初冬から晩冬にかけての時雨と雪の景色を比べる組香です。
双方が異なった試香を聞いて優劣を競うところが特徴です。
※このコラムではフォントがないため「
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説明 |
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香木は、7種用意します。
要素名は、「峯(みね)」「麓(ふもと)」「里(さと)」と「初時雨(はつしぐれ)」「村時雨(むらしぐれ)」「初雪(はつゆき)」「深雪(みゆき)」です。
香名と木所は、景色のために書きましたので、季節や組香の趣旨に因んだものを自由に組んでください。
「峯」「麓」「里」「初時雨」「村時雨」「初雪」「深雪」を各2包作ります。(計14包)
連衆を「時雨方(しぐれがた)」と「雪方(ゆきがた)」の二手に分けます。
「峯」「麓」「里」の各1包は双方に試香として焚き出します。(計3包)
「初時雨」「村時雨」の各1包は「時雨方」のみに試香として焚き出します。(計2包)
「初雪」「深雪」の各1包は「雪方」のみに試香として焚き出します。(計2包)
双方とも5種ずつ試香を聞きます。
手元に残った「峯」「麓」「里」「初時雨」「村時雨」「初雪」「深雪」の各1包を打ち交ぜて順に焚き出します。
香元は、香炉に続いて「札筒(ふだづつ)」または「折居(おりすえ)」を廻します。
連衆は、1炉ごとに試香に聞き合わせて、答えとなる要素名の書かれた「香札(こうふだ)」を1枚投票します。
盤者は、札を開いて、「札盤(ふだばん)」の各自の名乗(なのり)の下に並べておきます。
香元は、香包を開いて、正解を宣言します。
執筆は、各自の答えをすべて香記に書き写し、当否を判別して所定の点星を打ちます。(委細後述)
点数は、自方の香の当たりは1点・外れは2点減点、地の香の当りは1点・外れは1点減点 、客香の当りは2点・外れは減点なしとなります。
下附は、全問正解の場合は「皆」「点九」、全問不正解の場合は「星七」のみ、その他は各自の得失点を「点○」「星○」と並べて書き記します。
勝負は、双方の得点の合計点で優劣を決します。
香記は、「勝方」となったグループの最高得点者のうち、上席の方に授与されます。
阿蘇は白々として参りましたが、里で初雪を見ることは珍しいようです。
年の瀬に「喪中欠礼」のはがきが届く季節となりました。湿っぽい話で今年のコラムを閉じるのも誠に申し訳なく思いますが、今年は、2月に実父、6月に実母、7月に義父が相次いで逝き、10月には義父の弟の訃報も伝えられました。住民同士の繋がりの強い田舎などでは「向こう三軒両隣が相次いで・・・」のような不祝儀も目にしており、「地縁血縁で不幸は続くもの」と感じてはいたものの、今回は姻戚を含む血の縁で「連れて行かれた」感じです。また、聞き及びますと10月には三條西古都様もお隠れにな られたとのこと、御家流香道を長年にわたり発展継承されていらっしゃったご生前のご功績を偲び、謹んで哀悼の意を表する次第です。このように、始終、喪服に身を包み、手向けの香を刻み、焚くばかりの1年でしたので、何をどう考えても「故人を偲ぶ年の暮れ」にならざるを得ませんでした。
この年齢になると「喪中欠礼」の到着が年によっては10枚に達することもあり、「昭和一桁からの世代交代」を薄々感じてはいましたが、今年は私自身が初めて「胡蝶蘭のはがき」を出す羽目になりました。この年齢になって「初めて」というのも珍しいのかもしれませんが、成人してから2親等までの親族が亡くなることは無かったため、数年前に友人が亡くなった際にどうしても「年賀」の気分になれず、はがきも出さずに自主欠礼してしまったこと以外に経験はありませんでした。
郵便局で「胡蝶蘭のはがきを・・・」と伝えただけで局員さんが神妙な顔になり、丁寧に応対してくれたのは「ありがたい驚き」で、百箇日もとうに過ぎ、少し哀悼の心が薄れつつあった私は 、この「神対応」にかえって恐縮したものです。はがきの文面等はお仕着せの文句ですが、「喪中欠礼は故人の最後のお知らせ」と言いますので、偕老同穴ではない実父母と義父の3名を列記しました。背景は母の遺影や墓碑銘にもあしらった「藤」としました。もうこうなると母は「藤下の君」のイメージが末代まで定着することでしょう。母が本当に好きな花はサツキでしたが、遺影には艶やか過ぎるので私たちの好みで白藤にしたのです。藤は私に言わせれば「未だ女を諦めていない尼僧の香り」ですから、「男勝りの猛母」だった母としては草葉の陰で苦笑いをしているかもしれません。男性軍には申し訳ないのですが、やはり男の子は「たらちね」優先です。「百合」が好きだった父には、帰省の際に百合と乳香を十字架に手向けることで許してもらいましょう。義父は、キャラメルが好きでしたので、いつもこっそり病室に差し入れて家族の近況を報告していたものです。「森永ミルクキャラメル」を見るたびに「厳しかった」という義父の優しい顔が目に浮かびます。カメヤマローソクの「森永ミルクキャラメル線香」も是非復活してもらいたいと願っています。
