九月の組香

様々な萩に露の結ぶ景色を表した組香です。

客香の出方によって証歌の変わるところが特徴です。

※ このコラムではフォントがないため「ちゅう:火へんに柱と書く字」を「*柱」と表記しています。

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説明

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  1. 香木は、用意します。

  2. 要素名は、「小萩(こはぎ)」「 秋萩(あきはぎ)」「眞萩(まはぎ)」「絲萩(いとはぎ)」と「露(つゆ)です。

  3. 香名と木所は、景色のために書きましたので、季節や組香の趣旨に因んだものを自由に組んでください。

  4. 「小萩」「秋萩」「眞萩」「絲萩」は各3包、「露」はは2包作ります。(計14包)

  5. 「小萩」「秋萩」「眞萩」「絲萩」のうち各1包を試香として焚き出します。(計4包)

  6. 手元に残った「小萩」「秋萩」「眞萩」「絲萩」の各 2包に「露」2包を加えて打ち交ぜ、その中から任意に1包を引き去ります。(10−1=計9包)

  7. これをA段5包とB段4包に分けて、順に焚き出します。

  8. 本香A段は5炉廻り、本香B段は4炉廻ります。

  9. 連衆は試香に聞き合わせ、名乗紙に要素名を出た順に9つ書き記します。

  10. 点数は、要素名につき各1点となります。

  11. 下附は、各自の得点を漢数字で書き表します。

  12. 勝負は、最高得点のうち上席の方が勝ちとなります。

 

 広瀬川の河畔にも小萩が可憐な姿を見せる季節となりました。

  『香筵雅遊』も おかげさまで開設22周年を迎えることができました。新しき御代になりまして相変わりませず皆様のご愛顧をいただいておりますことに改めまして感謝申し上げます。 毎年「視力と腕力の続く限り乱文を綴り、お目汚しを続けたい」と言い続けておりますが、老化に定年後の解放感が勝ってか・・・いつ筆を折る事態になるかもわかりませんので、このほど『組香百景』を「(+36)」から「(×2.5)」に増補改訂いたしました。22年の歳月をかけて250組もの組香を世に残すことができたというだけでなんとなく肩の荷が下りた気がしています。今後ともこのコラムは「癖」で書き続けてい くとは思いますが、どこで途絶えても「もう恨みっこなし」ということで、何卒よろしくお願い申し上げます。


仙台銘菓に「萩の月」というお菓子があることは皆さんご存じのことと思います。数年前に北海道の「白い恋人」、福岡県の「辛子明太子」に次いで「20世紀を代表する土産品」第3位になった「萩の月」ですが、これが実は我が故郷の「大河原銘菓」だったいうことは、昭和生まれの町民以外はご存じないかもしれません。

「萩の月」の由来は、仙台が古くから「宮城野」と呼ばれる歌枕で、中秋の名月の頃に咲く「宮城野萩」の名所だったことから「萩が咲き乱れる宮城野の空に浮かぶ満月」に見立てて命名されたものだそうで、箱に描かれた涼やかな秋夜のイメージは発売以来変わっていません。

製造元は、私が大河原町に住み始めた頃は、「三全工業」という会社で袋菓子などを作っていました。NHK大河ドラマ『樅ノ木は残った』の放送を機に地元がいろいろと盛り上がっていた時期に「伊達藩に因んだ土産物」の製造を手がけるようになり、社名を「三全製菓」に変えて「伊達絵巻」「伊達小巻」という箱菓子を大河原駅の売店で販売していました。これが軌道に乗ったところで社名を「菓匠三全」として「萩の月」を世に問うわけですが、当初はこれも駅の売店で売られており、私が新規採用の初登庁の時に「地元のお菓子です。」と仙台の職場に持って行ったお土産は「萩の月」でした。

その後、「萩の月」は、鉄道から空港への販路拡大や有名人の口コミもあり、全国に名を馳せて、とんとん拍子で「仙台銘菓」への出世街道を突き進んで行きました。一時期、「萩の月じゃないと仙台のお土産じゃない!」と言われることもあったので、乙好みの私も各地に持参しましたが、その際には「萩の月」に書かれた「本社:大河原町保科前」の住所を見せて「実は大河原の銘菓なんですよ〜。」と蘊蓄をたれて悦に入っていたものです。

今となっては、本社も「仙台市青葉区大町」に移転し、「萩の月」は名実ともに「仙台銘菓」となりました。会社もたくさんのサブブランドを展開し、約140種類の和洋菓子を製造販売しているらしいです。地元民としては、やや寂しい気がするのですが、まだ実家の裏手にあった本社は工場として残っており、そこに立つと戦後から「芋飴」を一斗缶に飴を詰めて行商していたという先代の「一代記」が偲ばれます。

