三月の組香
春の訪れを告げる鶯の初音を待ちわびるという組香です。
「一柱開き」という特殊な方式を用いるのが特徴です。
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はつね【初音】鶯・杜鵑(ホトトギス)などのその年初めての鳴き声。初声。
説明 |
香木は5種用意します。
要素名は、「松、竹、梅、谷、鶯」です。
香名と木所は、景色のために書きましたので、季節や組香の趣旨に因んだものを自由に組んでください。
「松、竹、梅、谷」はそれぞれ3包(計12包)作り、そのうち1包ずつ(計3包)を試香として焚き出します。
残る「松、竹、梅、谷」各2包(計8包)のから任意に5包を引き去ります。
更に残った3包を打ち交ぜてA段の本香として3炉焚き出します。
答えは、「松」「竹」「梅」「谷」のうち、どれか3つですから、要素名を出た順に3個書いて提出します。
続くB段では、先程引いておいた5包に「鶯」1包を加えて、順に焚き出します。
「一炉回ったら、その都度答えを書いて出す」という「一柱開き」(いっちゅうびらき)の方式によって焚き進め、「鶯」が出た時点で焚き終わります。
残った香包はそのまま総包に納めます
この組香に下附は無く、点数で表します。
鶯香は、春の代表的な組香のひとつです。要素に「松竹梅」を持つことから、おめでたい組香としても用いられます。(今月は私の誕生月・・・\(^o^ )/
??)この組香は、代表的故にバリエーションも多く、後二条天皇の証歌のついたものでも、要素に「谷」が無く、当たり(中)のパターンによって下附が
「都の春」(全中)、「深雪」(全不中)、「初音」(鶯中)、「巣篭もり」(鶯不中)とつくものがあります。また、「春来ぬと 人はいへども 鶯の 泣かぬ限りは あらじとぞおもふ 」 (古今集 壬生忠岑)と証歌のついた「鶯香」もあり、やはり要素に「谷」が無く、B段は「鶯」がどの要素の次に出たかにより「初音」(一炉目が鶯)、「谷の戸」(松の次に鶯)、「塒(ねぐら)」(竹の次に鶯)、「古巣」(梅の次に鶯)と聞の名目で答えるものもあります。 さらに、習いの『三十組』に掲載された「鶯香」も要素名は変わらないものの、その数や構造、下附の景色が異なるものもあります。そのようなわけで、今回は、私のお稽古ノートから『香道の栞(その二)』に掲載のある「鶯香」をご紹介することといたしましょう。「鶯の初音」
は、現在でも風流人の歳時記の中では大きな意味をもっています。ましてや、いにしえ人においては特別な感慨があり、一日千秋の思いで待ちわびたに違いありません。後二条天皇の証歌の意味は、「山深い谷から鶯が出てきたよ。都の人に春を告げようとしているのだろう」というほのぼのとしたものですが、組香を解釈する上では、壬生忠岑の歌にある「(春の気配は、山野草木にも現れて)人は春だというのだが、やはり鶯が鳴かなければ春になった気がしない」という心情も重要だろうと思います。この組香のみ要素名に「谷」が用いられているのは、証歌から「鶯の棲み家」を表わしているのではないか推測されます。「松、竹、梅」を都の景色として、鶯の「出発点」と「到達点」を対応させて景色に盛り込んでいるような気がします。
A段では、鶯以外の要素を織り交ぜてちょっとだけ景色に散らし、連衆に
「初春の気配」を感じさる効果を狙っています。そして、B段では「はぁ〜るがきぃ〜た。どぉ〜こぉ〜にぃ〜きたぁ〜? 松に来た。竹に来た。梅、谷にもきた〜。」と一柱一柱訪れた
「春本番の景色」の中に「鶯」が忽然と登場し、「初音」を聞かせたところで本香を止め、「あぁこれでやっと春が来た。」と一同安堵するという筋書きです。また 、B段の香の出には、単に「鶯」登場の景色ばかりではなく、「今年はいつ鳴くのだろうか?」という時系列的な流れも若干含んでいると思われます。つまり6炉目に「鶯」が出れば「随分と遅い春到来だったね。」ということになります。このように非常に情趣性に富む組香ですから、「聞の名目」や「下附」を先の別組から拝借して、完璧な組香の概念を作ってしまえそうですが、やはり、それでは連衆の心象風景が限定されてしまいます。昔の人は 、うまく冗長性を残してくれたものだと感心します。
さあ、春です。私たちも「のほほん、のほほ〜ん」と初音を待ちましょう。
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文中「一柱開き」の「柱」の字は、本来「火へん」に「主」と書きますが、フォントが無いので、一番形の近い当て字にしました。
組香は、利き当てゲームの遊び方を示したものです。
香木がお手元に無ければ、身近な素材でお楽しみいただいて結構です。
組香の解釈は、香席の景色を見渡すための一助に過ぎません。
最も尊重されるものは、皆さん自身が自由に思い浮かべる「心の風景」です。