朝夕夜に降る様々な雪模様を見渡す組香です。
客香の「雪」を別香で組むところが特徴です。
※このコラムではフォントがないため「
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説明 |
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香木は、6種用意します。
要素名は、「朝(あさ)」「夕(ゆう)」「夜( よる)」と「雪(ゆき)」です。
香名と木所は、景色のために書きましたので、季節や組香の趣旨に因んだものを自由に組んでください。
「朝」「夕」「夜」は各3包、「雪」 は別香で3種を各1包作ります。(計12包)
「朝」「夕」「夜」の各1包 を試香として焚き出します。(計3包)
手元に残った「朝」「夕」「夜」の各2包に「雪」の 3種各1包を打ち交ぜて順に焚き出します。(計 9包)
本香は、9炉焚き出します。
香元は、1炉ごとに「札筒(ふだづつ)」か「折居(おりすえ)」を添えて廻します。
連衆は、1炉ごとに試香に聞き合わせて、答えとなる要素名の書かれた「香札(こうふだ)」を1枚投票します。
執筆は、本香が終わるまで、投票された香札を「札盤(ふだばん)」の各自の名乗(なのり)の下に並べておきます。
香元は、香包を開いて、正解を宣言します。
執筆は、各自の答えをすべて香記に書き写し、当否を判別して合点を打ちます。
点数は、「雪」の当たりは2点、その他は1点と換算します。
下附は、全問正解の場合は「眺望(ちょうぼう)」、その他は各自の得点を漢数字で書き付します。
勝負は、最高得点者のうち、上席の方の勝ちとなります。
冬の窓辺は森羅万象との数少ない接点のような気がします。
冬になりますと窓を閉め切りますので、我が「龍穴庵」の音風景も静かに落ち着きます。辺りが静かになりますと心の視点が内省に向かって、忙しく暮らしている日常の気持ちの整理がまとめてできるのですが、しばらくして内省のネタが尽きてしまうと大きな虚無感にも見舞われるもの困りものです。単身赴任での宿舎住まいというものも 、私のように「庵」と称する人と「独房」と称する人でその居心地は異なるのでしょう。 「冬籠り」というのは、自分の持つ精神世界の広さによって心地よいものにもなりますが、社交的だったり、他人への依存心の強い方は耐えがたい期間にもなるのでしょうね。
名古屋の「千種庵」は、中学校と高校と盲学校に囲まれていました。北隣り中学校のグラウンドからは早朝から野球部の掛け声が聞こえ、時間を追うごとにテニス部、サッカー部と女子の黄色い声や男子の野太い声が、異なる掛け声のパターンとなって折り重なっていきます。私は、これを聞きながら家事に勤しむのですが、若人の声が絶えない環境のおかげで元気をもらい、寂しさを感じることもありませんでした。南隣の高校の音楽室から聞こえてくる女子合唱の声はとても清々しい気持ちになりましたし、文化祭近くのバンド練習も後夜祭で体育館から聞こえてくる大合唱の声も全て「おぉ、やっとるのぅ 。」という微笑ましい感覚でとらえていました。さらに、西隣の盲学校からは、誘導チャイムのほか、いろいろな生活の決まり事の音が聞こえてきました。4年間も住んでいて、その意味は分かりませんでしたが、聞きなれない音に誘われてグラウンドソフトボールを観戦するようになったのは人生の収穫でした。 こうしてみると、私の単身生活は「音風景」にも恵まれていたと言えるでしょう。