今月は、白露の結ぶ様々な萩の景色を写した「小萩香」(こはぎこう)をご紹介いたしましょう。

「小萩香」は、『香道の栞(その二)』に掲載された秋の組香です。同名の組香は、志野流藤野家の香書を原典とした姉弟書とも言える杉本文太郎著の『香道』と水原翠香著の『茶道と香道』にも掲載されており、3書ともその趣旨はほぼ一致しています。特に『香道の栞』については用字用語の類似性から言って、おそらく『香道』に掲載された組香を御家流風にアレンジして紹介し直したものと思われます。今回も秋にご紹介する組香を探していましたところ、「虫」「草」「紅葉」「菊」「月」など豊富な事物に紛れて、仙台に縁のある「萩」を主景にした組香をご紹介していないことに気づき、この機に取り上げることといたしました。この組香に関しては、おそらく『茶道と香道』がオリジナルに最も近いと思われ、『香道』はこれに若干解説を加え、『香道の栞』は、それを御家流風にアレンジしたという系譜が感じられます。しかし、今回は敢えて最も記述が新しい『香道の栞』を出典として、他書との相違点を加えながら筆を進めたいと思います。

まず、この組香には、「証歌」として、香の出により香記に書き記す和歌が掲載されています。

@ A段に露が二つ出た時 

「よもすがら置き添う野辺の白露にしたをれぬべきあき萩の花(題林愚抄3512 少将内侍)」

意味は「夜通し置き加わる野辺の白露に秋萩の花はきっと下に折れてしまうに違いない」ということでしょう。他書では「下をれぬべき」と漢字で表記されているため「しおたれぬべき」の誤植ではないようです。

A B段に露が二つ出た時

「さきそめて花は稀なるあきはぎの枝にみだれてあまるしら露(題林愚抄3376 冬隆朝臣)」

意味は「咲き始めて花がまだ少ない秋萩の枝に大小様々な白露がいっぱいに結んであふれそうだ」ということでしょう。「しら露」については他書も共通していますが、原典の『題林愚抄』では「朝露」となっています。

B A段・B段に露が分かれて出た時

「さをしかの夜がれや恨む本すゑもつゆにみだるる萩のはな妻(出典不明)」

意味は「牡鹿の通いが途絶えたことを恨んで、花も枝葉も露に乱れてしまった萩よ」ということでしょう。「夜がれ(夜離れ)」とは「男が女のもとに通うことが途絶えること」を表します。「さをしか(小牡鹿・棹鹿)」は雄鹿のことです。一方、「花妻」とは鹿がいつも萩に寄り添うところから、鹿の妻に見立てていう「萩の花」のことです。この歌だけは『題林愚抄』に出典を見ることはなく、『国歌大観』の範疇でも尋ね当たりませんでした。

C 露が一つだけ出た時

「あさなあさな置くとはみえて秋萩の花にたまらぬ野辺のしら露(題林愚抄3374 為親朝臣)」

意味は「毎朝結んでいるように見えているが、なかなか秋萩の花にたまらない野辺の白露よ」ということでしょう。

このように、この組香は、様々な萩に結んだ「露」の景色を観念的に楽しむことを趣旨としています。また、それぞれの和歌は秋の歌らしく、読み込まれた「露」の重さが「想い人への思い」の深さのようにも読めるところがありますので、「積もる想い」や「想い乱れる」など「露」を「想い」と読み替えてみるとさらに違った景色が見えてきます。

因みに、『茶道と香道』に記載された和歌は漢字が多く、『香道』のものと字配りが全く異なるのですが、和歌自体は全く同じものです。また、『香道』に掲載された@「五*柱迄に露二ツ出ば」「よもすがら…」、A「下四*柱に露二ツ出ば」「さきそめて…」、➂「上下に露分れ出ば」「さをしかの…」、C「露一ツ丈け出れば」「あさなあさな…」という香の出と和歌の関係も共通しています。特に、出典に記載された和歌の用字は一字一句『香道』と同じであるため、出典は『香道』を基に書かれたものと考えて間違いなかろうと思います。

次に、この組香の要素名は「小萩」「秋萩」「眞萩」「絲萩」と「露」となっています。「小萩」とは、読んで字のごとく小さい萩のこと。「秋萩」は、萩そのもののこと。「眞萩」とは萩の美称。「絲萩」は糸のように枝の細い萩のことです。これらは、すべて秋の季語となっており、それぞれが植物名の「ハギ」の品種ではなく容姿を表す言葉でした。また、「露」は空気中に含まれている水蒸気が放射冷却などの影響で植物の葉に結ぶ水滴のことで、「萩の白玉」と真珠のようにも擬えられています。

さて、この組香の香種は5種、全体香数は14包、本香は9炉となっており、構造としては至って簡単です。まず、「小萩」「秋萩」「眞萩」「絲萩」は3包ずつ作り、「露」は2包作ります。次に、「小萩」「秋萩」「眞萩」「絲萩」の各3包のうち1包を試香として焚き出します。そして、手元に残った「小萩」「秋萩」「眞萩」「絲萩」の各2包に「露」の2包を加えて打ち交ぜ、その中から任意に1包引き去ります。このようにして本香は、最終的に手元に残った9包をA段5炉とB段4炉に分けて順に焚き出します。

