組香

文学的テーマに沿って、その中核となる要素に香木を当てはめ

それを織り交ぜて遊芸にしたものを「組香」と言います。

小記録の図(如月香)

その組香のために要素となる香木を当てはめることを「香組」と言います。

簡単に言えば「組香のために香組する」といった具合です。

 

一般に流派に属する香人は、免許皆伝まで「組香」を創ることはできません。それは、香道にまつわる文化や精神を極めた人間でないと「景色が良く、精神性が高く、かつ普遍的なゲームのルール」を創ることができないからです。

しかし、「組香」は、文学的テーマと要素、遊び方を決めているだけなので、その要素に香木を当てはめる「香組」は、各人が創意工夫して自由に組むことができます。

組香

組香を理解するためには、香記を理解することが必要です。香席に行くと入口でその日催される組香を示した香記を渡されます。本座に座っても目前に綺麗な和紙にしるされた香記が置いてあります。

そこには、左から順にこんなことが書かれています。

1 組香名(くみこうめい)

「源氏香」「朧夜香」「郭公香」「梅花香」等、文学、天文、季節の事物に根ざした組香発想のテーマです。

2 香組(こうぐみ)

ア 要素名

朧夜香における要素は、霞、月、花のようにテーマに基づく景色です。他に登場人物や地名の場合もあります。

源氏香や重陽香は、単に一、二、三…と番号が付けられています。

 

五月香の小記録の図

イ 香名

当日使用する香木の名前です。香木の名前は、銘香であればそのままですが、無銘のものを買い上げた場合は、香人自らが名前を付けて所持します。そして、季節や組香のイメージに似合う名前のものを選んで使います。

ウ 木所

当日使用する香木の種類を記号で表しています。香組では、一般的に違った木所のものを使用します。また、木所の陰陽を織り交ぜてバランスよく使うことも忘れてはなりません。同じ木所を使ってもいいのですが、それだけ難しくなるので座興や研究会用として例外的に組む程度にしたほうがいいようです。

3 構造式(こうぞうしき)

御家流の宗家三条西尭山氏が昭和初期に考案した、組香の香のでかたを簡略化した数式です。古式では、付記していません。

4 聞の名目(ききのみょうもく)

普通は、順不同に焚かれた香木に対応する要素をそのまま答えとして手記録に書きますが、組香によっては、出た要素の並び方によって別な答えの書き方を求めることがあります。これが聞の名目で、源氏香のあのマークもこの一種です。

都春香では、「櫻」「柳」「ウ」の要素の出た順に、櫻+柳ならば「嵐山」と書く、ウ+櫻ならば「夕日」と書くと決められています。除夜香では、「年」「月」「日」と要素が定められ、最後のお香が年ならば「新年」、月ならば「睦月」、日ならば「初日」と書くことになっています。

源氏香の図へ

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源氏香之図

5 下附(したづけ)

普通は、答え一つ一つの当否によって点数が付けられますが、その当否のパターンによって、成績の表記がかわることがあり、これを下附と言います。

初霜香では、当たれば「初霜」、はずれれば「夜目」となり、漁猟香では、全部当たれば「網」、2つ当たれば「叉手」、1つ当たれば「釣」、全部はずれれば「大風」と書きます。何となくイメージがわかりますね。下附は、記録紙に更なる景色を添える要素となっています。

6 証歌(しょうか)

組香全体の存在価値を支配している和歌のことです。香道は、その精神的支柱を中世の文学に求めていて、組香の文学的イメージの根幹をなす要素も香名も遊び方もすべてこの和歌から発想されています。

例えば、若菜香には、「ふみわけて 野沢の若菜 今日摘まむ 雪間を待たば 日数経ぬべし」(後村上天皇)と証歌があり、それに因んで要素名は「春」「野」「沢」「雪」「若菜」となり、下附が「つみ草」「若菜」「雪間」「深雪」となります。また、目的地である「春・野・沢」は各1包、「若菜」は目的地に一本ずつで3包、降り続く「雪」は5包と香木の量すらも景色になっているのです。更に亭主がそれに因んだ香名を付ければ、香記そのものにも「ふくゆくたる文学的香り」がするのは当然のことでしょう。