一方、昨今「待機児童はたくさんいるのに保育園が建てられない」という問題の一因に「子供たちの声がうるさい」という近隣住民の反対があると知りました。私は、お年寄りがわざわざ公園にまで来てベンチに座り、子供たちがキャーキャー遊ぶ姿を微笑ましく見守っているという姿が当たり前だと思っていましたので、お爺さんや子育て世代のお母さんが口々に防音対策を訴えて、子供たちを窓のない保育園に閉じ込めてしまう現状を感覚的に理解できませんでした。やはり、公共の場で聞こえる音と生活音として聞こえる音は別のものなのでしょうか?それにしても私には、子供たちの騒ぐ声が「騒音」には聞こえません。むしろ、「騒音」と感じる人が多くなっているという日本の現状を憂うるばかりです。「お受験」などで幼少時から窮屈な生活を強いられ、大人になってもなかなか解放されないという日本の現状をみると、年端もいかない幼児のうちぐらいは自由にさせてやらないと、 人間としての様々な「スケール(規模と尺度)」が育たないような気がします。おそらく、周辺住民の皆さんは建設主である行政に対して主張しているつもりなのでしょうが、大人が幼児を相手に生活権を主張しあうということは、自分自身を貶めているような気がしてなりません。きれいごとを言えば「次世代を担う子供を地域の大人が大切に思ってほしい」ということになるのでしょうが、子供の声も聞こえなくなった街の寂寥感は「ブレーメンの音楽隊」を彷彿とさせます。
東北の山村では、雪が降ればすべての生活音が消えて「音の孤独」が周囲を覆います。家の中では、この孤独から逃れるために「視るともなく、聴くともなく」ラジオやテレビの音が流れています。こんな時期に「せめて小中学校の通学路だけでも家の前にあれば」と思うお年寄りも多いものです。 そんなお年寄りもいる中で、マンションの生活音は閾値がどんどん下がっており、「物を落としてもダメ」と図書館レベルになっています。私は、つたないピアノの音も花火を見ながらのガーテンパーティも廊下を駆け回る仔犬の音も皆微笑ましいものとして捉えています が、これらも今では「厳重注意」の対象です。 わざわざ「音の孤独」に身を落とすのは、都会の人の贅沢とも言えるかもしれませんが、「盆踊り」や「風鈴」、「除夜の鐘」までもがうるさいと言われる日本人の情緒感覚のズレはどこから始まっていたのかと憂うるばかりです。
今月は、深々と降り積む雪景色「深雪香」(みゆきこう)をご紹介いたしましょう。
「深雪香」は、『軒のしのぶ(一)』に掲載された冬の組香です。西国に住まいしていたころは、雪景色と言えば「遠く山並みにかかるもの、里に降るのもまた風情…」などという柔らかな捉え方をしていたものです。 江戸や京都で創作された「雪景色」をテーマにした組香が、綿帽子をかぶり、薄墨色に染まる「ふんわり」「しっとり」したものが多いのも、そのような 気象環境から生まれたからなのでしょう。しかし、みちのくの地に戻ってみれば、雪は災害の一因であり、「とりあえずは度を越さないように・・・」と山の神様に願いつつ共生せざるを得ない自然の驚異でした。12月のコラムは「雪」をテーマとした組香を取り上げることが多いので、今年も探していたところ、朝な夕なに連日降り続く雪の濃さや深さが感じられ、 「みちのくの雪景色」を語るにふさわしい組香を発見したのでご紹介することとしました。今回は、他に類例も無いことから『軒のしのぶ』を出典として書き進めたいと思います。
まず、この組香に証歌はありませんが、題号から「降り積む雪の景色」をテーマとしたものであることが一目瞭然で判ります。 その景色を結ぶ要素名は「朝」「夕」「夜」と「雪」であり、「朝」「夕」「夜」は時の要素、「雪」はこの組香の主役となる事象の要素です。この組香は、時と事象を掛け合わせて「朝に雪」「夕に雪」「夜に雪」という「雪だらけ」の景色を醸しながら、雪に閉ざされて冬ごもりをする人々の心情や山村の景色を見渡す趣向となっています。