私自身は40歳から「終活」を始めていましたが、これで「いよいよ自分が最前線!」という実感がしてきました。こうなりますと、命を長らえる間に再び溜まってしまった「ひと・もの・こと」を断捨離するにも臨場感が違います。これからは極力「残すものはわかりやすく」「捨てるものは跡形もなく」をモットーに生きて行こうと思います。今年の除夜の鐘は、雪景色の中に響くでしょうか?亡き人のレクイエムとして、家族と思い出話をしながら聞きたいと思います。
今月は雨と雪とが冬の美景を競う「二景香」(にけいこう)をご紹介いたしましょう。
「二景香」は『軒のしのぶ(七)』に掲載のある組香です。序数を冠した組香は数々ありますが、「二」を使ったものは用例が少なく、牽牛織・女が登場する「二星香(ふたほしこう)」くらいではないかと思います。また、「景」を用いた組香で最も有名ものには「三景香」があり、これは日本三景をテーマにして「松島」「天橋立」「厳島」を「舟」で巡るという趣向の4種組です。「二景香」の題号を目に留めて、私はすぐさま「三景香」を思い出し、「何処の景色を選りすぐって対峙させたのかな?」と興味を持ったのですが、対峙されたのは「冬の雨と雪の景色」でした。このように近親関係にあるといっても過言ではない気象の取り合わせに機微を感じ て、今回ご紹介することといたしました。この組香は他に類例も見られないため、『軒のしのぶ』を出典として書き進めて参りたいと思います。
まず、この組香に証歌はありませんが、要素名や連衆を「時雨方」「雪方」に分けるという趣向から、冬の風物である「雨」と「雪」の2つ景色を対峙させた組香であることが分かります。
この組香の景色を彩る要素名は、「峯」「麓」「里」という場所を表す要素と「初時雨」「村時雨」「初雪」「深雪」という気象を表す要素の2つに大別されます。「峯」は山の頂上、「麓」は山の下、「里」は人の住んでいる平地のことで、これらの場所を表す要素には高低差があります。一方、「初時雨」はその年初めて降る時雨、「村時雨」とはひとしきり激しく降ったり止んだりを繰り返す雨、「初雪」はその年初めて降る雪、「深雪」は深く降り積もった雪のことですから、気象を表す要素には寒くなり始めの「初冬」から 「厳冬」に至るまでの時期の違いがあります。このように、それぞれの要素が異なった「景色の温度」を持っており、その濃淡が綾なして、この組香の冬景色を完成さていると言っていいでしょう。
次に、この組香の香種は7種、全体香数は14包、本香数は7包となっています。構造的には至って簡単で、「峯」「麓」「里」「初時雨」「村時雨」「初雪」「深雪」を2包ずつ作り、そのうち1包ずつを下記の方式に基づいて試香として焚き出します。すると手元には7種の香が1包ずつ残りますので、これを打ち交ぜて焚き出します。
ここで、出典には「時雨方、雪方とわかれて聞くなり」とあり、この組香は連衆があらかじめ二手に分かれ、そのグループの総合得点で勝負の優劣を決める「一蓮托生対戦型ゲーム」となっていることがわかります。そのため、連衆は席入りの前に衆議や抽選等によってグループ決めをして、本座に着座します。
続いて、出典には「時雨方に初雪、深雪の試みなし」「雪方に初時雨、村時雨の試みなし」とあり、双方で聞くことのできる試香の種類が異なることとされています。これが、この組香の第一の特徴となっています。つまり、「時雨方」は「峯」「麓」「里」「初時雨」「村時雨」の5種を「雪方」は「峯」「麓」「里」「初雪」「深雪」の5種を聞き、お互いに試香で聞くことができなかった2種ずつの要素は、それぞれ の「客香」として取り扱うこととなっています。
さて、本香は7種7包となっており、各要素が打ち交ぜられて1包ずつ焚き出されることとなります。この組香は、「札打ち」で行いますので、香元は香炉に添えて札筒や折居を廻します。連衆はこれを聞き、試香と聞き合わせて 、これと思う札を1枚投票します。回答方法に香札を使用することは、出典の最後に「札打やう」として十種香札を流用するかたちでこのように列挙してあることから推測できます。
峯 一の札 麓 二の札 里 三の札
時雨方にて
初時雨 花一の札 村時雨 花二の札 雪二種とも 客の札
雪方にて
初雪 花一の札 深雪 花二の札 時雨二種とも 客の札
これをわかりやすく表に示すと次の通りとなります。
区分 | 要素名 | 札裏の紋 |
共通 | 峯 | 一 |
