五枚の扇をカラーパレットにして 季節の草花を描く組香です。
試香がなくとも回答のできるところが特徴です。
※ このコラムではフォントがないため「」を「*柱」と表記しています。
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説明 |
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香木は、5種用意します。
要素名は、「青扇(あおおおぎ)」「白扇(しろおおぎ)」「紅扇(あかおおぎ)」「紫扇(むらさきおおぎ)」「黄扇(きおおぎ)」です。
香名と木所は、景色のために書きましたので、季節や組香の趣旨に因んだものを自由に組んでください。
「青扇」「白扇」「紅扇」「紫扇」は各3包、「黄扇」は2包作ります。(計14包)
この組香に試香はありません。
本香は、14包を下記のとおり2包ずつ7組に結び置きします。(2×7=14)
@「青扇・紅扇」、A「青扇・白扇」、➂「青扇・紫扇」、C「紅扇・白扇」、D「紅扇・紫扇」、E「白扇・紫扇」、F「黄扇・黄扇」
上記の7組を組ごとに打ち交ぜて 、2包の「初・後」を変えずに順に焚き出します。(計14包)
本香は、 組の区切りを意識しつつ14炉廻ります。
連衆は、5種の香の異同のみ判別して、数字や記号等でメモしておきます。
本香が焚き終わったところでメモを組ごとに分解し、「聞の名目」に見合わせて名乗紙に答えを 7つ書き記します。(委細後述)
点数は、1つの名目の当たりにつき1点とします。
執筆は、点法にしたがって、当った名目に「長点」を掛けます。
この組香に下附はなく、合点の数が成績を表すこととなっています。
勝負は、最高得点者のうち、上席の方の勝ちとなります。
笹の葉擦れと吹き流しの「サラサラ♪」のシンフォニーが聞こえます。
夏になりますと、街中の店先に色とりどりの扇子が並ぶようになり、目にも爽やかです。折からの和物ブームもあって、取り扱う店舗もデパートから小さな雑貨屋まで裾野が広がり、婦人用はもとより紳士用や若者向けのホップなものまで選択肢も広がって来たことは、元来「扇子使い」の私としては喜ばしいことです。この夏は、炎天下に歩く機会が多かったので、涼しい顔をして訪問先に到着するために近くの木陰でしばし風に吹かれてクールダウンする際の「汗ふきシート」と「扇子」は必需品でした。
そもそも扇とは、「式法を記録した木簡を綴じたもの」として発生したようで、奈良時代から「依り代」「御守」「呪物」として使われていた「檜扇」と平安時代に「あふぎもの」として作られた「紙扇」に大別されます。平安時代の半ばには、どちらも装束の一部となり、「檜扇は冬」「紙扇は夏」に用いられるようになりました。この頃には、人々が身につけるアクセサリーや贈答品としても広く一般化し、男女の愛も扇が媒体となることもありました。江戸時代になると、町人文化の中でさらに一般化して、「扇絵」は最も卑近な「絵画」となり、様々な絵師の手により個性豊かな最先端のファッションアイテムに昇華されていきました。
また、扇は、「神霊を仰ぎ寄せる」厄除けのデザインとされており、戦国武将にも好まれました。実は、我が家の始祖の家紋も「檜扇に井桁」らしいのですが、我家や縁者に伝わる家紋は「丸に剣方喰」となっています。「珍名さんなのにおかしくない?」という疑問から始まった家紋探しは、もう20年以上が過ぎましたが、全国で出逢った921さんに聞いて回っても未だにオリジナルには尋ね当たっていません。最も近いものが、5年前に岐阜県で出逢った「骨扇に井桁」でしたから、参勤交代で主君と別れて居残った家の方が、意外に始祖に近い血脈ないと思いました。東北では、秋田県の公文書館にある『921氏系図』に「七本骨」の扇紋を見つけました。一族の移動範囲は「秋田以南の東北四県と岐阜」に限られているので、幾分自由になった時間を利用して、発祥の地である茨城県水戸市(旧:常陸国921村)あたりから、もう一度同姓の人を探しつつ足跡を辿りたいと思っています。
今月は、色扇を合わせて季節の花を結ぶ「扇絵合香」(おおぎえあわせこう)をご紹介いたしましょう。
