木・火・土・金・水の五気から景色を結ぶ組香です。
香包の半分を「捨香」としてしまうところが特徴です。
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説明 |
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香木は5種用意します。
要素名は、「木(もく) 」「火(か)」「土(ど) 」「金(ごん)」「水(すい)」です。
香名と木所は、景色のために書きましたので、季節等に因んだものを自由に組んでください。
「木」「火」「土」「金」「水」は 各5包作ります。(計25包)
まず、「木」「火」「土」「金」「水」の各1包を試香として焚き出します。(計5包)
次に 、手元に残った「木」「火」 「土」「金」「水」の各4包 を打ち交ぜます。(5×4=20包)
本香は、「二*柱開(にちゅうびらき)」として、2炉ごとに1つ答えを出しながら5組で10炉廻ります。(2×5=10包)
※ 「二*柱開」とは、2炉ごとに連衆が回答し、香元が2炉まとめて正解を宣言するやり方です。
−以降8番から12番までを5回繰り返します。−
香元は、2炉ごとに香炉に続いて、名乗紙の載った「手記録盆(てぎろくぼん)」を廻します。
連衆は、2炉ごとに試香に聞き合わせて、あらかじめ用意された「聞の名目」を1つ書き記します。
香元は、2炉ごとに香包を開いて、正解を宣言します。
執筆は香記の回答欄に全員の回答を書き写します。
香元が、正解を宣言したら、執筆は要素名から正解の名目を定め、当った名目の右肩に 長点を掛けます。
また、本香で焚かれなかった香包は、総包に戻し「捨香(すてこう)」とします。
点数は、名目の当たりにつき 1点と換算します。
下附は、全問正解の場合は「五双」、その他は点数 に「双(そう)」の字を加えて「○双」と書き付します。
勝負は、正解者のうち、上席の方の勝ちとなります。
朝な夕なに薄氷が張っては消える季節となりました。
霜月の声を聞きますと、我が家の界隈は大崎八幡宮の「七五三参り」に訪れる家族連れでにぎわいます。三歳のお嬢ちゃんはフワフワの被布を纏って本当にかわいらしく、五歳の男の子は凛々しさの片鱗を見せ始め、七歳の女の子は晴れ着姿の気恥ずかしさと誇らしさの狭間で非常にいい表情を見せてくれます。色鮮やかな晴れ着を纏ったお子さんがお父さんとお母さんに両手を取られ、石段を登っていく姿は厳粛な儀式にすら見え、他人事ながら「この家族に幸多かれ」と心から思わせます。
私の七五三は、白石市の城跡にあった「神明社」でした。当時は洋装が流行りでしたし、家族がカトリックだったこともあって、半ズボン・白タイツのスーツにベレー帽という所謂「よそゆき」を着て出かけ、翁・媼と蓬莱山の図柄も鮮やかな「千歳飴」を買ってもらった覚えがあります。写真好きだった父のせいもあり、私のアルバムには姉と二人で千歳飴を持つ 良家の子女風の姿が残っています。私は、あの「にちょにちょ」して歯にくっくつ千歳飴が好きで、口の中で温めては細長く伸ばし、手で温まった部分では飴細工を作ったりして遊びました。そんな嗜好を理解してか母は小学生の中学年あたりまで、毎年千歳飴を買って来てくれたことを思い出します。
そんな私も親として2人の娘の七五三参りを都合4回行いました。真新しい晴れ着を着つけしてもらい、初めて唇と眦に紅を指して、「お姫様」として出来上がっていく姿は、何度見ても見飽きないものでした。長女は、三歳の時には鈴のついた草履を鳴らしながら境内を走り回っていたのですが、七歳の時には自分の好きな着物の柄を選び、モデルさんのようにしとやかに立ち居振る舞っていたのが印象的でした。「おきゃん」が売り物の次女が三歳の時は、儀式そのものよりも自宅に帰って着物を脱いだ時の解放感でクネクネ踊りをする姿が印象的でしたし、七歳の時には私の構えるビデオカメラにリポーターのように食いついて、実況と解説を加えて来たものです。名リポーターのおかげでドキュメンタリー作品のように仕上がった家族の記録は、今でも観ると笑えます。
