十二月の組香

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「源氏香」で引き去った捨香を再利用した組香です。

香の異同を五色で表すところが特徴です。

※このコラムではフォントがないため「 説明: 説明: 説明: 火篇に主と書く字」を「*柱」と表記しています。

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説明

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  1. 香木は、「源氏香」で引き去られた5種(20包)を使用します。

  2. 要素名は、「源氏香」の「一」「二」「三」「四」「五」をそのまま引き継ぎます

  3. 香名と木所は、景色のために書きましたので、季節や組香の趣旨に因んだものを自由に組んでください。

  4. この組香には、試香はありません。

  5. 本香は、20包を打ち交ぜて、20炉焚き出します。

  6. 連衆は、1炉目に何が出ても「青」と答えます。

  7. 以降、「無試十*柱香」のように、香の異同を判別して聞の名目で答えます。

※ 1番目に出た香は「青」、2番目に出た香は「黄」、3番目に出たは「赤」

4番目に出た香は「白」、5番目に出た香は「黒」とし、同香は同じ色で答えます。

  1. 執筆は、連衆の答えをすべて香記に書き写します。

  2. 香元が、正解を宣言します。

  3. 執筆は、正解の名目を定めて、当たった答えに合点を掛けます。(委細後述)

    ※ 「青」以外は、同じ香を同じ色で答えている場合は、正解の名目に関わらず当りとなります。

  4. 一方、1炉目の「青」の聞き違いには、減点となる星を付けます。

  5. 下附は、全問正解は「皆」、その他は点と星を並記します。

  6. 勝負は、最高得点者のうち上席の方の勝ちとなります。

「源氏香」で「手習」(全部同香)が出た場合は、香種、要素名、聞の名目ともに4種になります。

 

長く射し込んだ陽だまりに寝そべる猫の姿に心和む季節となりました。

昨今、「SDGs(エス・ディー・ジーズ)」という言葉が、何かしらの言葉尻に差し挟まれることが多くなりました。ひと昔前には「ECO(エコ )」や「LOHAS(ロハス)」などという言葉ももてはやされましたが、これらは何となく「個人的な生活規範」というイメージが強く、「社会規範」には成り切れなかった感じがします。一方、この「SDGs」は、2015年に「持続可能な開発のための2030アジェンダ」とその17の「持続可能な開発目標(SDGs)」が国連で採択されたことに端を発するため、最初から「社会規範」としてデビューしました。そして近年、「なんだかわからないけれども取り組んでいれば品格が上がるらしい」ということで企業や行政が積極的にプレゼンテーションし、いつしか一般の人た ちも「SDGs」を生活規範として意識し始めたというところでしょう。

アジェンダの提唱以前から「2050年までに世界人口が 96 億人に達した場合、現在の生活様式を持続させるためには、地球が3つ必要になる。」と言われており、これは、本当に皆でどうにかしなければいけない問題です。17の目標は地球視点で構成されているため、「貧困の解消」 から「ジェンダー平等」、「気候対策」まで多岐にわたりますが、個人として意識しやすいのは、目標12の「持続可能な消費と生産のパターンを確保する」でしょう。端的に言えば「より少ないもので、より多くの人が、よりよく暮らすこと」を目指すことです。最も卑近な「水と食料」の課題を取り上げれば、地球上の水資源のうち人類が飲める淡水は約0.5%に満たないのに、自然が再生・浄化しきれない速度で水を汚染していること。毎年、生産される食料全体の約1/3が、人々の口に入らないまま廃棄されているにもかかわらず、依然として飢餓に苦しむ人が8.2億人おり、肥満で悩んでいる人も6.5億いること・・・。誰もが、消費の「量」ではなく「質」にこだわって、有るものを無駄なく、長く使い、それでいて貧乏臭くならずに「質」の高い生活を求めることができないものなのでしょうか。人口減少、少子高齢化、労働力の減少、社会保障費の増大、インフラの老朽化など「2050年問題」の先進国となる日本は、むしろ「大量」ではなく「高質」を希求する方が向いていると思います。 少ない人口に手間とお金を掛け、右肩上がりの成長を目指ささず、その還流のみで高質・安定な経済運営をすることに舵を切ることも必要かと思っています。

