香道名器集( こうどうめいきしゅう)

昭和三十一年五月十一日初版発行

昭和六十二年二月五日改訂発行 芸艸堂 刊行本

 

優雅に床しい聞香の道は現代と余りにも距りがあるかの様に一般から思はれて、その境地に遊ぷ人も少なく自然に社会性を失なっていることはまことに惜しい次第である。私は以前から香道については日本人としての喜びと誇りをもつていたのであった。(下略)

昭和三十一年三月

岡部 長景

※ 岡部 長景(おかべ ながかげ)、明治17年(1884- 昭和45年(1970)は、昭和初期の日本の外交官、政治家、文部大臣、外務・宮内官僚。

 

翫香展望

三条西 尭山

匂いを翫ぷ習慣は、周知の如く平安時代の貴族生活の内に生れたと解する事が出来よう。その最もよい資料としては源氏物語などが大きく浮び上って来るが、

「さつき待つ花橘の香をかげば昔の人の袖の香ぞする」

という和歌が古今集にあるのを見ると、掠氏物語時代よりも遥かに古い平安朝初期の人々の問に、既に呑を着物の袖に焚きしめていた有様が知られるし、奈良の正倉院の宝庫には鞠形銀駁のすばらしく巧妙な薫炉がある。いう迄もなくその中に香を入れて焚き、衣服に薫じた道具である。正倉院御物といえば奈良時代の文化を伝えるものばかりである。そうすると浩物に香を焚きしめる習慣は、平安朝時代よりも更に古く、奈良時代から費族の生活には欠く事の出来ないエチケットとなっていた有様が知られる。(下略)

昭和三十一年一月

 

