二月の組香
春到来の喜びを雪間に感じながら若菜摘みをするという組香です。
野山から若菜を一本一本探し当てる情景を思い浮かべて聞いてみましょう。
説明 |
香木は5種用意します。
要素名は、「春、野、沢、雪、若菜」です。
香名と木所は、景色のために書きましたので、季節や組香の趣旨に因んだものを自由に組んでください。
「春、野、沢」はそれぞれ2包作り、そのうち1包ずつを試香として焚き出します。
残った「春、野、沢」の各1包に「雪」5包と「若菜」3包を加えます。
本香は、この11包を打ち交ぜて11炉焚き出します。
答えは、「春」「野」「沢」「雪」「若菜」と要素名を出た順に11個書きます。
点数は、当たり方のパターンにより下附で表されます。
「皆」とは、パーフェクトのことです。
「雪と若菜の全中」とは「雪」5包と「若菜」3包の計8個を全部聞き当てたことを言います。
「雪と若菜の半数以上中」とは「雪」と「若菜」の計8個のうち4個以上を聞き当てたことを言います。
上記以外のパターンで、答えに一部当たりはずれのあるものは「その他」となります。
若菜摘みは、その年、初めて野外に出かける行楽行事でした。催されるのは、旧暦の正月初子(はつね)の日または7日でした。(今年の暦に直すと旧:正月初子は1月29日、旧:正月7日は2月3日となります。)この行事は、若々しい緑色の若菜を摘んで春の息吹を楽しむといった風雅な意味をもっていますが、当時の食糧事情から推し量るに、ビタミン補給のための食材探しという意味もあったであろうと思われます。これは、現在の「七草粥」の行事と似ていますね。
いにしえの人は、
風流と栄養学的要求に促されて、春が来ると待ちきれずに野山に摘み草に出かけたようですが、やはり当日一番心配されるのは天候でした。少々の雨や雪などは気にせずに、喜々として出かける心積もりでも、大雪が何日も降り続くと、それはもう気もそぞろだったようです。「明日からは若菜摘まむとしめし野に 昨日も今日も雪はふりつつ (山部赤人)」と万葉の頃からこの時期の雪は、人の気を揉ませていたようです。この組香の証歌は、素人にでも訳せるほど平易な詠嘆ですが、「
いつまで待ったらこの大雪が止むのか見当がつかない。といって、何日も待って旬を過ぎては柔らかくおいしい若菜も硬くなってしまう。どうしたものだろうか・・・?」”ええぃままよ”「今日、野山を踏み分けて若菜を摘みに行こう!雪の止むのを待っていては、日ばかり経ってしまうじゃないか。」と英断を下すまでに至る作者の葛藤が行間に読み取れます。この組香は、本香で散々降り続く「雪」を5包、目的地である「春」「野」「沢」を各1包、そこで見つける宝物の「若菜」をそれぞれの目的地に応じて1包ずつ焚きます。つまり「降りしきる雪の合間を縫って、春を見つけ若菜を摘み、野に行って若菜を摘み、沢に行って若菜を摘む」といった摘み草の情景が香記の景色となるのです。このように
香木の数量まで主題と対応させているところが妙味といえるでしょう。下附の意味を敢えて解釈すると、全部の目的地と若菜を見つければ
「つみ草」 が成就、雪間に若菜を全部見つけた場合は「若菜」という収穫を得たこととなり、雪と若菜を半数以上見つければ「雪間」で春遠からじ、雪が降り積もって目的地も若菜も良く分からなかった場合は「深雪」で冬未だ明けやらずということでしょうか。皆さんも香の世界で若菜摘みに出かけ
「春日野は雪のみ積むと見しかども 生ひいづるものは若菜なりけり(和泉式部)」 となれば、大変結構だと思います。「春日野の雪間をわけて生いでくる 草のはつかに見えし君はも(壬生忠岑)」 と別なお宝を見つけちゃう人もいるようですが・・・それもまたハッピーですね。
組香は、利き当てゲームの遊び方を示したものです。
香木がお手元に無ければ、身近な素材でお楽しみいただいて結構です。
組香の解釈は、香席の景色を見渡すための一助に過ぎません。
最も尊重されるものは、皆さん自身が自由に思い浮かべる「心の風景」です。