月の組香

      

香の出の「同香」を和歌の句の「同音」と符合させる組香です。

正解の第1句を定めてから第4句で答えるところが特徴です

慶賀の気持ちを込めて小記録の縁を朱色に染めています。

 

説明

  1. 香木は5種用意します。

  2. 要素名は、「こころにも」「ほととぎす」「ちぎりおきし」「すみのえの」「きみがため」です。

  3. 香名と木所は、景色のために書きましたので、季節や組香の趣旨に因んだものを自由に組んでください。

  4. 「こころにも」「ほととぎす」「ちぎりおきし」「すみのえの」「きみがため」それぞれ2包ずつ(計10包)作ります。

  5. これを、各1包ずつ2組に分けます。

  6. A組とB組をそれぞれ組ごとに打ち交ぜます。(各組の香包の順序を変えるためです。)

  7. AとBの各組のうち、それぞれ1包ずつを交換します。(A組の1包をB組へ、B組の1包をA組へ)

  8. この組香に試香はありません。

  9. 本香は、任意のどちらか1組(計5包)のみ焚き出し、残った1組は総包に戻します。

  10. 本香は、5炉回ります。

  11. 連衆は、香の異同を判別し記号等でメモ書きしておきます。

  12. 本香が焚き終わりましたら、香の出と「聞の名目」を見合わせて正解となる和歌を定めます。

    (香の出の同香と第一句の同音が符合していることに注意してください。)

  13. 答えは、聞の名目の含まれる和歌の第4句を名乗紙に書き 記して提出します。

  14. 執筆も同じようにして正解となる第4句を定め、当たりに「点」を掛けます。

  15. この組香に下附はありません。

  16. 証歌は、正解となった和歌を一首、記録の奥に書き記します。

  17. 勝負は、正解者のうち、上席の方の勝ちとなります。

 

  皆様方には、輝かしい新春をお迎えのこととお慶び申し上げます。

肥後の地は、唯一の「冬日」がマイナス2℃だったので、期待していた「5センチ級の霜柱」は見ることができましたが、室温20℃前後の恵まれた住環境の中、ほぼエアコン暖房のお世話にならずに正月を迎えることとなりました。土地の人に「本格的に冷えるのは正月過ぎだよ」と言われても、まだまだ「肥後の底冷え」に半信半疑なところがあります。子供の頃の我が家は「練炭火鉢」と「豆炭コタツ」が暖房器具の主力でした。石炭が豊富に取れた北海道と違って、東北の家庭ではストーブなどという全室暖房は贅沢の極みであり、たくさん着込んだ上に「どんぶく(綿入半纏)」を羽織って背中からの冷えに備え、小さな火を皆で囲んで寒い冬を過ごしていました。それでも家族と囲むコタツは、また別の暖かさがあり、故郷を出て独り暮らしをしている私がいくらエアコンの温度を上げても得られない温もりが懐かしく感じられます。

コタツと言えば「コタツにミカン」も冬の原風景でした。昔は、「温州みかん」を箱で買ってコタツの中央に常備し、「おもてなし」からちょっとした水分やビタミン補給まで「これ一本」というほどの頼りようでした。熊本に来て最初に見た柑橘類は、初夏に旬を迎えた 「河内晩柑」で、これは和製グレープフルーツのようにジューシーな味わいでした。その後、宮崎で「日向夏」を見た頃から少し間をおいて・・・9月の下旬には「豊福」「肥のあけぼの」などの極早生種、10月には「肥後」「興津」などの早生種が良い香りを放ちはじめ、12月には「青島」「金峰」などの普通種のミカンが出回って本格的な旬を迎えました。土地の人に「県内産のテーブルオレンジでは何処が一番旨いの?」と聞くと、海岸沿いの「河内」や「三角」のものが良いとのことでした。このあたりは西海岸の切り立った斜面にミカンがたわわに 実って、黄金の山津波のように覆いかかってくる壮観な景色の見られる地域です。どうも吹き付ける潮風がミカンの甘みを増すのに良いらしいとのことでした。確かに子供の頃、台所においてあった「温州みかん」の箱には「みすみのみかん」「河内みかん」と書いてあったのを思い出し、これらが熊本産だったのだと初めて気づきました。当地では、農協に出せない「はねもの」のミカンも「産地もの」として出回るのですが、どれもこれも完熟果実ですので、小ぶりながらズッシリと実が詰まって糖度も高く、まさに「外れ無し」の味わいです。また、農園を廃業した後に自然に成ってしまったミカンもいただきましたが、果樹が自力で無理なく実を結んだものですので、これは糖度のみならずミカン本来の酸味のバランスや香りも秀逸でした。

