1月の組香
四季を問わず変わらぬ緑を寿ぐ組香です。
連衆の担当する季節によって加点の変わるところが特徴です。
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※ 慶賀の気持ちを込めて小記録の縁を朱色に染めています。
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説明 |
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香木は、7種用意します。
要素名は、「花(はな)」「鵑(ほとぎす)」「月(つき)」「雪(ゆき)と「別」「異」「客」です。
香名と木所は、景色のために書きましたので、季節や組香の趣旨に因んだものを自由に組んでください。
「花」「鵑」「月」「雪」は各3包、「別」「異」「客」は各2包作ります。(計 18包)
本香包は、あらかじめ2包ずつ7組に結び置きします。
※ 「花・異」「花・雪」「鵑・別」「鵑・月」「月・異」「雪・別」「客・客」
手元に残った「 花」「鵑」「月」「雪」 「花」の各1包を試香として焚き出します。(計 4包)
本香は、2包ずつ7組、都合14炉廻ります。
香元は、2炉ごとに香炉に添えて「札筒(ふだづつ)」か「折居(おりすえ)」を廻します。
連衆は、試香と聞き合わせて「初・後」の香を判別し、これと思う「聞の名目」の書かれた香札を1枚打ちます。
執筆は、各自の答えをすべて香記に書き写し、当たった名目に所定の合点を掛けます。(委細後述)
この組香に下附は無く、合点の数が各自の成績を表します。
勝負は、最高得点者のうち上席の方の勝ちとなります。
遠来の家族とともに過ごすことのできるお正月となりました。
昨年の秋から「お猫さま」と暮らすことになりました。思えば我が生家を引っ越して以来55年ぶりの同居です。我が生家には、偉大な母猫「マリ」がいて、その3匹の子供たち「ミカ♂」「ミホ♀」「ミーケ♂」と幼少期を過ごしたことや、唯一生き残った「ミカ」を残して生家を引っ越した後に、何か月かの旅を経て再会したけれども、もう飼い猫にすることはできず、その事情を察したのか、彼は近所の魚屋の猫に収まったという 童話のような話は、ひと昔前、このコラム書いたことがあります。
今回、同居することになった猫「ポポ♂」は、娘の「ねこいるといいなぁ〜」の積年の結晶で、イマドキの猫らしく、「相当お高い血統書付き」をブリーダーのところまで わざわざ迎えに行って買い求めたのだそうです。歩く調度品のような彼は、当然、気位が高く、無駄鳴きもせず、悠然とテリトリーとなった我が家を巡回し、その日、その時に居心地のいい場所で寝そべっています。餌付けも禁止で、出入り自由の一軒家で家族の残飯を「猫まんま」にして与えられ、たまに獲れるネズミをタンパク源としていた、生家の猫たちとの大きな違いに隔世の感をいだいたものです。最初、彼は、「母」として刷り込まれた娘以外は、「手下」の認識だったようですが、一緒にいる時間の長い妻は、次第に順位を上げ、今では「お世話してくれるトモダチ」となっています。私はと言えば、朝晩の巡回の際に書斎を歩き回られる程度で すが、ベランダごしに外の風景が見える腰高窓はお気に入りのようです。当人同士は、それほど慣れ親しんではいないのですが、私も猫との付き合い方は子供の頃から手慣れているのでツボは心得ています。今では「ネコナデ爺」となり、私を見るや否や床に寝ころび「ほ れ、撫でてくれろ(-ω-)」とせがまれます。ひとしきり全身を撫で終わると、スッと立ち上がってどこかに行ってしまうのですが、スキンシップはお互いを癒す大切なコミュニケーションだと思い始めてきました。
我が家で「猫を飼う」との提案があった時から、「また、家族の第4順位に落ちるのかぁ〜(+o+)」と覚悟はしていましたが、彼と生活することで、沈滞化していた家庭内の悪癖のようなものが改善されていくことも目に見えてわかり、子供 たちが小さかった頃のように視線の先に同じものを見ていることで生まれる連帯感も感じられるようになりました。聞けば、家の外に出ない猫の平均寿命は16歳程度とのことですから、15年後には彼の身体発育年齢が私に追いつき、追い越して行くこともあるのでしょう。これから、人の膝にも乗らず、抱き上げられるのも嫌いな彼との関係性がどのように深まり、夫婦ともども共存から相互依存にまで進展していくのか楽しみでなりません。 娘が連れて家を出てしまえば、それまでですけども・・・。
今月は、四季の景色に常緑をあしらう「常盤香」(ときわこう)をご紹介いたしましょう。
