季節の草花を自由に選んで遊べる組香です。
要素名を一字ずつ増やして草花の名を選ぶルールが特徴です。
※ このコラムではフォントがないため「」を「*柱」と表記しています。
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説明 |
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香木は、5種用意します。
この組香の要素名は、季節に応じた草花の名を自由に選びます。
要素名は、「萩(はぎ)」「桔梗(ききょう)」「女郎花(おみなえし)」「雁来紅草(かまつか)」と「初菊(はつぎく)」です。
香名と木所は、景色のために書きましたので、季節や組香の趣旨に因んだものを自由に組んでください。
「萩」「桔梗」「女郎花」「雁来紅草」は各2包、「初菊」は1包作ります。(計9包)
「萩」「桔梗」「女郎花」「雁来紅草」のうち各1包を試香として焚き出します。(計 4包)
手元に残った「 萩」「桔梗」「女郎花」「雁来紅草」の各1包 と「初菊」は1包を 打ち交ぜて焚き出します。(計5包)
本香は、 5炉廻ります。
連衆は、試香に聞き合わせて、名乗紙に答えを5つ書き記します。
点数は、「客香」の当りが2点、「客香」の独聞が3点、その他は1点とします。
執筆は、点法にしたがって、当った要素名に「合点」を打ちます。
この組香に下附はなく、合点の数が成績を表すこととなっています。
勝負は、最高得点者のうち、上席の方の勝ちとなります。
逃げ水の先に秋草が群れ咲く季節となりました。
先月は、台風7号と前線通過によって西日本各地に甚大な被害がもたらされました。被災で亡くなられた皆様に対しまして謹んでお悔みを申し上げますとともに、被災地の復旧・復興が1日も早く進みますことをお祈り申し上げます。
私もお仕事の関係上、7月は東北各地をはじめ隣接地方の大雨洪水警報の発令を端緒に指定河川の水位を日夜問わず確認する日々が続いていました。「川の防災」と言えば国土交通省や水防団が主役ですが、たとえ発災に至らなくとも早期の被害復旧や民生の安定の準備のために、おそらくその何倍もの人が私のようなサービスの完徹作業を繰り返しているのでしょう。その方たちにも心から「お疲れ様」と言わせていただきたいと思います。
被災地では、猛暑の中の復旧作業が続いていますが、東日本大震災で受けた恩義は、未だ復興半ばの我々もできる限りお返しして参りたいと思っています。 夏が過ぎ秋風が吹けば、崩れて露わになった山の斜面にも芽吹きはあり、皆さんの心に『花は咲く』のメロディーが蘇ることを祈っています。もうこの歌は東北の復興支援ソングではなく、日本中で復興を目指す人々の心の歌となっていると信じています。
今月は、「ときのもの」を花籠に挿し合わせる「草花香」(そうかこう)をご紹介いたしましょう。
「草花香」は、米川流香道『奥の橘(風)』に掲載のある「四季」の組香です。同名の組香は、『外組八十七組之内 第七』にも掲載がありますが、こちらは要素名が「春」「夏」「秋」「冬」となっており、構造も「有試十*柱香形式」で行う「盤物」の組香ですので、同名異組と言えましょう。今回は、秋草の登場する組香をご紹介しようと探していたのですが、まず、書き出しの部分「一字ものを一とし、二字ものを二とし・・・」と繰り言のように書かれている部分に目を止めました。読み込んでいくと、この部分が香組の特異な趣向を表す核心となっていることが分かり、むしろ「亭主側が面白い組香 」であることから、ご紹介してみることといたしました。今回は、先月の「夏草」から「秋草」へのリレーとなりますが、他書に類例のないことから『奥の橘』を出典として書き進めたいと思います。