図版解説

※以下、解説文の最初の一行のみ掲載する。

一 六朝越州窯青磁博山炉        梅沢彦太郎氏蔵

越州窯は東洋最古のやきものとして、近年世界的に興味をもたれているものである。

二 宋均窯紫斑文香炉          小長井重利氏蔵

均業は官・高・汝・定窯とともに、宋代五名窯の一っとして愛陶家の賞玩しているものである。

三 青磁袴腰香炉            東京国立博物館蔵

頸から胴へかけての曲面が、袴を着けた腰のカープに似ているので、袴腰の名がある。

四 青磁千鳥香炉            東京国立博物館蔵

南宋時代浙江省竜泉窯でつくられたもので、底に造った丸い柄状の凸起によって、全体を支えている。

五 砧青磁千鳥香炉           梅沢彦太郎氏蔵

同前

六 油滴天目香炉            金村弥三郎氏蔵

油滴天目の茶碗は有名であり、稀に鉢・壺・瓶を見ることがあるが香炉はめづらしく、かつてこれ以外には見たことがない。

七 祥瑞香炉              大聖吉宜氏蔵

祥瑞は中国の染付のうち、古来わが国茶人の特に珍重しているものである。

八 七官青磁獅子香炉          岡部 敢氏蔵

明末から清初にかけ、浙江省の竜泉窯でつくったビイドロ色の背磁を俗にわが国で七官青磁とよんでいる。

九 高麗白磁香炉            金木恒夫氏蔵

高麗のやきもので有名でもあり、造品の多いのは行磁だが、高麗時代には白磁もつくり、天目もつくっている。

一〇 黄瀬戸獅子香炉          梅沢彦太郎氏蔵

黄瀬戸は志野・織部と同じく、桃山時代、美涙でつくられたもので、古来わが国のやきもののうち最も珍重しているもののつである。

一一 絵志野香炉            高野時次氏蔵

志野はあたたかいやわらかいわが国独得のやきものとして古来特に尊ばれている。

一二 青織部耳附香炉          高野時次氏蔵

織部は利休の高弟である古田緑部の指導で、慶長年間、美濃の久尻で創始したのでこの名がつけられている。

一三 青織部耳附香炉          岡部敢氏蔵

艇長もしくは元和に、美漿の久尻でつくられたと思う守織部の香炉で胴上半には銅呈色による緑色の釉薬がかかり、下半は白地に茶褐色の鉄絵具で唐草文を描いてある。

一四 黄唐津香炉            岡部敢氏蔵

一見黄瀬戸かと思う釉調・器形の香炉だが、素地は唐津独得の堅い荒い土である。

一五 絵唐津香炉

胴は円筒形をし、高い足のついた、珍らしい形の香炉である。

一六 唐津香炉             金木恒夫氏蔵

黄唐津香炉と器形・作行・釉調のよく似た香炉で、恐らくはやはり桃山時代の末、唐津藤川内でつくられたものであろう。

一七 古九谷鉄絵文香炉         大聖吉宜氏蔵

一見絵唐津かと思う渋い香炉だが、九谷でまだ色絵磁器を創始する以前、即ち江戸初期の寛永正保の頃の九谷とされている。

一八 仁清作色絵梅花文香炉       梅沢彦太郎氏蔵

仁清は京焼の始祖とされ不世出の名工とされている。

一九 古清水若松文香炉         岡部 敢氏蔵

江戸の中頃、京都では仁清の影響をうけて粟田口・御菩薩・清閑寺・野神・修学院・清水などに窯が起り、いろいろと仁清風のやきものを焼いている。

二十 粟田焼臼形香炉

臼形をした粟田焼の香炉で、胴には京焼らしい繊細な文様が描いてある。

二一 柿右衛門色絵楼閣形香炉      岡部 敢氏蔵

柿右衛門風の色絵磁器で、楼閣を象り、屋根は蓋となっている。

二二 松谷焼色絵蕪子文香炉       岡部 敢氏蔵

松谷焼は肥前小城郡岩松村にあった小城藩主の御庭焼である。

二三 松谷色絵楼閣文香炉        岡部 敢氏蔵

松谷は佐賀県小城郡岩松村にあった小城藩の御庭焼で、元禄享保頃最も盛んに焼き、延享年間廃窯に帰した窯と伝えられている。

二四 鳩渓焼交趾獅子香炉        岡部 敢氏蔵

鳩渓焼は香川県志摩にあった窯で、源内焼の流れをくむものとされている。

二五 木米作青磁香炉          岡部 敢氏蔵

青木木米は仁清・乾山とももに京焼の三名工とされている。

二六 乾也作鼎形香炉          岡部 敢氏蔵

三浦乾也は幕末から明治にかけての名工として知られ、文政四年江戸に生れ、明治二十二年六十九歳で歿している。

二七 染付宝珠香合           東京国立博物館蔵

絞り染めのように、陶器の青料がにじみ、淡い青の色が黒ずむのが、安南陶といわれるものの特色。

二八 正木作黄瀬戸宝船香合       閑院家蔵

正木焼は尾州家の家臣正木宗三郎、半次郎父子のつくったものをいい父宗三郎は寛政頃の人、二代半次郎ほ嘉永頃の人、ともに勤仕の余暇に製陶をたのしみ正木焼として知られている。