常盤香は、米川流香道『奥の橘(風)』に掲載のある組香です。「常盤香」と言えば、平成13年1月に「千年」「若緑」「下紅葉」「相生」「十返」の「聞の名目」から「松」という隠れたキャラクターが現れてくる「祝組」をご紹介しています。今回もお正月にご紹介すべき組香を探していましたところ、同名異組の「常盤香」が目につきました。読み進めてみますと、どちらかと言えば「花鳥風月」、「雪月花」等、四季の景色が現れる組香となっており、端的に「めでたさ」が感じ取れるほど、押しも押されもせぬ「祝組」とは言い切れないところがありました。そこで、今回は、『奥の橘』を出典として「祝組」というよりも、四季に通ずる「四季組」として、これからの一年に展開される山野の「常緑」を愛でる組香をご紹介していきたいと思います。
まず、この組香には証歌はありません。「常盤香」という題号には、やはり「松」を連想させるイメージはありますが、要素名や「聞の名目」、連衆の札紋の景色から直接的に感じることは難しいと思います。そこで、私は敢えて「松」にこだわらず、四季それぞれ「常緑樹」の姿を遠・近両面から捉えた組香なのではないかと考えました。以降は、この考えに基づいて、鑑賞・解釈して参りますので、ご了承をお願いいたします。
次に、この組香の要素名は「花」「鵑」「月」「雪」と「異」「別」「客」となっています。最初の「花」「鵑」「月」「雪」は、「花鳥風月」や「雪月花」に通ずる四季を代表する景色が配置されており、これは取りも直さず「花(春)」「鵑(夏)」「月(秋)」「雪(冬)」を表しています。そして、「異」「別」「客」という試香のない要素(以下「客香」)が3種類も配置されており、これがこの組香の第一の特徴と言っても良いでしょう。これらは、わかりやすく言えば「ウの一」「ウの二」「ウの三」のように「ウ香を別種の香で組む」ことを表しており、「異」と「別」は、「聞の名目」を構成する際に、四季の要素に従属的な役割を果たし、「客」は、他とは交わらず独自の景色を結びます。この組香は、まず「花」「鵑」「月」「雪」という要素名で四季の景色を付け、「異」「別」「客」という3種の「未だ景色の見えない香」を組み合わせた「聞の名目」でも四季の景色を結ぶという多層構造を成しており、一概に「常盤」→「松」→「祝組」と言い切れない景色感があります。
さて、この組香の香種は6種、全体香数は18包、本香数は14炉となっています。香組は、まず、「花」「鵑」「月」「雪」を各3包、「異」「別」「客」は各2包作ります。あらかじめ「花・異」「花・雪」「鵑・別」「鵑・月」「月・異」「雪・別」「客・客」と2包ずつ7組に結び置きします。次に、本座では、結び置きで残った「花」「鵑」「月」「雪」の各1包を試香として焚き出します。出典では「試終り、本香七組打ち交ぜ焚き出す。二*柱にて札一枚打つ。結び合わせ様、札打ち様、左のごとし」とあり、本香は、先ほど結び置いた7組を打ち交ぜて、組ごとに結びを解き、2包ずつ7組、都合14炉を焚き出します。
ここで、「組ごとに結び合わせさせた2香をさらに打ち交ぜるかどうか?」については、出典に記載はありませんが、「常盤香之記」の記載例の香の出の欄では、「初・後」の香は打ち交ぜずにそのまま焚き出しているようです。この組香の結び置きでは、「初・後」の香が入れ替わったとしても支障なく「聞の名目」が導き出せますので、連衆の顔ぶれを見て「難度を上げたい」と思えば、結びを解いて焚き出す際に香包を打ち交ぜてもよろしいかと思います。
続いて、この組香は、「札打ち」となっておりますので、香元は2炉ごとに香炉に添えて札筒か折居を添えて廻します。また、出典にはこの組香を「二*柱開」にすべきか、「後開き」にすべきかは指定されていません。ただ、この組香では、組ごとの出目が決まっていますので、「二*柱開」にすると香が進むにつれて、残っている組の香がわかってしまうという嫌いがあります。私としては、この組香を「札打ちの後開き」として、香札を札盤や折居に仮置きして、最後まで出る香の予測が立たないようにした方が良いと思います。
本香が焚き出されますと、連衆は試香に聞き合せてこれと思う「聞の名目」が書かれた札を1枚打って回答します。回答に使用する香札は、出典に「札紋」として「高砂、葛城、竜田、泊瀬、三輪、音羽、姥捨、逢坂、浅間、筑波」と列挙されており、「高砂」以外は、歌枕としても有名な山の名前が配置されています。(「高砂山」は愛知県常滑市にありますが丘陵地の公園で歌枕でもありません。)おそらく、山の名は「それぞれの山に見える様々な常緑樹」の景色を札紋に写したものではないかと思います。また、「高砂」の札紋から連想する常緑樹と言えば「松」であり、「常盤香」の正客の名乗にはやはり「高砂の松」がふさわしいと思います。これらの札紋は、「場所」を問わず、「松」に限らず、「時季」に関わらず…変わることのない「常緑樹」の姿に「祝儀」の意味合いを込めているように思えます。
そして、「札裏」には、答えとなる「聞の名目」が書かれており、下記のとおり、配置されています。
香の出 | 聞の名目 | 解釈 |