境内の長い石段を登っていく時、それぞれの親が子供に向けていた視線には、ほぼ同じものが込められており、子も無垢な目線で両親を見上げています。それが幾星霜を経て、家族の遍歴の中で変化していくことは必定だと思いますので悲しんではいけません。ただ、ある時期、諸事に紛れて皆の目線が離れてしまっても、各自の人生が定まって行くうえで、雑事を削ぎ取っていくと、そこにはもう一度、親と子の「むきだしの愛」が現れてくると思います。そして、最後には子は親の手を取って光の道を進む姿に回帰するものだと思います。親を嫌う子もなく、子を嫌う親もいません。口や態度で分からなくても心の底で繋がっていて、必ずそのことが核心として現れてくると信じましょう。「出生」や「初宮詣」の喜びは親の記憶であって子供と共有できませんが、「七五三参り」は親と子が「僕たちは何より強い絆で結ばれている〜♪(by MIWA「結」)」という思いを記憶に留める原点だろうと思います。晴れがましい家族の背中に「思い出せは『ほっこりする』家族の記憶を大切にしてね!」と思いを向ける小春日和です。
今月は、五気が万象を結ぶが如く、季節の景色が現れる「土金香 」(どごんこう)をご紹介いたしましょう。
土金香は、聞香秘録の『勅撰新十與香之記(全)』に掲載のある組香です。「土金」という言葉から、少しお茶目な方は「アンパンマンのドキンちゃん」が頭に浮かぶでしょうか?即座に「陰陽五行説」を思い起こされた上級者の方であれば、季節が「秋(7、8、9月)」と見えてくると思います。私も最初は題号を見て「秋の組」と見なしていましたが、詳しく中身を見ると景色は四季に通ずるものがありましたので、分類としては「雑の組」するのが正しいと思います。「木(もく)、火(か)、土(ど)、金(ごん)、水(すい)」から来る組香は、平成12年の11月に「五行香」を紹介しており、これが「青、赤、黄、白、黒」に派生した「五色香」も平成15年5月にご紹介しています。今回ご紹介する組香は、「五行香」と称しても不都合はなく、なぜ「土」と「金」と2要素だけを題号に据えたのかは推測がつきませんが、他所に類例も無いので『勅撰新十與香之記』を出典しとして、書き進めて参りたいと思います。
まず、題号となっている「土」「金」が五気の一部であるという種明かしは既に済んでいることから、「陰陽五行説」について少し復習しておきましょう。陰陽五行説は、古代中国の思想哲学で日本でも6世紀頃から天文や暦、易へと様々な分野に利用されていました。「陰陽」とは、「この世は、すべて『陰』『陽』のバランスで成り立っている。」という考えです。宇宙は初めただひとつの気からなり、太陽と月、天と地、男と女と言ったものは元来1つの物だったので、相反する性質を持ちながらも単独では存在し得ず、お互いの存在があってこそ存在し得るという考えです。その陰と陽が混ざり合って派生した5つの要素が、「木、火、土、金、水」の「五気」であり、その五気が互いに影響を与え合い、生滅盛衰することによって天地万物が変化し現れる作用が「五行」です。
「五行」は様々な事物に派生していますので、組香の舞台づくりの前の「土台」として下表を示します。
五行 |
陰陽 |
十干 |
十二支 |
五色 |
五方 |
五時 |
五惑星 |
木 |
陽 |
甲、乙 |
寅、卯 |
青 |
東 |
春 |
木星 |
火 |
陽 |
丙、丁 |
巳、午 |
赤 |
南 |
夏 |