二九 重美 初音蒔絵火取香炉 一個   東慶寺蔵

六花形裾張の整美された安定感ある香炉で、梅に鴬、老松を蒔絵し図中に『はつね』『きか』『せよ』の文字があらわされている。

三〇 萩蒔絵香合 一合         大倉久美子氏蔵

白鑞の置口を付けた典雅な器形の表に、水辺に乱れ咲く萩を描いてある。

三一 籠目に鳥蒔絵角赤沈箱 一合    東京国立博物館蔵

被せ蓋づくりの小箱に籠のなかの小烏を総体に蒔絵してあるから、箱全体が鳥籠のような趣をあらわし意匠が優れている。

三二 竹林蒔絵香炉 一個        東京国立博物館蔵

小形の可愛らしい品で、恐らく抱香炉の類であろう。

三三 浜松蒔絵文台 一基        木多秀夫氏蔵

洲浜に松・舟・岩・波等を描き、千鳥が廻遊している。

三四 菊桐蒔絵香枕 一個        前田青邨氏蔵

女性の頭髪に香を住きこむ薫香道具で、香炉を納める引出しが付いている。

三五 菊水蒔絵香壺 一個        吉野政江氏蔵

蓋付の黒漆塗の壺で、蓋上に浅く同心円で三環を剖ってある。

三六 秋草蒔絵香箪笥 一合       東京国立博物館蔵

堅牢であるが優雅に作られた香を納める箪笥で、扉の内側には十二個の引出しを納め、大小の菊桐紋蒔絵を散らしてある。

三七 虎渓三笑蒔絵棚 一基       柾 忠雄氏蔵

厨子棚の系統で、上段に梅の古木、二段目に虎渓三笑、扉に柴垣、その他香包・香炉・撫子、岩に流水等が高蒔絵してある。

三八 秋草蒔絵焚殻入 一個       東京国立博物館蔵

香の焚殻を入れる器で、爵蓋造で下方に胴紐をめぐらし、ひきしまった器形が美しい。

三九 蝶蒔絵香壺 一個         中村岳陵氏蔵

胴の曲線と置蓋との均斉の美しい壺形の容器で、総梨地に蝶を高蒔絵し古風な趣がある。

四〇 松竹梅菊蒔絵提香道具 一具    山本伽氏蔵

提手と剤形ある足付の気の利いた構想の盆に、阿古陀形の火取香炉を中心に、円・角・六角形等の香合四個を置いて一揃としてある。

四一 草花蒔絵香割道具 一揃      財団法人前田育徳会蔵

鋸・鉈・・鑿の四種の香木切具と香割盤を一揃とし、いづれも黒漆塗に蒔絵をほどこし、このように華麗に装飾された品は誠にない。

四二 波に月蒔絵十種香箱 一具     出光佐三氏蔵

黒漆塗の香箱には豪荘な図柄で、銀の月と岩にくだける荒波を高蒔絵してある。

四三 薫嚢 四包            財団法人前田育徳会蔵

香袋四種で、いづれも香末を入れてある。

四四 総包(思羽) 二包        財団法人前田育徳会蔵

香の小包を―つに入れておく総包で、思羽、志野折などともいう。

名乗紙入 一包 同

鳥子紙で作り名乗紙を納める包である。

思羽 一包 同

総包の一種で、紫絹張りの表で、緋色の紐には小さな菊座の現金物が付いている。

四五 菊文蒔絵重硯箱 一合       神崎漣子氏蔵

十組がさねの方形の小形硯箱で、総体つめ梨地に菊花文の蒔絵を散らしてある。

四六 騎馬人物蒔絵香箱 一合      東京国立博物館

円形印籠造の箱で、内側に円形小箱八個が花形に並べ納められている。

四七 松竹梅蒔絵香箪笥 一合      遠山愛子氏蔵

棚形式の香箪笥で、引出しや扉内に十種香道具一切が納まるようにエ夫されている。

四八 鶴菱蒔絵十種香箱 一合      神崎漣子氏蔵

重香合・札筒・焚殻入・香札箱と硯箱を重ねた本香盤等は、二段重ねの親箱と共に、総梨地に薗菱文を一めんに蒔絵し、作風堅実である。

四九 山水蒔絵香棚 一基        東京国立博物館蔵

柱を竹に模した引出し付の小形の棚である。

五〇 草花蒔絵香築笥 一合       神崎漣子氏蔵

けんどん扉に四葉形を透した凝った設計の小形鉦筍で、黒漆塗に四季の草花を細かに蒔絵してある。

五一 雲鶴桜蒔絵香箪笥 一合      薬師寺蔵

両開き戸の内側に八個の引出しを付け、皆具の出し入れに便利に出来た香箪笥である。

五二 菊唐草蒔絵聞香道具 一具     閑院家蔵

八角形の香盆に、銀製香壺・重香合・聞香炉を載せ一具としている。

五三 松竹梅蒔絵十種香箱 一具     大倉久美子氏蔵

二段重ねで総詰梨地とし、蓋表から側面にかけて土波に松竹梅を、切金・金貝を交えて高蒔絵で施してある。

五四 松竹梅蒔絵香盆 一揃       大倉久美子氏蔵

前図の松竹梅蒔絵香箱に納められる。

