源氏香之図

《《源氏香で装う》》

香道を知らない方でも、一度は見たことのある日本の伝統模様です。

香図の書き方

 

一番右と右から三番目の線だけが横線で繋がっている香図の例

五回香炉が回ってくるので、一炉聞く毎に「右から左へ」一本ずつ縦線を引いて行き、同じ香だと思ったものの縦線の上部を横線で繋ぎます。

左の香図は「花の宴」を示すものですが、一炉と三炉が同香で、二、四、五炉各々違ったお香(異香)だったことを示しています。

「花散里」のように同香が二種類あり、普通に書くと横線が交差してしまうような場合は、どちらか一方のペアの縦線を短くして、一段下で繋がるようにします。どちらを下にするか等、委細については、は香図の意匠によって下表のように決まっています。

源氏香之図

 

桐壷

きりつぼ

ははきぎ(全部異香)

帚木

ははきぎ

うつせみ(一、二炉が同香、三、四、五炉は異香)

空蝉

うつせみ

ゆうがお(二、三炉が同香、一、四、五炉は異香)

夕顔

ゆうがお

わかむらさき(一、二炉と三、四炉が同香、五は異香)

若紫

わかむらさき

すえつむはな(二、三、四、五炉が同香、一炉は異香)

末摘花

すえつむはな

もみじのが(一、三、四炉が同香、二、五炉は異香)

紅葉賀

もみじのが

はなのえん(一、三炉が同香、二、四、五炉は異香)

花宴

はなのえん

あおい(四、五炉が同香、一、二、三炉は異香)

あおい

10

さかき(一、二炉と三、四、五炉が同香)

賢木

さかき

11

はなちるさと(一、三炉と二、四炉が同香、五炉は異香)

花散里

はなちるさと

12

すま(一、四炉と二、三、五炉が同香)

須磨

すま

13

あかし(三、四炉が同香、一、二、五炉は異香)

明石

あかし

14

みおつくし(一、二、四炉が同香、三、五炉は異香)

澪標

みおつくし

15

よもぎう(三、四、五炉が同香、一、二炉が異香)

蓬生

よもぎう

16

せきや(二、三、四炉が同香、一、五炉は異香)

関屋

せきや

17

えあわせ(一、四炉と三、五炉が同香、二炉は異香)

絵合

えあわせ

18

まつかぜ(二、三炉と四、五炉が同香、一炉は異香)

松風

まつかぜ

19

うすぐも(一、二、三、四炉が同香、五炉は異香)

薄雲

うすぐも

20

あさがお(二、三、五炉が同香、一、四炉は異香)

朝顔

あさがお

21

おとめ(三、五炉が同香、一、二、四炉は異香)

乙女

おとめ

22

たまかずら(一、二、三炉と四、五炉が同香)

玉鬘

たまかずら

23

はつね(二、四炉と三、五炉が同香、一炉は異香)

初音

はつね

24

こちょう(一、三、四炉と二、五炉が同香)

胡蝶

こちょう

25

ほたる(二、四、五炉が同香、一、三炉は異香、)

ほたる

26

とこなつ(一、二、三炉が同香、四、五炉は異香)

常夏

とこなつ

27

かがりび(二、四炉が同香、一、三、五炉は異香)

篝火

かがりび

28

のわき(一、二炉と四、五炉が同香、三炉は異香)

野分

のわき

29

みゆき(一、二、四炉と三、五炉が同香)

行幸

みゆき

30

ふじばかま(二、五炉が同香、一、三、四炉は異香)

藤袴

ふじばかま

31

まきばしら(一、五炉と二、四が同香、三炉は異香)

槇柱

まきばしら

32

うめがえ(一、三、四、五炉が同香、二炉は異香)

梅枝

うめがえ

33

ふじのうらは(一、四炉と二、三炉が同香、五炉は異香)

藤裏葉

ふじのうらば

34

わかな-うえ(一、四、五炉と二、三炉が同香)

若菜上

わかな

35

わかな-した(一、二炉と三、五炉が同香、四炉は異香)

若菜下

わかな

36

かしわぎ(一、三、五が同香、二、四炉は異香)

柏木

かしわぎ

37

よこぶえ(一、二、五炉が同香、三、四炉は異香)

横笛

よこぶえ

38

すずむし(一、五炉と二、三炉が同香、四炉は異香)

鈴虫

すずむし

39

ゆうぎり(一、三炉と二、五炉が同香、四炉は異香)

夕霧

ゆうぎり

40

みのり(一、四炉と二、五炉が同香、三炉は異香)

御法

みのり

41

まぼろし(一、五炉が同香、二、三、四炉は異香)

まぼろし

42

におうのみや(一、三炉と二、四、五炉が同香)

匂宮

におうのみや

43

こうばい(一、四炉が同香、二、三、五炉は異香)

