはそのままの名目として景色になります。そして、「煙」と「雪」の組合せはその前後 を斟酌して「海の雪」と「山の雪」の景色を結びます。一方、「客」と「煙」、「雪」の組み合わせは、その前後を 斟酌せず「海の煙」と「山の煙」となり、香記の中には「海と山」の「雪と烟」の景色を散りばめることとなります。なお、この組香の景色を思い浮かべる際には、必ず「烟と雪」を付き物と考え、「浦雪」「峯雪」は烟のように舞い上がる様、「塩竃」や「炭竃」の景色には雪を降らすことを忘れてはなりません。
ここで、出典には、各名目の下に最大出現数が漢数字で朱書きしてあり「札は右の通り一人前十五枚用意すべし」と記されています。しかし、「烟」「雪」が本香に各4枚残った場合は「塩竃(烟・客)、塩竃(客・烟)、雪(雪・雪)、峯雪(雪・烟)、浦雪(烟・雪)」や「炭竃(雪・客)、炭竃(雪・客)、雪(雪・雪)、烟(烟・烟)、烟(烟・烟)」などという出目もあります。「客」が2包出る以上「塩竃」と「炭竃」は2枚ずつ必要なこととなり、香札は「1人前17枚」必要となります。香札を用意することは現代では難しいので、名乗紙に聞の名目を5つ書き記して回答する方式でも構わないと思います。
本香が焚き終わりましたら、執筆は折居を開いて各自の答えを香記の回答欄に書き写します。書き終えたところで香元に正解を請い、香元は香包を開いて正解を宣言します。これを聞いて執筆は香記の香の出の欄に正解の要素名を「右左、右左」と横に並べて書き記し、正解の名目を定め、それと同じ答えに長点を掛けます。
点数は、名目の当りを2点と換算します。「塩竃」と「炭竃」が要素の前後を問わないため、2つの要素のうち1つだけを聞き当てた「片当たり」はありません。下附は、全問正解は10点となり、これには「全」と書き附します。その他は点数を漢数字で書き附します。前述のとおり片当たりはありませんので「二、四、六、八」と偶数の点数が付くことになります。 因みに、全問不正解について出典には例示がないのですが、『香道秋乃最中』では「無」が用いられています。
最期に勝負は、最高得点者のうち上席の方の勝ちとなります。
初霜が降りれば、ほどなく初雪の到来となります。皆様も暖かて部屋の中で「烟雪香」を催し、山海に舞う雪煙の冴え冴えとした景色と冷気を心に結んでみてはいかがでしょうか?
霜柱を結ぶ「シモバシラ」という植物があるのをご存知でしょうか?
秋に花が咲くシソ科の植物ですが、冬枯れの時期に根元から水を吸い上げて芸術的な霜柱を結びます。
凍て月の清けき影を身に受けて古城に白き霜柱萌ゆ(921詠)
組香の解釈は、香席の景色を見渡すための一助に過ぎません。
最も尊重されるものは、皆さん自身が自由に思い浮かべる「心の風景」です。
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