「扇絵合香」は、『軒のしのぶ(九)』に掲載のある組香です。小記録の景色を見ますと四季に通ずる景色となっておりますので、季節を問わずに催行できる「雑組」に属する組香かと思います。今回も夏の終わりの納涼香にふさわしい組香を探しておりましたところ、題号の「扇」の文字にまずは心惹かれました。「扇」に関する組香は平成16年8月に「扇争香」をご紹介していますが、あちらは「双方で扇を奪い合う」盤物の組香で、最後に勝者は「扇」がもらえるという掛物香でした。一方、こちらは、要素名や聞の名目に多彩な景色感があり、さらに読み進めると、とても奇知に満ちた構造を持つ組香であることがわかり、ご紹介することとしたものです。今回は、他所に類例もないことから『軒のしのぶ』を出典として書き進めたいと思います。
まず、この組香に証歌はありませんが、題号の「扇絵合」という言葉から、中世の「物合せ」にある「扇合せ」と「絵合せ」を融合したような趣旨であうと思いました。扇合せとは、左右の組に分かれて扇を出し合い、その趣向の優劣を判者が判定して勝負を決める遊戯で、絵合せとは双方から一点ずつ絵を出し、その技巧・図案などの優劣を判者が判定して勝負を決める遊戯です。そこで当初、「扇絵合香とは扇面に描かれた絵の優劣を比べる『扇合せ』の一種なのだろう」と思っていましたが、読み進めるうちに、この組香には「双方」という対戦相手が無く、景色にも対抗戦的な雰囲気がないことに気づきました。おそらく、この組香は「物合せ」の景色を写したものではなく、読んで字のごとく「扇の色を合わせて季節の花を結ぶ」ということが趣旨となっているのだと思います。
次に、この組香の要素名は、「青扇」「白扇」「紅扇」「紫扇」「黄扇」となっています。「五色」といえば、陰陽五行の「青・赤・黄・白・黒」が一般的となりますが、「赤(朱)」は則ち「紅」であり、「黒」は染料や色認識の関係から「紫」で表されることも多いので、実際には「青・紅・黄・白・紫」の配色も「木・火・土・金・水」に因んだ「五色」と言っていいでしょう。また、要素名の五色は、後に「聞の名目」の景色を描くための絵の具のようなもので、ここでは特段の景色はなく、投扇興で使うような「マットな単色の色扇」とイメージしておいて良いでしょう。
さて、この組香の香種は5種、全体香数と本香数はともに14包となり、構造自体には難しいところはありません。まず、「青扇」「白扇」「紅扇」「紫扇」は各3包、「黄扇」は2包作ります。次に出典では「右各試無し。本香十四包なり。初後を付けて二*柱づつ一結とし七結なり。」とあり、この14包を試香も焚き出さずに「所定の方法」で2包×7組に結び置きすることとされています。
ここで、「所定の方法」については、出典の聞き方の段に「初三*柱共に同香出たるは青扇の香。初に二*柱、後一*柱出たるは紅扇の香。初一*柱、後二*柱出たるは白扇の香、三*柱ともに後に出たるは紫扇の香。初後に同香出たるは黄扇の香」と記載されています。前述のとおり、この組香には試香がありませんので「5種もある複数の客香が聞き当てられるわけもない」と考え、最初は何が書いてあるのかわかりませんでしたが、「聞の名目」が列挙されている段で、答えを導き出すための要素名の組合せがわかり、逆転の発想から香包をどのように結び置くのかが判明しました。 今回は、出香前ですが聞の名目の一覧は下記の通り示します。
香の出 (香包の組合せ) |
聞の名目 |
青扇・紅扇 |
常夏(とこなつ) |
青扇・白扇 |
卯花(うのはな) |
青扇・紫扇 |
杜若(かきつばた) |
紅扇・白扇 |
園梅(そののうめ) |
紅扇・紫扇 |
籬菊(まがきのきく) |
白扇・紫扇 |
梢藤(こずえのふじ) |
黄扇・黄扇 |
山吹(やまぶき) |
このように並べてみると・・・
「青扇」は初の香に3回
「紅扇」は初の香に2回、後の香に1回
「白扇」は初の香に1回、後の香に2回
「紫扇」は後の香に3回
「黄扇」は初後同香
このように、各色の出目のパターンがそれぞれ違うことがわかりました。
そこで、「香の出」の通りに各組の「初・後」を固定して結び置きすれば、各組を打ち交ぜても「初・後」をその通り焚くことで香の出を7通りに限定することができると気づきました。 つまり、本香は「青扇・紅扇」「青扇・白扇」「青扇・紫扇」「紅扇・白扇」「紅扇・紫扇」「白扇・紫扇」「黄扇・黄扇」と結び置きし、2包×7組=14包を作ります。
続いて本香は、香元がまず7組 を結びごと打ち交ぜて、1組ごと順次結びを解き、「初の香」「後の香」の順序入れ替えずにそのまま2包×7組=14包を順に焚き出します。また香元は、各組の区切りを意識しつつ焚き出すことに留意しましょう。「一の組 初」「一の組 後」・・・と申し送りしても「本香1炉」「本香2炉」・・・のままで「奇数は初炉、偶数は後炉」と意識してもよろしいかと思います。
