香道峯の月(こうどうみねのつき)
叢香舎了空著 宝暦十三年(1763)
【婦人文庫『節用』 −女礼集 女重寳記 茶事聞書 香道− 大正四年(1915)刊行本の一部】
香道峯の月目次
香道峯の月
今世茶香とて諸人是を翫ぶ。茶事の本意は、心の長けたる気分を第一とするなれども、其の所まで及ぶ人稀なり。 まづ主客、挨拶、諸式等悉く覚ゆるを茶事の逹人として、世挙りて尊敬するなれば、諸式を学ぴ知るは初入の事なるべし。極意に至りてはさもあるまじ。当世は別きて供応して、主ぶり、客ぶり、諸式の宜しきを楽しみとして、茶道の奥義是なりと覚ゆる人多し。茶事の本意は客に振舞う諸式を本意とするなれば、誠に風雅の楽しみにはあるまじ。(中略)
茶道香道の諸式を悉く知りたりとも、独り楽む事を知らざれば茶人香人とは云はれまじきなり。茶香を楽まんとする人此の事を能く/\思ひ て本意を執り行ふべし。
此の一巻は、香茶を築む輩の本意を記し畢んぬ。
宝暦十三癸未首夏
叢香舎 春龍
叢香舎 了空
棚飾香式
一、 香棚は本座畳の右に飾るなり。左勝手の時は右に置くなり。(何れにても高棚は手許に置く事口伝なり)…(略)
後座
一、 後座飾り別儀なし。 初座に飾り置きたるを用ふるなり。 但し香炉へ下火を入れて、灰を暖め置くなり。…(略)
花月香二人香元の式
一、違棚の上の段(組香、四方盆に載す)次に棚に乱箱、(折居、敷紙、重香箱、銀葉台、札箱、此の時銀葉台十二あるを用ふ)地板に料紙、硯箱を置く。…(略)
香合の式法
座敷の上座へ、香盆一枚づヽ左右に出す。左右上座の人香畳を持ち出で盆に置きて肴座す。 次座の人畳を持ち出で、上座の香畳の次に重ね掛けて置く、次々も其の如くなり。さて人々左右に別れて列座す。…(略)
東山自記
一、
夫れ物の匂を分ち、香を正さしむる事、気の聰きより起る。 斯の如くならば、いかでか此の道に到らんや。 志の切なるに随ひて、 哢戯の道に到ること然なり。 吾止む事なく人の命を承けて、慈愚の私伝禿筆に任せ、後末の朋知の選集を待つ者なり。一、
凡そ香*柱を弄することは、漢土より起り、和朝に伝はり、源順(みなもとのしたごう)香の図を作り、桑門實知(じっち)香に名付けしより、以後の(いつゆう)の媒となれり。…(略)一、
香の名を付くる事一、
香の性香を分つ事一、
香を聞く練磨の事一、
火気に仍て匂各別なること一、
時に仍て匂ひ各別なること一、
匂別ち難き境節の事一、
香の善悪を知る事一、
名を知らずして名香と知る事一、
火炉の善悪の事一、
火の取様一、
灰の事一、
火炭の事古人の香を認聴くに、心月鼻水と云ふ事あり、知らざるべからす。 喩へば心は月にして、鼻は水なり。 水に写りて至らぬ所もなく来すものなり。萬の道も此の如く、月の影を自ら移すは心の正しきより至る。 無念無想にして香に向ひ、鼻に随ひて心を移さば逍に至るの極なり。何ぞ斯の如くならざらん。
東山 ー阿禰
在判
十組香口訣
宇治山香の事
小草香の事
小鳥香の事
名所香の事
競馬香の事
矢員(かず)香の事
源氏香の事
花月香の事
連理香の事
右、十組の濫觴、秘訣は、志野老翁より三木伝来祖翁の正統にあらず、伝えざる事なり。
よりて、当流のほか、他流においてもこの訣無き由(よし)、肥州長陽原甫舊先生口授のまま書きしるし置くものなり。
志野流米川正統
叢香舎 岡 了空
※ このコラムではフォントがないため「」を「*柱」と表記しています。