月・異(異・月) |
峯の雲 | 月を愛でようとした時に見える山上に浮かぶ雲。《秋景色》 |
花・雪(雪・花) |
下風 | 樹下を吹く風のこと。ここでは、「花びらの舞う下風」の春景色と「落葉が舞う下風 (颪)」の冬景色。《二季の景色》 |
鵑・別(別・鵑) | 初音 | その季節に初めて鳴く声のこと。ここでは杜鵑の一声。《夏景色》 |
鵑・月(月・鵑) | 有明 | 月が空に残りながら夜が明けること。「有明の月」の秋景色と「有明の杜鵑」の夏景色。《二季の景色》 |
月・異(異・月) |
秋の夜 | 秋の空気の澄んだ夜月が美しく見えること。《秋景色》 |
雪・別(別・雪) | 白妙 | 白いこと。白一色に染まった雪景色。《冬景色》 |
客・客 | 常盤 | 常緑樹の葉が、年中その色を変えないこと。《通年の景色》 |
このように、「聞の名目」もそれぞれの四季の景色となっています。試香のある地の香と客香の組合せである「峯の雲」「初音」「秋の夜」「白妙」は、地の香の景色に客香が従属していますので、それぞれ「春」「夏」「秋」「冬」の景色となります。また、地の香の同士組合せである「下風」と「有明」は、各要素に季節感がありますので、二季に通ずる景色と言えましょう。客香同士の組合せである「常盤」だけが、唯一「季」にとらわれず、通年の景色となっており、これは則ち「永年の景色」につながって、向こう1年を寿ぐ意味も込められているものと思います。
本香が焚き終わり、最後の札が返って来ましたら、執筆は札を開き、香記に各自の答えをすべて書き写します。答えを写し終えたところで、香元に正解を請い、香元は香包を開いて正解を宣言します。正解は要素名で宣言されますので、執筆は1組ごとに「初・後」の香の出を「右・左」に並記する形で2列7段に書き記します。香の出の欄を書き終えましたら、要素の組合せから正解の名目を定め、正解の名目に合点を掛けます。
この組香の点法は、いささか複雑です。出典には「平点一点、常盤二点。高砂、葛城、竜田 春 此の札の人は峯の雲二点。泊瀬、三輪 夏 此の札の人は初音二点。音羽、姥捨・逢坂 秋 此の札の人は秋の夜二点。浅間、筑波、冬 此の札の人は、白妙二点。独聞何れも一点増すなり。」とあり、通常は名目の当りにつき1点、無試の香の組合せである「常盤(客・客)」の当りは2点となります。また、連衆は札紋により「高砂・葛城・竜田」は春、「泊瀬・三輪」は夏、「音羽・姥捨・逢坂」は秋、「浅間・筑波」は冬の組にそれぞれ分けられ、春の組の方は「峯の雲」、夏の組の方は「初音」、秋の組の方は「秋の夜」、冬の組の方は「白妙」が当たると2点となります。これは、試香の香の加わった自分の「季」を聞き当てたことに対する殊勲の加点ということになりましょう。さらに、連衆で唯一人その名目を聞き当てた「独聞」の場合は、どれでも1点加算されることとなっています。たとえば、「常盤」の独聞は3点、「高砂」の方が「峯の雲」を独聞すれば3点で「秋の夜」を独聞すれば2点となります。この点法での最高得点は、全問独聞で正解した場合の16点となります。このように、この組香には複数の加点要素があり、特に連衆に割り当てられた「季」によって加点要素が異なるというところが第二の特徴と言えましょう。
このような点法に従って、執筆は各自の答えの右肩に得点分の合点を掛けていきます。この組香には下附は無く、各自の成績は合点の数で示すこととなっています。
最後に勝負は、最高得点者のうち上席の方の勝ちとなります。
なお、この組香の本文の末尾には「此の香、花、鵑、月、雪の試香を当季一種無試にしても聞くなり」とあり、催行された季節の香は試香を焚かないで、さらに難しくして遊ぶという方法も示されています。例えば「春」ならば「花」の試香を焚かないことになりますが、「初・後」ともに聞いたことにない香の組合せが「峯の雲」、聞いたことのない香と聞いたことのある「雪」の組合せが「下風」となりますから、このバリエーションは破綻なく成立します。しかし、試香を抜かれた春の組(高砂・葛城・竜田)の方は、とても難しくなりますから、客香の加点要素も加えて、「峯の雲」の当りは3点、「下風」の当りは2点くらいにはして差し上げるべきかと思います。皆さんはどこまで難度をあげてなさいますか?
「壬寅」は、孕み生まれたものが成長する兆し・・・
九星術と合わせた「五黄の寅」は、圧倒的なパワーを発揮します。
強い前進の力が人々の背中を押し続けてくれる年になりますように。
ひらけゆく初日の窓に居直りて何を目に受く金瞳の猫(921詠)
本年もよろしくお願いいたします。
組香の解釈は、香席の景色を見渡すための一助に過ぎません。
最も尊重されるものは、皆さん自身が自由に思い浮かべる「心の風景」です。
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