そこで「温州みかんとは九州や熊本産のことなのかな?」と妙に納得しようとした時、静岡でも和歌山でも愛媛でも「温州みかん」と箱に書いてあったことに気がつきました。東北にいれば「全て暖かい南の地域で取れるミカン」なので、あまり気にも留めていなかったのですが、「いったい温州とは何処なんだろう?」と新たな疑問が湧きました。調べてみますと、「温州」は、日本の地域名ではなく、中国の浙江省にある 「温州(ウェンジョウ)」という市の名前から来ているとのことでした。どうも「温州」が柑橘類の名産地であったことが書物で日本に伝わり、その「ブランド」にあやかって命名され、室町時代末期には「温州橘」として流通していた ようです。さらに、その原産地は中国ではなく、熊本県に程近い鹿児島県出水郡長島町といわれています。このことから、欧米の方が「TV_Orange」や「Mikan」と呼ぶ「温州みかん」は、その来歴が正しく認識されて「Satuma」とも呼ばれているそうです。

柑橘類の宝庫である熊本は、日本最大の柑橘類である「晩白柚(ばんぺいゆ)」も出回りはじめ、緑色なのに甘い「スィートスプリング」やレモン色の「パール柑」、人気の高い「デコポン」など色かたちの異なる柑橘類が次々と店先に並びます。「極早生ミカン」から「晩柑」にいたる1年の柑橘カレンダーを「花暦」のように楽しめるのも南国ならではのことだとうれしく思います。

今月は、お香による新春かるたとり「歌合香」(うたあわせこう)をご紹介いたしましょう。

「歌合香」は、日本香道協会会誌『香越理(かおり)』第14・15・16合冊号に掲載された、昭和時代の新作組香です。作者の三條西花暁(古都)宗匠は、先代の御家流香道宗家である尭雲宗家の御内室で、先々代尭山宗家の時代から長きにわたり御家流香道の継承発展に寄与して来られた方です。 もともと「かおり」は、日本香道協会の機関誌として三条西尭山宗家の手により「もうすぐ100号」というところまで発行されていましたが、昭和39年8月1日に第1号『香於理』(2号から『香越理』と表記)が会誌として発刊され、昭和55年5月25日の「尭山宗家追悼号」まで全20号が発行されています。この頃、日本香道協会を中心にした香道復興の流れの中では、たくさんの組香が創作されました。『香越理』には、女子大の香道部員をはじめ、たくさんの門人たちが自ら創作したコンテンポラリーな組香が披露されています。ただし、その多くは「処女作」であるため非常に思い入れの強い作品となっており、その「力み」のせいか複雑なものや前衛的な ものなど「・・・過ぎたるもの」が多く、悠久の歴史の中に取り入れられた組香は多くありませんでした。その中で今回ご紹介する「歌合香」は、古来の様式を継承しつつ、我々にとって身近な「百人一首」という題材を誰も気がつかなかった方法で見事に組香に昇華させており、その着想と努力は敬服すべきものがあると思いました。このようなことから、今回は『香越理』を出典として「未来に継承すべき昭和の組香」をご紹介し、花暁宗匠へのレクイエムとしたいと思います。 

まず、この組香の証歌は全部で11用意されていますので、以下に列記します。

心にもあらで憂き夜に長らへば恋しかるべき夜半の月かな(百人一首68番歌 三条院)

有明のつれなく見えし別れより暁ばかり憂きものはなし(百人一首30番歌 壬生忠岑)

これやこの行くも帰るも別れては知るも知らぬもあふ坂の関(百人一首10番歌 蝉丸)

世の中よ道こそなけれ思ひ入る山の奥にも鹿ぞ鳴くなる(百人一首83番歌 皇太后宮大夫俊成) 

ほととぎす鳴きつる方をながむればただ有明の月ぞ残れる(百人一首81番歌 後徳大寺左大臣)

あらざらむこの世のほかの思ひ出にいまひとたびの逢ふこともがな(百人一首56番歌 和泉式部)

