二月の組香

 

陰のエネルギーが極まって陽に転ずる兆しを表す組香です。

冬が去り春が来ることの「おとずれ」を感じながら聞いてみましょう。

  このコラムの「」の字は、すべて「」と読み替えてください。

説明

  1. 香木は4種用意します。

  2. 要素名は、「一」「二」「三」と「ウ」です。

  3. 香名と木所は、景色のために書きましたので、季節や組香の趣旨に因んだものを自由に組んでください。

  4. 「一」は4包、「二」「三」は各3包、「ウ」は1包作ります。(計11包)

  5. 「一」の4包のうち1包を試香として焚き出します。

  6. 本香は、残った10包(「一」「二」「三」は各3包、「ウ」は1包)を打ち交ぜて10炉焚き出します。

  7. 基本的には、「十*柱香」と同じで、同香を聞き当て3+3+3+1=10とグルーピングすることが重要です。

  8. 試香のあった「一」だけは、どこに出ても「一」と答えます。

  9. 要素名の「二」「三」「ウ」は、答えの「二」「三」「ウ」と一旦切り離して考えてください。

  10. 要素名「二」「三」「ウ」にとらわれず、「一」以外のものは、出た順に「二」→「三」→「ウ」と順番を割り付けて書きます。

  11. 一度割り付けた香と同香だと思われるものは、同じ番号を書きます

  12. したがって、香の出によっては「二」か「三」が結果的に1つしかない場合や「ウ」が結果的に3つ出る場合もあります。

    例:「二、一、二、三、一、一、ウ、ウ、ウ」  「二、一、三、三、ウ、一、ウ、ウ、一、三」など

  13. 答えは、例にしたがって、出た順に10個書きます。

  14. 下附は、点数で表します。
     

 「今年は、比較的暖かいな。」と思っていたら、冬将軍は、忘れずにやって来ました。

今月の組香は、「一陽香」(いちようこう)です。「一陽」とは、すなわち「一陽来復」、陰が窮まって陽にかえること。旧暦11月または冬至のこと。新年が来ること。冬が去り春が来ること。悪い事が続いたあと、ようやく好運に向かうこと。などの意味があります。

1年12カ月を六十四卦で表すと、陰の極みである「坤」(こん)が10月、一陽を表す「復」(ふく)が11月だそうです。冬の極みから段々日が長くなっていく季節ということで、旧暦11月の冬至に因んで、「一陽節」という行事もありました。この組香は、現在なら12月末当たりが季節的にふさわしいのかもしれませんね。

しかし、東北に住まう身からすると、例年、大寒から2月の始めが一番寒く、中旬を過ぎなければ、春の兆しもありません。そんな体感的論拠から、東北では仲春2月の香として使われることが多いようです。また、日本経済も陰エネルギーの極みでしたが、そろそろ光明が見えてきたようです。全ての事物が「坤」を過ぎて「復」となるように願いを込めて、敢えての今月の起用としました。

さて、香組で気を使いたいのは、香木の陰陽を勉強して、そのバランスをとることですが、「一陽香」の場合、その「一陽」に因み、陽の香木は1包、若しくは1種類だけ使用するというのはどうでしょうか?

今回の香組では、「一陽」を数の論理に置き換え、「卦」の考え方に因んで「ウ」の1包のみを「陽」としました。この場合、香の出を卦のように順次積み重ねていくと、「陰(--)」の中に「陽(−)」が1つとなり、あたかも「復」を表す要素になるからです。ただし、10包のうち、陽木が1包しかないので、香気の印象が陰々滅々とならないように、やや華やかめの陰木を織り交ぜると良いでしょう。

一方、文字に由来する解釈として要素の「一」を「陽」にして「一陽」を意味付けるという考えもあります。こちらの方は、10包のうち、陽木が3包となるので、いくぶん香気全体が明るい印象となるでしょう。この組香に限って言えば、試香のある「一」の方が、客香である「ウ」よりも重要視されているような気がしますので、このような解釈も成り立つのでしょうが、私としては、「一陽来復」というテーマからして、試香で最初から陽木を聞かせてしまうのはいかがなものかと考えます。まず最初に陰があって、「これも陰、これも陰・・・」という中に、やっと一条の陽光が射してくる方が、テーマに沿ったストーリーになると思います。

この組香の聞き方は、基本的に試香「一」が1つだけあり、それだけは「一」と答える十柱香と考えていいでしょう。要素名も本香の数も答えの書き方もほとんど同じで、証歌も下附もありません。有試十柱香(試香のあるものは、全てその番号に当てはめて答えを書く十柱香)と同じく、ゲーム性の強い組香と言っていいでしょう。

「一陽香」の答えを書く際に、どうしても要素名の数字と混同してしまう場合は、「一」以外の答えを「○」「×」「△」と図形に置き換え、下記のようにメモに書き留めて、後でのように答えを書き換えて出してください。

 

1炉目に出てきたのは○の香り

→ 二

 

2炉目も○と同じ香り

→ 二

 

3炉目は、どれとも違うから×の香り

→ 三

 

4炉目は、試香で聞いた一の香り

→ 一

 

5炉目は、どれとも違うから△の香り

→ ウ

 

6炉目は、△と同じだから△

→ ウ

 

7炉目は、一の香り

→ 一

 

8炉目も、一の香り

→ 一

 

9炉目は、△と同じだから△

→ ウ

 

10炉目は、○と同じだから○

→ 二

※ メモの段階で、結果的に1包しか出なかった、「×」→「三」が客香(雪間の萌)だったことがわかりますね。

この記録法は、十柱香を始めとする競技的組香に汎用できますので、是非覚えておいてください。

この組香は、証歌も下附もない単調な構造に変化をつけるために、流派や趣向によって、こんなオプションを付ける場合もあります。

試香のある「一」を間違えると「恥」として丸で囲み、減点する。(他の要素の当たり数が多くとも「一」を聞き間違えれば、結果的に負けることもある。)

「札打ち」にする。(1つ聞いたら即座に答えを投票し、後の修正や数合わせを出来なくする。)

「一」に加えて、試香の無い「ウ」も「ウ」と答えるようにする。(結果的に1包であったものを最後に特定して「ウ」と書く)

オプションを付加することによって、難度や競技性が増し、連衆の経験値に応じた組香とすることも出来ます。

和歌を主題としたものとは一風違う組香ですが、中国4000年の「事物回復」の理を深く味わい、祝ってみてはいかがでしょうか。

 

南極に行った友達が言いました。

「−40℃の世界では、−4℃の日は陽日だった。」

満ち足りることを知れば、陰陽も相対的なものなのかもしれませんね。

 

組香の解釈は、香席の景色を見渡すための一助に過ぎません。

最も尊重されるものは、皆さん自身が自由に思い浮かべる「心の風景」です。