まず、この組香に証歌はありませんが、題号の「草花香」から、草花を愛でる組香であることは察しが付くと思います。この組香の第1の特徴について、出典には「当季の賞玩の花を用ゆ」と短く書かれており、「草木香」同様、組香を催行する際に使用する要素名を自分で選ぶことができるようになっています。これによって「今、愛でるべき花」を時季に応じて自分で配置して香席に反映することができますので、亭主の好みや美学も表れやすい組香となっています。また、第2の特徴は、出典に「一字ものを一とし、二字ものを二とし、三字ものを三とし、四字ものを四とし・・・外にウ一*柱試香なし」とあり、地の香となる花の要素名は一字ずつ増やすように配置するというルールが書かれています。この二つの特徴を並立するため、亭主は、「季節の草花」から名前が「 1文字、2文字、3文字、4文字」のものを選ばなければならず、この制約が、「香組」という亭主側の事前作業をとても面白いものにしています。さらに、第3の特徴は小引の冒頭に「香四種か五種よろし」とあり、要素名の数も選べるようになっています。これは、「4文字の草木は少ないから、選ぶのが辛かったら3文字までで組んでもいいよ」という作者の配慮のようです。もちろん、この場合も「ウ」を1種加えることには変わりありませんので都合4種組とします。このように、この組香は、自分好みの季節の草花を「お花摘み」のように選んで連衆に披露し、それを賞玩してもらうことが趣旨となっています。
次に、この組香の「今回の要素名」は、「萩」「桔梗」「女郎花」「雁来紅草」と「初菊」としています。これは、出典に「秋の季に一を萩、二を桔梗、三を女郎花、四を雁来紅草、ウを菊として聞く類なり」と例示されたものを援用しました。要素名のうち「萩」「桔梗」「女郎花」は、秋の七草ですので非常に無難なラインアップと言えましょう。「雁来紅草」とは、「雁来紅(がんらいこう)」の3文字で葉鶏頭(はげいとう)のことを表します。これを4文字にするために「草」の字を加えたものであろうと思います。また、出典には「雁来紅草」に「カマツカ」と読み仮名が振られていました。これを調べてみますと『枕草子』の「草の花は」の段に、「『かまつか』という名が嫌だ。雁の来る花と書く文字は好きだけど…」と他の秋草をほとんど褒めているのにもかかわらず『かまつか』だけ微妙な論評がなされているところが見つかりました。おそらく作者が数多ある秋草の中から「雁来紅草」を起用した理由の一端は『枕草子』にありそうです。
客香は出典では「菊」と例示されていたのですが、他の草花と比べて「菊」を主役に据えるにはやや季節が早い気がしましたので「初菊」とアレンジしてみました。本当は、かの『枕草子』にも「竜胆は、枝さしなどもむつかしけれど、こと花どもの、みな霜がれたるに、いとはなやかなる色あひにてさし出でたる、いとをかし。」と称賛されている「竜胆」が良いかなとも思いましたが、花色が桔梗と似てきますので控えました。
ここで、草花の名前について、皆様が香組する際の参考としていただくため、下記の表を用意しました。
春 | 夏 | 秋 | 冬 | |
1文字 | 菫、薊、薺、藤、韮 | 葵、茨、芹、菱 | 蘆、菊、葛、萩、蘭 | なし 椿など木の花で代用か? |
2文字 | 春蘭、桜草、雛菊、芝桜、翁草、霞草、片栗、都忘、錨草、苧環 | 菖蒲、虎杖、杜若、萱草、芥子、芍薬、忍冬、鈴蘭、牡丹、夕顔、百合 | 朝顔、桔梗、鶏頭、蕎麦、露草、撫子、藤袴、芙蓉、鬼灯、木槿 | 水仙、石蕗、寒菊、冬菫、寒葵 |
3文字 | 金鳳花、紫雲英、蒲公英、座禅草、石楠花、熊谷草、二人静 | 踊子草、姫著莪、車前草、夾竹桃、向日葵 | 女郎花、葉鶏頭、鳳仙花、吾亦紅 | 葉牡丹、福寿草 |