香炉が回って参りましたら、連衆は「無試十*柱香」のように香の異同だけを判別して「一、二、三、四、ウ」や「○、×、△、▲、□」のようにメモを残しておきます。そうして、本香が焚き終わると、連衆の手元には14包分の番号や記号が残され ることとなります。これを聞の名目に変換する作業が、この組香の最大の難関というところでしょう。
例えば記号で「×、▲、○、×、○、▲、□、□、△、×、○、△、△、▲」とメモされていた場合。
これを2つずつの組に分けると・・・
「×・▲」「○・×」「○・▲」「□・□」「△・×」「○・△」「△・▲」
これを各組ごとに見ていくと・・・
「×・▲」
「○・×」
「○・▲」
「□・□」
「△・×」
「○・△」
「△・▲」
初の香に3つとも出ている「○」は→「青扇 」
初の香に1つ、後の香に2つ出ている「×」は→「白扇」
初の香に2つ、後の香に1つ出ている「△」は→「紅扇」
後の香に3つとも出ている「▲」は→紫扇
初後とも同香が出ている「□」は→黄扇
これを要素名に変換すると・・・
「×・▲」「○・×」「○・▲」「□・□」「△・×」「○・△」「△・▲」
「白・紫」「青・白」「青・紫」「黄・黄」「紅・白」「青・紅」「紅・紫」
さらに、前述の「聞の名目」に当てはめると・・・
「白・紫」「青・白」「青・紫」「黄・黄」「紅・白」「青・紅」「紅・紫」
「梢藤」「卯花」「杜若」「山吹」「園梅」「常夏」「籬菊」
・・・という7つの名目となり、これを名乗紙に書き記して提出します。
このように試香がなくとも結び置きの所作だけで、答えを導くことができるというのが、この組香の最大の特徴といえましょう。
ここで、出香前にご紹介しました「聞の名目」は、やや春から夏にかけてりものが優勢ですが「四季の花」が配置されています。このことが季節を問わずに催行することができる組香であることを物語っています。また、それぞれが「五色」の組合せで染められた花の色目となっていることもお分かりいただけるかと思います。 「山吹」は黄色一色ですし、「杜若」は花弁が青と紫、「藤」は白と紫に染め分けられます。また、「梅」は紅と白、「菊」も紅と紫の花色があります ので、要素名の配色からも聞の名目を容易に連想できるものがあります。一方、「常夏(撫子)」は、ピンクの花や薄紫は多いものの「青」 の配色が用いられているところが奇異に感じました。そこで、「襲の色目」を調べましたところ「常夏」は「表は紅梅、裏は青(または薄紫)」との記述を見つけ納得しました。また、「卯花」も白い花のため、調べてみると「表は白、裏は青」とピッタリ当てはまりました。但し「園梅」「籬菊」「梢藤」はもともと造語ですし、「山吹」は同色ですので、ある程度の許容範囲を考慮してもすべてが襲の色目に符号するものではありませんでした。結局のところ、要素名の配色と聞の名目の組合せは「花弁の色に因んだイメージ」と結論付けて異論はないかと思います。
続いて、名乗紙が返って参りましたら、執筆は連衆の答えをすべて香記に書き写します。執筆が正解を請う仕草をしましたら、香元はこれを受け、香包を開いて正解を宣言します。執筆はこれを聞き、香の出の欄に「右上、左下」と組ごとの区切りが解るように2 列7段に「千鳥書き」します。その後、執筆は香の出から正解となる名目を定め、当った答えの右肩に複数の要素が当たっていることを示す「長点」を掛けます。
この組香の点数について、出典には「当り何れも1点づつ、片当たりなし」とあり、1つの名目の当たりにつき1点となります。また、初後を固定して焚き出す組香ですが、色味の構成が違っていては趣旨に合いませんので、初後の要素のどちらか一方が当たっている場合に得点とする「片当たり」はありません。そのため、この組香の満点は7点となります。また、この組香に下附はなく、出典の「扇絵合香記」の記載例では、答えに掛けた長点のみが各自の成績を表すこととなります。
最後に勝負は、最高得点者のうち上席の方の勝ちとなります。
流水に扇が流れる様を表す「流水扇文」は涼やかで雅な景色を見せてくれます。
今となっては贅沢すぎる「扇流し」は・・・
足利尊氏のお供の童子が誤って扇を川に落したことから始まったようです。
情趣というものは、観る人によってどこにでもあるものですね。
蚊遣火とあふぎの風に肩寄する笹の葉窓に星数多なり(921詠)
組香の解釈は、香席の景色を見渡すための一助に過ぎません。
最も尊重されるものは、皆さん自身が自由に思い浮かべる「心の風景」です。
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