麓 | 二 | |
里 | 三 | |
時雨方 | 初時雨 | 一(花) |
村時雨 | 二(花) | |
初雪・深雪 | 客 | |
雪方 | 初雪 | 一(花) |
深雪 | 二(花) | |
初時雨・村時雨 | 客 |
※ (花)とは、十種香札で番号に桜の花が付記されている札
ここで、察しのよろしい方は、「時雨方に初雪、深雪の試み無し、雪方に初時雨、村時雨の試み無しでは、双方とも客香が2種同数出るので区別がつかないのでは?」と心配なさっていたかと思います。これについては、上記の香札の打ち方と香記の記載例から「2種の客香はそれぞれを区別せず単に『客』として扱う」ことが見て取れます。そのため、「時雨方」は「初雪」「深雪」の区別なく「客」の札を投票し、「雪方」も同様に「初時雨」「村時雨」を「客」と打てば良いことになります。
香炉と札筒等が返って参りましたら、盤者(いない場合は執筆)が香札を取り出して札盤の上に伏せて仮置きします。(札盤の無い場合は、札筒から番号のついた折居に移し、手前座の右に並べて置きます。)香札が返った時点で 、その都度香記を書いてしまう方法もあるのですが、後半の答えが連衆に推察されることを避けるためにも「後開き(のちびらき)」とした方がよろしいかと思います。
本香が焚き終わりましたら、盤者は札を開き、執筆は香記に各自の答えを書き写します。各自が「客」として打った札2枚は要素を区別せず、記録でも「客」と記載します。執筆が答えを写し終えましたら、香元に正解を請い、香元は正解を宣言し、執筆は香の出の欄に「初雪」「深雪」「初時雨」「村時雨」を含め要素名をそのまま1列に書き記します。
続いて、執筆は、正解と各自の回答を見合わせて当たりの場合は各自の答えの右肩に「点」を付し、外れには「星」(過怠の星)を記します。「初雪」「深雪」「初時雨」「村時雨」については、各方の「客」に読み替えて当否を判断しますので、間違えないように注意しましょう。香記に「点星」のつくところが、この組香の第二の特徴となっています。
これについては出典にこのように列挙されています。
時雨方
時雨の香当り 一点 あたらざるは 星二つ
初雪、深雪の香当り 二点 同 星なし
峯、麓、里の香当り 一点づつ 同 星一つ
雪方
雪の香当り 一点 あたらざるは 星二つ
時雨の香当り 二点 同 星なし
峯、麓、里の香当り 一点づつ 同 星一つ
これをわかりやすく表に示すと次の通りとなります。
要素名 | 区分 | 当 | 否 | |
時雨方 | 初時雨、村時雨 | 自方の香 | 1点 | −2点 |
初雪、深雪 | 客香 | 2点 | 減点なし | |
峯、麓、里 | 地の香 | 1点 | −1点 | |
雪方 | 初雪、深雪 | 自方の香 | 1点 | −2点 |
初時雨、村時雨 | 客香 | 2点 | 減点なし | |
峯、麓、里 | 地の香 | 1点 | −1点 |
このように、試香で聞いたことのある香の当たりはそれぞれ1点の得点とし、試香で聞いたことのない「客香」は2点の加点要素があります。一方、「自方の香」の外れは「過怠」として2点減点し、「地の香」の外れは1点減点、「客香」の聞き外しはお咎めなしとするように記載されています。因みに、この組香の全問正解は客香2つに加点要素があるため9点、全問不正解は客香2つに減点なしがあるため−7点となります。
最後に、この組香の下附は、各自の「点」と「星」それぞれの合計を左右に「点○」「星○」と並記します。なお、「二景香之記」の記載例では、全問正解は「皆」と「点九」を並記し、全問不正解は「星七」のみを記載しています。
勝負は、各自の得失点を差し引きしてグループごとに集計します。グループの総得点は「時雨方」「雪方」の見出しの下にそれぞれ書き記し、総得点の多い方の点数の下に「勝」、少ない点数の下に「負了」と記載します。双方同点の場合は「時雨方」の下に「持」と記載します。
こうして、総得点の多い方が「勝方」となり、香記は勝方の最高得点者のうち上席の方に授与されます。
来年の六十干支は丙申(ひのえ さる)です。
旧勢力と新勢力とが拮抗して生み出されていた混沌が次第に形になり
陽転したエネルギーがすくすくと枝葉を伸ばし成長を示していくこ年となるようです。
我が家系もそんな流れの中にあるのかもしれませんね。
親は朽ち子は茂勝る産土の我やいかなる肥となるらむ(921詠)
今年も1年ご愛読ありがとうございました。
良いお年をお迎えください。
組香の解釈は、香席の景色を見渡すための一助に過ぎません。
最も尊重されるものは、皆さん自身が自由に思い浮かべる「心の風景」です。
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