次に、この組香の香種は6種、全体香数は12包、本香数は9炉となっています。まず、「朝」「夕」「夜」を各3包作り、「雪」は別香で3種を1包ずつ作ります。「雪」を別香3種で組むことについては、出典に「雪の香 三*柱別々の香銘 試みなし」と短く注記が施されているほか、「深雪香之記」の記載例の香組の欄にも「雪 ○○」「雪 ○○」「雪 ○○」と 香銘が別々に3列で記載されています。このように「雪」の要素に香りのバリエーションを持たせるのは、新沼謙治の『津軽恋女』の「こな雪 つぶ雪 わた雪 ざらめ雪 みず雪 かた雪 春待つ氷雪 ぃ〜♪」のような多彩な雪の姿をイメージさせる作意かと思います。 香組をする際は、この「雪」3種の香気をどう組み合わせるかが最も重要かと思います。私は、「雪」は客香ということもあるためオーソドックスに「伽羅」「羅国」「真南蛮」の3種で組みましたが、上級者向けには 「佐曽羅」等、香気の違った同じ木所で3包を作るのも一考かと思います。
さて、本座では「朝」「夕」「夜」の各3包のうち1包を試香として焚き出します。本香は、手元に残った「朝」「夕」「夜」の各2包と「雪」の3種3包を打ち交ぜて、都合9炉を順に焚き出します。本香が焚き出されましたら、連衆は試香に聞き合わせて、「朝」「夕」「夜」 と「雪」を判別します。試香で聞いたことのない客香の「雪」が3種も焚き出されるため、聞き定めの難度は高くなりますが、答えはいずれも「雪」ですので、それほど構える必要はありません。まずは、地の香である「朝」「夕」「夜」をしっかり聞き覚えて「それ以外」を「雪」とするだけと心得ればいいでしょう。
ここで、 回答に当たっては、出典本文の最後に「朝の香 一の札、夕の香 二の札、夜の香 三の札、雪の香 客の札」との記載があり、「十種香札」を 使用することとなっています。 出典には、1炉ごとに正解を宣言して採点する「一*柱開(いっちゅうびらき)」の指定はありませんので、香札を打って順次回答するけれども、正解は本香が焚き終わった後で一度に宣言する「札打ち」の「後開き (のちびらき)」ということでよろしいでしょう。この形式を取ると、一旦投票した札の取戻しができないため聞き定めの難度は高くなりますが、そのほかは普段の香席の流れと変わりません。なお、十種香札をお持ち合わせでない場合は、名乗紙に要素名を出た順序に9つ書き記して 本香の後にまとめて提出する「名乗紙使用」の「後開き」でも良いでしょう。こうすれば、本香焚き終わり後に 答えの調整をすることもできます。
本香が焚き終わり、連衆の香札が帰ってまいりましたら、執筆(または盤者)は札盤の札を裏返して、各自の打った札裏の番号を要素名に書き換えて、香記の解答欄に書き記します。 答えを書き写し終えましたら執筆は香元に香の出を請い、香元は香包を開いて正解を宣言します。執筆は、正解を香の出の欄に書き記し、当たりの要素の右肩に合点を掛けていきます。
この組香の点数について、出典では「朝の香、夕の香、夜の香当り一点、雪の香当り二点づつ」とあり、客香である雪に 2点の加点要素があります。これに従って「朝」「夕」「夜」の当たりは「丶」、「雪」の当たりについては「丶丶」と2つ合点を掛けます。
最後に、この組香の下附は、全問正解(12点)には「眺望」と書き付します。「眺望」とは、遠くを見渡すことですから、昼夜を分かたず全ての雪景色を味わったという意味でしょう。その他は点数で書き表します。勝負は最高得点者のうち上席の方の勝ちとなります。
冬の雪に閉ざされますと、心も落ち着き、香炉の暖かさが身に沁みます。皆様も手あぶりがてらに「深雪香」で鄙の庵の冬景色に心遊ばせてみてはいかがでしょうか。
来年の干支は「丁酉(ひのととり)」です。
丁(火)は「安定する」、酉(金)は「実る」で一見明るい年のように見えますが・・・その関係は「相克」です。
アメリカあたりから何か新しいものが生まれる前の苦難の年となるのかもしれませんね。
ひたすらに白き山河や大柿の実のひとつだに食むものもなし(921詠)
今年も1年ご愛読ありがとうございました。
良いお年をお迎えください。
組香の解釈は、香席の景色を見渡すための一助に過ぎません。
最も尊重されるものは、皆さん自身が自由に思い浮かべる「心の風景」です。
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