「自分で作ろう!」シリーズ No.2
香道具の中でも最もバリエーション豊富な香包。
組香ごとに使い分けると気分も景色も変わります。
「宇治山香」試香包
「香包」(こうづつみ)は、別名「小包」(こづづみ)と呼ばれ、組香で使用される香木を包む畳紙のことです。
古来の基本的な組香については「この組香には、この香包を用いる」と決まっている流派もあり、伝書も残されています。また、組香伝授の際に「香包折り」を合わせて指南する流派もあるそうです。本来、深きを極めれば、「〇〇香包折形」として、「試香包」と「本香包」に分けて、「姿図」と「展開図」の2つを示すべきなのでしょうが、ここでは、数ある香包折りのうち代表的なものの姿図のみをご紹介いたします。折り紙の得意な方は、姿図を見れば少なくとも右袖の部分の折り方が理解できるものと思われます。
ただし、姿図から見ると同じに見える香包でも、答えを書くために隠されている左袖の部分(隠し)にそれぞれ決まりがあり、折形(展開図)は必ずしも同じとは言えませんので、まだまだ見えない部分でバリエーションが広がっていることも申し添えます。
古い香書には、「金銀、やわらかなる鳥の子紙・・・」と書いてあります。「鳥の子紙」とは、雁皮(がんぴ)で作られる上等な和紙のことで、鳥の卵のような淡黄色をしているのでこの名があります。中古の時代には、手紙等の用紙に使われていました。
現在では、香席の意匠として重要な「試香包」については、趣向を凝らした和紙が使われ、見た目も均一でなければならない「本香包」には、鳥の子紙や高級な書道用半紙、薄手の色和紙等が用いられます。
基本的には紙質は、厚過ぎて「複雑な折形が出来ないもの」「開いたときに香木を弾くもの」、薄過ぎて「隠しの部分や香木が透けて見えるもの」を避ければ、ご自分のお好みの和紙をお使いいただければ結構ではないかと思います。
細谷松尾著『香道御家流寸法書』等によれば、紙の寸法は各香包毎に規定されています。概ね、縦は「三寸五分」〜「三寸七分」(約10.6〜11.2cm)、横が「二寸五分」〜「三寸五分」(約7.6〜10.6cm)までの組み合わせですが、ここでは、「流派の規定」である「組香ごとの出来上がり寸法と左袖(隠し)の部分を捨象」したいと思います。ですから、ご用意いただく紙は、市販されている「10cm四方」の折り紙でも構いません。
同書によれば、香包の出来上がり寸法は、縦「一寸六分半」(約5cm)横「八分」(約2.4cm)が一般的です。先程の「10cm四方」の紙で作ると、香包が開かないように裏で留める差込み部分があるため、縦寸が上下の袖を折り返して重ねる分だけ短くなります。
基本形 サイズの違いこそあれ、流派を問わず一般的に使われるタイプです。 右袖が表に被っており 「右開き」となっています。このことは、以下の全ての香包に共通しています。見た目は、金封のように縦長の紙を内三つ折りにしたイメージですが、香包では、使用する組香により、隠れた左袖の部分が様々に異なります。 姿図では同じに見えていて、最も多様な展開図を持つ香包です。 |
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右袖を内折りするもの |
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基本形の右袖部分を短くしたタイプです。 内側に折り込む方法や寸法によって図のようなバリエーションが生まれます。 |
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右袖を外折りするもの基本形の右袖部分を外側に折り込んで、「紙の裏」を出すタイプです。 右袖の折り込みの分量により、図の様に位置が変移します。また、左袖を折り返してこの様に見せているものもあります。 |
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三角が左向きのもの表面の左寄りに三角の頂点が出るタイプです。 このタイプは、 紙を斜めに使って折ります。三角の位置が上下中央にあるものは正方形の紙から作られ、上下のずれのあるものは長方形の紙を使って折られるものです。また、三角が2つ出ているものは、左袖の折り返しで作られています。 |
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三角が右向きのもの表面の右寄りに三角の頂点が出るタイプです。 上記同様、紙を斜めに使って折ります。基本的には右袖の三角を折り返して「紙の裏」を見せる折り方です。 |
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三角を折り込むもの最後に残った三角を折り込んでいるタイプです。 上記同様、紙を斜めに使って折ります。 |
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斜めの線が出るもの |
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紙を斜めに使って、右袖の縁で斜線を出すタイプです。 |
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紙をまっすぐに使って、右袖の折り線で、斜線を出すタイプです。 |
実践
折り紙は、何よりも実践あるのみ
です。姿図を見ながら、頭の中で展開図を想像していても、なかなか完璧なものはできません。また、展開図どおりに折ったとしても、細かいところでうまく仕上がらないことがあります。それは、紙には厚みがあり、折り重ねることで微妙にズレが生じてくるからです。この「遊び」の部分を図面ではなかなか表現し切れません。そこで、皆さんには
「何よりもまず折ってみていただきたい」と思います。同じ紙をクシャクシャになるまで折ってみて、「五等分は、実際折ってみると『等分』ではない。」ことにも気付いていただきたいと思います。「手馴れ」あるのみです。結び
私が、香包の研究を始めたきっかけは、
「あの香席は、源氏香の席なのに源氏香包でなかった。」というあるネット香人の指摘に基づくものでした。確かに、香道界の皆さんが流派の教えを確実に守り、自分の技量を示すために、流派の規定に基づいて、しっかり組香と香包の取り合わせをすることは重要であろうと思います。そして、それを正しく賞玩する目も大切です。一方、香書の中には「
香包の種類や数は決まっていない。組香によって使うべき香包も同じでなくて良い。」と書いてあるものもありますし、「香包折りは伝授のメニューではない」という流派もあります。私が思うには、基本的に道具は「香人」の(全精力を傾けた)「好み」で取り合わせすべきものと考えます。その際に、細かい規定を踏襲するか、「みたて」や創意工夫に走るかは、「個人の美学」に寄るものだと思います。私は「知っている人は知っていることで楽しみ、知らない人は自由に楽しめるばかりか知ることでも楽しめる。」というところにインターネット情報の価値を見出しており、その2つの世界に共通する「知って損のない情報」だけを提供して行こうと思っています。香手前を拝見していますと「香包」は、以外に目立つ
「香席の花」であったりします。試香包だけでも、少し凝った姿のものを用いますと、香席が改まりますし見栄えもして良いものです。皆さんも、是非バリエーションに富んだ香包を使って楽しんでみてはいかがでしょうか。
『御家流香道寸法書 』 による香包折形.pdf(0.42MB)
男子というだけで遠ざかっていた香包の世界でした。
調べてみると諸説も多く
完璧な型紙作りには「未だ道遠し」ですが頑張ります。
※このコラムは「O」様の多大なご協力のもとに書き上げています。