そういう意味では、我が芸道たる「香道」は誰憚るところなく「高質」です。もともと貴重な天然資源である「香木」を切り分けて使用するため、「広がれば劣化する」宿命は持っていますが、幸い「敷居の高い高尚な趣味」とされ、確固とした意識のある少数の方々に支えられているものですから、香木の質と精神性を保ちながらも細々と続いている感じが「SDGs」的です。また、香道は茶道のように「生産」される素材をほとんど使わず、消費するエネルギーも炭団のみですので、二酸化炭素排出量も微々たるものです。最も大切な「香木」は、昔は乱獲と森林伐採のもとに大量に採取され、その中から選りすぐったものが日本に輸入され、更に選りすぐったものが「銀葉に乗る」という形でしたので、お世辞にも「SDGs」的とは言えませんでした。しかし、今は採取する資源そのものが少なくなっており、多くの方は既に所持している香木を聞いているので環境に対する負荷は相当少なくなっています。また、「銀葉に乗らない」程度のものは、香木プランテーションで生産していますが、森林伐採はするものの基本的には樹木(沈香樹)を植えて林に戻しますし、最近は、「木に穴を開けない」「切り倒さない」など、環境に配慮した生産方法もとられているようです。

さらに、香木に携わる方は、「香木の挽き粉は捨てずに貯めておいて練香の材料にする」「焚き殻も捨てずにミックスして空薫きに使う」「焚き殻を組んで『焚殻香』をする」などとても大切に消費しています。ましてや、本香で引き去った香木を「捨香(すてこう)」と呼びながらも、あだやおろそかにしたりはしません。このように、環境に負荷なく持続可能な芸道である香道 ですので、希少で高質なものを求める人々に支えられて、永く「持続」してくれることを祈るばかりです。

今月は、源氏香の続編とも言える「源氏拾遺香」(げんじしゅういこう)をご紹介いたしましよう。

源氏拾遺香は、『軒のしのぶ(九)』に掲載のある組香です。これは、香道において最も基本的な「十組香」のうち、もっとも有名を馳せている「源氏香」の拾遺香です。「拾遺香」とは、本香手前で引き去られ、焚き出されなかった香包(捨香)を再利用して、別な組香として遊ぶものです。皆さんも「源氏香」をお稽古された時に「本香で焚かれなかった香木は拾遺香として使うことがある」ということは耳にしたことがあると思います。しかし、現在催行されている「源氏香」は、香木の高騰もあってか、なかなか「各要素5包作り、計25包から5包引き去って焚き出す」という所作が省略され、「あらかじめ本香5包を選んでおき、これを打ち交ぜて焚き出す」ということも多いのではないかと思います。これをすると「答えの出目が絞られますので執筆が楽」「うまくすれば季節に因んだ帖名に正解を落とし込むことができる。」というメリットもあり、大寄せなどでは大抵この形式で行われているのではないでしょうか。このようなことから、今月は『軒のしのぶ』を出典として、聞いたことはあるけれど、やり方がわからない絶滅危惧種の「源氏拾遺香」をご紹介し、正しい「源氏香」の再興に繋げたいと思います。

まず、この組香は基本的に「源氏香」の後座として催行される組香ですので、題号は、「源氏拾遺香」となりますが、証歌が無いことや、要素名等は、初めに行われた「源氏香」のものと同様となっています。「拾遺香」のある組香で有名な「宇治山香」では、「我が庵は都のたつみ…(喜撰法師)」の歌の句が景色とを織り成していますが、「宇治山拾遺香」では、残香を「花」「鳥」「風」「月」と要素名を変えて、その組み合わせで「百囀」「松の雪」等の聞きの名目を設けて宇治山の景色をより具体的に見せるようにしてあります。この組香も要素名は変わりませんが、聞の名目を設けて、『源氏物語』を何らかのものに昇華させているような気がします。