構造式

組香を表現するときには、普通「この要素名で香を何包…そのうちこれとこれは試香として…それから何包取って…残りを織り交ぜて…」と長々と説明文を書かなければなりません。そこで、三条西尭山氏が、代数の公式のように要素と香量、組香の焚き方を数式にすることを考案しました。すべての香席でお目見えするものではありませんが、この構造式さえマスターしておけば、組香のイメージが即座にパターン認識できますから、大変便利だと思います。

一般的な組香

 

 一、二、三、ウは、組香の「要素」と考えて下さい。普通は和名で「月」とか「花」といった要素名が書いてあります。

 }(大括弧)は括弧内のそれぞれの要素にかかります。一、二、三を括弧して4と書いてあるのは「それぞれ4包作りなさい。」という意味です。

 

一般的な構造式の図

 

 「4」の隣りのは、「試香」にする香包を表し、}4T「それぞれ4包作り、 そのうち各1包みを試香に出しなさい。」という意味です。

 }のない要素は、横に書いてある数字の数だけ香包を作っておきます。

 一番右側の「それらをまとめて…」という意味です。

そこで、試香は、一、二、三の各1包、本香は残った一、二、三の各3包とウの1包、合わせて10包が順不同に焚かれます。これが「有試十柱香」の構造式です。

段組のあるもの

 

 一番右のA、Bは、各々「段」と言って、本香を2つのグループとして括り、時間を置いて焚き出したり、それぞれのグループの一部を混ぜ合わせたりするものです。多くの場合、それぞれの段について指定された答えを書き、下附がついたり、回答方法に趣向があったりと聞き方に変化があります。

段組のある構造式の図

 

 4Tは、説明済みです。隣の−(マイナス)は、焚かずに引いてしまうことです。普通の−は、「任意」に引くことですが、−1の片についている乗数は「各々」を示しています。

つまり、ここでは「各々4包作り(4)、そこから各1包を試香(T)として出し、残った包みから各々1包をさらに引いて(−1)、合計6包を織り交ぜてA段で焚きなさい。」ということを意味しています。

 引き続いてB段を焚きはじめます。

 ( )(小括弧)は、数学と同じで先に演算します。つまり、「先程引いておいた各3包(−1)を織り交ぜて、その中から任意に2包引き(−2)1包を残しなさい。」という意味です。

 ウは1包作っておきます。そこに()内でできた1包みを加え、「合計2包を織り交ぜてB段で焚きなさい。」ということです。

 多くの場合、ウのように要素名の一番下に1包だけ出るお香を「客香」と言って、組香では重要視し、比較的いいお香が出ます。

点数で競う組香の場合、客香を当てると点数が他の要素よりも高くなることがあります。

その他の記号

 

 空蝉香のように段が3つある場合では、A段で2つの要素からそれぞれ−2して、それをB段とC段にそれぞれ1包ずつ分けて焚くので、どちらの要素の−だったか区別するために一方に−1´(ダッシュ)を付けて表します。

 梅花香では、A段で1包ずつ焚いた香木(焚空)を全部香包に戻してB段で焚きます。このような焚空を使用する場合は、@と表記します。

 秋色香では、7要素を各1包ずつ2組作り、その組のうち1包をそれぞれ引いて「交換」します。このような、交換は∫1と表記します。

 一つの銀葉に2つの香木を並べて焚き出す「焚合」(たきあわせ)形式の組香は、÷2という記号を用います。

 一つの銀葉に2つの香木を重ねて焚き出す「連理」(れんり)形式の組香は、という記号を用います。

 最初に焚かれたの香銘を基礎に、連中が連想した香銘の香木をつぎつぎに焚き継いで行く「焚継」(たきつぎ)形式には、という記号を用います。

  組香によっては、次のような式も使います。

 

以上、書物などで公表されている範囲でちよっとだけ書いてみました。

この構造式は、今月の組香のページで毎回使います。

これさえわかれば、香筵デビューはもうすぐです。

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