冬の日の明け暮れから一陽来復を待ちわびる組香です。
「陽」の香が出たところで焚き終わるところが特徴です。
※このコラムではフォントがないため「
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説明 |
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香木は、5種用意します。
要素名は、「 短晷( たんき)」「漏剋(ろうこく)」「冬至(とうじ)」と「陰( いん)」「陽(よう)」です。
香名と木所は、景色のために書きましたので、季節や組香の趣旨に因んだものを自由に組んでください。
「短晷」「漏剋」「冬至」は各4包、「陰」 は2包、「陽」は1包作ります。(計15包)
「短晷」「漏剋」「冬至」の各1包 を試香として焚き出します。(計3包)
手元に残った「 短晷」「漏剋」「冬至」から各 々1包を引き去り仮置きします。(13=計3包)
残った「 短晷」「漏剋」「冬至」から各 2包に「陰」2包を加えて打ち交ぜ、そこから任意に4包引き去ります。{(2×3+2)−4=4包}
本香A段は、「二*柱開(にちゅうびらき)」で4炉焚き出します。
※ 「二*柱開」とは、香元が2炉まとめて正解を宣言するやり方です。 (今回は2炉ごとに回答はしません。)
−以降9番から12番までを2組分繰り返します。−
香元は、1炉ごとに香炉に「札筒(ふだづつ)」か「折居(おりすえ)」を添えて廻します。
連衆も、1炉ごとに試香に聞き合わせて、答えの書かれた「香札(こうふだ)」を1枚投票します。
香元は、2炉ごとに香包を開いて、正解を宣言します。
執筆は、香記の回答欄に当った人のみ、それに見合った名目を書き写します。(委細後述)
次に、前段で引き去った「 短晷」「漏剋」「冬至」の各 1包と4包に「陽」1包を加えて打ち交ぜます。{(13+4)+1=8包}
本香B段は「一*柱開(いっちゅうびらき)」で「陽」が出るまで焚き出します。
※ 「一*柱開」とは、香炉が1炉廻る毎に1回答えを投票し、正解を宣言して香記に記録するやり方です。
−以降15番から18番までを「陽」が宣言されるまで繰り返します。−
香元は、1炉ごとに「札筒」か「折居」を添えて廻します。
連衆は、1炉ごとに試香と聞き合わせて、答えの書かれた「香札(こうふだ)」を1枚投票します。
香元は、1炉ごとに香包を開いて、正解を宣言します。
執筆は、1炉ごとに当否を定め、当たった人の名目のみ香記に書き写します。
この組香に点数はなく、香記に書き記された名目の数が成績を表します。
下附は、全問正解の場合は「 一陽来復」、全問不正解の場合は「山中無暦」と書き記すのみとします。
勝負は、最高得点者のうち、上席の方の勝ちとなります。
冬枯れの街路樹に毎夜LEDの花咲く季節となりました。
巷はクリスマス一色となり、大切な人との暖かい時間をイメージしたウィンドーディスプレイが彩りを競っています。仙台の定禅寺通りのケヤキ並木も160本に約60万個の発光ダイオードが取り付けられ、「光のページェント」の点灯式を待つばかりとなっています。今年は電球交換に1億以上の経費がかかるということで、点灯期間は12月14〜31日の18日間と初回以来の短さとなってしまうそうですが、「事後に期待をかけながら…」キラキラとした表情で行き交う若者たちをかき分けつつ、煌びやかに光を放った「通勤路」を進むのも、この時期ばかりの楽しみと言えましょう。
今年のケヤキは、紅葉も素晴らしかった上に散り際も潔く、来春の再生と「循環的成長」にも大いに期待が持てます。私は、その来春に「落葉」となるわけですが、せっかく「無限の樹形図」の一端を繋ぐために生まれてきた命ですから、より良い有機成分として「人の肥し」になることを「生きた証」にしようと思っています。
今月は、陰が極を成す陽転の兆し「冬至香」(とうじこう)をご紹介いたしましょう。
「冬至香」は、杉本文太郎著の『香道』に掲載されている冬の組香です。同名の組香は、原典を一にするとみられている水原翠香著『茶道と香道』にも掲載され、構造以外の記述ほぼ同様となっています。今回 も冬の組香を探していましたところ、「冬至」というこの時期にぴったりの題号を見つけたのですが、本文の記述に乏しく、皆様にご紹介するには甚だ心許ないかと躊躇いました。しかし、これほど今月にふさわしい趣旨の組香は他に無いので、「復刻」の意味でも文字に残すべきと考え、細かい部分については多少私見を加えつつ、ご紹介してみることにいたしました。このようなことから、今回は『香道』を出典として、香記の認め方等に私見を交えながら、筆を進めて参りたいと思います。