次に、この組香の要素名は、「一」「二」「三」「四」「五」となっており、前述のように「源氏香」をそのまま引き継いでいます。匿名化された要素名は、単なる聞当ての素材とされ、後段の「聞の名目」で景色づけられて行きます。

さて、この組香の香種は4種か5種、全体香数は20香、本香数も20炉となっています。香種・香数については、前段の「源氏香」で任意の5香を焚き出しているため、どのようになっているかわかりません。前段で5炉すべてが同香の「手習」だった場合は、拾遺香には4種が5香ずつ残っており、5炉すべてが異香の「帚木」だった場合は、5種が4香ずつ残っている筈です。当然、香の組み合わせはこのような単純なものとは限らず、1炉と3炉が同香で他はそれぞれ異香の「花の宴」が出た場合、拾遺香では1種が5香、3種が4香、1種が3香の都合20炉となります。このようにして、本香は「源氏香」で残された20香を打ち交ぜて順に焚き出し、本香は20炉焚き出します。

本香が焚き出されますと、連衆は香の異同を頼りに答えとなる聞の名目を導き出します。この方法について、出典には「初炉を青、二*柱目替りたるを黄、又替りたるを赤、又替りたるを白、又替りたるを黒。右の如くに名目を付けてきく、試無十*柱香の如し。」とあり、無試十*柱香のように異香の出場順に「聞の名目」を当てはめていくことが示されています。

つまり、1炉目は何が出ても「青」とし、2炉目が同香ならば「青」、異香ならば「黄」とします。続く3炉目が今まで出たものと同香ならばその名目とし、どちらとも違う異香ならば「赤」とします。4炉目も同じく、以前に出たものと同香ならばその名目、異香ならば「白」とし、5炉目に出た異香は「黒」とします。これは、無試十*柱香で「一」「二」「三」「ウ」で当てはめていたことを「青(一)」「赤(二)」「黄(三)」「白(四)」「黒(五)」と置き換えたのと同じで、出現順に「最初は青、2番目は黄、3番目は赤、4番目は白、5番目は黒」と当てはめると覚えても良いでしょう。ただし、「無試十*柱香」では「一」「二」「三」が3包ずつに「ウ」が1包で10炉と出現香数が決まっていましたが、この組香ではどれが何包で計20炉になるか分かりません。前段の「源氏香」の正解を知っていれば、本香で焚き出される香種と香数についてある程度予見はできますが、それは名乗紙を出す際の最終確認の参考とする程度にして、香の異同のみ聞き分けることに傾注した方が良さそうです。香種・香数の予見の効かない「無試二十*柱香」ですので、相当難しいものになるかと思います。なお、この組香は、「名乗紙使用の後開き」ですので、記憶力のことも考え、即断を避けてメモをしておくもの良いでしょう。