五五 聞香炉 一個 重香合 一個

焚殻入 一個           大倉久美子氏蔵

五六 札筒 一個 折居入 一個

銀葉入 一個 建 一個      大倉久美子氏蔵

図版五五・五六は五三の松竹梅蒔絵香箱に納められた香道具の皆具で建は銀製であるが他はことごとく親箱と同様の松竹梅図を梨地に蒔絵してある。

五七 乱箱と香道具           大倉久美子氏蔵

梨地楓鹿蒔絵乱箱に、前図の香道具類を配侶してある。建には七つ道具が差してある。

五八 香道具一式飾り 一揃       大倉久美子氏蔵

香席に於ける香道具一式の飾りつけで、前図の松竹梅蒔絵香道具の一セットを敷紙上に順よく並ぺてある。

五九 七宝香毬 一個          小西弘仁氏蔵

六〇  同   一個          吉田露香氏蔵

一般に佩香、香玉などと呼ばれる球形の香炉で、球は二つに割れて内部に薫炉を入れる装置がある。

六一 四季棚 一基           山本伽氏蔵

上部の厨子に小襖四枚を付け、下部に七宝透をつけた香棚で、小襖には金箔地に土佐光平(嘉永五年歿)描く極彩色の四季山水図がある。

六二 火取母 一個           東京国立博物館蔵

衣服などに香を炷き染めるに用いる火取香炉である。

六三 臥籠 一具            長尾美術館蔵

薫籠、火籠等もいわれる。

六四 蹴鞠香の人形           財団法人前田育徳会蔵

序破急空の四種の香で十焚きする。

六五 舞楽香の盤            財団法人前田育徳会蔵

この組香は源氏物語の紅葉賀と花宴の巻とで作られているので青海波を舞っている源氏の人形と、朧月夜に似るものぞなきと口誦んで弘徽殿の細殿を歩いてくる後の朧月夜の裳を引いた美しい人形があるのが散侠しているのは惜しい。

六六 花軍香の人形           財団法人前田育徳会蔵

玄宗皇帝と棉衰妃との人形を盤上に対筵的に据え、共に四人の官女を従えさせる。

六七 呉越香の唐人形と盤        財団法人前田育徳会蔵

連衆は二組に分れ有名な呉越の合戦を盤上で演ずる。

六八 闘鶏香の盤            財団法人前田育徳会蔵

盤上左方には桜を立て左近桜方と名づけ白鶏(褐色)を並ぺ、右方にほ揺の立木を立て右近橘方と呼び黒鶏を白鶏と向い合せて並ぺる。

六九 六儀香の盤            財団法人前田育徳会蔵

六儀というのは和歌の六つの形態を指している。

七〇 相撲香の盤            財団法人前田育徳会蔵

この盤は中央に土俵が設けられ、端近の所には鰻暮を張る為めの穴が四ヶ所あけてあるので、そこに幕を張る。

七一 吉野香の盤            財団法人前田育徳会蔵

この組香も十炷香形式で作られているが、盤は山の盤と川の盤と二つを組合せて用う

七二 鷹狩香の盤と人形         財団法人前田育徳会蔵

香三種を用い、十炷きで行う。

七三 競馬香の盤と人形         財団法人前田育徳会蔵

競馬香の盤上に赤黒二頭の馬を馳せしめている。

七四 四種盤とその内容         大倉久美子氏蔵

この四角な箱は両面に一定の穴があけられていて、上下の中間は引出しとなっている。

七五 三十組総包            山本伽耶氏蔵

総包は、―つの組香に必要な香包をまとめて入れて置く外包のことで、表にはその組香に因んだ絵が美しい色彩で表現されている。

七六 遊女聞香             東京国立博物館蔵

足もとにおいた香の煙は、遊女の着物の下を通って、やがて胸元から静かに消えて行く。女はその香の匂にとう然として眼をほそめている。

七七 遊女聞香             東京国立博物館蔵

宮川長春の弟子、長亀の傑作であるが、長春画に比してその濃婉さに於いていささか劣る。

七八 蘭奢待              真清田神社蔵

図版右端ガラスビンの中央に黒く見えるのが閣奢待である。

七九 蘭奢待              財団法人前田育徳会蔵

香に関心をもつ者な蘭奢待の名を知らぬ者は無いが、その香木の所持量を知っている者は少なく、その匂を聞いた者は稀である

八〇 名香宿の鶯            山本伽耶氏蔵

この名香は有馬家伝来という。四角な錫製の箱に納められ、それを図版に見える黒塗の箱に入れ更に外箱で黒塗箱を納めているのを見てもいかに大切に取扱われていたかゞ知られる。

