六月の組香
伊勢物語の有名な場面を主題にした組香です。
東下りの長い旅程や侘しい心情を味わいながら聞きましょう。
説明 |
香木は、5種用意します。
要素名は、「か」「き」「つ 」「ば」「た」と一文字で表わします。
香名と木所は、景色のために書きましたので、季節や組香の趣旨に因んだものを自由に組んでください。
(今回は、香名にも掛詞を織り交ぜてみました。クイズの答えはページの下にあります。)
「か」「き」「つ」「ば」は、それぞれ3包(計12包)作り、そのうち1包ずつ(計4包)を試香として焚きます。
「た」(1包)は、試みがありません。
残った「か」「き」「つ」「ば 」各2包(計8包)を打ち交ぜて、任意に1包を引き去り、総包に納めます。
手元に残った7包に「た」1包を加えて打ち交ぜ、本香は8炉回ります。
答えは、要素名を出た順序に(7文字)書きます。
点数は、当った香の数となります。
この組香は、「伊勢物語」九段−1のかきつばたの歌を主題に作られています。この和歌自体は、伊勢物語のみならず古今集にも掲載されています。(高校時代の古典の時間に「修辞法」の勉強をしていた姿を思い出された方も多いのではないでしょうか?)
舞台は、三河の国「八橋」で、現在の愛知県知立市八橋に史跡があります。この地名から、「八橋香」(やつはしこう)と命名されています。また、同じ証歌を基に「か、き、つ、ば、た」を要素名にして、香の出によって「くのかしらにすゑ」即興の和歌を詠じて答えとする「当座香」(とうざこう)や「から衣 きつつなれにし つましあれば」の三句を「一、二、三」の要素に替えて、業平が妻を慕う心情を味わう「杜若香」(かきつばたこう)という別な組み方もされています。
「から衣」の縁語
である「着(き)」、「褻(な)れ」、「褄(つ)」、「張(は)る」は、それぞれ「来」、「馴れ」、「妻」、「遥々」の掛詞となっています。香包みを2包ずつ作るのは、この掛詞を意識したためであろうと言われています。ですから、掛詞の無い「旅(た)」は、1包だけというわけです。「た」を客香扱いにしたということは、「旅」という主題に重きを置いたものと私は考えますが、業平の目を留めた「杜若」、または、業平の心を留めた「妻」を表したためとも考えられますね。「か、き、つ、は゛」各2包から1包を抜き去り、「た」1包と入れ替えるのは、本香全体を8包とし、八橋の
「八」にみたてる工夫だと思われます。抜き去られた1包みは、もしかすると、業平が東下りの行程中に経験した美しい想い出の一コマかもしれません。それとも、男達の流した涙の一雫なのでしょうか?そうして打ち交ぜられた本香8包は、都から八橋に至るまでの時間的経過や景色・想い出を連想させる要素となり、業平の旅そのものを物語ることになるのだと思います。
いずれ組香は、
「東下りでの侘しい漂泊の想い」が全体のムードを支配しているので、香木もあまり華やかな香味は似つかわしくないと思われます。湿度の多いこの季節だからこそ、じっくりと奥底まで味わえますので、「渋い・深い」お香でためしてみてはいかがでしょうか。構造的には簡単な組香で、聞の名目や下附もありません。組香の後は、どうぞ「かきつばた」の折句でもして遊んでみてください。
掛詞や縁語、折句の技法をこの歌から学びましたよね。
私個人としては、香道の先生方に「今業平」と呼ばれて可愛がられていた頃が
懐かしく思い出させられる作品です。
組香の解釈は、香席の景色を見渡すための一助に過ぎません。
最も尊重されるものは、皆さん自身が自由に思い浮かべる「心の風景」です。
掛詞クイズの答え
「きしかた」は「来し方」と「岸方」
「つぎはし」は「継ぎ橋」と「續橋」
「はり道」は「墾道」と「針道」
お粗末でした。
<m(__)m>