火星 |
土 |
中 |
戊、己 |
辰、未 戌、丑 |
黄 |
中央 |
土用 |
土星 |
金 |
陰 |
庚、辛 |
申、酉 |
白 |
西 |
秋 |
金星 |
水 |
陰 |
壬、癸 |
亥、子 |
黒 |
北 |
冬 |
水星 |
こうしてみると、題号である「土金」の語感は、中心から少し陰気を帯びた地点に位置することが分かります。ただし、この組香で「土金」が特に重く用いられている部分はないので、もしかすると 、この組香は香席を催行する時期に合わせて「秋は土金香」「冬は金水香」などと題号を変えて楽しむ組香だったのかもしれません。
次に、この組香の要素名は「木」「火」「土」「金」「水」となっており、先ほどの「五気」がそのまま据えられています。これらの要素を組み合わせて、四季に現れる景色を結ぶことがこの組香の趣向となっています。
さて、この組香の香種は5種、全体香数は25包、本香数は10炉となっており、ことさら「五」にこだわっているようにも見えます。構造については、まず「木」「火」「土」「金」「水」を5包ずつ作ります。この時に心掛けたいことは、「要素の陰陽と香木の陰陽を合わせること」です。できれば陽気である「木」「火」には伽羅、羅国、寸聞多羅のような陽香を当てはめ、陰気を帯びる「金」「水」には真南蛮、真那賀、佐曽羅などの陰香を使うと良いでしょう。「土」は中庸ですので、新伽羅や黄熟香や沈外(壇香、降真香)など特別な香を自由に用いると面白いかもしれません。そうすることで、香組も陰陽和合し香気のバランスが良くなるほか、五気から生まれ出る現象というものを香りで実感することができます。次に、「木」「火」「土」「金」「水」各5包のうち1包ずつを試香として焚き出します。こうして試香では5気の循環を連衆に体感してもらいますので、連衆は それぞれの香気を聞き覚えるのみならず、「木→火→土→金→水」の香りの連綿も記憶に留めていただきたいと思います。
試香が焚き終わりましたら、本香を作ります。これについて出典では「右試五種終り、本香廿包交合二*柱開に焚き出す。・・・拾包嗅て拾包みは残し置くべし。」と記載があり、手元に残った20包を打ち交ぜて、2包ずつ5組を本香として、残りの10包は焚き出さずに「捨て香」とすることとなっています。また、本香は「二*柱開」とすることが指定されていますので、香元は1炉目を焚き、2炉を焚き出す際に「香筒」か「折居」を添えます。連衆はこれを聞き、1炉目と2炉目の要素から結ばれる景色を聞の名目で回答します。なお、回答に使用する聞の名目については、下記のとおり配置されています。
香の出と聞の名目
要素名 | 木 | 火 | 土 | 金 | 水 |
木 | 花桜 | 夜遊(やゆう) | 山桜 | 山嵐 | 志賀 |
火 | 衛士(えじ) | 御狩 | 夕暮 | 塩竃 | |
土 | 冨士 | 御神楽 | 嶌山(とうざん) | ||
金 | 野分 | 鏡面 | |||
水 | 湖水 |
このように聞の名目は、2つの要素名から前後を問わずに1つの景色を結ぶ組合せですので、15通り配置されています。例えば 「木・火」の「夜遊」とは、暖かい時期に篝火を焚いて管弦や歌会を楽しむ「高貴な夜遊び」のことです。「火・火」の「衛士」は、篝火を焚いて宮門を守る兵士のことで、百人一首の「御垣守衛士の焚く火の夜は燃え昼は消えつつものをこそ思へ(詞花集225 大中臣能宣)」を思い浮かべられる方も多いでしょう。その他、「木・木」は木々の春景色ですので「花桜」、「水・火」は、火を焚いて水を沸かす冬の景色なので「塩竃」、「水・金」は金属にも見える水の冬景色で「鏡面」、「水・水」は水のそのそもの冬景色なので「湖水」など、五気のあらわす事物そのものと季節感(陰陽)を微妙に組み合わた言葉が用いられています。