:源氏香で「紅葉賀」が出て、「四」を3包、「一」と「二」を1包焚き出した場合

「一(4包)」+「二(4包)」+「三(5包)」+「四(2包)」+「五(5包)」=20包

「三」「二」「五」「五」「三」「一」「一」「二」「三」「五」

「五」「三」「一」「五」「三」「二」「一」「四」「四」「二」

「青」「黄」「赤」「赤」「青」「白」「白」「黄」「青」「赤」

「赤」「青」「白」「赤」「青」「黄」「白」「黒」「黒」「黄」

ここで、聞の名目に使われた「五色」について考察を加えたいと思います。まず、普通に考えれば誰しも中国古代の陰陽五行思想の「五色」 である「青(木・東・春)、赤(火・南・夏)、黄(土・中央・土用)、白(金・西・秋)、黒(水・北・冬)」を連想すると思います。創作者も香が5種なので単純に「五色」を当てはめたのかもしれませんが、聞の名目に用いられている色の順番が「青→黄→赤→白→黒」となっており「五行」のサイクルには合わないので、気になって調べてみました。すると、仏教における如来の精神や智慧、能力を表した「五正色(ごしょうじき)」では「青黄赤白黒」(しょう・おう・しゃく・びゃく・こく)の並び が符合しました。また、『源氏物語』の「総角」に八の宮の一周忌法要の準備のために薫が宇治の山荘を訪ねると、姫たちが「名香の糸(みょうごうのいと)という法要で仏に供養する香を包む際に用いる五色の組糸を作っていて、これを詠み込んで薫が大君と歌を贈答するシーンがあり、当時は密教が盛んでしたので、 仏教思想の「五色」をイメージした方が、物語の景色を連想しやすいかもしれません。

続いて、この組香の香記について、出典には「記録に組香を記録さず。源氏香にしるしあるゆへなり」とあり、 「源氏拾遺香之記」の記載例には冒頭は題号」があるのみで下段の「香組」の記載はありません。それは「源氏香」の際にすでに「香組」は香記に 示さされているため、同じ香組となる「拾遺香」には記載しないということのようです。しかし、香記を「続き」とせず、組香ごとに出すのであれば、勝者が同じとも 限りませんので、授与された方のためにも省略せずに記載すべきかと思います。

本香が焚き終わりましたら、連衆は聞の名目を名乗紙に20個書き記して回答します。名乗紙が返って参りましたら、執筆は連衆の答えを各自の解答欄にすべて書き写します。この際、香数が多いので解答欄は10炉ずつ2列として上から順に書いていきます。答えを写し終えましたら、香元に正解を請い、香元は香包を開いて正解を宣言します。この時、正解は要素名で宣言されますので、執筆は要素名のまま 香の出の欄に記載します。その後、正解の要素名と答えの名目を見合わせながら、当りの名目に合点を掛けます。

ここで、この組香は「無試十*柱香」と同じ「つるび」という採点方法をとります。前述の例のように1炉目の要素名が「三」ならば、その後出てきた「三」はすべて「青」となりますが、最低1つは同香を聞き当てていなければ合点は付きません。ただし、「三」の香が1包しか出なかった場合は、他に「青」を書いていなければ当りとなります。このようにして、執筆は一人ずつ、香の出と見比べて行きます。まず、「青」に対応する要素名「三」は全員共通です。その後、「二が黄」「五が赤」「一が白」「四が黒」とすべて対応していれば全問正解となります。一方、 「一が黒」として3炉聞き当てているとか「五が白」として2炉聞き当てているという場合も合点が付きますので、執筆は「要素名」と「名目」の組み合わせが全問正解のものと違っていても、同香を複数聞き当てている場合は当りとして、合点を掛けます。

一方、この組香の出典には「初結たるは点後にし、替りて誤りたるは星を付けるなり」とあり、「源氏拾遺香之記」の記載例と見合わ せたところ、「青」の聞き外しの場合は、1点減点となる「星」が名目の右肩に「・」と付くことになっていることが解りました。これは、初めに出た香が「青」ということは決まっているので、「青」の同香の間違いにペナルティを付けているものと思われます。 さらに、この組香の下附は、全問正解には「皆」、その他は、点と星に応じて「点〇」「星〇」と並記します。

最後に勝負は、各自の得失点の合計を差し引きし、最高得点者のうち上席の方の勝ちとなります。

 

「豊かさ」のランクってやっぱりあると思います。

「多種・多量」に満たされ、「高質・洗練」に満たされ

「美」が暮らしや佇まいに滲み出たところで・・・

最後は、パトロネージュですかね。

ひととせの落葉小柴をこき交ぜて芋焼べて喰む鄙の暮かな(921詠)

今年も1年ご愛読ありがとうございました。

良いお年をお迎えください。

組香の解釈は、香席の景色を見渡すための一助に過ぎません。

最も尊重されるものは、皆さん自身が自由に思い浮かべる「心の風景」です。

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