4文字 | 庚申薔薇、雀の帷子、鹿の子草 | 蚊帳吊草 | 曼殊沙華 | 冬蒲公英 |
このように、「4文字の草花」や「1文字の冬の草花」の選定には苦労しそうです。出典にも「冬は少なき故、水仙をウにして餘は四季の草花にもするべし」とあり、「冬だけは他の季の草花で組んでも良い」と作者も配慮しています。
さて、この組香の香種は5種、全体香数は9包、本香数は5炉となっており、構造は至って簡単です。まず、「萩」「桔梗」「女郎花」「雁来紅草」を2包ずつ、「初菊」は1包作ります。そのうち、「萩」「桔梗」「女郎花」「雁来紅草」の各1包を試香として焚き出します。そして、手元に残った「萩」「桔梗」「女郎花」「雁来紅草」の各1包に「初菊」の1包を加えて打ち交ぜて、都合5包を本香として焚き出します。
本香が焚き出されましたら、連衆は試香と聞き合わせて答えを導きます。本香5炉が焚き終わりましたら要素名を出た順に5つ名乗紙に書き記して回答します。
因みに構造に関して、出典では「右、本香五包打ち交ぜ一*柱除きても聞くなり」とあり、点前の間に「抜き香」をして、本香4炉とすることも可能となっています。このようにすると香の出のバリエーションが増えて難度が上がりますので中級者向けとなります。ただし、本香から「ウ」が抜かれてしまう場合もあり、本来この季に賞玩すべき主役が景色に現れなくなる可能性も出てきます。この場合、出典にはよらず「4香から1つを引き去った後からウを加える」等の配慮が必要かもしれません。
続いて、本香が焚き終わり、名乗紙が返って参りましたら、執筆はこれを開き、香記に各自の答えを全て書き写します。答えを書き終えたところで、執筆は香元に正解を請い、香元はこれを受けて本香包を開いて正解を宣言します。執筆は、これを聞いて香記の香の出の欄に正解を要素名で縦一列に書き記し、これを横に見て当否を定め、当たった答えに合点を打ちます。
点数に関して、出典では「当り一点、ウ二点、独三点なり」とあり、「客香」の当りに加点要素があります。これにより、試香のあった「地の香(萩、桔梗、女郎花、雁来紅草)」は当りにつき1点、「客香(初菊)」を当てた人には2点、「客香」を連衆の中で唯一当てた人には3点とし、その数だけ答えの右肩に合点を掛けます。
なお、「草花香之記」の記載例によれば、この組香に下附はなく、各自の答えに掛けられた合点の数が成績を表すこととなっています。
このようにして、勝負は各自の合点の数を比べて、最高得点者のうち上席の方の勝ちとなります。
最後に、この組香の最後のバリエーションとして、出典に「維休曰く、四季ともに三字、四字の草花に少なきものなれば、春夏秋の三季の一字ものとウを当季にて、四季の草花を組み、香聞かして広がるべき在り」と小さく附書があり、私は、ここから「春」「夏」「秋」「冬」の草花を景色に織り交ぜる「草花香」に派生していく端緒になったのではと考えています。
いずれ、「草花香」は四季に通じ、出典にも様々な遊び方が提案されていますので、趣旨を良く味わい、あとは亭主側が催行可能な遊び方で四季の草花をアレンジして楽しんでみてはいかがでしょうか。
「茶花」は「活ける」より「入れる」が正しいのだそうです。
床に置いても花の魅力や野趣が損なわれないようにあるがままに「入れる」
そのためには…野にある花それぞれの「栄枯盛衰」をより多く見届けることでしょうね。
月影に野辺を彩なす七草の身を永らえて白露待つかな(921詠)
組香の解釈は、香席の景色を見渡すための一助に過ぎません。
最も尊重されるものは、皆さん自身が自由に思い浮かべる「心の風景」です。
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