まず、この組香に証歌はありませんが、題号がストレートですので、その趣旨は凡そ察しが付くことと思います。「冬至」とは、皆さん既にご存知のとおり、二十四節気のうち「一年で昼が最も短い日」です。陰陽五行説では、「陰の気」が極まったことを意味しますが、所謂「陰気」と取るのは適切でなく、静・重・柔・冷・暗などの属性を持ち、受動的・防衛的・沈静的状態がピークを迎えたことを指します。そして、この日を境に次第に「陽の気」が司る、動・軽・剛・熱・明などの属性が勝り、能動的・攻撃的・昂進的状態に傾いていくこととなります。皆さんは、このターニングポイントを「一陽来復」ということもご存じでしょう。このように「冬至香」は、冬の訪れから春の兆しに至る短い時の流れを写した組香となっています。
次に、この組香の要素名は「短晷」、「漏剋」、「冬至」と「陰」「陽」となっています。この組香をご紹介する際に最初に躊躇したのは、要素名に現れた難読文字でした。「短晷」とは、冬の日の昼の時間が短いこと。日照時間が短い日のことですから、現在の「短日」と似た言葉ということになります。「漏剋」は、元来、漏壺(ろうこ)という水を入れた器から常時一定量の水を落とし、その水位の変化によって目盛りが時刻を示す水時計の一種のことで、ここから「時の刻み」を意味しています。「冬至」は前述のとおりで、これも時の景色と言えましょう。「陰」と「陽」は、まさしく「陰陽」の気を表す要素であり、この組香は「一陽来復」を待つことが趣旨であるため、主役が「陽」、脇役が「陰」となります。このように、この組香は時を表す要素に「陰」と「陽」の気が作用して、冬の日差しや温度、気象までも連想させる「空気感」のある組香となっています。
さて、この組香の構造はとても複雑で小記録の構造式を見てもお分かりのとおりです。まず、「短晷」、「漏剋」、「冬至」を各4包、「陰」は2包、「陽」は1包作ります。香組について、出典に特段の記述はありませんが、当然ながら「陰」には陰香、「陽」には陽香を用いるべきかと思います。次に、「短晷」、「漏剋」、「冬至」のうち各1包を試香として焚き出します。続いて、手元に残った「短晷」、「漏剋」、「冬至」のうち各1包を引き去って仮置きしておき、残る「短晷」、「漏剋」、「冬至」の各2包に「陰」2包を加えて打ち交ぜて、そこから任意に4包を引き去って、都合4包を手元に残します。本香A段は、これらを2包×2組に分け「二*柱開」で焚き出します。本香A段は、「陰の気」が司る冬の訪れを表す景色と解釈してよろしいかと思います。
本香B段は、先ほど引き去っておいた「短晷」、「漏剋」、「冬至」のうち各1包と4包に「陽」の1包を加え、都合8包を打ち交ぜて焚き出します。出典には「これから一*柱開とし、陽出ずれば残香あるともそれで止める。一陽来復の意である。」とあり、本香B段は、「一*柱開」とし、「陽」の香が宣言されたところで本香は終了となります。出典の記述にもあるように、本香B段は厳冬に「陽」の兆しが表れた「一陽来復」の景色を表しています。この「主役が出たらそこで景色を留める」という写真撮影方式は、「鶯香」などにもみられる特徴で、この組香の最も重要な趣向と言えましょう。
本香が焚き出されますと、連衆は試香に聞き合わせて、答えを導き出します。出典に記述はありませんが、「二*柱開」「一*柱開」が続きますので、本香の答えは「札打ち」とし、十種香札を「一(短晷)」「二(漏剋)」「三(冬至)」「客・客月(陰)」「客花(陽)」と読み替えて流用するのがよろしいかと思います。
本香A段の客香は「陰」のみなので、試香で聞いたことがある香かどうかで2包×2組=4炉を判別します。この組香に「聞の名目」の指定はないので、答えは組ごとではなく要素名で札を 4枚打つこととなります。そこまでして「二*柱開」にこだわった意味は分かりませんが、段ごとの出香方法にバリエーションを設け、他の「陰陽」を用いた組香同様、どこかに「和合」のような景色を盛り込みたかったのでしょうか? この「名目無しの二*柱開」が、この組香の難解かつ複雑にしていることは確かです。
本香B段は、前段で引き去った7包に「陽」を加えていますので、香の出のバリエーションは多岐にわたり、「陽」が最後に出れば5種全部を聞くことも有り得ます が、「陽」が出れば焚き止めとなるので香数は一定ではありません。また、例えばA段で「陰」が2つとも引き去られていた場合は、B段には客香が2種類出現することとなります。それも「陽」が出たところで打ち止めですので、「陰が2包出るから数で判別できる」という保証もありません。その場合、連衆は「香気」を頼りに、その陰・陽で客香を判別することとなります。そのため、香気の差異はもとより「陰」には陰香、「陽」には陽香を用いることが必要となります。