八一 親賜奇南香            財団法人前田育徳会蔵

親賜奇南香ほ大塊でW親賜御香Wと香木に金文字で刻されているが、黒塗の箱には御賜奇南香壱塊と金文字で雹かれ、鳥子紙に次第が詳しく見え、同文のものが箱の蓋裏にも金文字で認められている。

八二 名香軒もる月           財団法人前田育徳会蔵

後水尾天皇勅名の名香羅国軒洩月を文化四年十一月厩司政熙女隆子が前田斉広と結婚するので御別の為参内した時光格天皇御手づから拝領された由とW軒もる月Wと包紙に香名が見えるが、それは天皇の痰筆である趣が箱書に細々と記されている。

八三 名香初音             財田法人前田育徳会蔵

包紙に寛文十一年と認められているのは、この香木が前田家にはいった時を物語るものであろう。

八四 六十一種名香手本木        遠山愛子氏蔵

室町時代には沢山の名香があったので、その中から三条西実陰が六十六種を選出して名香と定めたのを基準として多少の入れかえを志野宗信が行い六十一種名香と称した。

八五        香木を保管する銀壺       山本伽耶氏蔵

香木には湿気は禁物である。匂が全く変質してしまうので古来湿気を防ぐ為に香木はこのような銀壺とか銀箱に入れて保管する。

八六 三条西実隆画像          三条西公正氏蔵

香道始祖三条西実隆の法鉢の画像である。

八七 志野殿宛宗祗書状         山本伽耶氏蔵

連歌師として有名な宗祇が香にも深い関心をもっていた事は実隆公記を見ても肯かれる。

八八 香十徳              閑院春仁氏蔵

香の効果については早くから注意されているが、こうした十ヶ条に一休和尚がまとめたか否かの真相は明かではない。

八九 四季香の記録           閑院春仁氏蔵

記録右下の一一行書は、四季香の構成要素と当日使用された香銘である。

九〇 十炷香の記録           茂木徳郎氏蔵

右端が或は切られているかも知れぬ。

九一 小烏香の記録           吉田露香氏蔵

この記録には香組が見えぬばかりでなく、年月も書かれていないので或は即興的香席のものではなかるうかとも思われるが、その他の点では古い様式のものと一致している。

九二 矢数耳香の記録          草場 晃氏蔵

いかに耳香の記録が、本物の香木使用の場合の記録に準じて書かれているかがよく知られる。

九三 競馬耳香の記録と道具       草場 晃氏蔵(記録)

      沢 宜一氏蔵(道具)

耳香というのは嗅覚による代りに聴覚に訴えて香の代用をなさしめる遊で、香木が貴重で入手難も多かったために江戸末期頃から公家の一部に流行した。

 

補遺

 翫香展望補足

 

[作品図版]

※ 上記香道具の白黒写真

 

思ったままを(跋に代へて)

 (前略)

香道名器集もその一つといふべきものである。何にしろ限られた人々の間で研究され楽しまれているものだけに内容がどんなに優れていようとも、この書に対する要求の限度は想像に難くない。全く此様な出版を進んで引受けられた芸艸堂の勇気と厚意には惑謝の外に言葉もないのである。

幸ひにも最近香道への関心と興味をもつ人々が日一日と増加しつ4ある今日、この書が如何計り斯界のため大きな役割をつとめるかを思へば喜びにたえないのであり、日本文化の発展の上に何等か寄与する所があれば此上もない次第である。

昭和三十一年四月

西澤 笛畝

※ 西沢 笛畝(にしざわ てきほ)、明治22年(1889- 昭和40年(1965)は、大正時代から昭和時代にかけての日本画家。人形の収集や評論でも知られる。

 

 

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