香炉のつくりかた

ここでは、聞香炉を使ってお香を聞くための

「灰づくり」をご紹介します。

正式に香炉をつくって、お香を聞くというプロセスを楽しむことは、

単に香気を味わうといったレベルから、精神文化へのステップアップでもあります。

香炉の銀葉に香木を置く写真

基本姿勢

自分の正中線の延長上に香炉の中心を置き

その線と直交するように道具を扱います。

香炉の灰をかき混ぜる図

灰を香炉に入れる前は、焙烙などで空煎りし、前回の移り香等を飛ばしてしまいましょう。

香炉に灰を入れたら、火筋*(こじ)を普通に持ったまま、真っ直ぐに立て、くるくると小さく回転させながら右回りにフワフワになるまでかき混ぜます。これは、灰の中に空気を十分に取り込んで、火持ちを良くし、炭団を入り易くするためです。

灰に箸で穴を開ける図

灰がフワフワになったら、火筋*で灰の中心部から外にむけて少しずつ灰をかき出し、炭団の入る穴をあけます。

穴は、2センチ弱の深さが必要ですが、後で炭団を押し入れるので、そう厳密でなくとも構いません。

 

炭団は、電熱器等の加熱器具で全体真っ赤になるまで、加熱します。ガスなど自分が燃えるために酸素を必要とする加熱器具では、炭団が燃えるための酸素が十分に供給されないため、火付きが悪くなります。(ガス中の水素が酸化して水を生ずるため湿気も含んでしまいます。)また、炭団の火付きが不完全だと、炭団の匂いが香炉に移ってしまいます。

空けた穴に香炭団を入れる図

灰の中心に、炭団を埋め込みます。

灰は、先程空けた穴に約5ミリ程の余裕をもって真っ直ぐに埋め込みます。

仕上がりの火加減を推測して、今後の工程4で盛り上げる分と5で押し付ける分を計算しておかなければなりません。

実はこの段階が灰づくりの上で最も重要なポイントとなります。

 

香炭団を埋め、箸で灰を書き上げる図

炭団を埋め込んだら、火筋*を持って香炉の周辺から灰を中心に向かってかきあげます。

香炉は左手に持って、反時計周りに廻しながら、かきあげ繰り返し、低い円錐状の灰の山を築きます。

この灰山が奇麗に仕上がっていると灰押は造作なく行えます。

 

灰押しで灰の表面を整える図

出来上がった灰山の表面を「灰押」(はいおし)という道具で滑らかにならすという最もデリケートな工程です。

先程と同様に、香炉は左手に持って、反時計周りに廻しながら、灰押の鏡面をそっと押し付けて、香炉を廻してまた押すという動作を繰り返します。

灰押は、先の方が香炉の縁のカーブと合うようにできています。灰の中心に灰山の頂上が来るように、香炉の縁と灰の中心を正確に捉えることが大切です。

灰を押す角度を横から見た図

低い円錐状の灰山を崩さないようにするには、角度を保つことが大切です。私は、灰押の柄を鉛筆のように持ち、中指の関節が香炉の縁に当るようすることで勘所を押さえました。

灰を押し付けすぎると、せっかく取り込んだ空気が少なくなるばかりか、「箸目」の工程で灰の表面が崩れやすくなります。また、炭団と表面の距離を近づけすぎ、火加減が強くなってしまうので、気をつけましょう。

火箸で箸目を付ける図

滑らかになった灰の表面に「箸目」(はしめ)をつけます。

基本的には、「聞き口」という香炉の正面を示す作業なので、流派によって、模様が違います。

火筋*をそっと押しつけ、それを平行移動させながら筋を付けていきます。

 

火箸で灰の真ん中に穴を一筋立てる図

箸目がついたところで、最後の仕上げの「火窓」(ひまど)を空けます。

これが、炭団の熱気を表面に通す道筋となります。

火筋*一本を真っ直ぐに立てて、灰の中心から炭団にむけて突き通します。

その際、灰の表面と炭団との距離は、季節(夏は深め、冬は浅め)や香木によって異なりますが、約1センチ程度です。

炭団と灰と火窓の関係を横から見た図

火窓がついたところで、「火加減」を確かめます。左手で香炉を持ち、右手を香炉にかぶせて、手のひらに「ツン」とした熱気が感じられれば、合格です。

火が弱い場合は、香を聞くときに銀葉を押し付けるなどの調整ができますが、あまりに火が強い場合は、灰の表面が変色します。この場合は不合格で、最初からやり直しです。

 

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羽箒で世界を掃き清める図

火加減が良かったら、「羽箒」(はぼうき)で香炉の縁を清めます。

香炉の内側(せがい)も羽の先を使って、灰の線ギリギリまで、掃き清めてください。

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香炉の出来上がりの図真の箸目の図

真の香炉(陽)

ここで、箸目を鑑賞してみましょう。

真の香炉は、全体が六分割されていて大きな三角の部分「合」(ごう)が5つあります。正面下にある細長い三角の部分が「聞き口」(ききぐち)となります。そして、大きな三角の部分に、平行な筋が9本〜13本付けてあります。

行の香炉は、5合で筋を省略しています。更に、草の香炉は、3合になり、御自宅用の略の香炉は、聞き口のみ示してあります。

また、太い線一本で「聞き筋」(ききすじ)を示し、全体が五分割のタイプもあります。このタイプは、聞き筋を向うに向けて(正面を避けて)反対側から聞きます。

 

行の箸目の図

草の箸目の図略の箸目の図

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できた香炉に銀葉をのせる図

香炉が出来上がったら、火窓の中心に銀葉を置きます。

銀葉は、雲母の板に銀線で縁取りしたもので、香木を間接的に暖める道具です。

 

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銀葉の上に香木をのせる図

銀葉を通して火窓の真上に来るように香筋*(きょうじ)を横にして香木を載せます。

火が弱い場合は、銀葉を灰に押し付けて調節し、火が強い場合は、火窓を避けるように香木をずらします。

一般に火加減は、樹脂の多い香木は弱めに、少ない香木は強めにします。

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香炉、銀葉、香木の位置を上から見た図

香木が納まったら、じっくり聞きましょう。

香木の色・形・香の印象をひとつひとつ思い浮かべます。

時間の経過によっても印象が変わるので、一木を気長に聞き込んでみて下さい。

 

 

聞き口(正面)

 

 

 

聞き方は、「聞き口から聞くこと」のみでいいような気がしますが…

お作法がしてみたいときは、右手で香炉の横を取り、左手で皿のように受けて、右手で香炉の縁を丸く覆って、親指と人差し指の間にできた隙間に鼻を近づけて聞いてください。

 

香炉の持ち方

* 「火筋」「香筋」筋の字は、竹かんむりに助の「古い箸の字」(Unicode:7b6f)です。

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