十二月の組香

 

歳の暮れ、香の聞き納めにふさわしい組香です。

複雑な構造式と段組の意味をしっかり味わって聞きましょう。

 

説明

  1. 香木は3種用意します。

  2. 要素名は、「年、月、日」です。

  3. 香名と木所は、景色のために書きましたので、季節に因んだものを自由に組んでください。

  4. 「年、月、日」はそれぞれ6包(計18包)作り、そのうち1包ずつを試香として焚きます。

  5. 残った「年、月、日」の各5包(計15包)から「年」「月」「日」1包ずつ(計3包)を引き去ります。

  6. 本香A段は、残った12包をうち混ぜて12炉焚き出します。(続いてB段を焚き始めます。)

  7. 本香B段は、先程引いておいた「年」「月」「日」(計3包)のうち任意に1包を選び1炉焚き出します。

  8. A段の答えは、「年」「月」「日」と要素名を出た順に12個書きます。

  9. B段の答えは、出た要素名によって聞の名目「新年」「睦月」「初日」を当てはめて一個だけ書きます。

  10. 下附は、点数で表されます。(満点は、13点)

    ※ この説明でご理解いただけない場合は、もう一度「組香」の構造式に戻ってみてください。

 

 師走にもなりますと、なんとなく気忙しく時が過ぎて行くように感じられます。こんな気の急くときこそ香席の雰囲気に浸りきって、ゆっくりと香りの醸し出す心象風景を思い描いてみてはいかがでしょうか。

 今回私は、香名を「雪の調」「てあぶり」「遠音」として、「大晦日の夜、炉端で手あぶりをして年越しを待っていると、庵の庭木に降り積む雪のかすかな音の奥から、遠く除夜の鐘がしてきた。」という私自身の心象を表現することにしました。これは、香記の単純さを補って、連衆の方々が実相観入しやすい景色をあらかじめ創っておくという試みでもあります。(反面、組香の概念を縛りすぎる嫌いも否めません。)

  「除夜香」は、要素名が単純な上に証歌も無く、更に構造式が難しさを極めるものとなっているために、一見ゲーム的な組香に見えてしまいます。しかし、この単純に見える要素名でさえも深い文化に根ざした理由があり、段組に至っては香席をガラリと場面転換してしまう程の大きな意味を秘めているのです。

 まず、A段を支配するキーワードは、「閏」(うるう)です。

 「閏」(うるう)とは、季節と暦月とを調節するため、平年より余分にもうけた暦日・暦月のことです。現在の暦である「太陽暦」では地球が太陽を一周するのは365日5時48分46秒なので、その端数を積んで4年に1回、2月の日数を29日としています。しかし、この組香のできた頃の暦である「太陰暦」では平年を354日と定めているので、19年に7回、5年に2回の割で適当な「閏月」を設け、同じ月を2度繰り返して1年の月を13ヵ月としていました。

何かお気付きになりましたか?

 そうです。一年は12ヶ月、「試香を炊き出した後に各要素をそれぞれ1包ずつ引く」という行為は、「閏年」「閏月」「閏日」引き去って、暦を「平年」に戻す作業なのです。

 そして、皆さんは12ヶ月に因んだ香炉の巡りとともに、それぞれの年、月、日に思いを馳せて香気を味わっていくのです。それは、過去の楽しい思い出の日々を綴る「とき」かもしれませんし、人生そのものを反芻する「とき」になるかもしれません。どうです?なんとも一年の締めくくりにふさわしい組香でしょう?

 次に、B段のキーワードは、「年越しの捉え方」です。

 除夜の鐘を聞いた瞬間、皆さんは「年越し」をどう捉えるのでしょうか?

 「年があらたまって『新年』となる」と捉える人、「一年の月初め『正月(睦月)』になる」と捉える人、「一年の『初日』や『初日の出』を迎える」と捉える人もいるでしょう。先程、引き去られた3つの「閏」要素は、ここで1つに絞られ、年越しの「とき」の概念を決定する香として焚かれるのです。

 これによって皆さんは、新しく迎える「年」「月」「日」のいずれかに夢を抱き、期待に胸を膨らませるでしょう。「一年の計を立てる」人もいるかもしれません。そうです、B段は未来に思いを馳せるための「とき」を提供しているのです。

 年越しとは、こういった過去と未来の「とき」の切り替わりを自然に意識させてくれる行事です。どうぞ、ごゆっくり「ときのうつろい」を御堪能ください。

 皆さんにとって、新しく迎える「とき」が幸い多きものでありますよう、お祈り申し上げます。

 

組香の解釈は、香席の景色を見渡すための一助に過ぎません。

最も尊重されるものは、皆さん自身が自由に思い浮かべる「心の風景」です。