因みに、構造に関して『茶道と香道』では、「四を*柱き・・・これより一*柱開きとして・・・」と記載があり、A段は普通に4炉焚き、B段は一*柱開で「陽」が出るまで焚くという方式となっています。
一方、連衆の回答方法とは別に、執筆はA段では2炉ごとに、B段では香炉の廻る度に香元に正解を請い、香の出を認めます。この辺りから出典の記述が心許なくなり、どのように記述すべきかは、いささか私見を交えた解説となりますのでご了承をお願いいたします。
香記の認め方について、出典には、「記録には・・・」とあり、「陽の當は 一陽動、陰の當は 北風寒、日の當は 暖似春、漏の當は 爐火残、冬の當は 一線長」「【改行して】全當 一陽来復、無 山中無暦」との記載があります。
まず、これらの言葉の意味を探っておきましょう。
当り | 名目 | 読み(私見) | 解釈 |
陽 | 一陽動 | いちよううごく | 陽気が動き始めた |
陰 | 北風寒 | ほくふうさむし | 北風が寒い |
短晷 | 暖似春 | だん(あたたかなること)はるににたり | 暖かさが春に似ている/春のような温かさ |
漏剋 | 爐火残 | ろかのこる | 炉の残り火のような温かさ/未だ炉に火が残る寒さ |
冬至 | 一線長 | いっせんながし | 日差しが長く差し込む |
全中 | 一陽来復 | いちようらいふく | 後述 |
無中 | 山中無暦 | さんちゅうにこよみなし | 後述 |
このように、漢詩の一節とも思われるような漢字の名目が列挙されています。それぞれ出典や用例等があろうかと調べましたが、前段の3文字の言葉で用例を見たのは、賈至(かし)の詩に「雪晴雲散北風寒」(ゆきはれてくもはさんじほくふうさむく)とあるにとどまりましたので、その他は私が訓読しています。
ここで、出典ではこれらの名目を用いて、どのように香記に書き記すのかが全く書かれていませんでした。そこで、私は出典に「改行」のあることを頼りに、前段3文字のものを「当りの際に記載する名目」、後段4文字の名目を「下附」と解釈することとしました。すると、本香はA段・B段とも「一*柱開」の例により、「当たらなかった要素は空白とし、当たった要素のみ名目に書き換えて香記の回答欄に書き記す」という方式で整理することができました。こうして、各自の回答欄を埋めれば、出典に点法が記載されていない理由も辻褄が合います。執筆は、当った方にのみ名目を記し、個人の成績は書き記された名目の数で判断するということでよいと思います。
各自の回答欄が埋まりますと「下附」の段となりますが、出典では「全問正解」と「全問不正解」についてのみ記述があります。
まず、全問正解者には「一陽来復」と下附します。「一陽来復」とは、『易経』に「此に至り、七爻(こう)して一陽来復す、乃ち天運の自然なり」とあるのに基づして、「七回の変化をして陽が戻ってくること」から、夏至(陽の極み)から数えて7か月目となる「冬至」をはじめ、「冬が去り春が来ること」、ひいては「悪いことが続いた後にやっと状況が良いほうに向かうこと」を表すようになった言葉です。これは、冬景色の中から能く陽気を捉えたことを賞すとともに春の兆しを見つけた喜びを連衆と共有する言葉と言えましょう。
一方、全問不正解には「山中無暦」と下附します。「山中無暦」とは、茶掛の一行物にもみられる禅語の一部で『唐詩選』の「山中無暦日 寒尽不知年(太上隠者)」の中に原典を見ることができます。詩の全容は「たまたま松樹の下に来たり、枕を高くして石頭に眠る。山中暦日無し、寒尽くるも年を知らず」というもので、山の中に閑居していると、のんびりして年月の過ぎるのも忘れるという境地を示す言葉です。これは、冬至も陰陽の移ろいもわからなかった方に対して、「山中無暦の境地ね(^。^)」と慰めているところがいかにも香道的です。
最後に勝負は、最も多くの名目の書かれた方(最高得点者)のうち、上席の方の勝ちとなります。
実際は、「冬至」の後に「小寒」「大寒」が控えており、最も寒さの厳しい時期は年を越してからとなりますが、冬至を過ぎればそこかしこに陽気を感ずることもできるようになります。皆様も「冬至香」で厳冬の中に春の兆しを見つけてみませんか?
今年の冬至は12月22日の土曜日です。
冬至にはゆず湯に入り、かぼちゃを食べる風習がありますが
「柚子」や「南瓜」を要素名にした新組香もホッコリして面白いですね。
月高し炉火に炭継ぐ南窓湯気の虹なす小豆粥かな(921詠)
今年も1年ご愛読ありがとうございました。
良いお年をお迎えください。
組香の解釈は、香席の景色を見渡すための一助に過ぎません。
最も尊重されるものは、皆さん自身が自由に思い浮かべる「心の風景」です。
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