因みに、『香道』では「九包を前五、後四と焚き出す」と記載されており、もともと「露」の出を演出するために設けられた本香上の弱い区切りだったものが、『香道の栞』ではA段・B段という「段組」に構成されたのではないかと思います。「段組」は組香の景色を大きく場面転換する「章」のようなものなのですが、この組香については、「朝・夕」とか「初秋・仲秋」などの大きな景色の違いが見いだせませんでした。おそらく、この組香は最終的に「証歌」を選び出す際のバリエーションをつけるために本香を上下2段に分ける便法を段組にアレンジしたものではなかろうかと思います。

こうして、A段5炉とB段4炉が焚き出されましたら、連衆は試香と聞き合わせて「小萩」「秋萩」「眞萩」「絲萩」を定め、聞いたことのない香りは「露」と判別します。香手前の所作で1包を任意に引き去っていますので、各要素のどれかは1炉しか出ないことになります。連衆は試香に聞き合わせ、名乗紙に要素名を出た順に9つ書き記します。

ここで、出典には「A段B段とも最初に出たものだけを2字書き、後は一字づつ書きます。」とあり、例として「小萩、秋、眞、絲、露」「絲萩、露、秋、眞」と示してあります。そこで、連衆は各段の初炉のみ「萩」の字をつけて2文字で書き、その他は頭文字のみ1文字で名乗紙に要素名を出た順に9つ書き記して提出します。それでも混同する恐れのある場合はA段、B段の区別がつくように縦2列に記載するとよいでしょう。

因みに、『香道』では「最初の出香のみ正しく二字に書き、次から一字を省略して記すのである。」(1段・頭2字方式)とあり、『茶道と香道』では、「小、秋、眞、絲、露と記すべし。」(1字方式)とあり、この点については、3書で記載が異なりました。私は、香記の回答欄に縦1列で書いても「A段5炉・B段4炉」の区切りが見えやすい出典の「2段・頭2字方式」に従った方が判り易いかなと思います。

続いて、名乗紙が返って参りましたら、執筆は連衆の答えをすべて香記に書き写します。執筆が答えを写し終え、正解を請う仕草をいたしましたら、香元は香包を開いて正解を宣言します。これを聞いて、執筆は香の出の欄に正解を縦一列に書き記します(2段・頭2字方式)。ここから先は出典にも別書にも記載例がありませんので、各流派の常道に従いましょう。

因みに、『香道』では和歌の記載方法について、「記録の末にても、亦出の傍に書くとも更に差し支へはない。」とあり、香の出と各自の解答欄の間に書き記すことも可とされています。

ここで、この組香の最大の特徴である証歌の奥付の段となります。執筆は客香である「露」の出方によって、前述したとおりの和歌(@〜C)を「記録の奥」に書き記します。この組香は、最終的に景色を総括する「証歌」と「露」の出方との因果関係を読み解くことが避けては通れません。私もこのことに多くの時間を費やし、4首の証歌との「にらめっこ」が続きましたが、「さをしか」の歌にある「本末」の言葉から、「萩に露が結んでいる場所」がヒントではないかと考えました。そのように考えると、@A段に「露」が2つ出たものは「露がにとまっている」、AB段に「露」が2つ出たものは「露がにとまっている」、BA段とB段に1ずつ出たものは「露が本末(花や枝葉)にとまっている」、C露が1つしか出なかったものは、「(朝方あったのに)露が止まっていない」景色と解釈することができます。私見の域を出ませんが、この組香の景色は、最終的に露が何処に結んでいるかに帰結しているように思えます。

このようにして書き記された証歌は、本来「この歌をテーマとして組香を作りました」という純粋な意味での文学的支柱ではありませんが、香記の景色を最終的に締めくくる上でとても重要な意味を持つものとなります。

この組香の点法は、至って単純です。執筆は、香の出を横に見て、同じ要素名のものを正解として合点を掛けていきます。点数は要素の当たりにつき1点とし、客香である「露」にも加点要素はありませんので9点満点となります。下附についても出典には「点数」としかないため、各自の得点を漢数字で書き附します。数字だけでは寂しいと思われる方は、その座の決め事で全問正解に「皆」「全」「叶」、全問不正解に「無」などと書き附すこととしてよろしいかと思います。

最後に、勝負は最高得点者のうち上席の方の勝ちとなります。

秋風が涼しさを増す頃に開かれる「萩まつり」は、篠笛や野点、詩吟など「月」の似合うしっとりした催しが魅力です。皆様も「小萩香」で白露結ぶ月の野辺を感じてみてはいかがでしょうか。

  

大河原の工場の近くには「工場直販店」があります。

そこで売られている「萩の月パンク」はアウトレット品で、正規品の約半額!

膨らみ過ぎて横から見ると少しひび割れのあるお月様は、地元ならではの人気商品です。

宮城野の色なき風にうちなびき萩の古枝や月澄みまさる(921詠)

組香の解釈は、香席の景色を見渡すための一助に過ぎません。

最も尊重されるものは、皆さん自身が自由に思い浮かべる「心の風景」です。

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