十一月の組香
初霜の頃、まだ霜枯れのしていない白菊の花を探すという組香です。
初霜の白さと白菊の白さを香りで聞き分けることがテーマです。
説明 |
香木は(木所が同じで判りにくいものを)2種用意します。
要素名は、「初霜」と「白菊 」です。
香名と木所は、景色のために書きましたので、要素名に因んだものを自由に組んでください。
「白菊」と「初霜」はそれぞれ3包作り、そのうち1包ずつを試香として焚きます。
「白菊」と「初霜」の各2包(計4包)をうち混ぜてそこから任意に2包引きます。
本香は、残った2包をうち混ぜて2炉焚き出します。
香の出は、「白菊・初霜」等、要素名とその出た順で4とおりの組合わせになります。
答えは、その組み合わせによって聞の名目(和歌の上の句や下の句)を一個だけ書きます。
答え(聞の名目)の当たり・はずれで下附が変わります。
「中」(当たり)の場合、下附は「初霜」となり、「不中」(はずれ)の場合、下附は「夜目」となります。
※ 上記の二種の和歌については、証歌とせず、聞きの名目の元歌としてのみ取り扱う場合があります。
晩秋から初冬にかけて、人々に最後の艶やかさを見せる花が「菊」です。この花を見ないと一年の花ごよみが終わったような気がしません。
特に白菊は、乙女のように清浄潔白な佇まいがありますが、この時期に「あること」がきっかけで面白い豹変をみせます。それは、
「初霜」です。初霜の降りた朝、昨夜まであれほど美しく、清い色で咲き誇っていた白菊が、紅色に染まるのです。それは、
「乙女のうつろい」そのもののように感じますが、その中で頑なに純潔を守り、白く咲き残っている白菊を探すのが初霜香です。この組香は「聞の名目」に引用されている二つの和歌に真意の端緒が現れています。すなわち躬恒 (みつね)は
「赤や黄色の花なら初霜が降りればすぐにわかるけど、白菊ではどっちも白くてわからないよ。難しいから目隠しをして勘で折ってくるしか仕方ないなぁ・・・」と初霜と白菊の判別の難しさを「心当て」だと言っています。また、師良 (もろよし)の方は「それならば、頑張らずにちょっとあそこを見てごらん。霜枯れで、草も葉も茎も色を変えている中に混じって、しょんぼり咲いている一人ぼっちの白菊の花は、なんて淋しいんだろう。」と、話し相手も咲き競う相手もいない白菊を「かわいそう」に思っています。実は、「初霜香」の真の主役は、この
「さびしんぼうの白菊」なのです。野辺に咲き残った白菊の情景、特に初霜との遠近感や時間的経過を思い浮かべて、
香の出と聞の名目との関連を下記のように捉えれば、おのずとその真意が解かるような気がします。は「(初霜ばかりで白菊が見えずに)心当て・・・」「初霜・初霜」
「白菊・白菊」
が「(初霜がなくて白い花ばかり)置きまどわせる・・・」「初霜・白菊」
が「(初霜の後に白菊)の残るも淋し・・・」「白菊・初霜」
が「草葉にまじる白菊の花(にも早晩霜枯れが・・・)」少々感傷に過ぎる解釈ですが、共感いただけますでしょうか?
「夜目」
(よめ)とは、夜見ること、暗がりで物を探すことです。暗闇の中で白いもの同士を見分けることは普通の人間にはできません。ですから、答えが当たらなかった方に「暗がりだったので、さぞ難しかったでしょう。」と慰めの意味も込めて「夜目」と下附します。
組香の解釈は、香席の景色を見渡すための一助に過ぎません。
最も尊重されるものは、皆さん自身が自由に思い浮かべる「心の風景」です。