契りおきしさせもが露を命にてあはれ今年の秋もいぬめり(百人一首75番歌 藤原基俊)

秋の野に人松虫の声すなり我がかとゆきていざとぶらはん(古今和歌集202 詠み人知らず)

住の江の岸に寄る波よるさへや夢の通ひ路人目よくらむ(百人一首18番歌 藤原敏行朝臣)

嘆きつつひとり寝る夜の明くる間はいかに久しきものとかは知る(百人一首53番歌 右大将道綱母)

君がため春の野に出でて若菜摘むわが衣手に雪は降りつつ(百人一首15番歌 光孝天皇)

以上のように、そのほとんどが「小倉百人一首」から引用されています。この証歌が選ばれた理由は後ほど種明かしをするとして、おそらく作者は「全ての証歌を 『百人一首」』から取り揃えて、お香のかるたとりをしたい」と思っていたことでしょう。しかし、残念ながらひとつだけ条件に合った和歌が見つからなかったため、「秋の野に…」の歌だけが古今和歌集からの引用となったものと思われます。「あきののという言葉だけであれば、37番歌に「白露に風の吹きしく秋の野はつらぬきとめぬ玉ぞ散りける(文屋朝康)」もあったのですが、おそらくこの組香の一番の主題である「お香のかるた取り」のイメージを大切にするために「詠み出しは第1句であること」にこだわったのだと思います。

次に、この組香の要素名は、「こころにも」「ほととぎす」「ちぎりおきし」「すみのえの」「きみがため」となっており、証歌の中から5首を選び 、その第1句を配置しています。選定の理由を推測することは難しいですが、三条院(出典では「三條院」)の「こころにも」の採用は必須として、比較的階位の高い方の詠歌を採用して雅趣を高めるという配慮もあったかもしれません。しかし、私は、三条院の歌の後に3つ飛んで「ほととぎす」以降は1つおきに採用されているという機械的選定方式に も着目しています。全部を1つおきに選定すると要素が6つになってしまうので、和歌の句数と合いません。そこで、逢坂の関に閑居していた坊さんにはご遠慮願って5つに調整したのではないかと推測しています。惜しむらくは、機械的選定によって「ほととぎす」のような季節感があらかじめ小記録に現れてしまい、「正月のかるたとり」をはじめ四季折々に用いづらいところが残念です。この点は、皆様も小記録をご覧になって違和感を持たれたかもしれません。思うに、ここでの要素名は、本香で聞の名目を結ぶための素材にすぎませんので、「特段の景色付けが必要か?」ということもあります。私は、単純に「一」「二」「三」「四」「五」や「う」「た」「あ」「わ」「せ」と匿名化してもシンプルで良 かったのかなと思います。また、小記録の景色として「歌がたくさん鏤められている」というイメージを残すのであれば、要素名は季節感の目立たない句のみを配置するとか、季節に沿った句を時期に応じて自由に選定するという工夫も必要かと思います。 

さて、この組香の香種は5種、全体香数は10包、本香数は5炉となっています。まず、「こころにも」「ほととぎす」「ちぎりおきし」「すみのえの」「きみがため」を各2包作り、これを各1包ずつ5種類を2組に分けます。次に2組をそれぞれ打ち交ぜて、各組それぞれ1包を交換して戻します。このようにすると、交換された香が「異香」だった場合は、各組に必ず2つ同じ香が含まれること(4種5香)になります。一方、交換された香が「同香」だった場合は、元に戻っただけなので全て別の香(5種5香)となります。本香はそのうち1組だけを焚き出し、残る5包は捨香として総包に戻します。

ここまで来たところで皆様は平成12年4月にこのコラムでご紹介した「小鳥香」を思い出すかもしれません。実はそのとおりで、この組香の構造は「小鳥香」そのものなのです。小鳥香は「5香のうち何番目に同香が出たか(または全て異香が出たか)」を探り「ももちどり」「ほととぎす」「よぶこどり」等の鳥の名を結ぶ組香です。これは、5種の香を鳥の羽色に見立てて2包ずつ作り、それを雌雄に見立てて 、A・Bの2組に分割していると言われています。「歌合香」もこれと同じ趣向であり、A・Bの2組に分割して、そこから1包ずつの交換 しますが、これは、歌合せの「左方」「右方」に見立て、詠み手が1人選ばれて「対戦」する様を表すものでしょう。そうして詠まれた和歌の読み出しである第1句の5つの言葉に寄せて5香を焚き、同香の出た順番、または同香が出なかったことから、この組香の証歌を探るように作られています。なお、この組香は、香の異同のみを判別すれば答えることができるため試香がありません。

