十一月の組香
垣根の緑、霜の白さの中にに薔薇の紅い実を見つける組香です。
濃淡二色の薔薇の実を香りで聞き分けることがポイントです。
説明 |
香木は、5種用意します。
要素名は、「垣根」「霜がれ時」「むばら」と「紅の実(濃)」「紅の実(淡)」です。
香名と木所は、景色のために書きましたので、要素名に因んだものを自由に組んでください。
「垣根」「霜がれ時」「むばら」はそれぞれ2包作り、そのうち1包ずつを試香として焚きます。
残った、「垣根」「霜がれ時」「むばら」の各1包(計3包)に「紅の実(濃)」「紅の実(淡)」の各1包(計2包)を加えて打ち交ぜます。
本香は、各要素1包ずつ、5炉焚き出します。
答えは、要素名を出た順番に5つ書きます。
答えの当たり・はずれで下附が変わります。
「皆」(全部当たり)の場合、下附は「くれないの色」となり、「その他」の場合、下附は「めずらしき」となります。
初冬の時期を迎えますと、あれほど咲き誇っていた秋草がすっかり色を失ってしまいまして、その代わりに様々な木の実、草の実が鮮やかな色を競います。その中でも、私が最も目を奪われてしまうのが、ひときわ艶やなで薔薇の実です。
「薔薇香」(むばらこう)は、私自身、過去1回しか経験のない新しい組香ですが、主題となっている情景の色の変化やそれに因んで当てはめられた香気の対比が大変印象深く、この時期になると必ず思い出されます。
「むばら」
とは、平安時代に棘のある小木の総称をあらわして表記されましたが、古くは「うばら」の変化であり、現代でも「うばら」や「いばら」の方が一般的です。茨(いばら)も薔薇(ばら)も、夏の季語ですが、ここでは「霜枯れ時の薔薇の実」が主役なので、この時期の組香として使われています。(ただし、「薔薇」といっても品種改良された西洋風の大輪の「バラ」は、枝の先に枯れた額ごと大きな実を結ぶだけで風情はありません。やはり、ここでは垣根の隅にひっそりと実を結んでいる「野薔薇」と考えた方が、実の数や形、色の変化からも組香のイメージに合うと思います。)この組香の証歌は、香祖:三條西実隆(尭空)の作であり、その意味は
「実を結んだ垣根の薔薇の紅は、霜枯れ色の風景の中で、鮮やかでめずらしいことだ」と道すがらに見つけた薔薇の実の「色」への新鮮な驚きをすんなりと詠嘆しています。組香の作者も、まずこの和歌の「色の対比」からインスピレーションを受けて、「垣根の緑、霜の白さ、実の紅」と色を構成する句を要素に当てはめて、色の取り合わせを遊ぶ組香を作り上げたようです。組香(構造式)としては簡単ですが、香木は5種類聞き当てなければなりません。また、紅の実(濃)と紅の実(薄)の2つは、試みがありませんから、どうしても
木所(出香された香木の種類)を当てはめて答えを出すことになります。つまり、「六国五味」に達していないと、「紅の実」の判別はつかないということになります。香組する側も最初から「
緑、白、紅、(私は、むばらを「茶」と理解して組みました。)」と「色」が規定された要素に香気を当てはめて、更に「紅」に濃淡をつけることとなります。(濃淡は、別の木所を使わないと、答える側は完全に判別がつかなくなるので、注意しましょう。)また、「連衆の香色に対する共通認識」までも考慮すると、その作業は困難を極めます。そういった意味では、中・上級者向けかもしれませんね。答えは、要素名を出た順序に書きますから、香記録は、霜枯れ色の中に生き生きとした色がちりばめられた風情を醸し出します。更に下附で、この証歌の主題である
「くれないの色」に「めずらしき」と感動した作者の心象が補強されます。霜枯れの時期は、白いキャンバスをバックに描いた「色を主題とした組香」や「微妙な色彩を聞き分ける組香」が多いようです。次第に色彩を失いつつある現実の風景から、生き生きとした色彩を心の中に摘み取って行くような気持ちにさせられるからでしょうか?
霜日和の一日、皆さんも散歩に出かけて見てください。
意外な場所で、「心のおみやげ」を見つけることができますよ。
組香の解釈は、香席の景色を見渡すための一助に過ぎません。
最も尊重されるものは、皆さん自身が自由に思い浮かべる「心の風景」です。