因みに、五気には「相生」(そうじょう=プラスの循環)と「相剋」(そうこく=マイナスの循環)という二つの関係則があります。「相生」とは、前者が後者を生むという関係で、例えば、「木」は「火」を燃やす。「火」は「土」となる灰を作る。「土」は「金」を含有する。「金」は「水」滴を結ぶ。「水」は「木」を育てる。等、和合して幸福が来るということです。一方、「相剋」とは、前者は後者に打ち勝つという関係で、例えば「木」は「土」に蔓延る。「土」は「水」を塞き止める。「水」は「火」を消す、「火」は「金」を溶かす、「金」は「木」を切り倒す。等、不和で災難が来るということです。この組香の聞の名目には、ここまで考慮されていませんが、このような暗示を取り入れると、景色がさらに深まりを増すと思います。
この組香の回答方法については、出典に具体的記載がないのですが、「二*柱開」なので「聞の名目」 に記載された香札を1人前15枚用意するのが本来的でしょう。しかし、現代では香札を作るのも容易ではありませんので、1人前5枚の名乗紙を用意して、組ごとに手記録盆を回して回答する方式や1枚の名乗紙を4本切り目を入れて5枚に分けられるようにし、組ごとに1枚切り取って折居に投票する「切紙短冊方式」という 形式が現実的かと思います。
続いて、各自の答えが戻って来たところで執筆はこれを開いて、各自の回答を書き写して香元に答えを請います。香元は請けて2つの香包を開いて正解を宣言します。執筆はこれを聞いて、香の出の欄には要素名を横に2つ並べて書き記し、そこから結ばれる聞の名目と同じ答えに合点(長点)を掛けます。これを5回繰り返し、本香は2包ずつ5組で都合10炉焚き出します。なお、出典には「*柱合にも*柱くこと有。時宜によるべし。」とあり、1組の香木を1つの銀葉に上下に乗せて1度に焚く「*柱き合わせ」としても催行できることが記載されています。「*柱合十*柱香」の伝授を受けられた方同士ならば、このような高度な楽しみ方もお勧めします。
この組香は「二*柱開」ですので、本香が焚き終わった時点で香記はあらかた出来上がっています。前述のとおり、香の出の欄には要素名が2つずつ並んで縦5段に書かれてあり、各自の解答欄には、聞の名目が縦5つ並んで、当たった名目には合点が付されているかと思います。採点の際、名目の当たりは要素の前後を問いませんので正解が「土・金(御神楽)」であったものを「金・土」と反対に判別しても回答は「御神楽」となるので当たりは当たりということになります。一方、2つの要素のうち初・後の1つだけ当たったという「片当たり」 はありません。
最後に、この組香の点数は、1つの名目の当たりにつき合点が1つ付きますがその呼名は「一点」ではなく「一双」(いっそう)と言い、2つの要素が揃って当たったことを意味します。そこで、この組香では下附も「一双」「二双」と当たり数に「双」の字をつけて書き付します。全問正解の場合も「五双」と下附し「皆」や「叶」などに書き換えません。そして、勝負は、最高得点者のうち上席の方の勝ちとなります。
旧暦11月は、陰が極まって再び陽転する季節です。皆さまも「土金香」で一陽来復の喜びを味わってみてはいかがでしょうか。
最近は、男の子の七五三は5歳だけになってしまいましたが・・・
「髪置きの儀」は男女ともに行われていたので、3歳の男の子も祝ってしかるべきですね。
御社に祈り初めけむ五彩の子幾世も守れ産土の幸(921詠)
組香の解釈は、香席の景色を見渡すための一助に過ぎません。
最も尊重されるものは、皆さん自身が自由に思い浮かべる「心の風景」です。
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