紅梅

こうばい

44

たけかわ(一、五炉と二、三、四炉が同香)

竹河

たけかわ

45

はしひめ(一、二、三、五炉が同香、四炉は異香)

橋姫

はしひめ

46

しいがもと(二、五炉と三、四炉が同香、一炉は異香)

椎本

しいがもと

47

あげまき(一、二、五炉と三、四炉が同香)

総角

あげまき

48

さわらび(一、三炉と四、五炉が同香、二炉は異香)

早蕨

さわらび

49

やどりぎ(一、二、四、五炉が同香、三炉は異香)

宿木

やどりぎ

50

あずまや(一、四、五炉が同香、二、三炉は異香)

東屋

あずまや

51

うきふね(一、五炉と三、四炉が同香、二炉は異香)

浮舟

うきふね

52

かげろう(一、三、五炉と二、四炉が同香)

蜻蛉

かげろう

53

てならい(全部同香)

手習

てならい

54

 

夢浮橋

ゆめのうきはし

源氏香の遊び方

 

  源氏香は、5種の香木が、それぞれ5包ずつ(計25包)用意します。

  この25包を混ぜ合わせて任意の5包を引き去ります。

  残りの20包は使わないので、総包に挟み込んで納めます。

  引き去った5包を順に5炉炊き出します。

  香の出によって香図を書いて完成させます。

 香の出と香図を照らし合わせます。(香図は、52通りあります。)

  その図形が表わす源氏物語の巻名が答えとなります。

8  香記には、答えとなった巻名にちなんだ和歌を一首書き記すことがあります。

源氏香之図の数学

  「源氏物語」54帖あり、そのうち最初の「桐壺」と最後の夢の「浮橋」を除いて、「源氏香之図」は52通りあります。

  なぜ、52なのかを数学的にに説明すると・・・5種の香木それぞれ5包ずつ(計25包)を混ぜ合わせて任意の5包を引き去る組み合わせの計算式はnCr=nCn-r=n!/r!(n-r)!となります。

「あら!むずかしい。」とお思いの方は、こんな式でどうでしょう。

5C5=(5×4×3×2×1)÷(5×4×3×2×1)=1(手習*

5C4=(5×4×3×2)÷(4×3×2×1)=5(例:末摘花*、薄雲*・・・)

  • 5炉中3炉が同香で2炉が異香の場合

5C3=(5×4×3)÷(3×2×1)=10(例:蓬生*、常夏*・・・)

  • 5炉中2炉が同香で3炉が異香の場合

5C2=(5×4)÷(2×1)=10(例:空蝉*、葵*・・・)

  • 5炉中2炉+2炉が同香で1炉が異香の場合

5C2×3C2÷2=15(例:若紫*、松風*・・・)

  • 5炉中2炉+3炉が同香となる場合

5C2×3C3=10(例:賢木*、玉鬘*・・・)

  • 5炉がすべて異香の場合

5C0=5C5=1(箒木*

以上、1+5+10+10+15+10+1=52ということで、52通りです。

源氏香之図の謎

  一説には、「源氏香之図と源氏物語の巻々との相関関係は、光源氏と女性との恋愛関係をはじめ、登場人物や場所柄によるもの」ということが昔から言われます。 私も以前「源氏香之図が、源氏物語の巻々のストーリーや登場人物の背景等を暗示しているのではないか?」と随分考えてみたことがありますが、結局、「源氏の巻々」を曲解して「こじつけ」てしまう怖れを感じて止めてしまいました。また、源氏香之図から源氏物語「第何帖」の数字を数学的規則によって知る方法も試みられますが、これも手がかりが無いのではないかと思われます。

  一つだけ、最近気づいた方式は、1(桐壺)と54(夢浮橋)を捨象して52帖にし、9(葵)と13(明石)を並べて18(松風)の前に入れ、13ずつ4列にならべると、1段目と2段目、3段目と4段目の位置関係で、対象形のあるものは対象に、無いものは無いもの同士がペアになることです。

香図を左右対称ペアになるように並べ替えた図

  ただし、非対称同士である2(箒木)と17(絵合)等、8つのペアの相関関係は見えて来ません。せいぜい2(箒木)と53(手習)や27(篝火)と36(柏木)を同香、異香の出の順番でペアリングするぐらいで、そこから先は、ペアの取り合いや不整合で、完全符合とは成りませんでした。

  柳屋ポマードやおまんじゅうの焼き印でおなじみの香図ですが、どんな香人でも一度は解釈にチャレンジしてみようと思います。しかし、全部を解き明かした方はいらっしゃらないのではないでしょうか?私は、「幾何学模様を順にあてはめただけ」という結論に達して、今日に至っていますが・・・・・・これでいいんでしょうか?

 

何か暗示を感じた方は、ご連絡ください。

 

附録

源氏香之図の吉凶と時候

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