本香は、5包を打ち交ぜて順に焚き出します。連衆は、最初の香を聞き、仮に「一」とでもメモして起きましょう。そこからは、香の異同のみを聞き比べて1炉目と2炉目が違っていたら「二」、3炉目も前の2つと違っていたら「三」とします。これは「無試十*柱香」と同じです。以降4炉目、5炉目と聞いて結果「一」「二」「三」「四」「一」となっていたら「1炉と5炉が同香だった」ということです。仮に「一」「二」「三」「四」「五」となっていたら「全て異香だった」ということです。

本香を聞き終わりましたら、連衆は名乗紙に回答を書き記して提出します。その際注意すべきことが2点あります。まず、回答にはあらかじめ用意された「聞の名目」があります。

聞の名目は下記のとおりです。

香の出と聞の名目

香の出 聞きの名目 答え
一と二が同香 こころにも 恋しかるべき
一と三 〃 けの  暁ばかり
一と四 〃 れや 知るも知らぬも
一と五 〃  のなか 山の奥にも
二と三 〃 ととぎす ただ有明の
二と四 〃 いまひとたびの
二と五 〃 りお あはれ今年の
三と四 〃 あきのの 我がかとゆきて
三と五 〃 すみ 夢の通ひ路
四と五 〃 なげきつつ いかに久しき
全部別香 きみがため  わが衣手に

このように第1句に同じ文字を持つ組合せが11個用意されています。連衆はこれと自分のメモを見合わせ、正解の証歌を割り出します。たとえば「一」「二」「三」「四」「一」となっていた場合は「のなか」の歌が正解だと仮定します。ここで出典では「答えとしては、和歌の第四句を書く。例へばすみのえのなら夢のかよいじと答える。」と記載されており、「よのなかよ」の歌だと思えば、名乗紙には第4句の「山の奥にも」と書き記して提出します。同香がひとつもなかったと思えば「きみがため」ですので「わが衣手に」と答えます。これは「百人一首」の「読み札」と「取り札」をイメージした趣向かと思います。

連衆の答えが出揃いましたら、執筆はこれを開き各自の答えを書き写します。ここで出典の「歌合香之記」の記載例では、連衆の名前を下に 、答えを上に書くように書かれています。そのため、執筆はいつも下附を書く位置に連衆の名乗りを書き記し、その上に各自が回答した歌の第4句をそのまま書き記します。執筆が正解を請う合図をしましたら、香元は香包を開いて正解を宣言します。執筆は読まれた5つの要素名から同香の有無、同香の出た順番を記憶し、正解となる「聞の名目」(第1句)を香の出の欄1つ、ひらがな5文字で書き記します。その上で執筆は、正解の「聞の名目」に対応した答え(第4句)を定めて、各自の回答欄から同じものを探して合点を掛けます。

この組香には点数と下附はありません。回答となった第4句の当否を示す合点だけが、各自の成績を示すこととなります。ここで、出典の「歌合香之記」の記載例には証歌の記載がありませんが、ここは御家流らしく、正解となった証歌を一首、記録の奥に朱で認める方がよろしいかと思います。お正月ですので料紙には是非「つまぐれ」もお忘れなく。

最後に勝負は、正解者のうち上席の方の勝ちとなります。お稽古始めやお初席であれば、「豪華賞品付き」も一興かと思います。

「歌合香」は、要素名を工夫すれば時宜に応じて催行できる雅な組香です。お友達が集まる際にでも「かるたとり」の替わりになさってみてはいかがでしょうか。

 

みかんの白い筋(アルベド)は私に必須な健康食品らしいのですが・・・

無意識に剥いていると私の職人気質が勝手に作動して「全き追求」をしてしまい

ハロウィンのカボチャのようになったものを食べています。

初天神花咲かなむと請う人に色玉垣やかほりそめたり(921詠)

本年もよろしくお願いいたします。

組香の解釈は、香席の景色を見渡すための一助に過ぎません。

最も尊重されるものは、皆さん自身が自由に思い浮かべる「心の風景」です。

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